孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ 多様な人種構成のなかで生じる積極的差別是正措置に関する問題、ヘイトクライム

2019-12-30 23:32:49 | アメリカ

(ホワイトハウスでハヌカを祝うイバンカさんの娘ローズちゃん【12月24日 Abema TIMES】)

 

【積極的差別是正措置の妥当性を問う訴訟】

日本も以前に比べると外国人が増えてきましたが、雇用や入試については “平等に扱う”ことが基本になります。

 

しかし、アメリカのように多様な人種が暮らし、かつ、人種間で経済的・社会的格差が存在するような社会では、形式的な平等よりも、現存する格差を是正する方向での対応(少数派の優遇)が求められることもあります。

 

しかし、そうした対応は、劣後する扱いを受ける多数派側からは“逆差別”の批判も生じます。

 

下記は、今年1月に報じられた名門ハーバード大学の入学差別に関する記事です。

表立っては「アジア系」の扱いに関する問題ですが、実質的には黒人などへの優遇策に対する白人保守派の反発があるとのこと。

 

****ハーバード大で入学差別か アジア系訴え、黒人にも波紋****

米大学の最高峰の一つ、マサチューセッツ州ボストン近郊のハーバード大学が入学選考をめぐって揺れている。アジア系米国人を差別していると訴えられているのだ。判決次第では、黒人ら少数派を優遇する「積極的差別是正措置」の撤廃にもつながりかねない。

 

「高校の成績は常にトップクラス。討論や数学の全国、州の大会で何度も入賞した。それなのにハーバードを含めた上位30校全てが入学を認めなかった」

 

ハーバード大を相手取った訴訟を支援する中国出身のジョージ・シェン氏(50)は米国生まれの長男が大学選びをした3年前の経験を振り返った。同大の入学選考を調べ始め、アジア系米国人への差別を確信するようになった。

 

大学を訴えたのはNPO「公平な入学選考を求める学生たち」(SFFA)。主張はこうだ。アジア系米国人は「大学進学適性試験」(SAT)などで好成績を収める傾向がある。だがアジア系への入学許可枠が少なく、ほかの人種より合格率が低い――。

 

米国の大学では選考で人種を考慮することは認められているが、人種枠の設定は違憲とされる。これに対しSFFAは、アジア系の受験者が増えているのに2006~14年の合格者に占めるアジア系の割合が18~20%とほぼ一定だと指摘。他人種の割合も変化がなく、実質的に人種枠があると追及する。

 

裁判では、学業成績だけで選べば入学者の43%がアジア系になるというハーバード大の内部試算も明らかになった。米国では積極的に発言する生徒の評価が高く、SFFAは「アジア系はおとなしい」との先入観でマイナス評価され、合格率が落ちると訴えた。

 

これに対し大学側は「人種を含めた志望者の全ての要素から柔軟に判定している」などと反論する。

 

学生や同窓生の25団体は裁判で大学擁護の意見書を提出した。その一つ、音楽グループ「21カラフル・クリムゾン」代表のジェームズ・マシューさん(20)はインド系米国人。白人が大半だったシカゴ郊外で生まれ育ち、周りとの違いを常に感じていた。「この国ではアジア系への偏見は間違いなくある」と話す。

 

だが、ハーバードは、肌の色や背景の異なる様々な学生が共に学び、刺激を与え合う。「ここは国のリーダーも輩出する学校だ。多様性のある環境での教育が極めて大事」。入学選考で人種への一定の配慮は必要、との考えだ。

 

黒人ら優遇に「逆差別」の声

この裁判が注目されるのは、大学入学選考にとどまらず、差別されてきた黒人らの待遇を改善する「積極的差別是正措置」(アファーマティブ・アクション)の存廃にかかわるとみられているためだ。白人保守派は白人への「逆差別」と捉え、撤廃を目指してきた。

 

今回もその延長線上で、原告側の真の狙いは、保守色を強める連邦最高裁まで持ち込み、積極的差別是正措置そのものを違憲とする判決を勝ち取ることではないか、とみられている。

 

こうした見方を裏打ちするのが、原告SFFAの実態だ。サイトには「学生や親ら2万人以上のメンバーを抱える」とあり、裁判ではアジア系米国人を代弁する。だが大学側は「SFFAは会長のエドワード・ブラム氏が自身のイデオロギー的目標のために作った装置」と切り捨てる。

 

ブラム氏は白人女性が08年、「人種を選考基準にすべきではない」とテキサス大を訴えた裁判の仕掛け人だった。この裁判では負けたが、今度はアジア系を前面に立てて揺さぶっているというわけだ。少数派優遇に批判的なトランプ政権はSFFAを支持する意見書を提出している。

 

このため「アジア系がブラム氏に利用されている」との批判もある。だがSFFAと協力する中国系中心の「教育のためのアジア系米国人連合」(AACE)のユーコン・ジャオ会長は「我々はブラム氏に会う前から運動している。こちらがブラム氏の影響力を利用しているようなもの」と意に介さない。

 

AACEはイエール、ブラウン、ダートマスなどの名門大にも入学選考で差別があるとして教育省司法省に調査を求めている。

 

一方、高等教育の構造的不平等を研究するコロンビア大学法学院のスーザン・スターム教授は「裁判が積極的差別是正措置との関係だけで語られるのは大きな問題」とする。

 

エリート校には恵まれた家庭出身の学生が多い。教育機会が得られない層をどう取り込むかがより重要で、積極的差別是正措置は「最も弊害の少ない方法」とみる。

 

スターム氏は「テストで順位づけをするから『自分の方が優秀で入学資格がある』といった考えになる。むしろ標準テストを選考要素から外すべきだ」とも提案する。(中略)

 

〈積極的差別是正措置〉 

少数派の人種や女性など歴史的、社会的に不利な処遇を受けてきた集団を優遇することで状況を改善する措置。米国では1961年、ケネディ大統領が連邦事業受注者の人種差別を禁じる大統領令を出したのが最初とされる。

 

その後少数派人種の優遇枠として導入が進んだが、「白人への逆差別」との批判が出て、入学選考をめぐる78年の連邦最高裁判決では人種枠設定は違憲とされた。一方、同レベルの候補者がいる場合に人種を考慮することは認められた。カリフォルニアなど取りやめた州もある。【1月16日 朝日】

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この裁判、10月にハーバード大学側の勝訴の判決は出ましたが、上記にも “保守色を強める連邦最高裁まで持ち込み、積極的差別是正措置そのものを違憲とする判決を勝ち取ること”が目的ではないか・・・とあるように、原告側は“必要であれば最高裁まで争う”と表明しています。

 

****米ハーバード大、入学者選考のアジア系差別訴訟で勝訴****

米国の連邦裁判所は1日、ハーバード大学がアジア系米国人の志願者を差別していると訴えられた民事裁判で、同大が入学者選考で人種を考慮に入れているのは適切だとして原告の主張を退けた。

 

(中略)大学側はアジア系学生への差別を否定する一方、個人の属性を含め、学業の優秀さ以外の幅広い選考基準を用いることの正当性を主張。人種は選考過程で考慮される多くの要因の一つにすぎないとしている。

 

また、大学側は昨年10月、3週間にわたり陪審なしで行われた裁判で、アジア系学生の比率は2010年以降大幅に増加していると説明していた。

 

この裁判の判決はかねて注目を集めてきた。アリソン・デール・バローズ判事は、ハーバード大の選考手続きは完璧とは言えないものの、現時点では、同大が多様な学生層を形成するために志願者の人種を考慮に入れるのは適切であるとの判断を示した。

 

ブラム氏は控訴する意思を示し、必要であれば最高裁まで争うと表明した。(後略)【10月2日 AFP】

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たとえ下級審で敗訴しても、“保守色を強める連邦最高裁まで持ち込み、最終的に違憲とする判決を勝ち取る”ことを目的とするということでは、同様の動きは中絶禁止を求める訴えなどでもみられます。

 

トランプ大統領が最高裁判事に保守派を送り込んだことは、リベラルに過ぎる現状を是正したいと考える保守層にとっては非常に大きな(おそらく政権最大の)功績となっています。

 

【多様性が重視されるなかで、人種・性的指向についてどう答えれば有利?】

いずれにしても、人種を選考過程で考慮することが認められているアメリカの場合、自分がどの「人種」に該当するとアピールすれば一番有利になるのか・・・・問題が存在します。

 

****あなたの人種は? 米大学願書の悩ましい質問 *****

どう回答すれば有利になるかを気にする志願者

米国の一流大学が多様性を推進するなか、共通願書のある項目が複雑な意味を持つようになっている。志願者のアイデンティティーについて聞く項目だ。

 

カウンセラーや家族によると、学生たちは入学がかつてないほど難しいと知っており、少しでも自分に有利になるように回答しなければならないと感じている。これに対して大学側は、学生から提供される情報を確認する方法がないことにいら立っている。

 

大学のカウンセラーは学生や親から以下のような質問を受けている。「少しでも先祖の血が入っていれば当てはまるか」「父親はキューバ人だが本人はスペイン語を話せない場合、ヒスパニックにチェックを入れるべきか」「実際は違ってもゲイまたはバイセクシャルだと申告すれば有利か」

 

(中略)共通願書は約900の大学に受け入れられている。年に100万人を超える学生が約500万通の送付に使う。属性のセクションへの回答は任意だが、共通願書の広報担当者によると回答率は90%だ。学生は自分が属する人種や民族ではなく、「自分をどう認識するか」をたずねられる。

 

大学の入学事務所内では、学生が本当に特定のグループのメンバーなのか、それとも制度に乗じようとしているのかを巡り議論や疑問が飛び交っている。

 

志願者の人種はほとんど影響せず、学校が検討する多くの要素の1つにすぎないと入学選考の担当者らは話している。だが、合格率が1桁の一流大学を目指す一部の志願者とその家族は、いくら小さな強みであってもことさら大きな意味があるかのように考える。

 

ここにきてアイデンティティーを詳しく聞くようになった背景には、一流校が米国の人口構成の変化を反映しようと努めていることがある。

 

連邦政府の統計によると、例えばハーバード大学では自分が白人だとする1年生が2010年の739人から18年には601人に減った。ラティーノの学生は144人から176人に、黒人は99人から167人に増えた。全体の人数は横ばいだった。

 

人種について虚偽の申告をする入学詐欺事件もあった。ある大学カウンセラーは、一部の顧客に黒人かラティーノだと申告するよう勧めた件で3月に有罪を認めた。弁護士はコメントを控えた。(中略)

 

一部の大学は入学に際して性的指向や性同一性を考慮している。大学でのトランスジェンダー方針に関する権利擁護団体「キャンパス・プライズ・トランス・ポリシー・クリアリングハウス」のコーディネーターによると、少なくとも28の大学が性的指向について志願者にたずねている。【12月24日 WSJ】

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“28の大学が性的指向について志願者にたずねている”というのも驚きですね。日本では絶対に考えられないことです。

 

【増加する反ユダヤ主義的ヘイトクライム トランプ大統領は批判するも・・・・】

「人種を考慮することは認められているが、人種は選考過程で考慮される多くの要因の一つにすぎない」という曖昧な話とは違って、「絶対にあってはならない」のが人種に関するヘイトクライム。

 

****米 ユダヤ教徒 刃物で切りつけられ5人けが ニューヨーク州 ****

アメリカ東部のニューヨーク州で28日、ユダヤ教の聖職者の家に男が押し入り、ユダヤ教の祭りを祝っていた人たちを刃物で切りつけ5人がけがをしました。

 

州知事は人種や宗教に対する偏見に基づいた犯罪「ヘイトクライム」の可能性があるとして警察の専門チームに捜査を命じました。

 

28日午後10時ごろ、ニューヨーク州南部のモンシーでラビと呼ばれるユダヤ教の聖職者の家に刃物を持った男が押し入り、ユダヤ教の祭り「ハヌカ」を祝うために集まっていた人たちを次々と切りつけました。
地元警察によりますと、5人がケガをして病院に運ばれたいうことです。(中略)

事件が起きた地域はユダヤ教の教義を忠実に守る「正統派」と呼ばれる人たちが多く住む地域で、先月も正統派の男性が暴行を受ける事件が起きています。

ニューヨーク市内ではユダヤ教の人たちをねらった嫌がらせなどの犯罪が相次いでいることから警察は27日からパトロールを強化しています。【12月29日 NHK】

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当然ながら、トランプ大統領も反ユダヤ主義への厳しい批判をツイートしています。

 

****「反ユダヤ主義根絶」と米大統領 事件受け投稿****

28日夜に米ニューヨーク市近郊でハヌカ(光の祭り)を祝っていたユダヤ教ラビ(指導者)の自宅で5人が刺された事件を受け、トランプ米大統領は29日、「反ユダヤ主義の邪悪に立ち向かい、根絶しなければいけない」とツイートした。(後略)【12月30日 共同】

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また、アメリカ史上最も“親イスラエル派”を自負するトランプ大統領は11日、ユダヤ教を宗教としてだけでなく国籍として再定義するとした大統領令に署名。反ユダヤ主義とみなす大学キャンパスでのイスラエル批判運動に対抗する狙いとみられています。

 

ただ、自身のポリティカルコレクトネスを無視した人種差別的言動、白人至上主義への寛容ともとれる言動が、隠れた存在だった白人至上主義をパンドラの箱から引き出すことになり、その流れで反ユダヤ主義も拡大しているということをどのように認識しているのでしょうか。

 

****ユダヤ人へ憎悪犯罪相次ぐ 米NY州、今月だけで13件****

米ニューヨーク州で、反ユダヤ主義的思想に基づくとみられる事件が相次いでいる。(中略)

 

クオモ知事によると、ニューヨーク州では12月初旬以降だけで反ユダヤ主義的な思想が背景にあると疑われる事件が13件発生。

 

男(28)が「ユダヤ教徒のクソ野郎」とののしって男性信者(65)を殴るなどのヘイトクライム(憎悪犯罪)が確認されている。男は暴行罪で起訴されている。【12月30日 朝日】

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トランプ大統領が最高裁判事に保守派を送り込んだことが保守派にとって政権最大の功績なら、人種差別・白人至上主義が拡散するパンドラの箱を開けたことは、社会全体にとって政権最悪の弊害でしょう。

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