孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  硬直的な議会政治を更に困難にする与党内強硬派「フリーダム・コーカス」

2017-06-03 23:05:00 | アメリカ

(【http://rief-jp.org/blog/65665】“影の支配者”とも呼ばれる、共和党の最大スポンサーでもあるコーク兄弟 その資産は10~11兆円とか)

【「政府機関閉庁」の次は「デフォルト」】
このところのアメリカ政治の“恒例行事”の感がある、予算案をめぐる「政府機関閉庁」と政府借入上限をめぐる「デフォルト」を背にしての騒動。

ともに、「大きな政府」「小さな政府」という政府の役割・財政支出の範囲をめぐる民主・共和両党の基本的考え方の違いが根底にありますが、硬直化した妥協できない議会政治の在り方が議会そのもの・既存政治全般に対する国民の不信感を助長する形で、既存政治を否定するトランプ大統領の誕生などの背景ともなっています。

予算案に関しては、トランプ大統領が公約するメキシコ国境の「壁」建設費用や、トランプ大統領が廃止・改革を目指すオバマケア関連費用の問題などがあって、民主・共和両党の交渉は難航することが予想されましたが、なんとか「政府機関閉庁」を回避するギリギリでの妥協が成立しました。

****米議会、今会計年度末までの予算案で合意=議会筋****
米議会は2017会計年度末(9月末)までの予算案について合意に達した。議会側近が明らかにした。

政府機関の閉鎖を回避するためには5日までに下院と上院で可決する必要がある。

まず下院が今週早くに採決を行い、その後上院に送られる可能性が高い。同案が両院を通過しトランプ大統領が署名すれば、1月20日の大統領就任以来、初めて与野党が合意した重要法案が議会を通過することになる。

議会筋は28日、予算案には今年の国防費の約150億ドル増額が盛り込まれる可能性があると述べた。ただ週末の合意内容の詳細は現時点では明らかになっていない。

民主党議員は、女性向け医療機関「プランド・ペアレントフッド(家族計画連盟)」の支援確保やプエルトリコ支援に向けたメディケイド(低所得者向け医療保険)増額を求めていた。

米ワシントンポスト紙はこれより先、合意案には国防費と国境沿いの治安確保に向けた予算の増額が含まれる見通しで、議会は今週早くに採決を行う見通しだと報じた。

議会は28日、5月5日までの政府資金を手当てし、予算協議の期限を先延ばしする法案を可決しており、週末の政府機関の閉鎖は回避されていた。【5月1日 ロイター】
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“予算案は、トランプ氏が意欲を示していたメキシコ国境の「壁」建設費は、移民に支持層が多い野党・民主党の反発を考慮し、計上を見送った。トランプ氏や与党・共和党が求めていた国防費や国境警備の費用を増額する。民主党が求める医療保険制度「オバマケア」の関連費用も含まれる。”【5月2日 読売】ということで、今回は一応の“妥協”が図られましたが、本格的なトランプ政権の予算となる10月以降の来年度の予算案では、壁の建設費などで協議が紛糾するおそれがあると懸念されています。

与党の多数によって政府案がすんなり通ってしまう議会も問題ではありますが、どちらも妥協せず“チキンレース”状態の議会も困ります。

「政府機関閉庁」の次は「デフォルト」です。

****米議会で債務上限引き上げをめぐる攻防再び****
<アメリカにデフォルトの危機が再来。すぐにも債務上限を引き上げなければ資金調達ができなくなるが、保守強硬派は財政支出削減が条件と譲らない>

トランプ米政権は、大きな問題を抱えている。悪くすると、世界を巻き込む危機になりかねない。連邦政府の資金調達が予定通りに進まず、すぐにも新たな借り入れをしなければならないかもしれないのだが、米議会が連邦政府の債務上限を引き上げてくれない限り、借り入れは増やせない。そうなると、米政府は国債の元利金などが支払えなくなるデフォルト(債務不履行)も免れない。

アメリカが突然デフォルトに陥れば、世界の金融システムが混乱する。米ドルは、世界で最も安全な資産され、世界各国が外貨準備として保有する。万一ドルへの信頼優位が揺らげば、世界的な金融危機の引き金を引きかねない。招きかねない。

デフォルトはおそらくないとしても、依然として深刻で極めて高くつきそうな問題は存在する。

この問題は過去にも何度か浮上した。オバマ政権下の2011年には、共和党が歳出削減を条件に債務上限の引き上げに反対した。民主党との対立が続くなか、市場では米国債に対する絶対的な信用が揺らぎ始めた。

夏に土壇場で合意に達し、デフォルトは回避されたが、格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)が米国債の格付けを引き下げた結果、米政府の借り入れコストは上昇した。

保守強硬派はデフォルトに危機感なし
そして今年、スティーブン・ムニューシン米財務長官は議会に対し、歳入が思うように上がっていないので、8月に議会が休会する前に「付帯条件なし」で債務上限を引き上げるよう求めた。

だが、共和党の保守強硬派下院議員で構成する議員連盟「フリーダム・コーカス」は、歳出削減とセットでなければ債務上限の引き上げには応じないと今から噛みついている。ムニューシンが、デフォルト寸前だった2011年の悪夢の再来を懸念するのは当然だ。

議会の駆け引きを難航させそうなのが、米行政管理予算局(OMB)のミック・マルバニー局長だ。共和党下院議員でフリーダム・コーカスの共同創設者でもあるマルバニーは、財政保守派として知られ、歳出削減なしでは債務上限引き上げに応じたくない立場だ。

債務上限が引き上げられなかったときの混乱に対する危機感が、ムニューシンほど強くないのだ。「米国債がデフォルトになれば、世界経済に甚大な被害をもたらす」とマルバニーは1月に上院議員に向けた書簡で述べた。「だからといって債務上限を引き上げれば絶対に事態を打開できるとも思わない」

理論的には、マルバニーの見解が正しいのかもしれない。

財務省はたとえ債務上限が引き上げられなくても、会計上の操作で当面の間はデフォルトを回避できる。ただしそれは単なる時間稼ぎで、米国債の急落を止めることはできない。

マルバニーは先週の下院予算委員会で、債務上限の引き上げをどのくらい引き上げたいのか、どんな譲歩をするのかについて、具体策を示すようトランプ政権に求めた。一刻も早い債務上限引き上げを求めるムニューシンとは全く対照的だ。

しかも議会は今、米大統領選へのロシアの関与やトランプ陣営とロシアの共謀をめぐる疑惑で大忙し。今後の議会運営がますます苦しくなるのは必至だ。

大統領就任前のトランプが、多くの事業で資金繰りができたのは借金のおかげだ、借金が大好きだと豪語していた。実際に自分が助かるためなら、連邦破産法11条の適用を申請して債権者に損をさせるのも厭わなかった。

不動産王だったトランプは、過去に4度も破産した。昨年の大統領選中も、財政難のアメリカを救うため、米国債の債権者に借金棒引きを受け入れてもらうと言ったこともある(トランプはすぐに発言を撤回した)。

だが米投資銀行ゴールドマン・サックス出身のムニューシンは、それがどれほど危うい話かを理解している。議会もその危機感を共有できるかどうか、今後も目が離せない。【6月1日 Newsweek】
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いかに“過去に4度も破産した”トランプ大統領とは言え、世界最大国家アメリカのデフォルトとなるとその影響は計り知れないものがあり、トランプ大統領も何らかの対応をするのでしょう。(そうでなくては困ります)

米国政治を振り回す「フリーダム・コーカス」】
債務上限引き上げには、「小さいな政府」を目指す与党・共和党の方に強い抵抗がありますが、大統領と与党の関係ですから通常なら比較的話がつきやすいところです。

大統領も上下両院多数派も共和党ということで、大統領と議会多数派が異なり対立する「分断政治」状況が解消されるたのは第1期オバマ政権前半2年間の第111議会(2009年1月~2011年1月)以来、4会期ぶりです。

しかし、与党・共和党内にあっても、一部議員はトランプ大統領との間に溝があり、大統領もロシア疑惑などで手いっぱいの感もあります。

それに加えて、事態を難しくしそうなのが、上記記事にもある与党・共和党内の財政支出削減など小さな政府を強く求める議員連盟「フリーダム・コーカス」の存在です。

****米国政治を振り回すフリーダム・コーカス:その正体と議会展望****
• フリーダム・コーカスとは
第114米国議会が開幕した2015年1月、フリーダム・コーカスは下院共和党の保守強硬派議員9人によって発足しました。

同コーカスメンバーの多くがこれまで保守強硬派のティーパーティー(茶会党)運動に関わり、財政支出削減など小さな政府を標ぼうし、共和党の中で最も保守的な政策を追求しています。

同コーカスは、政策実現のためには政府閉鎖も辞さない強硬な姿勢から「政府閉鎖コーカス」と呼ばれることもあります。

最近では財政問題以外に、移民政策、妊娠中絶問題などさまざまな政策において影響力を発揮しています。

他の議員連盟と違い、同コーカスは9人の創設者以外のメンバーは正式に公表せず、招待された議員だけに参加資格が与えられ、ウェブサイトも存在せず、会合も一般公開されていないことから、その全容は不可解と言われています。

メディアでは同コーカスメンバーは約40人と報道されていますが、米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターは2015年10月末時点で36人がメンバーであることを確認しています。

茶会党が躍進した2010年中間選挙以降に当選した議員が同コーカスの約7割を占め、議員在職期間が他の共和党下院議員と比べて短いのが特徴です。(中略)

• 小規模コーカスが、なぜ多大なる影響力を保持しているのか
共和党下院議員247人のうちのわずか約15%を占めるフリーダム・コーカスが影響力を持っている背景には、メンバーの8割が合意した議案については表決行動の拘束をコーカス内で徹底していることが挙げられます。

日本では各政党によって党議拘束がかけられることが多いのですが、米国ではそういうことはなく、議案によって民主党議員と共和党議員が各自の意思で投票し、それによって党から除名されることもありません。

例えば、共和党出身の下院議長の意に反し、共和党下院議員247人のうち36人のフリーダム・コーカスがある議案で反対に回った場合、共和党の実質の議席数は211議席となり、議案可決に必要とされる全議席数435の過半数(218票)を下回ります。

従来は熟練議員から構成される共和党指導部によって議論が方向付けられていたところを、議員在職期間が短い同コーカスの団結力によって指導部のリーダーシップがとれない事態に陥ります。

ベイナー前議長が辞任表明後、同コーカスは次期下院議長候補に対して21項目の要望を突きつけました。

マッカーシー院内総務が議長立候補辞退の後、次期議長候補と注目されたライアン議員は、立候補を決断する前に同コーカスと協議し、一部要望に応じることに合意したと報道されています。

多数派である共和党下院議員の過半数が反対する法案は、たとえ民主党下院議員の賛成票を合わせて可決できたとしても議長は下院本会議で採決にかけない慣例のハスタート・ルールを尊重することにライアン議員は合意したと報道されています。(中略)

• フリーダム・コーカスが存続する背景
フリーダム・コーカスが今後も米国政治で影響力を保持することが想定される背景には、社会の分極化と選挙制度が挙げられます。

米国社会の貧富の格差は1980年代以降、拡大傾向にあることが分極化の一因です。また、ニュース番組の24時間放送など自らの思想に合ったメディア報道の選択が可能となっていることも影響していると思われます。

米国政治アナリストのチャーリー・クック氏は、社会全体で無党派層が拡大する中、民主党はよりリベラル派で結束し、共和党はより保守派で結束し、各党の多数派が似通った考えの人々に偏ってきている傾向を指摘しています。

同氏によると、多くの議員はより政治的に単一化した有権者を代表していることから無党派層を知らず、同層の考えを自らの思想に取り入れていないとのことです。(中略)

さらには、選挙区割り制度(ゲリーマンダリング)によって、一部の選挙区で共和党支持者あるいは民主党支持者の人数が極端に偏っていることも挙げられます。このような選挙区では当選した下院議員が少数派の意見に耳を貸さず、多数派が支持する強硬な政策を追求する傾向もみられます。

政治経済などの統計分析に定評があるウェブサイトのファイブ・サーティエイトの集計が、フリーダム・コーカスメンバーの出身選挙区がより共和党支持者が多い点を顕著に示しています。(中略)

•ライアン新議長で下院は変わるか
(中略)ライアン新議長への置き土産として、ベイナー前議長は退任する前日、これまでフリーダム・コーカスと常に対立してきた連邦債務上限引き上げと2年間の予算案を下院で可決しました。

ベイナー前議長のおかげで、ライアン新議長は政府閉鎖をもたらす連邦債務上限問題を2017年3月まで心配しないでよい見通しです。

しかし、ベイナー前議長は可決するために民主党議員の賛成票の協力を得ており、ハスタート・ルールを遵守していません(下院:賛成266票「うち民主党187票、共和党79票」、反対票167票「全て共和党」)。

議長就任後、初めてのテレビインタビューで、ライアン新議長は「ルールには常に例外があり、状況によっては全てのオプションを検討する必要もある。しかし、今後、特に意見が分かれる案件については(下院共和党の)総意に基づいて党を運営することが重要」と述べ、ハスタート・ルールを基本的に尊重する方針を示唆しています(フォックス・ニュース、2015年11月1日放送)。

米国社会および議会の分極化の進行など構造的な問題が根底にある中、いずれ予算問題など下院共和党内で大きく意見が分かれる苦境にライアン新議長は直面することが予想されます。

その際、ライアン新議長は国を政治危機に陥れるか、あるいはフリーダム・コーカスとのハスタート・ルール尊重の約束を破って同コーカスと対立するか、どちらかを選択する必要性に迫られることでしょう。【2015年11月25日  渡辺 亮司氏 住友商事グローバルリサーチ】
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フリーダム・コーカスは、減税及び財政規律を重視しています。この点において反オバマ色の強い保守系の市民運動である「ティーパーティー(茶会)」と類似しています。次の税制改革でフリーダム・コーカスはトランプ大統領のインフラ投資に反対し、公約実現に対する阻害要因になる可能性が高いと言えます。
 

ピュー・リサーチ・センターの調査によりますと、ラウル・ラブラドア下院議員(共和党・アイダホ州第1選挙区)はヒスパニック系ですが、フリーダム・コーカスの他のメンバーは圧倒的に白人男性であり文化的多様性に欠けています。選挙区は南部に偏っているという特徴があります。【4月10日 海野素央氏 「トランプの天敵、フリーダム・コーカスの正体」 WEDGE】
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偏った選挙区から選出された少数派意見に耳を貸さない傾向が強い強硬派集団でもある「フリーダム・コーカス」は党議拘束的な集団行動をとること、共和党内の多数意見を重視して民主党議員賛成票をあてにしない「ハスタート・ルール」に関する合意がライアン下院議長との間にあること、現状では民主党の協力はほとんど期待できないこと・・・・を踏まえると、債務上限引き上げではトランプ大統領はこの「フリーダム・コーカス」対策が重要な“取引”となります。

ただ、その“取引”内容は、民主党側には受け入れがたいものになるでしょうから、民主・共和の分断、トランプ支持派と批判層の分断は、一層先鋭化することも想定されます。

なお、「フリーダム・コーカス」が“手ぬるい”として反対していたかバマケア改廃法案に関しては、「フリーダム・コーカス」は4月末に支持することを表明し、5月4日に下院を通過しています。どういう“取引”がトランプ大統領との間であったのかは知りません。

「フリーダム・コーカス」を強力に支援しているのがコーク兄弟ら富裕層の献金ネットワークだとされています。

“コーク兄弟とは米エネルギー複合企業、コーク・インダストリーズを経営するチャールズ・コーク氏、デビッド・コーク氏を指す。共和党の大口献金者として知られ、資産総額はともに約4兆6千億円とされる。米国の長者番付はそろって7位。大統領選でトランプ氏を支持せずに、様子見に徹した。”【3月31日 日経】

3月段階でオバマケア代替法案が「フリーダム・コーカス」の反対などで頓挫した際、「今回はコーク兄弟にしてやられた。税制改革も簡単ではない」とトランプ大統領に近い党関係者は弱音を吐いたとか。

また、“オバマケア代替法案が頓挫した直後の3月28日、トランプ氏はオバマ前政権の地球温暖化対策を見直す大統領令をぶちあげた。「保守強硬派の懐柔が狙いだ」と関係者。保守系政治団体は規制色の強い温暖化対策を毛嫌いする。そもそもコーク兄弟の事業は石油精製が中核だ。”【同上】とも。

トランプ大統領は、このコーク兄弟とはあまり良い関係ではないとも言われていますし、その主張も異なりますが、大統領選挙戦での終盤では“会談”も行われたとかの話もありますし、積極的なトランプ阻止にも動きませんでした。両者を仲介したのが「コーク兄弟の小飼政治家」マイク・ペンス氏(副大統領)だったとか・・・・政治を動かす大富豪たちの世界ですのでよくわかりません。

トランプ政治も、ツイートされているような話とは別の世界があるようです。

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