孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  鳥インフルエンザが浮き彫りにする脆弱な医療保険制度

2013-04-09 22:09:12 | 中国

(闇診療所を取り締まる警官 【3月30日 Record China】 http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=70790&type=

【「人から人への感染の証拠はまだ発見されていない」】
中国の鳥インフルエンザの感染者は現時点で28人、死者は8人となっています。

****感染者28人、死者8人に 中国の鳥インフル****
中国の鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染者は9日、前日より4人増え28人となった。うち死亡は8人と前日から1人増えた。
9日に感染確認などを発表したのは上海市、浙江省、江蘇省の3省市で、いずれもこれまでに感染が発生している地域。このうち江蘇省は2日に鳥インフル感染を確認していた患者が治療の効果が見られず死亡した。【4月9日 日経】
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一番関心が集まっているのは、ヒトからヒトへの感染があるか・・・という点です。
5日には、上海で感染死亡した患者と接触した者のなかに発熱している者がいることも報じられていましたが、今のところは感染者は出ていないようです。
8日には、中国当局とWHOが共同記者会見を行い、「人から人への感染の証拠はまだ発見されていない」と強調しています。

****鳥インフル「人から人へ感染なし」=不確定要素、予断許さず―中国****
中国東部でH7N9型鳥インフルエンザの感染が拡大していることを受け、国家衛生・計画出産委員会で予防対策責任者を務める梁万年氏と世界保健機関(WHO)中国事務所のオリアリー代表は8日、北京で共同記者会見を開き、「人から人への感染の証拠はまだ発見されていない」とそろって強調した。
ただオリアリー代表は「感染源が確定できず、将来を予測できない」、梁氏も「予防対策は依然として不確定要素が存在する」と述べ、今後は予断を許さず、感染が広がる可能性を示唆した。

3月31日に上海市でH7N9型鳥インフルエンザに感染した2人が死亡したと発表されて以降、国家衛生委が記者会見したのは初めて。同委はWHOと共同会見を開くことで、双方が協力して予防対策や迅速な情報開示に努めていることを内外にアピールする狙いがある。【4月8日 時事】
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新型肺炎「SARS」の教訓
今回の中国当局の対応は、感染情報を隠蔽し、WHOなどとの国際協力も遅れ、結果として犠牲者を拡大せせた10年前の新型肺炎「SARS」のときとは異なり、上記のようなWHOとの連携や積極的な情報提供に努めています。

****鳥インフル:情報積極発信、デマには厳しく対応…中国当局****
鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染拡大を受け、中国当局が中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で次々と情報発信を続けている。10年前に新型肺炎「SARS」が流行した際に感染情報を隠蔽(いんぺい)して批判を浴びた時とは対照的だ。一方で、ネット上に飛び交うデマには厳しく取り締まる姿勢を見せており、世論の動向に気を使っているようだ。

上海市政府がフル活用するのが微博の公式アカウント「上海発布」だ。感染者が出るたびに発症時期や症状を報告。ソーシャルメディアの双方向性も利用し、微博で寄せられた質問に専門家が即答する試みも始めた。
「家の鶏肉や卵は食べられるか」との質問には「食べられる。ただし、よく火を通して。卵は汚れていたら洗うこと」と回答。「普通の風邪と市民には区別が付きにくいので、熱やせきが出たら、早く病院へ」と注意も呼びかけている。

微博の利用者は5億人に上り、情報を隠すのは難しい時代。むしろ積極的な情報開示をアピールすることで、国民の不安を払拭(ふっしょく)する狙いがあるとみられる。上海市がこれまで2度開いた記者会見でも、質問に専門家が細かく回答した。

一方、中国メディアによると、福建省泉州市の警察当局は、2日夜に「病院内部の話によると、市内で少なくとも2人の感染者が出た」と微博に書き込んだ31歳男性を拘束した。
また同省寧徳(ねいとく)市の警察当局も、うその感染者情報を書き込んだ男性1人を拘束し、これを転載した高校生1人を注意処分にした。【4月9日 毎日】
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【「誰が患者を助けるべきか」】
鳥インフルエンザがこれ以上拡大するのか、ヒトからヒトへの感染がないのか・・・は、今後の推移を見守るしかありませんが、非常に興味深かったのは、感染は自己責任か、それとも国家が面倒を見るべきかという中国国内の議論を紹介した下記記事です。背景には脆弱な医療保険制度の実態があります。

****鳥インフル:感染は自己責任? 中国、医療費巡り議論****
鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染拡大を受け、中国で患者の治療費を有料とするか無料にすべきかが議論になっている。03年の新型肺炎「SARS」ではヒトからヒトに感染したため無料だったが、今回は「自己責任で気をつければ感染を防げる」という見方もあるためだ。

中国メディアによると、南京市で重体になっている45歳女性は、集中治療室での費用が1日1万元(約16万円)で、既に10万元に達した。家族は貯蓄を崩し、自宅も売り払おうとした。だが、何者かにインターネット上で住所を暴露され、売れる見通しはない。

ニワトリの解体業をしていた女性の報酬は1羽1元(約16円)で、1日30羽以上をさばいていた。手はトリの爪に引っかかれ、内臓も洗い出す作業をしていた。ただ、家族は「健康に問題もなく、感染は予想もできなかった」と訴える。安徽省の35歳女性も重体で、夫は「貯蓄がない」として治療費免除を求めている。

中国メディアによると、中山大学の林江教授は「ヒトからヒトに感染するなら、公衆に重大な影響を与えるので政府が治療費を払う道理がある。今は散発的な感染で個人の衛生の問題では」と指摘する。一方で、呼吸器疾患の専門家、鐘南山氏は「さらなる拡大を防ぐためにも無料か減免措置をとるべきだ」と主張。中国版ツイッター「微博」では「誰が患者を助けるべきか」と議論になっている。

中国では社会保障制度が脆弱(ぜいじゃく)なことに加え、「病院は高い」という意識が強く、風邪をひいても市販薬で治そうとする人が多い。今回も病院に行くのが遅れて重体になったケースが目立つ。微博上では「世界で初めて感染が確認されたのに、政府が面倒を見ないのはおかしい」などと医療費免除を求める意見が大勢を占めている。

中国国家衛生・計画出産委員会は3日、費用が理由で治療が遅れることがないよう地方政府に要請。広東省政府は感染者が出た場合に備え、医療保険に入れない低所得者のための基金の設立を決めた。中国当局は「48時間以内の治療が有効だ」と早めの受診を呼びかけているが、医療費を巡る問題が感染拡大防止の足かせになる可能性もある。【4月8日 毎日】
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脆弱な医療保険制度
中国では「国民皆保険・皆年金」を目指して制度構築が行われ、医療保険については“11年末までに国民の95%が加入”とのことのようですが、実態は厳しいものがあるようです。

****急造の皆年金、財源難直面****
・・・高齢者向けのサービスを使おうにも、老後の生活の基盤となる社会保障制度は、十分とは言えない。
「国民皆保険・皆年金」が中国の法律で明文化されたのは、10年になってから。それまでは、公務員や企業の従業員のみが対象で、人口の半数近い農民や都会の自営業者は蚊帳の外だった
金城学院大学の王文亮教授(福祉学)は「皆保険・皆年金は、胡錦濤(フーチンタオ)政権が成し遂げた最大の功績」と評価する。
医療保険は03年から農村にも導入が始まり、11年末までに国民の95%が加入した。ただ、いったん自費で前払いする必要があり、補償範囲も狭く、かさむ医療費をまかなえない。10年のある調査では、過去1年間で保険を使った高齢者は、都市で3・2%、農村で4・3%しかいなかった。(後略)【2月27日 朝日】
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医療保険の脆弱な制度は、農民工と呼ばれる都市で暮らす貧困層に困難を強いています。

****闇診療所」に頼るしかない出稼ぎ労働者、中国の医療制度改革の道のり長く―英メディア****
2013年3月27日、ロイターによると、中国政府が医療制度の改革を掲げる中、闇診療所は相変わらず繁盛している。北京の街の片隅、裸電球一つの粗末な「部屋」は出稼ぎ労働者である張雪方(ジャン・シュエファン)さんからすれば「一番いい病院」である。環球時報(電子版)が伝えた。

北京市民ではない張さんは市内の公立病院でもっと安く治療を受けることができず、遠く離れた故郷の医療補助金を受け取ることもかなわない。病気になった時には、北京に暮らす数百万人の出稼ぎ労働者同様、不衛生で無秩序な「闇診療所」に頼るしかないのだ。

この問題は国の財政を圧迫する医療制度の欠陥と、戸籍制度改革問題の核心を浮き彫りにしている。中国独特の戸籍制度は13億人を明確に区分し、膨大な農村部の住民が都市部に定住することを阻んでいる。農村部の住民は出稼ぎに来ても、戸籍を都市部に移すことは難しく、戸籍がないことで都市部の基本的な福祉や公共サービスを受けることができない。中国の新指導部は改革を通して、この異常なシステムを変えていくことを明言している。

北京の首都経済貿易大学の教授は「闇診療所は中国の医療制度の暗部である。出稼ぎ労働者が闇診療所の常連客となるのは、医療制度に欠陥があるからだ」と指摘する。北京市政府の公式データによると、2010年以降、約1000カ所に上る闇診療所を閉鎖してきたが、多くは閉鎖から数日後には営業を再開しているという。

「私たち出稼ぎ労働者だって、闇診療所には行きたくないけれど、大きな病院に通うお金はない」と話す張さんは以前、風邪で北京市内の公立病院を受診したが、治療費は月収の4分の1にあたる800元(約1万2000円)だった。

中国は絶えず医療制度改革を強化しており、2012年は前年比12%増の7199億元(約11兆円)が注ぎ込まれた。一方、日本の厚生労働省に当たる中国の人的資源・社会保障部の統計によると、健康保険に加入している出稼ぎ労働者は全体のわずか20%である。また、出稼ぎ労働者の都市部での医療費は一部払い戻しされるが、最初の支払いは自己負担である上、手続きが複雑で時間もかかる。医療制度の改革の道程はまだまだ長いことがわかる。【3月30日 Record China】
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“医療費を巡る問題が感染拡大防止の足かせになる”ようなことがないことを願いますが・・・・。

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