Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/16(水)松山冴花/津田裕也 デュオ・リサイタル/息の合った二人の演奏は「個性的」かつ「豊麗」な響き

2011年11月17日 17時05分38秒 | クラシックコンサート
松山冴花(Vn)/津田裕也(Pf) デュオ・リサイタル 2011
Saeka Matsuyama & Yuya Tsuda Dou Recital 2011


2011年11月16日(水)19:00~ 津田ホール 自由席 A列 11番 4,000円
ヴァイオリン: 松山冴花
ピアノ: 津田裕也
【曲目】
モーツァルト: ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.378
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品108
シェーンベルク: ファンタジー 作品47
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47「クロイツェル」
《アンコール》
クライスラー: 愛の悲しみ
ブラームス: F.A.E.ソナタよりスケルツォ

 大好きなヴァイオリニストの一人、松山冴花さんのリサイタル。パートナーはもちろん津田裕也さん。この二人の音楽は、おそらく現在の日本では最強のデュオといえるのではないだろうか(もっともお二人とも海外在住だが)。まったくといって良いほど性格の異なる二人の豊かな音楽性と個性が有機的に結びついて、何ともいえない刺激的な音楽を生み出している。
 二人のデュオ・リサイタルを聴くのは何回目になるか分からないが、直近は今年2011年5月、埼玉県越谷市でのデュオ・リサイタルだ。その時も、今日と同じ「クロイツェル・ソナタ」を聴いた。松山さんが東京近郊で演奏する際はできるだけ行くようにしているので、今年は5月に帰国された際に、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2011」で5月3日5月5日(ピアノはフランク・ブルレイさん)5月8日に新交響楽団との共演でブラームスのヴァイオリン協奏曲、そして5月14日の越谷と、立て続けに聴きに行った。今日はそれ以来となる。一方の津田さんは、6月1日のクララ・ジュミ・カンさんの仙台コンクール優勝記念リサイタルでも伴奏を務めたのを聴いている。最近とくにヴァイオリニストからの評価が高いようで、しばしば共演に招かれているだけに、出過ぎることもなく、控え目過ぎることもなく、安定感も抜群で安心して聴くことができる。とくにピアノ・パートの充実したヴァイオリン曲、例えばフランクのヴァイオリン・ソナタなどでは、煌めくような雄弁さを発揮してくれる。素晴らしいピアニストである。

 1曲目はモーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K378」。優雅で気品のあるソナタである。第1楽章はピアノの主題から始まり、ヴァイオリンが繰り返す。松山さんのヴァイオリンは独特の濃厚な色彩を持っているが、さすがにモーツァルトではそれほど強くは押し出してこない。レガートを優しげな滑らかさで、わずかにテンポを揺らしながら旋律を歌わせてゆく。第2主題の繊細な調子との対比も素敵だ。第2楽章はアンダンテのカンタービレ。最前列では奏者の息づかいまで聞こえてくる。呼吸とともに歌うような演奏は、とくにppでも乱れずに艶やかな音質を保っていた。第3楽章のロンドは、舞曲風の軽快な楽想が、松山さんの明るく闊達な音色によく似合っていた。

 2曲目はブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第3番」。この曲は、後半に演奏される「クロイツェル」とともに、二人の3枚目のアルバムに収録されている。重厚で内省的なブラームスに対して、二人のアプローチは正面から堂々と突っ込んでゆく、といったイメージだろうか。何事にも臆することなく、あくまで奔放な松山さんはご自身の世界を描き出して行く、それに対して津田さんが絶妙のタイミングで寄り添って行きつつも、時折、手綱を引き締めるという感じだ。このような二人の掛け合いは、このデュオの最大の魅力だろう。
 今日も松山さんのヴァイオリンはよく鳴っている。音量も豊かなら、音色も豊かだ。低音は決して音を濁らせることなく、朗々として深みがある。重音の響きも艶やかで濃厚だ。レガート部分は滑らかさなだけでなく、厚みのある音が連なっていくイメージ。高音部も決して弱くならない。全体的にもダイナミックレンジの広い音量で、表現の幅も広い。音に1本しっかりした芯が通っているので、ppからffまで曖昧になることがないため、豊かなイメージが増幅して行くのだろう。大らかで、スケール感抜群の演奏である。

 後半はシェーンベルクの「ファンタジー」から。今日のプログラムは独墺系でまとめているので…。とはいえちょっと異質な曲が紛れ込んだ感じで、逆に強烈なアクセントにもなった。この曲は1949年の作。12音技法の完成系(?)といえるのだろうか、シェーンベルク晩年の曲である。音楽を構成する旋律・律動・和声のうち、12音技法では調性が無くなるために旋律は方向性が曖昧になり、和声は不協和になる。実際にはリズムさえ崩壊しているから、つかみ所がないようにも聞こえるが、今日のシェーンベルクでは、無機質的な純粋な楽器の「音」が浮き彫りになっているように聞こえた。ヴァイオリンの多彩な演奏技法による音色の変化や、不協和音の中からこぼれ落ちてくるキラキラしたピアノの音の粒が、抽象絵画を見るような色彩のイメージとなって曲が形作られていた。演奏が上手くなければ成り立たない音楽にも思える。

 最後はベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」。いわずもがなの名曲だ。第1楽章冒頭の、ヴァイオリンの重音の序奏から、松山節全開となった。豊かとしかいいようのない音色に続いて、ピアノがガツンと入ってくる。津田さんも負けないぞ、という感じだ。第1主題からは早めのテンポで躍動的に曲が進む。二人のリズム感のキレが良く、若々しい推進力が素晴らしい輝きを放っていた。第2主題は、ふっと我に返ったような優しさが鮮やかな対比となった。松山さんの独特な節回しによる旋律の歌わせ方が、自由奔放で、スケールの大きい表現力を生み出していた。第2楽章はさらに揺れ幅大きく歌い出したヴァイオリンに対して、津田さんのピアノが見事なタイミングでサポートして行く。いわゆる阿吽の呼吸ということであろうか、アンサンブルがピタリと合い、それでいて堅さがまったく感じられない。気のあったデュオ(しかも男女)ならではの演奏である。第3楽章の弾むようなリズム感と、怒濤のような推進力も素晴らしい。松山さんの演奏は、見方によってはものすごく個性的。教科書的な枠組みからは大きくはみ出しているように聞こえる。おそらく彼女の人柄が反映されているからだと思うが、決して独りよがりな我が儘な演奏ではないのである。ご自身も徹底的に音楽を楽しんでいるように感じられるし、私たち聴く側と音楽を共有しようとする気持ちが強いようだ。だから、極めて個性的であっても、聴く者に好かれる演奏になるのだと思う。「クロイツェル・ソナタ」は3枚目のCDにも収められているし、5月の越谷でも聴いているが、一段と素晴らしい演奏になっていたと思う。

 アンコールは2曲。クライスラーの「愛の悲しみ」はロマンティックな美しい旋律を松山さんが思い入れタップリの情感を込めて歌わせる。ところがあまり感傷的にならずに、大きく歌いながらキレが良いところがいかにも松山節。アンコールの定番曲なのに、非常に濃厚な演奏だった。ブラームスのF.A.E.ソナタの「スケルツォ」は松山さんの得意としている曲だ。CDにも納められているが、いつものように強烈なパッションが迸るような演奏で、これはナマで聴いた人にしか伝わらない強烈な印象なのである。本当にスケールの大きな演奏。松山さんにBrava!!を送ろう。

 津田さんのピアノについても付け加えておこう。開場前に並んで待っている間にも(自由席だったので)、津田さんのリハーサルの音がかすかに聞こえていた。開演の30分くらい前まで、入念にチェックしている。その後、徹底的に調律させている。前半が終了すると、休憩中にも調律させる。その辺りに津田さんのこだわりが見て取れる。ご本人の人柄が見事に反映されている真摯で優しく美しいピアノだが、ヴァイオリンの間を擦り抜けるように時折聴かせるロマン的な煌めきが、曲により一層の豊かさと色彩感をもたらしていた。津田さんももちろんBravo!である。


 終演後は恒例のサイン会。悲しいことに二人の3枚のCDは全部サイン入りで持っているし、津田さんのCDも同様…。CDを買わないでサイン会に臨むのはルール違反と知りつつも、小さな会場でのサイン会はいつも和気藹々としたものなので、許していただくとして…。先日の越谷で撮らせていただいた写真を持ち込み、松山さんにサインをいただいた。演奏終了直後なのに、いつもニコニコしてサインに応じていだたけるので、ファンとしては嬉しい限り。
 次回、松山さんを聴けるのは来年2012年1月の東京フィルハーモニー交響楽団のオペラシティ定期シリーズで、外山雄三さん作曲のヴァイオリン協奏曲第2番が作曲者の指揮により演奏される。まったく聴いたことのない曲だけにこちらの方も今から楽しみだ。

いつもニコニコ。サイン会の合間のおちゃめな松山冴花さん


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