新交響楽団 第213回 演奏会
2011年5月8日(日)14:00~ 東京文化会館・大ホール A席 1階 3列 4番 2,500円(無料招待)
指 揮: 飯守泰次郎
ヴァイオリン: 松山冴花
管弦楽: 新交響楽団
【曲目】
《追悼演奏》芥川也寸志: 絃楽のための三楽章-トリプティーク より第2楽章
ブラームス: 大学祝典序曲 作品80
ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ドヴォルザーク: 交響曲第7番 ニ短調 作品70
今日はアマチュアの新交響楽団の演奏会を聴いた。新交響楽団は1956年創立のアマチュア・オーケストラで、現在は東京を中心に年4回の演奏会を開いている。アマチュアとはいえ、時に在京のプロ・オーケストラを凌ぐ演奏をきかせることもあり、注目に値する団体である。今日の第213回演奏会は、実は無料招待券を手に入れてのことで、早めに会場入りして比較的良い席をいただくことができた。
そうはいっても、今日ものお目当ては、やっぱり松山冴花さん。先日の「ラ・フォル・ジュルネ2011」では2回のリサイタルを聴き、偶然の出会いからお話しする機会もありサインもいただいたばかり。しかも今日は久しぶりに聴く協奏曲である(この前に聴いたのは2010年2月、読売日本交響楽団の演奏会で、シベリウスのヴァイオリン協奏曲)。もちろん彼女のブラームスのヴァイオリン協奏曲はまだ一度も聴いたことがない。先日の「F.A.E.ソナタのスケルツォ」でのパッション溢れる濃厚な演奏を聴いているだけに、期待が高まる一方だった。
公演に先立ち、東日本大震災に被災され亡くなられた方々への追悼演奏があった。芥川也寸志さん作曲の「絃楽のための三楽章-トリプティーク より第2楽章」。弦5部の合奏だが、非常に美しいアンサンブルを聴かせていただき、心が洗われるようであった。
実際の本公演は、フル・オーケストラがチューニングした後に、改めて指揮の飯守泰次郎さんが颯爽と登場、ブラームスの「大学祝典序曲」が演奏された。新交響楽団は、確かにアマチュアとは思えないほどの弦楽アンサンブルを持っている。管楽器群とのタイミングが若干甘い感じがするが、これは許容範囲内だ。やはり金管が難しいらしく、時折あやしい所があったりもするが、少なくとも私は今日無料で聴いているので、文句など言ったら罰が当たる。在京のプロ・オケでも時たまもっとヒドイ演奏を聴かされることがあることを思えば、十分な実力だといえる。
2曲目は同じブラームスのヴァイオリン協奏曲。松山冴花さんがいつものように黒のお衣装、今日はドレスで登場。演奏前から愛嬌のある笑顔で、オーケストラのメンバーの方からも緊張が抜けていくのがわかる。誰もが好きになってしまう、天性の明るい人柄だ。曲が始まり、シンフォニックな主題提示の後、ヴァイオリンが入ってくるところは、オーケストラに比べて音量が小さめに感じた。あれ?っと思ったときには、もうテンションが上がり、オーケストラの全合奏に対しても、ソロ・ヴァイオリン明瞭に浮き上がらせるパワーと音色で歌い始めていた。
松山さんのヴァイオリンは、協奏曲であっても、その豊潤な音色と大らかなスケール感、どんな時にも絶対に音程をはずさない超絶的な演奏技術が素晴らしい。キレ味鋭く立ち上がる、ffの重音の力強さは、むしろ男性的とも言えるような圧倒的なパワーを感じさせる。音量も大きい。ところが、ほんの短いフレーズの中にも比較的揺れ幅の大きいテンポ・ルバートが交えられているため、一本調子にならず、リズムに乗った演奏の中に、艶やかな音色が生まれる。そのために、オーケストラのヴァイオリン・パートとはまったく違った楽器のように、音が浮き上がってくるのだろう。一方で、第2楽章のように内省的・感傷的な旋律に対しては、繊細で極めて美しく聴かせる演奏だ。よく聴いていると、決して小さな音ではない。かなりの音量で抒情的な旋律を奏で、オーケストラをバックに従えていく。だから主題が明瞭に浮き上がるのだ。それでいて大きい音を感じさせないところが不思議。ひとつひとつの細かなフレーズ毎に、異なるニュアンスを与え、とてもうまく歌わせている…、そのフレージングが繊細に感じさせるものを持っているから、はっきり聞こえる大きな音を出していても、繊細・可憐に聞こえてくるのだろう。また、第3楽章のようにリズム感が良くないと重くなってしまう曲想に対しては、積極的に突き進んで行くことで、曲をダレさせない。この辺も実に上手いと思う。
松山さんの最大の魅力は、その音楽全体を包む大らかなスケール感だ。堂々として雄大で、いわば大陸的。アメリカ育ちの彼女ならではの音楽性だ。だがそれは、決して大雑把なところがあるという意味ではない。大胆に自由に堂々と演奏しているように見えて、実はかなり精密に組み立てているのではないかと思う。実際に、瞬間瞬間の輝かしい音色の魅了されつつも、聞き終わった時の構造の見事さにもうならされる。スケールの大きな演奏、そして細部に至る細やかな構成力、しかも彼女の人柄そのものがはっきりと現れている明るくて伸び伸びした音色…。松山さんは、協奏曲でもやっぱり素晴らしいヴァイオリニストだった。Brava!!
一方、飯守さんのオーケストラ・コントロールも見事だった。各パートに細かく指示を出しながら、松山さんとのアイコンタクトを切らさず、両者の間に立って、鎹(かすがい)の役に徹していたように思えた。揺れ幅の大きな松山さんに対して、オーケストラにもタイミングを合わせるように奮闘していたようだ。協奏曲においては、今日の飯守さんのように職人芸に徹して、曲作りをうまくこなしてくれる指揮者は素晴らしい。ソリストとオーケストラを合わせるのに気を取られすぎて、曲全体の推進力を奪うことになってはどうしようもないが、リズム感の良い飯守さんだけのことはあって、松山さんの魅力を目一杯引き出していたように思う。飯守さんもBravo!!
曲が終わって拍手が鳴り止まない中、松山さんはオーボエの奏者の所まで行って握手していた。満面の笑みを浮かべて。こういうソリストを迎えた時のオーケストラは、本当に演奏しやすいのだろうなァ、とつくづく感じさせ、会場の聴衆も皆が笑顔を見せていた。今日のコンサートで、松山冴花ファンが急増するに違いない(!?)。
後半のドヴォルザークの交響曲第7番は、実はあまり聴いたことがなく、よくわからない部分が多かった。曲をよく知らないので、演奏に付いてだけ触れておこう。
前述のように、新交響楽団は、弦楽のレベルはかなり高い。アンサンブルも正確で緻密だし、音に濁りが少なく(早いパッセージの時、若干ブレが生じて音が濁る)、清涼感があってなかなかすばらしいと思った。オーボエとクラリネットはかなり上手い。対して、フルートとホルンは音量を抑えるのに苦労していたようだ。またホルンとトランペットは、音のアタマ出しが揃わないことがしばしばあっり、音程の不安定さもあった。ティンパニはリズム感が良く、私は好きなタイプ。とはいえ、アマチュアでここまでの水準の演奏ができるなら、言うべきことはない。プロのオーケストラで、今日の新交響楽団より遥かに低いレベルの演奏を何度も聞いたことがあるからだ。次回の演奏会では、チャイコフスキーの交響曲第5番があるというから、とくにホルンの方、頑張ってくださいね。
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2011年5月8日(日)14:00~ 東京文化会館・大ホール A席 1階 3列 4番 2,500円(無料招待)
指 揮: 飯守泰次郎
ヴァイオリン: 松山冴花
管弦楽: 新交響楽団
【曲目】
《追悼演奏》芥川也寸志: 絃楽のための三楽章-トリプティーク より第2楽章
ブラームス: 大学祝典序曲 作品80
ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ドヴォルザーク: 交響曲第7番 ニ短調 作品70
今日はアマチュアの新交響楽団の演奏会を聴いた。新交響楽団は1956年創立のアマチュア・オーケストラで、現在は東京を中心に年4回の演奏会を開いている。アマチュアとはいえ、時に在京のプロ・オーケストラを凌ぐ演奏をきかせることもあり、注目に値する団体である。今日の第213回演奏会は、実は無料招待券を手に入れてのことで、早めに会場入りして比較的良い席をいただくことができた。
そうはいっても、今日ものお目当ては、やっぱり松山冴花さん。先日の「ラ・フォル・ジュルネ2011」では2回のリサイタルを聴き、偶然の出会いからお話しする機会もありサインもいただいたばかり。しかも今日は久しぶりに聴く協奏曲である(この前に聴いたのは2010年2月、読売日本交響楽団の演奏会で、シベリウスのヴァイオリン協奏曲)。もちろん彼女のブラームスのヴァイオリン協奏曲はまだ一度も聴いたことがない。先日の「F.A.E.ソナタのスケルツォ」でのパッション溢れる濃厚な演奏を聴いているだけに、期待が高まる一方だった。
公演に先立ち、東日本大震災に被災され亡くなられた方々への追悼演奏があった。芥川也寸志さん作曲の「絃楽のための三楽章-トリプティーク より第2楽章」。弦5部の合奏だが、非常に美しいアンサンブルを聴かせていただき、心が洗われるようであった。
実際の本公演は、フル・オーケストラがチューニングした後に、改めて指揮の飯守泰次郎さんが颯爽と登場、ブラームスの「大学祝典序曲」が演奏された。新交響楽団は、確かにアマチュアとは思えないほどの弦楽アンサンブルを持っている。管楽器群とのタイミングが若干甘い感じがするが、これは許容範囲内だ。やはり金管が難しいらしく、時折あやしい所があったりもするが、少なくとも私は今日無料で聴いているので、文句など言ったら罰が当たる。在京のプロ・オケでも時たまもっとヒドイ演奏を聴かされることがあることを思えば、十分な実力だといえる。
2曲目は同じブラームスのヴァイオリン協奏曲。松山冴花さんがいつものように黒のお衣装、今日はドレスで登場。演奏前から愛嬌のある笑顔で、オーケストラのメンバーの方からも緊張が抜けていくのがわかる。誰もが好きになってしまう、天性の明るい人柄だ。曲が始まり、シンフォニックな主題提示の後、ヴァイオリンが入ってくるところは、オーケストラに比べて音量が小さめに感じた。あれ?っと思ったときには、もうテンションが上がり、オーケストラの全合奏に対しても、ソロ・ヴァイオリン明瞭に浮き上がらせるパワーと音色で歌い始めていた。
松山さんのヴァイオリンは、協奏曲であっても、その豊潤な音色と大らかなスケール感、どんな時にも絶対に音程をはずさない超絶的な演奏技術が素晴らしい。キレ味鋭く立ち上がる、ffの重音の力強さは、むしろ男性的とも言えるような圧倒的なパワーを感じさせる。音量も大きい。ところが、ほんの短いフレーズの中にも比較的揺れ幅の大きいテンポ・ルバートが交えられているため、一本調子にならず、リズムに乗った演奏の中に、艶やかな音色が生まれる。そのために、オーケストラのヴァイオリン・パートとはまったく違った楽器のように、音が浮き上がってくるのだろう。一方で、第2楽章のように内省的・感傷的な旋律に対しては、繊細で極めて美しく聴かせる演奏だ。よく聴いていると、決して小さな音ではない。かなりの音量で抒情的な旋律を奏で、オーケストラをバックに従えていく。だから主題が明瞭に浮き上がるのだ。それでいて大きい音を感じさせないところが不思議。ひとつひとつの細かなフレーズ毎に、異なるニュアンスを与え、とてもうまく歌わせている…、そのフレージングが繊細に感じさせるものを持っているから、はっきり聞こえる大きな音を出していても、繊細・可憐に聞こえてくるのだろう。また、第3楽章のようにリズム感が良くないと重くなってしまう曲想に対しては、積極的に突き進んで行くことで、曲をダレさせない。この辺も実に上手いと思う。
松山さんの最大の魅力は、その音楽全体を包む大らかなスケール感だ。堂々として雄大で、いわば大陸的。アメリカ育ちの彼女ならではの音楽性だ。だがそれは、決して大雑把なところがあるという意味ではない。大胆に自由に堂々と演奏しているように見えて、実はかなり精密に組み立てているのではないかと思う。実際に、瞬間瞬間の輝かしい音色の魅了されつつも、聞き終わった時の構造の見事さにもうならされる。スケールの大きな演奏、そして細部に至る細やかな構成力、しかも彼女の人柄そのものがはっきりと現れている明るくて伸び伸びした音色…。松山さんは、協奏曲でもやっぱり素晴らしいヴァイオリニストだった。Brava!!
一方、飯守さんのオーケストラ・コントロールも見事だった。各パートに細かく指示を出しながら、松山さんとのアイコンタクトを切らさず、両者の間に立って、鎹(かすがい)の役に徹していたように思えた。揺れ幅の大きな松山さんに対して、オーケストラにもタイミングを合わせるように奮闘していたようだ。協奏曲においては、今日の飯守さんのように職人芸に徹して、曲作りをうまくこなしてくれる指揮者は素晴らしい。ソリストとオーケストラを合わせるのに気を取られすぎて、曲全体の推進力を奪うことになってはどうしようもないが、リズム感の良い飯守さんだけのことはあって、松山さんの魅力を目一杯引き出していたように思う。飯守さんもBravo!!
曲が終わって拍手が鳴り止まない中、松山さんはオーボエの奏者の所まで行って握手していた。満面の笑みを浮かべて。こういうソリストを迎えた時のオーケストラは、本当に演奏しやすいのだろうなァ、とつくづく感じさせ、会場の聴衆も皆が笑顔を見せていた。今日のコンサートで、松山冴花ファンが急増するに違いない(!?)。
後半のドヴォルザークの交響曲第7番は、実はあまり聴いたことがなく、よくわからない部分が多かった。曲をよく知らないので、演奏に付いてだけ触れておこう。
前述のように、新交響楽団は、弦楽のレベルはかなり高い。アンサンブルも正確で緻密だし、音に濁りが少なく(早いパッセージの時、若干ブレが生じて音が濁る)、清涼感があってなかなかすばらしいと思った。オーボエとクラリネットはかなり上手い。対して、フルートとホルンは音量を抑えるのに苦労していたようだ。またホルンとトランペットは、音のアタマ出しが揃わないことがしばしばあっり、音程の不安定さもあった。ティンパニはリズム感が良く、私は好きなタイプ。とはいえ、アマチュアでここまでの水準の演奏ができるなら、言うべきことはない。プロのオーケストラで、今日の新交響楽団より遥かに低いレベルの演奏を何度も聞いたことがあるからだ。次回の演奏会では、チャイコフスキーの交響曲第5番があるというから、とくにホルンの方、頑張ってくださいね。
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