孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  再燃するパプア独立運動  影響力を増すイスラム強硬派

2011-08-07 20:38:56 | 東南アジア

(パプア独立運動の旗をあしらったマスク・ヘッドバンドの若者 “”より By babil.biz  http://www.flickr.com/photos/babil/4094600571/ )

【「運動は大きなものではない」(マルティ外相)】
多くの島々からなるインドネシアにおける分離独立運動と言えば、02年に独立した東ティモール、04年の大津波被害を機に和平交渉が進展したスマトラ島北部のアチェなどがありますが、きょうはインドネシア東端にあたるパプア州(ニューギニア島西部)で独立運動が再燃しているという話題です。

****インドネシア・パプア州で独立運動再燃*****
インドネシア東端のパプア州(ニューギニア島西部)で、分離・独立要求運動が再燃している。
インドネシア紙によると、パプア州の州都ジャヤプラでは2日、数千人がインドネシアからの分離・独立と、現地に配備されている軍の撤収などを要求し、デモを繰り広げた。警察当局は約700人を動員し、厳重な警戒に当たった。

デモは西パプア州を含め7都市に及び、首都ジャカルタでも数百人が分離・独立を住民投票に付すよう叫んだ。独立派は「インドネシアのみならず国際社会の問題だ」と支援を訴えている。
一方、政府は「運動は大きなものではない」(マルティ外相)として、国民と国際社会が過剰反応することを警戒している。

インドネシアでは、東ティモール、スマトラ島北端のアチェ、パプア州の分離・独立運動が火種となってきた。東ティモールは2002年に独立し、アチェの運動は小康状態にある。
インドネシア独立後もオランダ植民地として残ったパプア州は、1960年代にインドネシアへの帰属が決まった。だが、民族・文化的にはパプアニューギニアに近く、独立派組織「自由パプア運動」(OPM)などが活動を続けている。
 
ジャヤプラでは1日、武装集団が軍兵士を襲撃し4人が死亡、7人が負傷した。
パプア州内では先月末、大規模な争乱で21人が死亡。県知事選をめぐる衝突とされ、OPMは襲撃への関与を否定している。【8月4日 産経】
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弓矢とインターネット
国際社会も注目した東ティモールと異なり、現在のところパプア州独立運動に関しては国際的にはあまり関心がもたれてはいません。こうした事態に、弓矢の超ローテク兵器で闘う独立派は、インターネットを通じてインドネシア国軍による人権侵害などを発信することでも前進を目指しているそうです。

***独立派が夢見る西パプアの春****
インドネシア軍の弾圧にネットで対抗  独立に向けて先住民の逆襲が始まる

民衆による抗議行動がアラブ世界を揺るがしていく様子を、1万キロ近く離れた地から注視している人々がいる。太平洋南部に浮かぶニューギニア島の西半分、インドネシア領のパプア州と西パプア州の独立を求める活動家たちだ。
「みんなアラブ世界の革命を見守ってきた」と、24歳の大学生ジェーコブ(治安部隊の報復を恐れて仮名)は言う。ジェーコブはパプア州の州都ジャヤプラ郊外に潜伏する集団と共に、独立を求めるデモを組織している。
「中東とは違い、自分たちの敵は独裁者ではなく、われわれの土地を盗んだ新植民地主義の侵略者だ」とジェーコブは言う。

パプアおよび西パプアの両州(旧イリアンジャヤ州。分離独立派は西パプアと呼ぶ)の領有権を主張するインドネシアに対し、分離独立派は毎週のように抗議デモを行っている。
分離独立派が「独立記念日」とする7月1日には、インドネシアの西パプア統治に抗議する秘密集会がインドネシア各地で聞かれた。40年前のこの日、分離独立派の指導者が「西パプア共和国」の独立を宣言した。69年に独立の是非を問う住民投票が行われたが、パプア系住民の代表約1000人は反対票を投じるよう強制されたという。

45年にインドネシアがオランダから独立した後も西パプアはオランダ領のままだったが、インドネシアの初代大統領スカルノはこの資源豊かな領土を欲しがった。国連での度重なる訴えが不発に終わると、インドネシア軍を西パプアに進攻させた。
欧米は政治的決着を模索したが、インドネシア軍は広域作戦を開始して反対勢力を弾圧。無数の難民が生まれ、ジャングルの奥地には残忍でしぶとい抵抗勢力が結集し武装した。小競り合いはいまだに続き、人権擁護団体によると民間人の犠牲者は40万人を超える。

僻蒼とした森にある急ごしらえの訓練キャンプで、独立派組織「自由パプア運動(OPM)」の軍事部門のリチャード・ヨウェニ司令官は次のように本誌に語った。「祖国の将来について投票する機会を与えられなかった。祖国を奪われた」
頭に羽根飾りを着け、首からサルの手をぶら下げたゲリラたちを従えて、ヨウェニは自分たちの戦いの正当性を主張した。重装備のインドネシア軍に対し、ゲリラたちは古い機関銃を持っている者が数人いる以外はやりや弓矢を武器にしている。

人権侵害をネットで糾弾
インドネシア政府がパプアに固執するのはもっぱら、この地域が資源豊富で、外国による開発の可能性が大いにあるためだ。世界有数の銅・金の産出量を誇るグラスベルグ鉱山は米鉱業大手フリーポート・マクモラン・カッパー・アンド・ゴールドが所有。こうした外資は多くのパプア人にとって以前から邪魔者でしかない。環境を破壊し、インドネシア軍に資金提供もしているとみられている。

独立前の束ティモールでのインドネシア軍による人権侵害に対しては、アメリカは制裁措置を取った。しかし現オバマ政権は、インドネシア政府のテロ対策に報いるべく、再び軍に資金と訓練を提供している。
「兵士によるパプア系住民への人権侵害は多いが知られていない」と、人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのインドネシア担当コンサルタント、アンドレアス・ハルソノは言う。しかし欧米にはほとんど忘れられているこの紛争が、従来にない形で表面化しつつある。ハイテク通の学生や活動家がインターネット上で人権侵害の実態を発信し始めているのだ。

抵抗勢力は司令官や亡命政治家の下で結束を強め、活動家は膠着状態が続けばさらに攻勢を強めるだけだと語る。抵抗勢力や活動家はインドネシア政府と独立派指導者の対話を求めているが、それには1つ障害がある。抵抗勢力の指導者が国際調停を望んでいるのに対し、インドネシア政府は拒否していることだ。
【8月10日号 Newsweek日本版 ウィリアム・ロイド・ジョージ】
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インドネシア国軍の人権侵害については東ティモールなどで“実績”がありますので、パプアでも同様のことが行われていることは想像に難くないところです。

なお、01年には独立派組織・パプア評議会のテイス・エルアイ議長(64)が殺害される事件がありました。
“謎に包まれたままのテイス議長の殺害について、パプア人のほとんどが国軍または警察の犯行との見方をしているが、ヘンドロプリヨノ国家情報庁長官は、「パプアの独立派組織は、さまざまな分派があり、反暴力を訴える穏健派のテイス氏と対立する強硬派が存在する。テイス氏が誘拐されたと連絡した運転手が行方不明のままだが、彼が強硬派と結託していた可能性もある」との見方を示している。”【01年11月19日 じゃかるた新聞】とのことです。

イスラム強硬派と治安機関との癒着も
インドネシアにおける、もうひとつの人権問題に関する話題。
インドネシアにおいて最近、イスラム保守強硬派の影響が増大していることは、10年9月20日ブログ「インドネシア  強まるイスラム強硬派の活動 イスラム的規制強化の流れ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100920)で取り上げました。

その流れのなかで、異端とされる少数派イスラム系教団「アフマディア」信者に対する暴行事件が増加していることは、11年2月11日ブログ「インドネシア  キリスト教会放火、イスラム「異端」への暴力 高まる“不寛容”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110211)で取り上げています。

****インドネシア:虐殺事件の量刑「軽すぎる」と国際的非難****
インドネシア・ジャワ島西部で今年2月、イスラム強硬派に率いられた地元住民が少数派で「異端」扱いされる教団「アフマディア」の信者を虐殺した事件の判決について、国際社会から実行犯に対する量刑が「軽すぎる」との非難が高まっている。インドネシアでは近年、宗教的少数派に対する暴力事件が急増。ユドヨノ政権は「政教分離」や「司法の独立」を理由に事実上、事態を放置しており、国際人権団体などは宗教的少数派の保護など対応を求めている。

バンテン州地裁は先月28日、暴行罪などで起訴された強硬派組織「イスラム防衛戦線」(FPI)の地元幹部ら計12人に対し、3~6カ月の禁錮刑を言い渡した。一方、検察側はアフマディア信者の中心的存在の男性も訴追。双方の緊張の高まりから警察が事前に退避勧告を出していたにもかかわらず無視したとして、禁錮9カ月を求刑している。

事件は今年2月に発生。ジャカルタ西方のパンデグランで住民ら1000人以上がアフマディアの信者約20人が集まる民家を襲撃、3人を殺害した。隠し撮りされたビデオ映像には、住民らが「アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)」と叫びながら信者たちを棒や石で虐殺する様子が記録されている。

判決について在ジャカルタ米大使館は「異常に軽い判決」と批判。欧州連合(EU)も「少数派保護のための適切な法的処置」を政権側に求めた。国際人権団体は「判決は少数派を攻撃しても厳罰を科さないという『恐ろしいメッセージ』だ」と指摘している。

米国などは2月の事件発生後、政権側に信教の自由を法的に保護するよう求め、ユドヨノ大統領も対応する姿勢を示した。しかし、今回の判決についてマルティ外相は「行政府と司法機関の間には明確な線引きがある」と述べるにとどまった。量刑については言及せず、イスラム強硬派に対する弱腰姿勢を改めて露呈した形だ。

背景には、インドネシアにおけるイスラム強硬派の勢力拡大がある。警察など治安機関との癒着も指摘され、連立与党内にイスラム政党を抱えるユドヨノ政権は、この強硬派を抑圧せず、むしろ取り込むことで治安維持を図ろうとしている。

アフマディアは、最後の預言者がムハンマドではなく自派教祖とする教義から異端視されてきた。世界最多の約2億人のイスラム教徒を抱えるインドネシアは政教分離を国是とし、宗教的に比較的寛容とされてきた。【8月6日 毎日】
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棒や石で虐殺した側が“3~6カ月の禁錮刑”で、襲われた側が、退避勧告に従わなかったとして“禁錮9カ月”というのは、いかにも不公正な判決です。

ASEAN諸国に関する民主化の度合いを見ると、“米国の民間人権団体「フリーダムハウス」が1月に発表した報告書「世界の自由」によると、各国の政治的自由度はミャンマー、ベトナム、ラオスが最悪の7。カンボジア、ブルネイが6、シンガポール、タイ5、マレーシア4、フィリピン3、インドネシア2。
民主化を先導しているともいえるのが、1998年に、約30年間のスハルト政権を終わらせたインドネシア。ユドヨノ政権下で地方分権などが進んでいる。”【4月7日 産経】とのことですが、そのインドネシアにして、昨今の宗教的不寛容の傾向は上記記事のような状況です。

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