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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/13(木)東京フィル/村治奏一のアランフェスとアロンドラ・デ・ラ・パーラのブラームス快演

2012年09月15日 01時17分40秒 | クラシックコンサート
東京フィルハーモニー交響楽団/第72回東京オペラシティ定期シリーズ

2012年9月13日(木)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 4列 14番 3,780円(会員割引)
指 揮: アロンドラ・デ・ラ・パーラ
ギター: 村治奏一*
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
モンカーヨ: ウアパンゴ
ロドリーゴ: アランフェス協奏曲*
《アンコール》
 アントニオ・カルロス・ジョビン: フェリシダージ
ブラームス: 交響曲 第1番 ハ短調 作品68

 東京フィルハーモニー交響楽団の「東京オペラシティ定期」シリーズは会員になっているにもかかわらず、2回ほど続けてパスしてしまっていた。もちろん他のコンサートと重なってしまったり、振り替えるにもスケジュールが合わなかったからであり、できることなら聞き逃したくない最近の東京フィルである。そんなわけでこの定期シリーズは4月26日の尾高忠明さん以来、半年ぶりになってしまった。東京フィル自体は、6月に文京シビックホールの「響きの森シリーズ」でコバケンさんや、7月には東京二期会のオペラ公演『カヴァレリア・ルスティカーナ』&『パリアッチ(道化師)』でピットに入ったのを聴いているが、いずれも素晴らしい演奏を聴かせてくれていて、最近の(思い起こしてみると、東日本大震災の後くらいから)東京フィルは、かなりイイ感じである。

 さて今月の公演には、アロンドラ・デ・ラ・パーラさんが登場する。今回が2度目の来日で、話題の指揮者であることは間違いない。デ・ラ・パーラさんはニューヨークの生まれだが、2歳の時にメキシコに移住した。そのご音楽の勉強ではイギリスやアメリカでも学び、メキシコの音楽を得意としていることは別としても、国際的な評価も高く、世界中のオーケストラと共演している。今回の東京フィルへの客演は、モンカーヨ(メキシコ)、ロドリーゴ(スペイン)、ピアソラ(アルゼンチン)などのラテン系音楽とブラームスの交響曲第1番という、異色のプログラムで臨み、サントリーホール、東京オペラシティコンサートホール、オーチャードホールという、東京フィルの3つの定期に登場する。協奏曲は中日で、オペラシティである。

 1曲目はモンカーヨの「ウアパンゴ」。ホセ・パブロ・モンカーヨ(1912~1958)はメキシコの作曲家で、プログラムの解説によると、「ウアパンゴ」というのは「メキシコ東部、メキシコ湾沿いの一帯に古くから伝わる民衆的な舞曲の一型を指す形式名である」とのことだ。メキシコの民族的舞曲といわれれば、何となく想像はつくものの、このようなオーケストラのナマ演奏で聴く機会はあまりあるものではない。概ね2管編成+16型の弦楽5部+打楽器という大編成であった。
 黒のパンツと衣装で颯爽と登場したデ・ラ・パーラさんは、スラリと背が高く、モデルさんのように美しい人。だが磨き上げた美しさというよりは、内側からほとばしる活力に満ちた美しさであろう。指揮する動作にも、直線的な鋭さと大きく弧を描く曲線的な優雅さが交錯し、演奏中の表情も豊かで魅力的だ。
 「ウアパンゴ」はメキシコ的な陽気さがトランペットなどの管楽器を躍動させる、明るく楽しい曲だ。タタタタター、タタタタターという3拍子のリズムが特徴的で、耳にこびりつく。東京フィルの演奏は、各パートが非常に濃厚な音を聴かせ、これ以上はないというくらいの豊潤な音色。どんな音楽にも柔軟に対応できる東京フィルならではの、迷いのない演奏だと思う。デ・ラ・パーラさんは、全体的には遅めのテンポでしっかりとリズムと旋律を構築していくが、クライマックスに向けてテンポが速くなっていく辺りがスリリングであった。

 2曲目は、ギターの村治奏一さんを招いての「アランフェス協奏曲」。曲は名曲であるし、クラシック・ギターは多少経験があるので、2列目のソリスト正面の席からは、視覚的にもナマ音もたっぷり聴けるので、楽しみにしていた。ギターという楽器は大きさの割には音量が小さい。あの小さなヴァイオリンがオーケストラと1対1の協奏曲ができるくらいの音量が可能なのに対して、ギターの音量は大ホールで聴くようなレベルではない。この有名な曲を作ったロドリーゴ(1901~1999)はギターを弾かなかったそうで、やはりオーケストラとの協奏という点ではかなり苦心している。
 今日の演奏では、ごく古典的な2管編成に弦楽は10型というふうに小編成にしていたが、それでも独奏ギターにはPAを加えていた。会場の録音用と合わせて2本のマイクが独奏ギターの前に立ち、ソリストの台と指揮台の間に、サッカーボールくらいの球形のスピーカーが置かれていた。カタチから判断するとあまり指向性の強くないスピーカーのようだ。ソリストのすぐ後ろからホール全体に音を出しているようだったが、私の席からはナマの音の方がビシビシと伝わってくるので、離れた席における効果については不明である。
 演奏が始まると、やはり村治さんのギターの音色は澄んでいて深みがあって、とてもキレイな音であった。久しぶりに聴くギターの音だったが、やはり一流の演奏家だと音が違うものである。第1楽章はギター軽快なリズムで始まり、ヴァイオリンが第1主題を提示、第2主題はギター…、というふうに展開するソナタ形式。ギターとオーケストラの協奏は交互に演奏するような形式になる。それでも珍しいギター協奏曲。村治さんの澄んだ音色のギターとともにエキゾチックな魅力が堪能された。
 コールアングレによって吹かれる第2楽章の有名な主題は、オーボエ奏者の若林沙弥香さんの持ち替えだが、風がそよぐような牧歌的な音色でありながら、哀愁に彩られた旋律が儚げで素敵だった。テンポはここでも遅めの設定だった。追いかけていくギターは、ハンマリングオンやプリングオフの奏法による装飾的な部分は、さらに音量が出ないため、一層苦しくなる。とはいうものの、村治さんの演奏は細やかなニュアンスまで神経の行き届いたもので、弦を弾く右手の位置がサウンドホールの辺りから駒の近くまで随時移動していて、同じフレーズでも2度目は音色を変えるなど、多彩な音色で表現の幅も広い。
 第3楽章はロンド。ギターによる主題が中心に展開するために、オーケストラもかなり控え目になってしまい、室内楽的な様相となり、盛り上がりに欠けたまま、静かに曲は終わる。むしろこの楽章はギターの様々な奏法による多彩な演奏が楽しめる。村治さんのギターはあまりエネルギッシュ(ラテン系特有の)な感じではなく、むしろ都会的に洗練されているクールなイメージ。品があって、洒脱で、非常にスマートな演奏だと思う。

 村治さんがアンコールで弾いてくれたのは、アントニオ・カルロス・ジョビン(1927~1994)の「フェリシダージ」という曲で、ギター好きの人でもない限り、普通のクラシック音楽ファンはあまり聴く機会がないだろうと思う。やはり単独のギター曲ともなれば、むしろ「アランフェス協奏曲」よりもこちらの方が遙かにギター奏法の技巧に富んでいて、村治さんの鮮やかな演奏に会場全体が息を飲むように聴き入っていた。

 後半は一転してブラームスの交響曲第1番。もちろん16型の大編成に戻った。前半のラテン系の曲に対して、あまりにもブラームスはテイストが違いすぎる。デ・ラ・パーラさんの指揮に期待がかかるが…。結論から言うと、こちらの方もけっこう個性的なおもしろい演奏だった。どこが個性的かというと…。
 まず、各楽章とも、テンポがかなり遅め。もう何十回聴いたか分からないこの曲だが、それらの中でも、最も遅い方に属するだろう。ただし正確に言うと、楽章の始まりが遅めのテンポだということ。つまり少しずつ早くなっていくようではある。この遅めのテンポ設定に対して、東京フィルがうまく合わせていたが、どうしても先へ先へ行きたいのを堪えている感じがするのが、見ていて可笑しい。
 結局デ・ラ・パーラさんは、遅めのテンポを採ることによって、楽曲の構造、つまり和声やリズムの組み立てをしっかりと描き出していくことを目指しているようだ。今までは流れの中であまり意識しなかった各パートの音がひとつひとつ聞こえてくる。これがけっこう新鮮な響きを作り出していた。テンポが遅ければ、各パートの楽器が十分に鳴る時間があるということになり、東京フィルの音色が、普段以上に濃厚な色彩を帯びていた。最近の東京フィルはイイ感じ、と書いたが、各パートともかなり良い音を聴かせていて隙がない(ことが多い)感じがする。弦楽もそれほど見事なアンサンブルという感じではないのに、音色に独特の濃厚さがある。ひとりひとりの音が良いからではないだろうか。
 そして、ここぞというところでテンポを上げることで、緊張感を高め、音楽がひとつに収束していく効果を出している。とくに、第4楽章のコーダにはいってからの急激なテンポ・アップは、オーケストラがバタつきかけるのを強引にまとめて怒濤のごとく駆け抜けていく。それまで我慢していたオーケストラが解放されて爆発的な音を出すのである。これを狙っていたのだとしたら、デ・ラ・パーラさん、只者ではない。
 結局、今時の演奏にしてはかなり遅いテンポ設定から始まるすべての音楽の構造が、かつてないほどに明瞭に描き出され、なるほどこういう解釈もあったか! と思わせる説得力のある演奏だった。そして最後には、東京フィルから濃厚な音色のまま大音量を引き出し、劇的なフィナーレ! 会場も大いに盛り上がって、拍手喝采である。
 初めて聴いたデ・ラ・パーラさんであったが、あの独特な音楽作りには賛否両論、というか好き嫌いが分かれるところだろう。現代の若手の指揮者の中では異彩を放っているといっても過言ではない。しかし、世界中のオーケストラがオファーが殺到しているということは、彼女の平凡ではない個性と才能が(もちろん人気も)高く評価されているということだ。つまり、好き嫌いは別として、大いに注目に値し、聴く価値の高い指揮者であることは間違いない。次の来日の時にも必ず聴いてみたい指揮者のひとりになった。次回、どんな音楽を聴かせてくれるのか、とても楽しみである。

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