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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/26(金)ティーレマン&ドレスデン国立管/官能の「トリスタン」と渾身のブルックナー7番

2012年10月27日 03時03分16秒 | クラシックコンサート
ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 2012年日本公演
Sächsische Staatskapelle Dresden in Japan 2012


2012年10月26日(金)19:00~ サントリーホール・大ホール B席 2階 LA1列 19番 19,000円(会員割引)
指 揮: クリスティアン・ティーレマン
管弦楽: ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
【曲目】
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より “前奏曲と愛の死”
ブルックナー:交響曲 第7番 ホ長調(ハース版)

 4日前の10月22日に続いて、クリスティアン・ティーレマンさんの指揮するドレスデン国立歌劇場管弦楽団(招聘元のJAPAN ARTSではこの呼称)の来日公演ツアーの最終日を聴く。8月に「シュターツカペレ・ドレスデン」の主席指揮者に就任したティーレマンさんのハネムーン・ツアーとなる今回の来日公演は、10月21日/京都、10月22日/東京・NHK音楽祭、10月24日/名古屋、10月25日/横浜、そして今日の合計4都市5公演が組まれた。京都とNHK音楽祭がブラームスの交響曲第3番&第1番、名古屋と横浜がワーグナーの「タンホイザー」序曲、「トリスタン」、「リエンツィ」序曲」とブラームスの交響曲第1番、そして今日は「トリスタン」とブルックナーの交響曲第7番というプログラム構成になっている。というわけで、ブルックナーを演奏するのは今日の1回だけ、最終日がサントリーホールということで、非常に熱のこもった演奏となった。会場が熱狂したのもいうまでもない。
 今回のツアーは、ソリストを招いての協奏曲もなく、完全なティーレマン劇場だ。全曲とも彼が主役である。今年の外来オーケストラの中では、ティーレマン&ドレスデン国立歌劇場管弦楽団のツアーと、来月のヤンソンス&バイエルン放送交響楽団のベートーヴェン・ツィクルスが最大の目玉だといえそうだ。NHK音楽祭と今日のコンサートで、結果的にはツアーで用意されていたプログラムの内、「タンホイザー」序曲を除いてすべて聴くことができた(実をいえば、今日はLA席だったのでオーケストラのメンバーの譜面台に「タンホイザー」の楽譜が用意されていたのが見えた。アンコールで予定されていたのかもしれないが、本編の熱演で、もはや必要なしということになったのだろう)。

 今日は予算の都合でLA席だったが、この席はオーケストラをほぼ真横から見下ろし、ほとんどすべての楽器が見えるし距離も近い。従って、音が拡がり響きが抜群に良いサントリーホールの音響空間の中で、余計な残響音と混ざらない各楽器の音をダイレクトに聴くことができる位置である。先日のNHKホールとはまた違った印象のドレスデン・サウンドが楽しめた。
 元気に登場したティーレマンさんは、指揮台に飛び乗るように上がり、ホール内を見渡す。その姿は自信に満ち溢れているが、尊大な印象はなく、「私の音楽をどうぞ聴いてください」といった真摯な表情である。
 前半はワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」より “前奏曲と愛の死”。ティーレマンさんのお得意のワーグナー。ゆったりしたタクトから、いわゆるトリスタン和音が響く。間。また次の和音が提示されると、間。3~4秒もあろうかという完全無音の間が持つ緊張感で、一気に聴衆の心を惹き付けてしまう。後はもう、ティーレマン節という魔術の虜にされてしまうだけだ。「前奏曲」も「愛の死」も、永遠に続くような解決しない音楽。ひたすら続く属和音の繰り返しと不安感をつのるような不協和音の自虐的な美しさ。最後までもどかしい音楽を、ティーレマンさんは、間合いを取り、タメにタメて、焦燥感を煽りながら徐々に徐々に盛り上げて行く。広いダイナミックレンジを巧みに扱い、寄せては返す波のようにフレーズを歌わせる。官能的な音楽だ。その手法は憎らしいくらいに粘着気質的だが、最後に解決する主和音に辿り着いた時の光明が射してくるような神々しく美しい響きは、彼のロマンティシズムの結晶だと思う。同時に、宮廷歌劇場としての長い歴史を持つドレスデン国立歌劇場管弦楽団の気品に満ちたサウンドの真骨頂でもあった。

 後半はブルックナーの交響曲第7番。名曲中の名曲であり、この曲が演奏されるときは、指揮者もオーケストラもかなり気合いを入れて取り組むようだ。名演が多いような気がする。最近聴いた中では、2010年11月のフランツ・ウェルザー=メストさんの指揮するクリーブランド管弦楽団の演奏が出色だったと思うが、他にも、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮+読売日本交響楽団(2010年10月)クリスティアン・アルミンク指揮+新日本フィルハーモニー交響楽団(2011年9月)金聖響指揮+兵庫芸術文化センター管弦楽団(2011年5月/ラ・フォル・ジュルネ)など枚挙にいとまがなく、オーケストラのモチベーションが高まる曲なのだろうと思う。
 さて、今日のドレスデン国立歌劇場管弦楽団も弦楽の対向配置である。従って第1ヴァイオリンの後ろがチェロ、左奥にコントラバスとなる。空いた右奥にホルンがいる。ブルックナーの7番では、ホルン4にワグナーチューバ4が加わる。今日は右奥、つまりヴィオラの後ろにワグナーチューバ2×2とホルン2×2が並んでいた(ちなみに「トリスタン」の時はハープが右奥にいた)。従って、LA席からは金管がよく見渡せ、音もダイレクトに届いた。
 演奏の方は、もちろんティーレマン節炸裂である。
 第1楽章は、全体にはゆったりとしたテンポで、重厚に主題を提示していく。長い主題を朗々と歌い上げながら全合奏へと盛り上げて行く。ダイナミックレンジを広く取っているため、弱音は極めて抑制された美しいアンサンブルを聴かせ、全合奏の強音は爆発的だがなお余力を残し音は品位を保ったままであった。3つの主題を持ち、繰り返しと転調が多く、複雑な構成の長大な楽章だが、ティーレマンさんの音楽は、つねに主題=主旋律のパートを大きく歌わせ、緻密のバランスを取っているので、演奏自体は極めて明瞭でくっきりとしている印象である。揺れるテンポに気を取られがちになるが、縦のラインは絶妙のバランス感覚を持っている。
 第2楽章はさらに遅めの序奏から悲哀に満ちた主題を最弱音を交えながら切々と歌わせて行く。さらにテンポは揺れ、遅い部分は極端に遅くなるが、その際の演奏が間が抜けたようにならないのは細やかなニュアンスに彩られているからだ。時間をかけて徐々に盛り上がっていき、遅いテンポで堂々たるクライマックスでは打楽器(シンバル、トライアングル、ティンパニ)も追加された(ハース版には本来ないはず)。たった1発のシンバルは劇的な効果を発揮していた。コーダの葬送音楽ではワグナーチューバの曖昧な音色が悲愴感を描き出す。ワグナーチューバとホルンのバランスも良かった。
 第3楽章のスケルツォは快活な中にも重厚で荘厳な雰囲気を残している。特徴的な主題を吹くトランペットを中心として、管楽器群が上手い。中間部のロマンティックで瞑想的である。
 第4楽章が短く、曲の終盤が軽いという指摘もあるが、これはティーレマンさんなかかるとそんなイメージは完全に払拭される。変形したソナタ形式で3つの主題を持ち、再現部では第3主題から逆に再現されていく。ブルックナー特有の全休止の時の間の取り方は、過激なくらいの無音状態を作り、見えない(聞こえない)緊張感を高める効果があった。フィニッシュの直前には極端にテンポを落とし、そこから一気呵成に盛り上げて晴れやかな金管群の咆哮で曲が終わった。この曲は、最後の音の余韻を噛みしめるのも魅力のひとつなのだが、今日はティーレマンさんのタクトが降りる前にフライング拍手をしてしまった人がけっこういて、残念無念である。

 フィーレマンさんの指揮は、タクトの振り方が独特、というか分かりにくく、現代風ではないのかもしれない。歌劇場のコレペティトゥーアからのし上がってくるという、古いタイプの出自でもあり、指揮法も古典的なのかもしれない。指揮者に対してオーケストラが1拍遅れて演奏されているのが、見ていてよく分かる。その阿吽の呼吸が独特のまろやかな音色を創り出していくのは、ウィーン・フィル=ウィーン国立歌劇場管弦楽団などに似ている。今日のブルックナーでは、管楽器のアタマが揃わないような箇所が何度かあった。おそらく、LA席では各楽器の音がダイレクトにと説くため、かえってアラが目立ってしまうのだと思う。1階席や後方席では、音がもっと充満してくるので、感じ取れないレベルだと思われる。あえて分かりにくい指揮法で、美しく気品のある音色をオーケストラから引き出す。ティーレマンさんとドレスデン国立歌劇場管弦楽団の蜜月が長く続けば続くほど、阿吽の呼吸にも磨きがかかっていくのだろう。とくにかなり個性的な音楽作りを目指すティーレマンさんだけに、世界でも最高峰ともいえる伝統の音色を持つオーケストラを手中におさめ、今後の活動から目が離せなくなりそうだ。
 個人的には、ここまで個性的(といってもドイツの伝統的な部分を含んでいる訳だが)な解釈をする指揮者は、あまり好きな方とはいえない。しかしながら実際に聴いてみれば、ティーレマンさんの音楽の持つ圧倒的な存在感には押しまくられっぱなしで、無理矢理にでも納得させられてしまう。やはりこの人は本物の芸術家であり、しかも30年に1人の大家かもしれない。

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