東京フィルハーモニー交響楽団/第69回東京オペラシティ定期シリーズ
2012年4月26日(木)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 4列 14番 3,780円(会員割引)
指 揮: 尾高忠明
チェロ: 横坂 源*
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
チャイコフスキー: 交響曲 第4番 ヘ短調 作品36
ハイドン: チェロ協奏曲第1番ハ長調*
レスピーギ: 交響詩「ローマの松」
東京フィルハーモニー交響楽団の2012/2013シーズンが4月から始まった。前年度に引き続き、東京オペラシティ定期シリーズの会員を継続したので、2列目の同じ席(ステージを拡張しているため本シリーズは1階の1~2列がないので、4列は実際には2列目となる)で8回のコンサートを聴くことになる。この席は通常のオーケストラの配置だとコンサートマスターの正面くらいの2列目。協奏曲や歌曲のソリストの正面という、私にとっては最良のポジションなのである。
今日は協奏曲があり、先日は日本フィルで聴いたチェロの横坂源さんを迎えてのハイドンのチェロ協奏曲、というのだけを意識していて、公演プログラムも読まずに席に着く。尾高忠明さんが登場し、タクト一閃、曲が始まったらなんとチャイコフスキーの交響曲第4番!! こんな重量級の曲でコンサートが始まるのも珍しいことなのでビックリした。「なんでいきなり…?」とはいえ演奏の最中にプログラムを繰るのは厳禁だから、とりあえずそのまま聴くことに(曲順の問題は最後まで聞いたら簡単に理解できた)。
とくに金管楽器が派手に活躍するこの曲では、それらのパートの技量が強烈な印象を残すことになる。今日の東京フィルは、いつものように濃厚で厚みのある音色。金管群の輝かしい色彩感が素晴らしく、華麗な滑り出しであった。第1楽章は主題提示あたりから、ややリズム感がまったりとして、キレ味が鈍く感じられた。これは弦楽を含めて、アンサンブルがやや雑な感じで、やはりいきなりこの曲でエンジンが暖まっていなかったからかもしれない。第2楽章くらいには、緻密なアンサンブルが戻ってきて、リズム感も引き締まってきた。第3楽章の弦楽のピチカートなどは、ダイナミック練度も広く、軽快なのに分厚い音を聴かせていた。第4楽章は怒濤の推進力を発揮し、鋭い立ち上がりでオーケストラが咆哮する。豪快にフィニッシュが決まれば、大きな喝采がおこり、まるでコンサートのフィナーレのようであった。前半からこんにな飛ばしてしまって大丈夫だろうかと心配してしまったのだが…。
後半はハイドンのチェロ協奏曲第1番から。有名なニ長調のチェロ協奏曲に対して、こちらは1961年に発見されたハ長調の遺作で、作曲年代(1761~1765年頃)が早いために、第1番に数えられることになった作品である。曲想は、宮廷音楽にふさわしく、明るく闊達で曇りがない。モーツァルトとはひと味違った、ある意味では洗練された優雅さに包まれた曲である。
ソリストの横坂さんは、先月に日本フィルの定期演奏会でエルガーのチェロ協奏曲をきいたばかり。その時の印象から考えても予期した通り、まったく迷いのない明瞭な演奏で、ハイドンの優雅な曲に瑞々しい色彩感をもたらしていた。カリッとした立ち上がり、澄んだ高音部、低音部にも暗さはなく、全体的にも明るい音色で、まさに若い(才能の豊かな)演奏家ならではの躍動感があった。
尾高さんの指揮も上品な伴奏に徹して独奏チェロを引き立てる。オーボエ2、ホルン2と弦楽5部という楽曲構成だが、弦楽は10型にし東京フィルの精鋭による弦楽アンサンブルの澄んだ音色はなかなかのもの。独奏チェロの明瞭な音色と、オーケストラの繊細なアンサンブルが何とも言えない素敵な対比になっていた。
最後はレスピーギ(1879~1936)の交響詩「ローマの松」。いわゆるローマ三部作の中でも最も人気のある曲だろう。1924年の作。
第1部「ボルゲーゼ荘の松」は、煌びやかで色彩感溢れる曲想だが、尾高さんはフル編成へと拡大した東京フィルから、鮮やかで明瞭な演奏を引き出している。各パートの濃度の高い音色が弾むようなリズム感の中で渾然一体となって響き合うのは壮観でった。一転して第2部「カタコンブ付近の松」はて、重苦しい色に塗りつぶされ、演奏全体がグレー・トーンに覆われるようだ。弱音器を付けた弦楽が無彩色の重いアンサンブルを聴かせる中、木管群の音色だけに色彩が見えるような鮮やかさで響いた。後半の盛り上がっていく部分では、オーケストラのエネルギーが充満していく様子が感じられた。第3部「ジャニコロの松」は交響曲でいえば緩徐楽章にあたる。漣のようなピアノの煌めきから始まり、クラリネットの抒情的な旋律が一陣の風のように流れていく。オーボエが幻想的な旋律を続け、弦楽が美しいアンサンブルを聴かせると、美しい丘陵地帯の風景を眺めるような、映像が目に浮かんでくる。まさに交響詩。第4部「アッピア街道の松」は全体が行進曲風になっていて、遠くから古代ローマ軍の更新が近づいてくる様子が窺える。揃った行進の足音は大太鼓がイズンズンと刻み、晴れやかに金管楽器のファンファーレが鳴り響きく。全合奏の想像以上の音圧には身体が共振するくらいのパワーが漲っていた。会場の2階席、左右両側のバルコニー席に配置されたトランペットとトロンボーンが後方から吹き鳴らされると、まるでサラウンド効果のように、あるいは立体的な響きは3Dサウンドとでもいうべきか、めくるめく音響効果を生み出していた。各楽器の濃厚な音色と力強いアンサンブル、そして音響効果が生み出す壮麗な「音の饗宴」は、チャイコフスキーの比ではなく、なるほどこの曲を最後に持ってくるのは当然の帰結であろう(事実、演奏もこちらの方がチャイコフスキーよりも遥かに良かった)。
東京フィルの東京オペラシティ定期シリーズは、チャイコフスキー、ハイドン、レスピーギという、ちょっと変わった組み合わせのプログラムでシーズン幕開けとなった。中程に優雅なチェロ協奏曲を置き、最後は壮大なスペクタクルをオーケストラで表現したもので、聞き終わってみれば、アクセントの付け方が抜群で、メリハリの効いた、洒落たプログラム構成になっていた。尾高さんの小細工をしない音楽作りは正統派であり、いわば安心して聴くことができるものだ。東京フィルの演奏は、各パートの技量と音色、しっかりしたアンサンブル、豊かな音量とバランスなど、そのポテンシャルを見事に発揮し、均衡の取れたオーケストラ・サウンドを聴かせてくれた。素敵なコンサートであった。
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2012年4月26日(木)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 4列 14番 3,780円(会員割引)
指 揮: 尾高忠明
チェロ: 横坂 源*
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
チャイコフスキー: 交響曲 第4番 ヘ短調 作品36
ハイドン: チェロ協奏曲第1番ハ長調*
レスピーギ: 交響詩「ローマの松」
東京フィルハーモニー交響楽団の2012/2013シーズンが4月から始まった。前年度に引き続き、東京オペラシティ定期シリーズの会員を継続したので、2列目の同じ席(ステージを拡張しているため本シリーズは1階の1~2列がないので、4列は実際には2列目となる)で8回のコンサートを聴くことになる。この席は通常のオーケストラの配置だとコンサートマスターの正面くらいの2列目。協奏曲や歌曲のソリストの正面という、私にとっては最良のポジションなのである。
今日は協奏曲があり、先日は日本フィルで聴いたチェロの横坂源さんを迎えてのハイドンのチェロ協奏曲、というのだけを意識していて、公演プログラムも読まずに席に着く。尾高忠明さんが登場し、タクト一閃、曲が始まったらなんとチャイコフスキーの交響曲第4番!! こんな重量級の曲でコンサートが始まるのも珍しいことなのでビックリした。「なんでいきなり…?」とはいえ演奏の最中にプログラムを繰るのは厳禁だから、とりあえずそのまま聴くことに(曲順の問題は最後まで聞いたら簡単に理解できた)。
とくに金管楽器が派手に活躍するこの曲では、それらのパートの技量が強烈な印象を残すことになる。今日の東京フィルは、いつものように濃厚で厚みのある音色。金管群の輝かしい色彩感が素晴らしく、華麗な滑り出しであった。第1楽章は主題提示あたりから、ややリズム感がまったりとして、キレ味が鈍く感じられた。これは弦楽を含めて、アンサンブルがやや雑な感じで、やはりいきなりこの曲でエンジンが暖まっていなかったからかもしれない。第2楽章くらいには、緻密なアンサンブルが戻ってきて、リズム感も引き締まってきた。第3楽章の弦楽のピチカートなどは、ダイナミック練度も広く、軽快なのに分厚い音を聴かせていた。第4楽章は怒濤の推進力を発揮し、鋭い立ち上がりでオーケストラが咆哮する。豪快にフィニッシュが決まれば、大きな喝采がおこり、まるでコンサートのフィナーレのようであった。前半からこんにな飛ばしてしまって大丈夫だろうかと心配してしまったのだが…。
後半はハイドンのチェロ協奏曲第1番から。有名なニ長調のチェロ協奏曲に対して、こちらは1961年に発見されたハ長調の遺作で、作曲年代(1761~1765年頃)が早いために、第1番に数えられることになった作品である。曲想は、宮廷音楽にふさわしく、明るく闊達で曇りがない。モーツァルトとはひと味違った、ある意味では洗練された優雅さに包まれた曲である。
ソリストの横坂さんは、先月に日本フィルの定期演奏会でエルガーのチェロ協奏曲をきいたばかり。その時の印象から考えても予期した通り、まったく迷いのない明瞭な演奏で、ハイドンの優雅な曲に瑞々しい色彩感をもたらしていた。カリッとした立ち上がり、澄んだ高音部、低音部にも暗さはなく、全体的にも明るい音色で、まさに若い(才能の豊かな)演奏家ならではの躍動感があった。
尾高さんの指揮も上品な伴奏に徹して独奏チェロを引き立てる。オーボエ2、ホルン2と弦楽5部という楽曲構成だが、弦楽は10型にし東京フィルの精鋭による弦楽アンサンブルの澄んだ音色はなかなかのもの。独奏チェロの明瞭な音色と、オーケストラの繊細なアンサンブルが何とも言えない素敵な対比になっていた。
最後はレスピーギ(1879~1936)の交響詩「ローマの松」。いわゆるローマ三部作の中でも最も人気のある曲だろう。1924年の作。
第1部「ボルゲーゼ荘の松」は、煌びやかで色彩感溢れる曲想だが、尾高さんはフル編成へと拡大した東京フィルから、鮮やかで明瞭な演奏を引き出している。各パートの濃度の高い音色が弾むようなリズム感の中で渾然一体となって響き合うのは壮観でった。一転して第2部「カタコンブ付近の松」はて、重苦しい色に塗りつぶされ、演奏全体がグレー・トーンに覆われるようだ。弱音器を付けた弦楽が無彩色の重いアンサンブルを聴かせる中、木管群の音色だけに色彩が見えるような鮮やかさで響いた。後半の盛り上がっていく部分では、オーケストラのエネルギーが充満していく様子が感じられた。第3部「ジャニコロの松」は交響曲でいえば緩徐楽章にあたる。漣のようなピアノの煌めきから始まり、クラリネットの抒情的な旋律が一陣の風のように流れていく。オーボエが幻想的な旋律を続け、弦楽が美しいアンサンブルを聴かせると、美しい丘陵地帯の風景を眺めるような、映像が目に浮かんでくる。まさに交響詩。第4部「アッピア街道の松」は全体が行進曲風になっていて、遠くから古代ローマ軍の更新が近づいてくる様子が窺える。揃った行進の足音は大太鼓がイズンズンと刻み、晴れやかに金管楽器のファンファーレが鳴り響きく。全合奏の想像以上の音圧には身体が共振するくらいのパワーが漲っていた。会場の2階席、左右両側のバルコニー席に配置されたトランペットとトロンボーンが後方から吹き鳴らされると、まるでサラウンド効果のように、あるいは立体的な響きは3Dサウンドとでもいうべきか、めくるめく音響効果を生み出していた。各楽器の濃厚な音色と力強いアンサンブル、そして音響効果が生み出す壮麗な「音の饗宴」は、チャイコフスキーの比ではなく、なるほどこの曲を最後に持ってくるのは当然の帰結であろう(事実、演奏もこちらの方がチャイコフスキーよりも遥かに良かった)。
東京フィルの東京オペラシティ定期シリーズは、チャイコフスキー、ハイドン、レスピーギという、ちょっと変わった組み合わせのプログラムでシーズン幕開けとなった。中程に優雅なチェロ協奏曲を置き、最後は壮大なスペクタクルをオーケストラで表現したもので、聞き終わってみれば、アクセントの付け方が抜群で、メリハリの効いた、洒落たプログラム構成になっていた。尾高さんの小細工をしない音楽作りは正統派であり、いわば安心して聴くことができるものだ。東京フィルの演奏は、各パートの技量と音色、しっかりしたアンサンブル、豊かな音量とバランスなど、そのポテンシャルを見事に発揮し、均衡の取れたオーケストラ・サウンドを聴かせてくれた。素敵なコンサートであった。
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