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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/22(月)NHK音楽祭/ティーレマン&ドレスデン国立管/ブラームスの交響曲第3番&第1番で熱狂の嵐

2012年10月25日 00時57分27秒 | クラシックコンサート
NHK音楽祭 2012 第1夜
世界のマエストロ ~輝ける音楽界の至宝~


2012年10月22日(月)19:00~ NHKホール S席 1階 C3列 21番 17,000円
指 揮: クリスティアン・ティーレマン
管弦楽: ドレスデン国立管弦楽団
【曲目】
ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調 作品90
ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 作品68
《アンコール》
 ワーグナー: 歌劇『リエンツィ』序曲

 第10回を迎えるNHK音楽祭。今年のテーマは「世界のマエストロ ~輝ける音楽界の至宝~」ということで、世界の第一線で活躍している、あるいは巨匠と呼ばれる指揮者にスポット当てた構成だ。今日が初日で、先頃主席指揮者に就任したばかりのクリスティアン・ティーレマンさんの指揮するドレスデン国立管弦楽団、10月29日がロリン・マゼールさんの指揮で、音楽祭のホスト・オーケストラとなるNHK交響楽団、11月15日がワレリー・ゲルギエフさんの指揮するマリインスキー劇場管弦楽団、というように、今年は3回のコンサートがNHKホールで開催される。

 音楽祭初日の今日の公演は、発売早々に完売になった人気のコンサートである。NHK音楽祭は世界の一流オーケストラが通常の招聘よりも低めの価格で聴くことができるとはいえ、NHKホールの3,500名の席があっという間に売り切れたというのは、ティーレマンさんとドレスデン国立管弦楽団のブランド力が高いことを示している。ちなみに10月25日の横浜みなとみらいホールと26日のサントリーホールの公演は、まだ席が残っているらしい。
 ティーレマンさんは1959年生まれの53歳。音楽界ではまだ若い方の中堅どころといった年齢だが、すでにドイツ音楽の重鎮のひとりであることは周知の通りである。ミュンヘン・フィルの音楽監督から転身し、今年の8月にシュターツカペレ・ドレスデンの主席指揮者に就任、9月に就任記念コンサートを行ったばかりである。演目を絞り込んで活動する人なので、今シーズンはブラームスの交響曲ツィクルスとブルックナーの交響曲第7番が中心となるとのことだ。それらの曲を引っさげて、はやくも日本に登場というわけだ。
 ティレーマンさんの演奏は、前回の来日の時、2010年3月、ミュンヘン・フィルの来日公演をサントリーホールで聴いている。その時のプログラムも、ワーグナーの『タンホイザー』序曲、ブラームスのヴァイオリン協奏曲(ソリストはワディム・レーピンさん)、ベートーヴェンの「運命」、アンコールは『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲といった、究極のドイツ・プログラムだった
 一方、ドレスデン国立管弦楽団(ザクセン州立歌劇場管弦楽団ドレスデン)は、前任のフィビオ・ルイジさんの時代に、歌劇場の引っ越し公演で、リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』と『サロメ』を観ているし、2009年のオーケストラの来日公演も聴いた。曲目はR.シュトラウスの「ドン・ファン」「ティル」、ブラームスの交響曲第4番など、徹底してドイツもの。さすがにこのオーケストラの来日公演で、チャイコフスキーなどは聴きたくない。

 さて前置きがかなり長くなってしまったが、本編の今日の演奏については、なかなか言葉に置き換えにくい。今日のコンサート自体はNHK-FMで実況生放送もされているし、後日(来年2013年1月6日)、BSプレミアムの「特選オーケストラ・ライブ」で放送される。演奏自体は、後で何度でも聴くことができるのだが、生放送とはいっても電波に乗ったり、一旦録音・録画されたものでは、実際の会場の雰囲気はなかなか伝わらないものだ。ましてや、ティーレマンさんのような個性的な演奏は、言葉では表現しにくいものである。とはいえ、前置きだけで終わるわけにはいかないので…。

 まず、オーケストラのメンバーがステージに登場すると拍手で迎えられた。これは外来オーケストラだとほぼ定番化した行事。拍手で迎えられれば誰でも嬉しい。気分良く演奏してくれるから、積極的に拍手した方が良い。
 今日のオーケストラの配置は、ヴァイオリンが両翼に展開する対向配置。第1の奥がチェロで、コントラバスは左奥となる。そうなると右側が薄くなるので、ホルンが右奥へ行き、トランペットとトロンボーンが最後列のセンターに一列に並ぶ。木管は通常通りであった(席が3列目だったのでステージ後方はよく見えなかったので、ちょっとあやふや)。
 また、プレ・トークでも紹介されていたが、ヴァイオリニストの有希・マヌエラ・ヤンケさんが第1ヴァイオリンのフォアシュピーラーの位置に乗っている。彼女は、このオーケストラのコンサートマスターのオーディションに合格して、採用されたことは業界のニュースでも流れた。2年間の試用期間を経て本採用となるのだという。
 入念なチューニングの後、ティーレマンさんが颯爽と登場。大柄だが動きは軽快でエネルギッシュだ。1曲目はブラームスの交響曲第3番。曲が始まると、やはりいつも聴いている日本のオーケストラとは音の感じが違う。現在のドレスデン国立管弦楽団は、ウィーン・フィルにも匹敵する、ローカル色を残しつつも極めて気品のある音色と緻密なアンサンブルを聴かせる、世界でもトップ・クラスのオーケストラである。音にドイツ的な泥臭さがなく、上品に洗練されていて、まろやかな柔らかさで覆われている。上手下手(もちろん折り紙付きの上手さだが)の問題ではなく、雰囲気が抜群のオーケストラだ。
 ティーレマンさんの音楽作りは、緩急のテンポの揺れ幅が大きい。快活な第1主題は速めに、穏やかな第2主題はゆっくりと、経過的な部分はダラダラしないで速めに、フレーズの切れ目にはテンポを落とし、たっぷりと間を取る。また、主題を演奏しているパートを際立たせ、大きく、しかも抑揚をたっぷり付けて歌わせる。フレージングが呼吸に合わせて歌うようだ。こういうところはオペラ的というべきか。楽曲全体の構造を建築物のようにガッチリと構成していくというタイプではなく、刹那的に今の瞬間の音楽を最高に美しく聴かせる、といった印象である。だから、ブラームスの3番のように新古典主義的なしっかりした構造を持っていても、主題以外にも美しい旋律や和音が散りばめられている曲では、一瞬一瞬が聴き所となり、ある意味で緊張感が持続しながら音楽が流れていくのである。時にはロマンティックで甘美に、時にはダイナミックで劇的に、ティーレマンさんの描き方は歌うようである。極端なことをいえば、1小節毎に長さが違うくらいの抑揚が付けられていることもある。第2楽章の木管群の主題部分などは、まさに息継ぎをしながら、オーボエ、クラリネット、フルートが交互に歌うようだ。第3楽章の有名な主題などは、弦楽器がパートを入れ替わりながら、大きな抑揚を付けて甘美に歌い上げている。第4楽章ではテンポは揺らぐものの、むしろ流れに淀みがなく推進力がある。
 いつもなら全体的には…と語るところだが、どうも今日は調子が違う。曲全体や、楽章単位でくくりにくい。すぐに消えていく「美しいもの」が、瞬間瞬間に描き出されていて、またそれが絶品なのである。

 後半はブラームスの交響曲第1番。冒頭から大河の流れのごとく、重厚な演奏だ。その音楽作りは、ちょっと大袈裟にくらいに、重々しくドラマティックな効果を狙っているようだ。弱音は極端に音量を落とし、ドレスデン国立管も美しいアンサンブルで繊細な表現をするかと思えば、強奏部分ではティンパニを強めに使って、爆発的な演奏を煽り立てるようだ。ダイナミックレンジが広く、非常に劇的である。
 第2楽章の緩徐楽章は、弦楽野厚みをたっぷりと効かせて、弱音と鮮やかに対比させる。それにしても弦楽の音色は絶品だ。また、オーボエが良い味を出している。空気感があるのに情景描写的ではなく純音楽的なのがいかにもドイツ的だ。終盤のソロ・ヴァイオリンの音色も甘美ではあるが、気品に溢れたもので、ただの感傷で終わらせていない。緩徐楽章のロマンティックな表現の上手さは、ティーレマンさんのもうひとつの特徴だと思う。
 第3楽章は、クラリネットを中心に木管群が抜群のバランス感覚で絶妙のアンサンブルを聴かせた。中間部の徐々にクレシェンドしていく辺りは、テンポはそれほど速くないのに、煽るような推進力があって盛り上げる。
 第4楽章は、長めの序奏でもかなり高い緊張感を保ち、期待感を煽る。ティンパニの炸裂に続いて弱音から入ってくるホルンの伸びやかな音色も格別だ。こうした息の長い金管の旋律をゆっくりと長くのばすティーレマンさん独特の音楽作りは管楽器奏者泣かせだろう。全休止の後、ハ長調の第1主題の描き方は純音楽的な美しさに満ちていて、こういうところが彼がドイツで圧倒的な人気を誇るのも分かるような気がした。第2主題を経てダイナミックに盛り上がった後、第1主題の再現部(展開部がないソナタ形式)は、提示部よりも力強くも絶対的な自信に満ちた音楽が鳴っているようであった。コーダに入ってからのテンポアップや全合奏の音圧の素晴らしさ、そして華やかに、劇的に、堂々と、晴れやかに、曲が終わった。
 その直後、会場は熱狂の嵐と化す。…まあ、とにかくモノスゴイ演奏だと思う。極めて個性的ではあるが、それでいてドイツ音楽の正統な後継者といわれるティーレマンさんの音楽には、聴く人の好みは別として、聴く者を無理矢理納得させてしまうような「チカラ」がある。実際に目の前で演奏されたティーレマンさんとドレスデン国立管の音楽を体験すると、私たちの個人的な好みによる批判など、完全に跳ね返されてしまうくらいの存在感を感じるのだ。

 アンコールは、打楽器系のメンバーを大幅に増員して、ワーグナーの歌劇『リエンツィ』の序曲。1842年に、ドレスデンの宮廷歌劇場で初演されたワーグナー初期の出世作だ。といってもワーグナーが苦手な私にはピンと来ないが…。今回の来日ツアーの用意して来た曲目であり、横浜みなとみらいホールでのコンサートではプログラムに組まれている。曲の長さからみても、今日のアンコールはこの曲だろうと思っていた予測が的中である。悲劇的なオペラのはずだが(もちろん観たことも聴いたこともない)、妙に晴れやかなオーケストレーションとトランペットのファンファーレが印象的であった。

 今日のコンサートは、一生の記憶に刻み込まれるものになると思う。それほど素晴らしい演奏だった。会場の熱狂を見れば、よく分かる。いつものN響の時の倍くらいの音量で拍手が鳴り続いた。実をいえば、私はティーレマンさんはものすごく好きな指揮者という訳ではない(ドレスデン国立管は昔から大好きだ)。何しろ彼の最も得意とするワーグナーが苦手なのだから…。しかし逆にもっとも尊敬する音楽家のひとりであることも確かだ。彼の演奏は、見方によってはものすごく個性的であり、好き嫌いの好みがはっきり分かれるタイプかもしれない。しかし、目の前で演奏している姿は、真摯であり、自信に満ちていて、自分の信じる(個性的な)音楽を堂々と演奏する。だから聴く方も納得させられてしまうのだ。聴く者の嗜好などを超越して、「こういう音楽のカタチがここにあるのだ」と主張しているようであった。Bravo!!
 ティーレマンさんとドレスデン国立管のコンサートは、この後、10月26日にサントリーホールで聴く予定。そちらは、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ~前奏曲と愛の死」とブルックナーの交響曲第7番という豪華プログラム。ここに至っては、ただひたすらティーレマン節を楽しむだけである。

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