孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  米上院の人種差別謝罪と白人至上主義団体の活動活発化

2009-06-23 21:08:36 | 世相

(この昨年11月4日の風刺漫画は、オバマ大統領誕生を聞いてアメリカから逃げ出すKKKや極右団体の人間を描いていますが、現実はむしろ逆で、非白人大統領誕生は彼等の活動を活性化させているようです。
“flickr”より By Bearman2007
http://www.flickr.com/photos/bearmancartoons/3003954309/)

【「米国民を代表してアフリカ系米国人に謝罪する」】
アメリカでは6月19日は「奴隷解放の日」ですが、その前日18日に、米上院はアフリカ系米国人(黒人)に対して公式に謝罪する決議を全会一致で採択したそうです。

****米国:人種差別、上院が謝罪…黒人奴隷解放から144年*****
米上院は18日、奴隷制度(1865年廃止)と人種差別の象徴となったジム・クロウ法(1964年廃止)で苦痛を味わったアフリカ系米国人(黒人)に対し、公式に謝罪する決議を全会一致で採択した。下院では昨年、同様の決議を採択しているが、黒人初のオバマ大統領が誕生したことを受け、上院でも採択した形だ。
決議では「奴隷制度や人種差別の根本的な不法、残虐さ、残忍さや残酷さ」を認め、「米国民を代表してアフリカ系米国人に謝罪する」としている。昨年の下院決議も同様の内容で、下院は近く改めて決議を採択する。
米国では1865年の南北戦争終結後の黒人解放にちなみ、6月19日は「奴隷解放の日」と呼ばれ、上院決議はその前日に採択された。ただ、拘束力はなく、連邦政府の法的補償なども避けている。【6月21日 毎日】
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アメリカという国を外から眺めていると、その国民性の長所や首を傾げたくなるところなどいろいろありますが、こうした決議に見られる率直さは美徳のひとつではないかと思われます。
それが、アメリカ社会のダイナミズムの背景にあるようにも思えます。

【支持基盤拡大の好機】
今回決議は、黒人初のオバマ大統領が誕生したことがきっかけのようですが、当然ながらアメリカ社会全体が黒人大統領誕生を喜んでいる訳でもなく、アメリカ社会が人種差別を捨て去っている訳でもありません。
むしろ、黒人大統領誕生の衝撃と、多くの人が家や職を失う経済危機は、人種差別的な極右団体の活動を活気づかせているそうです。

人種保護団体の南部貧困法律センター(SPLC)によると、08年の人種差別団体数は926で、07年比で4%増、00年比では54%増になっています。
また、極右団体のサイトは大統領選挙投票日翌日にはアクセスが殺到し、サーバーがダウンする状況だったとか。
そうした白人至上主義的な極右団体サイトのひとつ“ストームファーム”は、オバマ勝利から24時間以内に2800の新規ユーザー登録があったそうです。【5月20日号 Newsweek日本語版より】

極右団体は、現在の状況を支持基盤拡大の好機ととらえており、インターネットを通じて宣伝活動を強めています。
表面的には白人至上主義をあまり過激にださないようにする傾向もあるとか。
「大型テレビも車も持っていたのに失業し、転職しようにも不法移民に先を越された普通の男たち」を集めるために。
ある極右団体幹部のスカウト担当者への言葉・・・「慎重にやれ。いきなり核心を突くと彼等はショックを受ける」
「移民や経済・非白人大統領だけを取り上げても関心はあつまらない。世間の関心を集めるためには、いろいろな要素を組み合わせる必要がある。」
「今は黒人の糾弾より、白人の尊厳と文化を強調する。」【5月20日号 Newsweek日本語版より】

【噴出す憎しみ】
こうした人種差別的な団体が一定に存在し、その活動を活発化させるなかで、突発的な事件が噴出すこともあります。

****ホロコースト博物館で黒人警備員射殺 米社会、なお根深い人種偏見****
米首都ワシントンのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)博物館で10日午後、「白人至上主義」を信奉する88歳の男が、黒人警備員をライフル銃で射殺した。男はこれまでもユダヤ人虐殺を否定し、黒人やユダヤ人への憎悪を露骨に語るなど、凶行は確信犯的な色彩が強い。オバマ米大統領は同日、「反ユダヤ主義と偏見への警戒」を国民に訴えたが、事件は黒人大統領が登場する時代を迎えてなお、米社会がひきずる人種差別の根深さを示すものとなった。(中略)

連邦捜査局(FBI)などが犯行の背景を調べているが、単独犯とみられている。容疑者は1981年、高金利政策への不満から連邦準備制度理事会(FRB)ビルに銃やナイフを持って押し入り、6年間服役した前科を持つ。
容疑者は米国の代表的な反ユダヤ主義者、ウイリス・カート氏の影響を受けたとみられ、「ユダヤ人が米国の金融を支配している」という狂信的な考え方を抱いていたとされる。自身が運営するウエブサイトなどでは、ホロコーストを否定するとともに、ユダヤ人を「西欧文明の破壊者」と非難していた。

人種差別を掲げる米国の結社では、奇怪な白衣姿で黒人襲撃を繰り返した「KKK」(クー・クラックス・クラン)が有名だが、差別問題を監視する非政府組織(NGO)の調査では、KKKの残党だけで186組織が確認されている。ネオナチ団体も196を数えるなど、CNNテレビによれば、FBIが把握する人種差別団体は、全米で900以上に上る。
事件を受け、米メディアは約30年前に離婚した元妻まで探し出し、容疑者の「過激な思想傾向」をあぶり出している。同時に、歴史的な景気後退の中で、差別主義に基づく独善的な犯罪が増える可能性にも言及している。【6月12日 産経】
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6月5日ブログ「不機嫌な時代 ヨーロッパ・オーストラリアで広がる移民への不寛容 」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090605)では、ヨーロッパ社会における移民排斥の動きや極右団体の勢力拡大をとりあげましたが、人間というものは、自分自身を含めて、とかく差別をしたがる生き物です。
特に、うまくいかないことがあると、それを差別対象集団のせいにして憎しみ・敵意をぶつける傾向があります。
ひとの心から差別を消し去ることは至難の業ですが、対症療法としては、1日も早い経済回復でしょう。


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