孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  ヒンズー至上主義者モディ首相の危険な側面  高まるイスラム教徒との緊張

2014-10-05 21:26:47 | 南アジア(インド)

(日本訪問時のモディ首相と安倍首相 【9月10日 WSJ】)

【「みなさんの夢見るインドを作り上げる」】
従来アメリカはインドのモディ首相について、西部グジャラート州首相時代の2002年、州内で発生したイスラム教徒に対する宗教暴動で適切な対応を取らなかったとして査証(ビザ)の発給を拒否していましたが、大国インドの首相就任ともなるとアメリカも対応を変えています。

モディ首相は先月末には訪米して、オバマ大統領とにこやかに握手しています。
更に、大勢のインド系住民に「みなさんの夢見るインドを作り上げる」と語っています。

****モディ首相「皆が夢見るインドを作る」―訪米で演説****
米国を訪れたインドのモディ首相を、ニューヨーク・マンハッタンのマディソン・スクエア・ガーデンに集まった大勢の群衆は大喝采で迎えた。

28日に開催された歓迎集会はボリウッド調の雰囲気に包まれ、インド系米国人コミュニティーのムードが反映されていた。つまり、モディ氏は一世代に一人の指導者で、インドが他のアジア諸国から後れを取る原因となった問題を解決できる人物だとみなされているのだ。

モディ氏は聴衆に対し、口語調のヒンディー語で「わたしは遠くに住んでいるが、みなさんを煩わせる困難は承知している」と語りかけ、「みなさんの夢見るインドを作り上げる」と述べた。

モディ氏の言葉は数多くのインド系米国人や在米インド人などに希望を抱かせた。モディ氏のお膝元であるグジャラート州から米国に渡った起業家や学生、若い専門家らの多くは、インド経済の低迷や汚職スキャンダルなどが絶え間なく起こる母国のことを心配していたのだ。

一方、インド系米国人や在米インド人の中には、ヒンズー至上主義者であるモディ氏が宗教指導者で、インドの多文化主義にとって脅威になると警戒するものもいる。

マディソン・スクエア・ガーデンの外に集まったモディ氏に反発する人々は、同氏が率いるインド人民党の支持母体であるヒンズー至上主義の団体と、その原理主義的な政策に人々の関心を集めたいと述べた。

インド系米国人は300万人以上に上り、彼らの中には大企業幹部や起業家のほか、高い評価を得ている芸術家、学者もいる。【9月29日 WSJ】
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もちろん、“経済の低迷や汚職スキャンダル”を克服した姿が“みなさんの夢見るインド”であるなら問題はないのですが、“モディ首相が夢みるインド”がそこに留まるのか・・・不安もあります。中国・習近平国家主席の「中国の夢」も周辺国には危険ですが。

イスラムとの対立で党勢を拡大したBJP
モディ首相について語るとき必ず言及されるのが、グジャラート州首相時代の実績とヒンズー至上主義者としての側面です。

モディ首相が率いるインド人民党(BJP)は、少数派イスラム教徒(13%)と多数派ヒンズー教徒(81%)の対立が大きな課題であるインド社会にあって、ヒンズー至上主義を掲げる政党であり、イスラム教徒との対立と社会混乱を利用する形で勢力を拡大した政党です。

****宗教・民族から見た同時代世界 荒木 重雄***** 
~高成長IT大国のインドでヒンドゥー主義台頭の気配~

ヒンドゥー至上主義派とは
インドのヒンドゥー至上主義派の根幹はRSS(民族奉仕団もしくは民族義勇団と邦訳)とよばれる組織である。

1925年の創設以来、反イスラム・反西欧を掲げて、武力闘争を含め、さまざまなしかたで宗教紛争を挑発したり介入したりしてきた。団員は1千万人を超えるともいわれ、直営組織の他、多様な職能団体や労働組合、学生組織にネットワークを広げている。

インドの公園ではよく白シャツにカーキ色半ズボンの制服を着た男たちが武闘訓練をしているのを見かけるが、彼らはRSSの末端メンバーである。

この組織は、ヒンドゥー教聖職者中心のVHP(世界ヒンドゥー協会)や、その下部組織で血の気の多い若者を集めたバジュラング・ダル(ハヌマーンの軍隊)などをはじめ、インドのほとんどのヒンドゥー・ナショナリズム団体の母体となっている。

そのRSSの政治組織が、1998年から2004年までインドの政権を握ったBJP(インド人民党)である。(中略)

騒乱こそ党勢拡大の好機
ガンディー、ネルーらの国民会議派が掲げた「セキュラリズム(宗教的融和主義、政教分離)」と「少数者への配慮」を独立以来の政治理念とするインドで、その理念に真っ向対立する「ヒンドゥーこそが至高」「多数派ヒンドゥーの力による強大な国家を」と唱えてRSSを母体にBJP(インド人民党)が発足したのは1980年であった。

しかし当初はその極端な主張から政治の主流にはなりえない政党とみなされ、事実、84年の選挙では下院選出議席543の内、僅か2議席を獲得したのみであった。
その後、漸増はしていたが、党勢を一挙に拡大したのがアヨーディヤ事件であった。

アヨーディヤ事件とはなにか
北インドにあるアヨーディヤという町は、古代叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公ラーマ王子(ヒンドゥー教の主神の一つヴィシュヌの化身)の誕生の地とされ、ヒンドゥーの聖地とされている。

そこに16世紀に建立されたバーブリ・マスジッドとよばれるイスラムのモスク(礼拝堂)があった。

それに対して、「ここはヒンドゥーの聖地だからそのモスクを壊してラーマを祀るヒンドゥー寺院を建てよう」というキャンペーンを、ヒンドゥー至上主義派が展開したのである。

90年10~11月、ヒンドゥー至上主義派は数万人の支持者をアヨーディヤに動員し、モスク破壊を企む。
だが、セキュラリズムを国是とする政府が派遣した治安部隊に阻まれ、衝突して怪我人がでた。

一旦、流血の騒ぎなどが起こるとすっかり興奮するのがインドの大衆の常である。ヒンドゥー対ムスリムの宗教暴動が全国に亙って起こり、数万人の死傷者がでた。

この騒乱と興奮をヒンドゥー教徒の結集に結びつけて、BJPは、翌91年の選挙で119議席を獲得し、政党としての地位を確立する。

これに味をしめたヒンドゥー至上主義派は92年12月に再びモスク破壊の大号令を発し、20万人を動員して、ついにモスクを破壊した。再び宗教暴動が全国に広がり、前回に増す犠牲者をうんだ。

宗教暴動といえ、その内実は、RSSやバジュラング・ダルの活動家に率いられたヒンドゥー大衆による一方的な少数派イスラム教徒コミュニティへの襲撃、暴行、略奪、殺戮である。

これが効を奏して、BJPは次の選挙では162議席を得て第一党にのし上がった。
社会の閉塞感や貧富の格差拡大への大衆の不満を巧みに利用したBJPは、紆余曲折を経ながらも、98年にはついにBJP主導の連立政権を立ち上げるに至った。(後略)【「オルタ」】
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なぜモディは過激なヒンズー原理主義者に対して沈黙しているのか」】
首相に就いたモディ氏は経済政策に専念する形で、現在、直接にはヒンズー至上主義者の活動には関与していないように見えますが、彼らの活動を抑制することもなく、モディ政権のもとでヒンズー至上主義者の活動が活発化しています。

****印モディ政権が抱える「時限爆弾****
「ヒンドゥー至上主義」が招く宗教対立

「私はナショナリストだ。私は愛国的だ。何も間違ってはいない。私はヒンドゥーとして生まれた。そう。あなた方は私をヒンドゥーナショナリストと言っていい」

五月の下院総選挙圧勝後、インドのモディ首相は記者団にこう語った。新たな右派政権の誕生によって、当然これまでにない新たな問題が起きる。ヒンドゥー至上主義であるインド人民党(BJP)政権そのものが、「インドの国是」である「世俗主義(≒政教分離)」と矛盾するという根本的な問題だ。

全土で百三十万人が「突撃隊」
・・・・新政権誕生の余韻に浸る今、「異分子への寛容」という精神文化は後退し、モディ氏の背後では確実に社会先鋭化が進んでいる。宗教対立が国民の酔いを醒ます日も近い。

その兆候は、ヒンドゥー至上主義組織「民族奉仕団(RSS)」への新規加入者数の増加という形で顕著に表れている。「二〇一二年には月平均一千人だったが、今年の一月~七月は五千人、八月単月では一万三千人にまで加入者が増えた」(広報担当の幹部)。「モディ氏を育成、輩出した」といわれる同組織は、同氏の人気の高まりとともに、規模が急拡大している。

RSSは、与党インド人民党の支持母体でもあり、その他のヒンドゥーナショナリズム団体の母体でもある。(中略)

「ヒンドゥスタン(インド)はヒンドゥー(教の)国家であり、ヒンドゥトゥバ(ヒンドゥー原理)は我々のアイデンティティーであり、またヒンドゥー教は他の宗教を取り込むこともできる」。同組織の最高幹部、モハン・バグワット氏は八月、RSSの集会でこう述べた。
政権与党の支持母体のトップによる「ヒンドゥー国家」発言は、宗教マイノリティーにとっては衝撃的だ。

だが、さらに過激な右翼もいる。

「ムスリムに対抗するために、もっと子供を産みなさい!」・・・RSSの下部組織でヒンドゥー聖職者団体「世界ヒンドゥー協会(VHP)」幹部らは下院の選挙期間中に、イスラム教徒の多い州でこうした信じ難い過激発言を繰り返してきた。RSSを中心としたヒンドゥー至上主義組織の諸団体を総称して「サング・パリワール」と呼ぶが、その中でも極右がVHPとその関連団体である。

そのVHPの中で最も過激なのが、青年組織「バジュラング・ダル」だ。「ナチスドイツの国民突撃隊と同じ」(ポール・ブラス・ワシントン大学政治学名誉教授)とも、「ヒンドゥー・タリバン」ともいわれる同組織は、チンピラとテロリストを足して二で割ったような実行部隊である。

射撃訓練まで行う彼らは、これまで起きた宗教暴動、テロ、暗殺、リンチ、陰謀などの数々の現場に関わっているとされ、白昼堂々と暴力を振るうことも厭わない集団である。

その構成員は、一説には全土で百三十万人とも言われる。つまり、国民の一千人に一人の割合で、「突撃隊」がいるということになる。

イスラム「聖戦」の大義名分
このように、モディ氏の背後で、一九九〇年代に隆盛を極めたヒンドゥーナショナリズムが再膨張している。世論調査ではこうした過激集団を「非合法化すべき」との意見が七割に達し、国民の間では強い嫌悪感がある。だがその勢いは衰えそうにない。

インドでは宗教間のトラブルが起きた際、警察の動きは鈍い。警察は、VHPのような過激派と繋がっていることもあり、時に協力さえも惜しまないのだ。(中略)

「ウッタル・プラデシュ(UP)州西部はモディにとって、試金石となる」。
地元メディアがそう指摘するとおり、首都ニューデリーに隣接し、イスラム教徒が多い同地で、モディ政権発足後に、ムスリムとの対立が頻発している。

だが、モディ首相は沈黙を続けるばかりだ。モディ政権のRSSや他のサング・パリワールに対する態度は「意図的に曖昧」なのだ。

「左翼が(極左の)毛沢東派を非難できるのに、なぜモディはサング(パリワール)に対して沈黙しているのか」。現地紙ではこうした批判の声が出はじめた。ムスリムへの迫害状況を放置する政権は、「聖戦」への大義名分を欲するイスラム過激派にとって格好の標的となる。

九月三日、イスラム国際テロ組織アルカーイダの指導者、ザワヒリ容疑者のビデオがインターネット上に掲載され、インドに衝撃が走った。同容疑者が、インド亜大陸に組織の新たな拠点を設けると宣言したからだ。

「ビデオを真剣に受け止めるべきだ。アルカーイダは、モディ首相を〝イスラムの敵〟として描きたいのだ」。米CIAアナリストのブルース・リーデル氏が警鐘を鳴らした。

宗教を政治の軸にした時点で、政権の存在そのものが国境を超える問題となり、内外のどこで化学反応を起こすかわからない状況に陥っている。「我々は、モディの(パキスタンに対する)言い方が非常に攻撃的になっていると感じている」。パキスタン上院国防委員会のムシャヒド・フセイン・サイード議長も、モディ氏の動きを警戒する。

州首相時代のモディ氏は卓越した力を発揮し、総選挙で圧勝する過程で、沈滞していたサング・パリワールに再び力を与えた。

だが、その力は想像以上に大きくなりつつあり、やがてモディ氏自身に跳ね返ってくるだろう。「六〇年代中頃から現在までの宗教暴動による犠牲者数が一万三千人以上」ともされる同国で、大規模な宗教対立が起こるまでに、時間はそうかからないはずだ。

モディ氏がそれを未然に防ぐ可能性は低い。日本のメディアが持て囃すモディ氏の実像を正確に捉えなければ、インドの行方を見誤ることになる。【選択 10月号】
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モディ首相及びその周辺では、ヒンズー至上主義台頭に対しイスラム過激派のテロが起きれば、イスラムへの批判を煽る形でBJPの勢力を更に拡大できて好都合だという思惑があるようにも邪推されます。

【「愛の聖戦」への反対運動・・・・不信と憎しみを煽る反イスラムキャンペーン
上記記事にもある、イスラム教徒との緊張が高まっているウッタル・プラデシュ(UP)州では、“イスラム教徒がヒンズー教徒女性を騙して子供を産ませ、イスラム教徒の数を増やそうとする「愛の聖戦」が仕掛けられており、ヒンズー女性はこの罠にはまらないようにしないといけない・・・”というヒンズー保守派の活動が行われています。

****イスラム教徒が仕掛ける「愛の聖戦」―激化するインドの宗教対立****
田舎のある一軒家の居間に、40人を超えるヒンズー教徒の若い女性が集まっていた。保守派のヒンズー教活動家チェトナ・シャルマさんは厳しい顔つきで彼女たちを見つめ、こう警告した。イスラム教徒の男たちがヒンズー教徒の女性をだまして自分と結婚させ、イスラム教に改宗させようとしていると。

イスラム教徒の男たちは機会さえあれば、「子どもを2、3人産ませてから女性を捨てたり、強姦したりする。女性が抵抗すれば酸をかけたり、殺したりする」とシャルマさん。「『愛の聖戦』から自分の身を守らなければどんなことになるか、あなたがたには想像もつかないでしょう」

ヒンズー教右派の組織や政治家は「愛の聖戦」への反対運動を大々的に展開している。彼らによると、愛の聖戦はヒンズー教徒の女性を洗脳して、インドにおけるヒンズー教徒の人口優位性を崩そうとする悪意に満ちた国際的な陰謀だという。(中略)

だが、インドの与党・人民党(BJP)と非公式ながら緊密な関係にあるヒンズー教組織のネットワークから派遣された活動家たちは国内で最も人口が多いウッタルプラデシュ州各地の村を訪ね歩き、愛の聖戦に注意するよう呼び掛けている。BJPの著名議員の中にはこの活動への支持を表明している人もいる。

インドでは今年5月にナレンドラ・モディ首相が就任し、モディ氏が率いるBJPが政権を握ると、宗教間の緊張を高めかねない議論が公然と行われることが多くなった。

モディ氏もBJPもヒンズー至上主義と深いつながりがある。モディ氏は首相就任以降、最優先課題として経済発展に取り組んでいるが、BJPの一部関係者やヒンズー教の保守系団体の指導者はインドがヒンズー国家であることを宣言すべきとの主張を強めている。

ジンダル・グローバル大学の社会学者でモディ政権に反対するシブ・ビスワナサン氏は「多数派であるヒンズー教徒が政権を取ったことで、パッと見ただけではわからないが、恐ろしい結果を招きつつある」と話す。(中略)

BJPでは多くの関係者が(保守派のヒンズー教活動家)シャルマさんらの警告を支持している。
ウッタルプラデシュ州の党代表ラクスミカント・バジパイ氏は愛の聖戦について、「大きな社会問題であり、女性たちに注意するよう伝える必要がある」と述べた。

BJP所属の国会議員Yogi Adityanath氏は全国放送のテレビインタビューで、イラクなどで起きている暴力について指摘した後、イスラム教徒が「インドでは力では望むことを実現できないため、愛の聖戦という方法を使っている」と述べた。

BJPの対抗勢力は同党について、モディ氏ら高官が経済や開発に集中し、Adityanath氏らが異なる宗教の間の対立を煽るという二重の戦略を取っていると批判している。

インドのイスラム教系団体の連合組織である全インド・ムスリム・マジリス・エ・ムシャーワラトのトップ、Zafarul Islam Khan氏は愛の聖戦について、「一つの共同体を中傷するために」ヒンズー教組織が生み出した「憎しみを広める兵器」だと述べた。

Khan氏は「選挙のあとで、こうした人々が中央政府の支持を得たため、嫌がらせが広がった」と指摘、「モディ氏が党と組織に対し、強いメッセージを送れば(嫌がらせは)とまるだろうが、彼は沈黙を続けることに決めた」と話す。

BJPの広報担当者サンビット・パトラ氏は党がどの宗教が関係しているかにかかわらず、詐欺や強制による結婚と闘うつもりだと述べた。

パトラ氏によると、ウッタルプラデシュ州のBJP幹部は「国民の心の中に既に忍び込んでいるかもしれない恐怖」に対応するため、愛の聖戦について議論しているという。「一つの事柄に疑惑が生じたら、民主主義国家ではそれについて議論しても何の問題もない」【9月8日 WSJ】
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両教徒の間ではインド・パキスタン分離独立時など、これまで夥しい血が流されてきました。
人口12億を超えるインドで再び憎しみの火が燃え上がれば、想像を絶する犠牲者がでます。

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