孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  路線対立をはらんだ薄熙来・重慶事件 江沢民派重鎮・周永康氏周辺も調査

2013-09-01 23:21:28 | 中国

(公判中の薄熙来被告 “flickr”より By 禁书 网 http://www.flickr.com/photos/93880766@N05/9587558184/in/photolist-fBdK2j-fzZTYU-fC7SVH-fCy67z-fCBmkN-fBnpsE-fz1bdo-fEJ8yU-eLPg89-fAw257-fA37HE-fn5k2Q-fAeJCE-fBU7Gr-fEryux-fzST37-fAsDjH-fmmLP9-fCE5AE-fFFaGc-fAGWKA-fCc8wd-fCnbRd-fB2wkT-fz8FAg-fF9tTb-fzCsPd-fDe6Zp-fzCywc-fBab6p-fzCnPU-fdrhUf-fCE8wA-fzCy2n-fgdhcg-fAUtdA-fzMKEX-fBWPZX-fAMSR3-fBufQv-fnmbPS-fCc8Jy-fzP2xL-fBgQaS-fBuezH-e9Duzm-fAEczz-eeKr3s-fEzvjN-fDkgbE-fBdK6w)

【「薄元書記は庶民のために仕事をした」】
中国共産党の最高指導部入りを有力視されながら失脚し、収賄や横領などの罪に問われた元重慶市党委員会書記の薄熙来被告(64)の初公判が先月22日から26日の4日間にわたって行われました。

****薄熙来元書記を巡る事件****
重慶市の王立軍副市長が2012年2月に成都の米総領事館に駆け込む事件が発生。これを受け、同年3月、薄熙来・同市党委員会書記が解任され、失脚。

その後、薄元書記の妻、谷開来氏も英国人殺害の容疑で逮捕され、同年8月、殺人罪で執行猶予付きの死刑判決を受けた。薄元書記は同年9月、腐敗や職権乱用を重ねていたとして党籍を剥奪(はくだつ)、逮捕された。
今年7月には収賄などの罪で起訴されていた。【8月23日 朝日】
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薄熙来被告は報道されてように、すべて罪について否認し、国家・党と徹底的に争う姿勢を見せています。
薄元書記に対する起訴内容は以下のとおりです。

収賄罪(1)《起訴内容》02~05年、広東省でのビル建築などに絡み、計110万元(約1760万円)相当の賄賂を受けた

収賄罪(2)《起訴内容》00~12年、石油化学事業の許認可などをめぐり計2068万元(約3億3千万円)相当の賄賂を受けた

横領罪《起訴内容》02年、大連市に支払われた工事資金500万元(約8千万円)を着服した

職権乱用罪《起訴内容》12年、職権を乱用し、妻が殺人罪に問われた英国人殺害事件の捜査を妨げ、重慶市副市長の米総領事館駆け込み事件で虚偽の発表をした。【同上】

薄熙来被告の公判は、秘密主義の中国にあって、法廷でのやり取りのほとんどがインターネットで公開されるという異例のものでした。
中国のこの手の政治絡みの裁判は、司法の判断ではなく、党によってすでに結果は決まっていると言われていますが、今回の異例の公開は、薄被告の悪質さを公にして、薄被告を失脚に追い込んだ党の決定の正当性をアピールするものとされています。

薄熙来被告の事件は単なるスキャンダルではなく、胡錦濤前国家主席、習近平現国家主席、さらには江沢民元国家主席を中核とする政治勢力間の権力闘争を背景にして、その処分が決められています。(具体的な各勢力の争い、薄被告との関係については、外部からはよくわかりませんが)

更に、単なる権力闘争でもなく、改革開放を進めてきた中国共産党に対する、薄煕来がリーダーであった国家統制重視のニューレフトからの批判という路線問題を巡る対立でもあります。

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・・・・薄煕来はその並外れたカリスマ性と政治手腕を駆使して現状を批判し、国家の役割拡大を訴えてきた。
重慶市共産党委員会のトップに君臨した4年半の間に、政治的・財政的資源を動員する巧みな手腕を発揮。
犯罪組織の撲滅という名目を掲げて、自分に従わない官僚や起業家たちをつぶし、統制的な手法で同市の経済を立て直してみせた。
その過程では建国の父・毛沢東へのノスタルジアを巧妙にかき立て、市職員に革命歌を歌わせたりもした。左派すなわち国家統制派に属する薄は、天安門事件後に小平が確立した路線のうち、「改革開放」の側面に批判をぶつけてきた。・・・・【4月25日号 Newsweek日本版】
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実際、公判が行われている法廷の外では、毛沢東の肖像を掲げて薄被告を支持する人々の行動も見られました

****路線対立を刺激****
22日、薄元書記に声援を送ろうと済南市中級人民法院の近くに集まった人だかりから、毛沢東の肖像が掲げられた。
毛沢東は貧富の格差の少なかった改革開放以前の時代のシンボルであり、支持者たちは薄元書記がその継承者だと考えるからだ。

北京から訪れた会社経営の男性(41)は「重慶で実績をあげた薄氏の方が(現在の指導部よりも)指導者にふさわしい」と訴えた。

薄元書記は重慶市で、農村部の住民や低所得層を優遇する政策を行った。庶民の人気は今も根強い。
市価の6割程度の家賃で入居できる市の公共住宅に暮らす機械工の王魚さん(22)は「薄元書記は庶民のために仕事をした。汚職をしているのはほかの官僚だって一緒じゃないか」。

こうした思いは、保守派の知識人や党内の一部勢力にも残る。中央民族大学教員の張宏良氏は、薄元書記の失脚は「彼の政治路線が(改革開放を支持する)党内の既得権益集団を脅かしたからだ」と言い切る。

党指導部が恐れるのは、薄元書記の裁判がこうした路線対立を刺激し、再び党内の亀裂をさらけ出すことだ。秋には党中央委員会第3回全体会議(3中全会)も控える。【8月23日 朝日】
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党としては薄被告の公判を、党の決定の正当性をアピールする政治ショーとしようとしたものと思われます。

公判前は、薄被告がおとなしく罪状をみとめるものと思われていましたが、上記のように徹底的に争う姿勢をみせ、検察側主張に激しく反論したことは、党にとってはある程度は想定内のこと、あるいは演出と見る向き、党の思惑とは異なる想定外の展開となったと見る向き、両方があります。

実際のところどうなのか・・・それは外部の人間にはわかりません。

今後、中国社会が混乱に陥った際に、民衆の間で「薄煕来待望論」が一気に高まることも
下記【産経】記事は、想定外の展開という立場で、薄被告は徹底抗戦することで、“今後、中国社会が混乱に陥った際に、民衆の間で「薄煕来待望論」が一気に高まることもあり得る。薄被告はそのときが来るのを、刑務所の中でじっと待つことにした”と論じています。

****刑務所で“待望論”待つ 薄被告、無期懲役の公算****
中国で収賄と横領、職権乱用の罪で起訴された重慶市の元トップの薄煕来被告(64)に対する公判が、山東省済南市の裁判所で22日から26日まで行われた。
薄被告は起訴された3つの罪状をすべて否認し、検察側と全面対決の姿勢を示し、無罪を主張することで政治迫害を受けた悲劇の英雄を演じてみせた。

今回の裁判を受けて、保守派や貧困層の間で根強かった薄被告支持の声がさらに強まったと指摘される。共産党元幹部は「有罪になることは事前に決まっているが、堂々と戦ったことで自身のイメージ回復に成功した」との感想を漏らした。

中国当局は、法廷でのやり取りのほとんどをインターネットで公開した。5日間の裁判内容を文字にすると15万4000字に上り、単行本一冊の分量にあたる。そのうち、約半分が薄被告と弁護人の無罪主張である。裁判で、検察側の証人が突然、薄被告に有利な証言をし始めるなどのハプニングもあった。

裁判を取材した米国人記者は「薄被告の主張の方が検察側より説得力あった。アメリカで裁かれるなら無罪になる可能性が高い」と話した。

傍聴者がメモを取ることすら禁止される中国の裁判で、内容がすべて公開されるのは極めて異例だ。1949年の新中国建国後、同じ対応が取られた例は一度しかない。80年に行われた毛沢東夫人、江青女史らを裁く4人組裁判である。

共産党史に詳しい研究者によれば、4人組裁判も今回の薄被告裁判と同じく、党内の路線闘争が背景にあった。江青女史も薄被告も平等重視の毛沢東路線を推進しようとしたが、競争重視の●(=登におおざと)小平路線に敗れたことも共通している。

毛沢東路線は、いまでも党内外に大勢の支持者がいる。今回の法廷の情報公開は、「薄被告が汚職官僚であることを国民に見せることが目的」(元党幹部)とされるが、検察側が十分な証拠を固められなかったうえ、薄被告の予想以上の“健闘”により、その目的は達成できなかったようだ。

三権分立が確立していない中国では、司法は共産党の指導下にあり、薄氏のような大物政治家への量刑は、裁判長ではなく、共産党の政治局会議が決めるといわれている。

公開された共産党内の資料や関係者の回顧録などによれば、80年の4人組裁判の際、政治局で量刑について話し合われ、死刑を主張する意見が多かったが、保守派の重鎮、陳雲による「党内闘争で人を殺してはいけない」との鶴の一声で、江青女史ら被告人は、実質的な無期懲役にあたる執行猶予付きの死刑判決となった。

薄被告の判決は9月中に下されるとみられる。伝統を大事にする中国共産党はいまでも、「党内闘争で人を殺さない」ことを継承している。
今回の裁判で薄被告が素直に罪を認めれば、量刑は若干軽くなり、病気療養の名目で数年後に出所できる可能性もあった。しかし、罪状を否認したことで、死刑判決を受けることはなくても、死ぬまで投獄される可能性が高い。

初公判の前に、複数の香港紙は、懲役15年から無期懲役の間と刑期を推測した。薄氏が無罪主張したため、当局もメンツを潰され、江青女史らと同じく執行猶予付き死刑の可能性が高まったとの見方が出ている。

裁判期間中、全国各地から薄被告の支持者が大勢、済南に駆けつけ、毛沢東の肖像画を掲げるなどして裁判に抗議した。インターネット上にも、「証拠不十分だ」「われわれの薄書記を返せ」といった薄被告を支持する書き込みが相次ぎ、すぐに当局に削除される事態が繰り返された。

最終弁論で薄被告は改めて無罪を主張し、自身が質素な生活を送り、貧しい庶民のために必死に仕事をしてきたことを強調した。
この発言は、自身の支持者に向けられたメッセージだと指摘された。当局に屈することなく、汚職官僚であることを否定することで保守派の精神的な指導者としての地位を維持しようとしたとみられる。

薄氏は今後、政治家を収容する北京の秦城刑務所に送られる可能性が高い。貧富の格差などに不満を持つ民衆がますます増えるなか、今後、中国社会が混乱に陥った際に、民衆の間で「薄煕来待望論」が一気に高まることもあり得る。薄被告はそのときが来るのを、刑務所の中でじっと待つことにした。【8月31日 産経】
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ただ、薄被告が毛沢東路線・ニューレフトとして党の改革開放路線と対立している・・・とは言いつつも、改革開放路線のもたらした腐敗・経済格差については、習近平・李克強指導部も問題意識を共通にしており、その対策も薄被告と類似しています。

習近平主席は就任以来、腐敗撲滅を最優先に掲げ、公費の節約を訴えています。
経済担当の李克強首相は、「上海自由貿易試験区」などで国内外の投資を呼び込み成長を維持しながら、スラム街再開発、交通インフラの整備などを展開しています。【9月3日号 Newsweek日本版より】

虎もハエも一緒にたたけるか?】
将来、薄被告の復権があるかどうかは別にして、薄被告の扱いはすでに党内で決定済みでしょうが、中国ではもうひとつの大物政治家絡みの事件が進行中です。

****江派大物、汚職で調査か=前最高指導部の周永康氏―中****
香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは30日、消息筋の話として、中国共産党指導部がこのほど、江沢民元国家主席派の大物で前党中央政法委員会書記・政治局常務委員だった周永康氏の汚職疑惑について調査を開始することで合意したと伝えた。

実際に調査が行われれば、文化大革命(1966―76年)の終結後、最高指導部の一員である政治局常務委員級の要人が汚職容疑で調べられる初のケースとなる。同紙は、収賄罪などに問われた薄熙来被告(元重慶市党委書記・政治局員)の公判よりも大きな「政治的衝撃」が生じるだろうとの見方を示した。【8月30日 時事】 
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“周氏が務めていた政治局常務委員は党最高指導部の一員にあたり、薄被告はそれよりも1ランク下の政治局員だった。同紙によると、現役および退任後を含めて政治局常務委員が経済犯罪で調査を受ければ、約40年前に終結した文化大革命以降で初のケースとなる。”【8月30日 時事】
江沢民派の重鎮でもある周氏は、失脚した元重慶市党委書記、薄熙来被告との緊密な関係も指摘されており、政治的な立場が危うくなっていた薄被告の手腕を称賛するなどしていたことも知られています。

中国当局は今週、周氏がトップを務めていた中国石油天然ガス集団(CNPC)の幹部4人を調査していると発表していました。

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・・・同紙(香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト)は指導部の動向に詳しい複数の関係筋の話として、調査開始決定の背景には、腐敗問題の規模や周氏一家の蓄財に対する党内の怒りが高まっていることがあるとしている。

同紙によると、習近平国家主席は同調査を担当する当局者らに対し、「真相を解明するように」と命じたという。

温家宝・前首相やその一家を含め、退任したその他の政治局常務委員に対する調査を求める声が高まりかねないとして、多くの関係筋や政治アナリストらは、周氏が調査を受けることはないのではないかとの認識を示していた。

・・・・周氏や同氏の家族が、同氏の息子である周斌氏らが進めた油田や不動産取引を通じて利益を得たかどうかが調査される見通しだという。
同紙によると、関係筋は、周氏が起訴されたり、党内部の規律検査を受けるかどうか話すのは時期尚早だ、と述べた。(後略)【8月30日 ロイター】
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もともと薄被告と周氏は、習近平追い落としを画策したという話があるようで【2月25日 大紀元日本】(「重慶事件にみる江沢民派の苦境」http://www.epochtimes.jp/jp/2012/02/print/prt_d32538.html)、その線でいけば、習近平主席は先ず薄被告を片づけ、本筋の周氏に迫った・・・という話なのかもしれません。
そのあたりの権力闘争の話になると、よくわかりません。

「虎もハエも一緒にたたく」として地位の高低を問わずに腐敗政治家・官僚を取り締まる姿勢を示している習近平国家主席ですが、江沢民派の重鎮で前政治局常務委員の周氏にどこまで迫ることができるでしょうか?
あるいは、今度は周氏がトカゲのしっぽとなるのでしょうか?

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