孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  米越合同の枯葉剤汚染除去作業始まる 深まるアメリカとの経済関係

2012-08-10 23:40:19 | 東南アジア

(ベトナム戦争が終わって37年になりますが、枯葉剤の後遺症は未だ現在の問題として残っています。 “flickr”より By gaelic 69 http://www.flickr.com/photos/gaelic69/4303505193/

今なお約300万人が枯れ葉剤の後遺症に苦しむ
アメリカはベトナム戦争において、南ベトナム解放民族戦線のゲリラやその補給路に打撃を与えるため密林を枯らす作戦を展開し、枯れ葉剤約7200万リットルを空中から散布しました。

この枯葉剤には発がん性や催奇性が指摘されるダイオキシンも含まれており、ベトナムでは約300万人が枯れ葉剤の後遺症に苦しみ、うち約100万人は子どもと言われています。【下記 中日新聞より】
枯葉剤と言えば、私の年代だと、下半身がつながった結合双生児「ベトちゃんドクちゃん」をすぐに連想します。

****枯れ葉剤後遺症の子どもをサポート ベトナムの障害児施設****
130人が集団生活 社会参加目指す
ベトナム戦争終結から37年。戦争の記憶が薄れつつある一方で、米軍機がまいた枯れ葉剤の後遺症に苦しむ子どもたちは、ベトナム国内に今なお100万人いるともいわれる。首都ハノイ市内の枯れ葉剤障害児施設「タインスアン平和村」には、そうした戦争被害の現実がまだ生々しく残っている。

ハノイ中心部から車で約30分。建設ラッシュに沸く街中を抜けると、平和村に着く。2、3階建ての建物数棟と中庭があり、小学校のような造りだ。枯れ葉剤の影響でさまざまな障害のある子どもたち約130人が、ここで集団生活を送っている。

「全問正解よ。頑張ったね」。教室から女性教師の声が聞こえてきた。算数の練習帳を手に、ゴゥ・チィ・トゥン君(11)がはにかんでいた。父親がベトナム戦争に参加し、枯れ葉剤を浴びた。ゴゥ君は脳性まひで、今は小学2年生レベルの算数と書き言葉などを学んでいる。「友だちがたくさんいて楽しいよ」と笑う。「枯れ葉剤って分かる?」と聞くと、教師が間に入って「その質問は難しすぎるわ」と制した。

この施設は1991年、ドイツ政府や民間団体の支援で設立された。子どもらを支えるのは、勉強や生活習慣を教える教師、治療とリハビリにあたる医師、ボランティアら約80人。運営費は国内外からの善意などで賄われている。

グエン・ティ・タイン・フォン院長(52)は運営目標について「言語、運動能力を身に付け社会参加できる水準を目指している」と説明。ただ「すべての子どもが適応できるわけではない。進学したり、工場で働ける子どももいるが、そうばかりではない」とも付け加えた。施設では、子どもたち1人ずつ症状などに応じて、将来できることを模索。障害の程度が重く教室で学べない子は、刺しゅうや織物を学んでいる。

ベトナムでは約300万人が枯れ葉剤の後遺症に苦しみ、うち約100万人は子どもという。知的障害児や肢体不自由児が多く、全身に無数の黒い斑点(はんてん)を持つ子もいる。枯れ葉剤を浴びた親から生まれる子に障害が現れ、2世、3世にまで被害が及ぶとされるが、枯れ葉剤と障害の因果関係は証明困難とみる説もある。

ベトナムは、米国と1995年に国交を正常化。米国は現在、ベトナム最大の輸出先となり、この国の経済成長を支えている。しかし、米国は枯れ葉剤被害者に対する賠償に応じず、ベトナム政府も十分な補償は行っていない。

グエン院長は「枯れ葉剤は子どもたちの幸せを奪いました」と涙目。「苦しんでいる子どもたちがここにいる限り、ベトナム戦争はまだ終わっていない」と、枯れ葉剤被害の現状を語る。
平和村の近くで、ベトナムの経済発展を反映した大規模な建設工事が進められていた。グエン院長は「経済成長で新たな時代に入ったが、枯れ葉剤のことは忘れられないと信じている。この施設が不要になる日を待ち望んでいます」と、遠くを見つめた。【1月23日 中日新聞】
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ようやく枯れ葉剤の除去作業開始という歴史的な日を迎えた
未だ戦争の後遺症が癒えないベトナムですが、アメリカのベトナム戦略の中核を担った空軍基地があったダナンで、アメリカ・ベトナム合同の枯葉剤汚染除去事業が開始されたそうです。

****米越両政府、ベトナムで枯れ葉剤の汚染除去作業を開始****
ベトナム中部のダナン空港で9日、ベトナム戦争中に米軍が散布した枯れ葉剤、通称「エージェント・オレンジ」の汚染除去作業が始まった。米越両政府が共同で実施するもので、汚染された土壌を高温に熱してダイオキシンを無害な成分に分解する技術も活用する。費用は4300万ドル(約33億8000万円)。

かつて米空軍基地だったダナン空港周辺では多くの人が先天性の障害やがんなどの病気に苦しみ、住民らは以前から枯れ葉剤が原因だと主張してきた。戦争終結から数十年を経て、ようやく枯れ葉剤の除去作業開始という歴史的な日を迎えた。

米軍の枯れ葉剤散布は、ベトナム南部の密林地帯に潜む南ベトナム解放民族戦線の兵士から身を隠す木々と食糧を奪うことが目的だった。当時、ダナン空軍基地は米軍の枯れ葉剤散布作戦「ランチハンド作戦」の拠点で、枯れ葉剤8000万リットルの大半がここで混合、貯蔵され、軍用機に積み込まれた。

ダナン市に住むグエン・ティ・ビンさん(78)はAFPに「戦時中は滑走路のすぐそばに住んでいて、異臭のため口を覆わなければならないような夜もあった」と話した。

ビンさんの5人の子供のうち3人は重度の精神・身体障害がある。ビンさんは子どもの障害は前世で犯した罪のせいだとずっと思っていたが、今では自分と亡き夫がダイオキシンにさらされたのが原因かもしれないと考えるようになったという。ビンさんの成人した娘たちは、取材中も幼児のようにビンさんの周りをはい回っていた。だが、米政府はいまだにダイオキシンと健康被害の因果関係は明らかになっていないとしている。

枯れ葉剤除去プロジェクトの背景には、中国が南シナ海における領有権の主張を強めていることを受け、米越両国が接近していることがある。【8月10日 AFP】
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補償問題も絡む敏感な問題ですので、なかなか手がつけられてきませんでしたが、“ようやく・・・”といった感があります。

ベトナム政府は経済、外交などで対米接近を基本政策とする
かつては激しい戦闘を行い、互いに大きな傷を負ったアメリカ・ベトナム両国ですが、市場経済化を推し進めるドイモイ政策のもとで急速な経済成長と遂げるベトナムへ、近年は多くのアメリカ企業が進出し、著しい経済関係強化が見られます。

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アメリカが支援していた南ベトナムからは多くの難民が流出し、カナダ、オーストラリア、フランス、アメリカへと移民した。サイゴン陥落後からソ連崩壊を経て、ドイモイ政策後の1995年8月5日、ベトナムとアメリカは和解し、アメリカとの国交が復活し、通商禁止も解除された。

2000年には両国間の通商協定を締結し、アメリカがベトナムを貿易最恵国としたこともあり、フォードやジェネラルモーターズ、コカ・コーラやハイアットホテルアンドリゾーツといったアメリカの大企業が、ドイモイ政策の導入後の経済成長が著しいベトナム市場に続々と進出し、2003年にベトナムの国防大臣はペンタゴンの歓迎式典で最大の敬意を払って迎えられた。

ベトナム政府は経済、外交などで対米接近を基本政策としており、ジョージ・W・ブッシュ大統領の来訪も大歓迎している。対米関係への配慮から戦争中の枯葉剤などについても、あえて『民間団体』に担当させて、政府は正面に出てこないくらいアメリカに気を遣っており、一般のベトナム人も経済向上のためにはアメリカとの関係を緊密にするべきだと感じ、アメリカの観光客、企業代表などを熱く歓迎している。

米軍に侵攻され多大な被害を受けたにもかかわらず、政府・国民とも親米的な珍しい例である。2010年8月には国交復活15周年を記念し空母ジョージ・ワシントンがダナンを訪問した。しかし、薬品会社は未だ枯葉剤問題に対して棄却し未解決であり、アメリカに激しい憎しみを持つ者も存在する。

アメリカは南ベトナムからは82万ものベトナムの難民を受け入れており、ベトナム系アメリカ人は故郷ベトナムに旅行するなど交流は活発になっているが、基本的に南ベトナムからの難民が大多数なので共産主義のベトナム本土とは対立が根深く、ベトナム政府関係者の訪米には抗議する傾向がある。【ウィキペディア】
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以前も紹介したように、枯葉剤の製造元である米企業「モンサント」もベトナム進出を進めていることが報じられています。

****枯葉剤のモンサントがベトナムに進出****
40万人の死者を出した枯葉剤の製造元で反省の色もない米企業を、政府が誘致する事情

遺伝子組み替え作物の種子の世界シェア90%を誇るアメリカの総合化学メーカー、モンサント社がベトナムに「帰還」する準備を着々と進めている。
ベトナムでモンサントの名はそれほど知られていない。しかし同社がかつて開発し、ベトナム戦争で米軍の枯葉作戦で使用された、悪名高き「エージェントオレンジ(枯葉剤)」の名は誰もが知っている。

ベトナムのタインニエン紙によれば、国内の活動家たちはモンサントにベトナムで事業を行う資格はないと反対の声を上げている。ベトナムでは枯葉剤によって40万人が死亡し、50万人の奇形児や障害児が生まれ、200万人にさまざまな後遺症を残した。

モンサントが現在ベトナムで関心を抱いているのは農業分野だ。遺伝子組み換え技術で農作物の収量を上げる技術を持つモンサントを、ベトナム政府が誘致しようとしていると、タインニエン系列の週刊誌が報じた。

ベトナムとアメリカ両国の枯葉剤犠牲者から訴えられているモンサントは、もちろん過去を忘れたわけではない。米軍からの発注で製造した枯葉剤は、植物を枯らしてジャングルに潜む共産ゲリラをあぶり出して掃討するために散布された。

モンサント社の冊子は、枯葉剤は愛国的な化学薬品だったと紹介しいる。「アメリカと同盟国の兵士の命を守る」ために作られたものであり、係争中の裁判については「当事者だった政府によって解決されるべきだ」と主張している。

モンサントのベトナム進出を阻止しようとする活動家たちの戦いは、すでに苦戦を強いられているようだ。タインニエン紙によれば、ベトナムの元副国防相が国会でこの問題を取り上げようとしたが、政権側に発言を妨げられたという。【2月8日 Newsweek】
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南シナ海問題での対中牽制でも利害一致
最近では経済関係だけにとどまらず、南シナ海問題で中国と厳しく対峙するベトナムと、アジア太平洋重視ということで中国の南シナ海進出を牽制するアメリカの利害が一致し、政治的な関係も強まっています。
7月10日は、クリントン米国務長官がハノイを訪問してします。

****南シナ海、平和的解決で一致-米越外相がハノイで会談****
クリントン米国務長官は10日、ベトナムの首都ハノイを訪問し、ファム・ビン・ミン外相と会談した。双方は、中国とベトナムなどが領有権を争う南シナ海問題の平和的解決に向け、法的拘束力を持つ「行動規範」策定の重要性などで一致したほか、経済関係の強化、ベトナム戦争時の地雷除去などの協力について話し合った。

クリントン長官は記者会見で、南シナ海問題でベトナムと「重要な戦略的利害」を分かち合っていると指摘。経済分野でも、過去数年で米越両国関係に「目覚ましい発展」があったと評価し、両国が交渉参加を表明している環太平洋連携協定(TPP)の重要性を訴えた。ミン外相は、クリントン長官に20社以上の米企業関係者が同行している点に触れ、一層の対越投資を呼び掛けた。

クリントン長官は同日、グエン・タン・ズン首相、グエン・フー・チョン共産党書記長とも会談し、南シナ海問題や米越関係の強化について協議した。【7月10日 時事】
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“クリントン長官に20社以上の米企業関係者が同行している”ことに、最近のアメリカ・ベトナムの経済関係強化が窺われます。

****貿易総額は220億USDへ****
Pham Binh Minhベトナム外務大臣は会談後の記者会見で「アメリカ企業によるベトナムへの投資は毎年増えている。GE、Microsoft、ExxonMobil等、アメリカの大手がベトナムに進出した。今後、アメリカがベトナムにとっての第1投資家になることを狙い、両国間の貿易増加を期待する」と述べた。

7月10日、米国外務省は「BTA(ベトナム・アメリカ両国貿易協定)が有効となった2001年12月より両国の経済関係が急速に発展し、貿易総額は2001年の10億USDから昨年の220億USDに増加した。2011年は2010年より17%の増加となっている」と発表した。【7月12日 ブルーチップ ベトナム投資ニュース】
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先日のTV番組では、こうしたアメリカのベトナム進出について、“ベトナムに対しては以前から日本が積極的にアプローチしていた。しかし、当時はベトナムの経済がまだ立ち上がっていなかった。やっとベトナム経済が立ち上がったときには、アメリカが出てきて成果を持っていかれてしまった”といった主旨の発言をしていました。

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