孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エイズ  人類とウイルスとの終わりなき戦い

2008-11-01 15:44:54 | 世相

(カメルーンのエイズ関連病院で “flickr”より By Elin B
http://www.flickr.com/photos/beckmann/415931748/)

【新型ウイルス】
今年もインフルエンザワクチン接種の張り紙が病院に貼られる季節になりました。
恐らく近い将来世界は、鳥インフルエンザからの変異による新型インフルエンザとの悲惨な闘いに直面するのでしょうが、危機を実感することなく日々が過ぎていきます。

未知のウイルス被害もときどき報告されています。

****新型ウイルス:ザンビアから帰国の4人死亡 南ア****
南アフリカ保健省は10月30日、9月にザンビアから南アに帰国した女性ら4人が原因不明のウイルス性出血熱で死亡し、病原体が新型のアレナウイルスであると特定したと発表した。
女性は9月12日に、ザンビアから航空機でヨハネスブルクの病院に緊急搬送され、2日後に死亡した。その後、女性に同行した医師や担当の看護師、接触のあった清掃員が相次いで発症し、10月6日までに死亡した。(後略)【11月1日 毎日】
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上記記事では、山本太郎長崎大教授(国際保健学)の話が掲載されています。
“人間に対して病原性を持つ新型のウイルスの出現には注意深い対応が必要だ。現時点の情報では、今後、感染が拡大するかどうかは分からない。ウイルスは環境破壊などで生態系が乱れると、自身が生き残りを図ろうとして、本来の宿主から人間に感染するケースが出てくる。 ”

【未だ出口の見えないエイズとの闘い】
新型インフルエンザなどと比較すると、エイズは日本ではひと頃の大騒動も昔話しとなった感もありますが、今現在人類を脅かしている病気であることには変わりありません。
治療薬の発達である程度コントロール可能な病とはなりましたが、画期的な勝利は未だ手にしていません。
治療薬にしても、現実には経済問題と絡みますので、感染が深刻な途上国では難しい現状が続いています。

最近目にしたエイズ・HIV関連の記事をいくつかピックアップします。

****【インド万華鏡】エイズ問題 エリート層にも感染拡大****
経済成長著しいインドで今も影を落とすのが、エイズの問題だ。インドのHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染者数は昨年、従来の約570万人から約240万人へと大幅に下方修正された。
これは推計方法が変わったためとされるが、これで問題が解決したわけではない。
最近では所得の増加に伴い、実業家や政治家を相手にする高級コールガールも登場した。
さらにインドのエリート民兵組織の兵士が多数、感染症のため死亡していたことがわかり、改めてこの問題の深刻さが浮き彫りになっている。(後略)【9月23日 産経】
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経済成長に伴ってインドを訪れる外国人ビジネスマンやインド人実業家、政治家を相手に、1時間で20万ルピー(約47万円)を稼ぐ高級コールガールも現れているそうで、このような高級コールガールが増えることで、これまでHIVとはかかわりがないと思っていた社会層に、感染が広がるとの懸念は強いことを記事は指摘しています。
これで社会の指導層がエイズ対策に本腰をいれるようになれば、これはこれで・・・とも思われます。
いつも不幸は貧困層だけ・・・というのも不公平です。

****停滞するエイズワクチンの開発、発想の転換を迫られる研究現場****
米医薬大手メルク社が、開発中のエイズワクチンの臨床試験を中止してから、まもなく1年。エイズワクチンの開発は一歩後退したかに見えるが、科学者らは「(メルク社の)敗北が、全く新しいエイズ予防策へと目を向ける転機となった」と、希望を捨てていない。
エイズウイルスの発見から約30年が経過し、エイズによる死者は累計で2500万人にのぼる。エイズワクチンの開発には数十億ドルが費やされているが、いまだに有効なワクチンは登場していない。

南アフリカ・ケープタウンでは前週、年に一度の「国際エイズワクチン会議」が開催された。出席した国際HIVワクチン事業ディレクターのアラン・バーンスタイン氏は、「エイズ治療の研究において、われわれは全く新しい発想へと転換している最中だ」と語る。(中略)

現在、世界では約30のエイズワクチンの臨床試験が行われている。中でも最も注目されているのは、2003年からタイで行われている過去最大の臨床試験だ。これまでに1万6000人が参加した試験の結果は来年にも出るが、どんな結果であれ、エイズに関する有益な情報が提供されるものと期待されている。【10月20日 AFP】
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HIVウイルスはいたる所で突然変異を引き起こすため、従来の抗体を生成するという発想が通用せず、ワクチンの開発が進展していません。
記事では、今最も有望視されている研究の1つとして、生体防御反応としての自然免疫システム活用という新たな方策を紹介しています。

【ウィキペディア】によれば、“(エイズは)1981年にアメリカのロサンゼルスに住む同性愛男性に初めて発見され症例報告された。ただし、これはエイズと正式に認定できる初めての例で、疑わしき症例は1950年代から報告されており、「痩せ病」(slimming disease)と言う疾患群が中部アフリカ各地で報告されていた。1981年の症例報告後、わずか10年程度で感染者は世界中に100万人にまで広がっていった。”とのこと。

81年からでも30年近くが経過しようとしています。
そろそろ画期的なものが見つかってもよさそうだけど・・・と素人は考えてしまいます。

上記記事で、開発中のエイズワクチンの臨床試験を中止したとされる米医薬大手メルク社ですが、治療薬分野では成果が報告されています。

****新型抗HIV薬の臨床試験、結果はより効果的****
米医薬品大手メルクの研究チームは26日、新型抗エイズウイルス薬アイセントレスが、未治療患者の間でHIV感染が拡大するのをよりよく抑制できるとする臨床試験の結果を発表した。
(中略)アイセントレスはHIVの複製をコントロールする酵素を基にしたインテグラーゼ阻害剤と呼ばれる新型の抗HIV薬。
今回発表されたのは、米食品医薬品局(FDA)に承認申請するための最終の臨床試験の結果で、アイセントレスは被験者の86%において、HIVの量を検出不可能な水準まで減少させた。
メルクが以前に開発した抗HIV薬エファビレンツでは82%だった。
また、エファビレンツによる副作用は被験者の77%だったのに対し、アイセントレスでは44%と大幅に少なかった。(中略)
メルクは、複数の抗HIV薬を投与されている米国のエイズ患者約50万人のうち、最大で4割が薬剤耐性を持っていると推定している。【10月28日 AFP】
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耐性ウイルスの増加によって、新薬の開発が必要とされています。
エイズによる死者の推移については、下記の記事が。

****WHO「エイズによる死者は2012年をピークに減少」*****
2008年10月28日 01:02 発信地:ジュネーブ/スイス
10月28日 AFP】世界保健機関(WHO)は27日、HIV/AIDSによる死者数が今後5年で過去最高となるとの見通しを示す一方で、先に発表した予想死者数を下方修正した。
WHOコーディネーターのColin Mathers氏は「(HIV/AIDSによる)死者は今後数年間増加するが、2030年までには現在の水準より減少するだろう」と述べた。
最新の予測では、08年の死者数は220万人、ピークの12年には240万人、30年には120万人に減少する。

これまでWHOは、HIV/AIDSによる死者数について、抗レトロウイルス薬が12年までに人口の8割に届くと仮定し、02年の280万人から2030年には650万人にまで増加するとしていた。
しかし、前年に国連が発表したエイズ患者数の推定が激減したことから、WHOは死者数予測を見直したとしている。【10月28日 AFP】
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エイズ患者の実態が減少したというより、推計方法の問題とも聞いていますが、いずれにしても減少することは喜しいことです。
ただ、“30年には120万人に減少”という数字も、まだまだ悲惨な数字です。
また、問題は抗レトロウイルス薬が開発されても、実際に利用可能かどうかは、経済問題で制約されるという現実があります。

****カメルーン:食糧高騰でエイズ予防に暗雲 生活苦、HIV感染者が授乳の可能性***
エイズ問題が深刻化するアフリカ・カメルーンで、食糧高騰のあおりを受けた粉ミルクの値上がりにより、エイズウイルス(HIV)母子感染を防ぐ保健活動に暗雲が垂れこめている。粉ミルクが買えず、感染の元になる授乳を行う母親が出てくる可能性があるからだ。市民団体は「対策が値上がりに追いつかない」と困惑している。
「月収の半分が粉ミルク代に消える」。南西部の商都ドゥアラ。ベニヤ板で築かれた簡素な住まいで、団体職員のベーテさん(30)が、6月に出産した長男クリスチャンちゃんをあやしながら、沈うつな表情で話す。(中略)

日本の政府開発援助「HIV/エイズ信託基金」の支援を受ける非政府組織「カメルーン家族計画協会」のンガペ事務局長は「粉ミルクは感染者の母親にとって不可欠だ。しかし、値上げに対策が追いつかない」と嘆く。政府も世界的な食糧高騰になすすべもない状態なのが実情だ。
さらに、燃料費もこの1年で4倍になっており「交通費の上昇がHIV感染者の治療や支援へのアクセスを妨げている」(同事務局長)状態で、事態は深刻度を増している。【高尾具成 10月28日 毎日】
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現実の経済問題において、高価なエイズ治療薬を使えない貧困層が多数存在することについて、製薬会社を非難する声が多く聞かれます。
コピー薬の利用なども現実も方策としてとられます。
対策が必要なことは言うまでもないことですが、製薬会社を“ひとの不幸で金儲けする悪魔”みたいに非難するのは考えものです。
先述のメルク社も利益が得られないのであれば、新薬の開発からは撤退します。
なんらかの折り合いをつけるべき問題です。

上記カメルーンから下記の報告も。

****カメルーン:進まぬHIV対策 偏見が感染助長*****
エイズウイルス(HIV)がまん延するアフリカで、感染者の女性が十分な治療もされないまま出産、乳幼児を失った上、家族から追い払われる仕打ちを受けている。古い因習に基づく偏見が原因だ。
(中略)夫に(エイズを)告白すると同居の家族に非難を受け、家を追い出された。首都郊外の故郷の村に戻ったが、自分の家族にも受け入れを拒まれ、行き場を失った。(中略)「ヘビの子だ。川に捨てなさい」。夫の家族から浴びせられた言葉に、子どもを抱き、家を出た。16カ月目に男児も死亡した。【10月31日 毎日】
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犠牲者をとりまく世間一般、私たちの問題でもあります。



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