孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  総選挙に向けて、タクシン元首相の妹インラック氏の人気高まる 困難な国民和解

2011-06-17 22:10:32 | 世相

(選挙活動中のインラック氏 “flickr”より By sammi.qaid@gmail.com http://www.flickr.com/photos/63811049@N04/5810471806/

【「美男美女対決」】
東北部・北部農民や都市貧困層などを基盤とするタクシン元首相を支持する勢力と、都市中間層や既得権益層を基盤とする反タクシン元首相勢力が対立し、互いに街頭行動で政権に揺さぶりをかける形で、政治機能がマヒしているタイでは、こうした状況を打開すべく7月3日に総選挙が行われます。

タクシン元首相派のタイ貢献党が第1党を維持するものの、単独過半数にはとどかず、反タクシン派の民主党などで連立政権を・・・というのが、選挙に打って出たアピシット首相の目論見と伝えられています。
しかし、タイ貢献党が野党首相候補として比例1位に置いた、タクシン元首相の妹インラック氏(43)の人気が高まっており、アピシット首相の狙いどおりに行くかどうか・・・。
このあたりの経緯は5月29日ブログ「タイとペルー  奮戦する身内女性候補 タクシン元首相の末妹とフジモリ大統領の長女」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110529)でも取り上げたところです。

****タクシン元首相妹、指導力と容姿で総選挙に旋風*****
7月3日の投票まで2週間余となったタイ総選挙では、タクシン元首相(61)の妹インラック氏(43)を首相候補とするタイ貢献党が同氏の人気を追い風にアピシット首相(46)率いる民主党を世論調査でリードしている。
タイ貢献党は政権奪還の芽も出てきた。

インラック氏は15日、メコン川沿いの農村ムクダハンで遊説した。「かつて兄を信じたように、私を信じてください。みなさんの所得を上げます」と語り、数千人の大歓声を浴びた。東北部のムクダハンはタイ貢献党がもともと強いが、熱狂ぶりは目を見張った。
不動産会社社長から転身したインラック氏の端麗な容姿も有権者を引きつけている。メディアは、イケメンで知られるアピシット首相との選挙戦を「美男美女対決」とはやし立てている。

全国的にもインラック氏の人気は高まっている。アサンプション大が5月半ばから今月にかけて行った3回の調査で、インラック氏の「指導力」を評価した人は初回の12・9%から32・5%に跳ね上がった。その人気は政党支持率にも反映され、バンコク大の最新調査(タイ貢献党33・6%、民主党17・1%)など、各種調査でタイ貢献党がリードしている。【6月17日 読売】
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【「全員が結果を尊重すべきだ」】
選挙結果が出ても、これを不服とする勢力が再び街頭行動を繰り広げると、不毛の対立の延長ともなりかねません。
アピシット首相は「全員が結果を尊重すべきだ」と述べ、そうしたデモなどによる政権揺さぶりに否定的な考えを示しています。

****タイ首相「総選挙結果、尊重を」 デモに否定的考え示す****
タイのアピシット首相が14日、7月3日の総選挙を前に朝日新聞など海外の報道陣と会見した。各種世論調査では、アピシット政権と対立するタクシン元首相派の最大野党・タイ貢献党が優勢だが、アピシット氏は「全員が結果を尊重すべきだ」と述べた。

アピシット氏は自身が率いる民主党の苦戦を認めた上で、過半数をとる政党はないとの見方を示し、「第1党が連立政権を作れなければ、第2党が試みる」と発言。現状と同様に、他党との連立で民主党政権の継続を探る考えを示した。

タイでは2006年にタクシン元首相がクーデターで追放されて以降、元首相支持派と反元首相派が互いに相手を非難し、デモを繰り広げてきた。タクシン派が政権を握っていた08年には、反タクシン派が空港などを占拠。アピシット政権下の昨年はタクシン派がバンコク中心部を占拠し、軍と衝突するなどして約90人が死亡した。【6月15日 朝日】
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民主主義制度への支配層の不満
ただ、当初アピシット政権を支持して、その基盤ともなっていた反タクシン元首相派市民組織「民主市民連合」(PAD)(いわゆる“黄シャツ”)は、カンボジアとの国境紛争への首相の対応を「弱腰」と批判し、“離反”を強め、総選挙ボイコットを決めています。

****タイ:「VOTE NO!」 反タクシン派が訴え****
「VOTE NO!」(ノーに投票を)。7月3日投票のタイ総選挙へ向けて、08年にバンコク空港占拠事件を起こした反タクシン元首相派市民組織「民主市民連合」(PAD)が候補者を動物に見立て、「動物を国会に送るな」を合言葉に「ノー」に投票するよう訴えている。
タイでは投票用紙に「意中の候補者なし」を意味する「ノー」の欄がある。

PADのポスターには、候補者の写真の代わりにスーツ姿のイヌやトラ、水牛などの動物たち。PADは「政治家はほえているか、有権者におもねるか、いずれにしても動物並み」と批判する。
PADを支えるのは旧来の支配層だが、数の上ではタクシン派支持の庶民層に勝てない。「VOTE NO!」の背後には、「多数派が支配する」という選挙に基づく民主主義制度への、支配層の不満も見え隠れする。【6月10日 毎日】
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アピシット首相とは袂を分かった「民主市民連合」(PAD)が、タクシン派勝利の選挙結果にどのような対応を示すのか注目されます。
仮に、アピシット首相の思惑どおりの選挙結果になったとしても、これまでの対立を収束して国民和解を目指すためには、タクシン派への歩み寄りが必要になりますが、アピシット首相を支えてきた既得権益層の軍や王室側近などがそうした行動を許すか・・・難しいものがあります。
もちろん、タクシン派勝利でインラック氏が首相となった場合も、兄タクシン氏の影響力を排しての歩み寄りが求められますが、これまた難しそうです。

既得権益層や反タクシン元首相派市民組織「民主市民連合」(PAD)には、上記記事の最後にもあるように、タクシン派を支持する貧困層が数の力で政権を握ることへの不満があります。
“貧しく容易に買収される田舎の低学歴大衆が投票権を持つべきではない”といった、貧困層蔑視、民主主義制度そのものへの疑念もあって、貧困層の投票権を制約しようという考えを示しています。

****タイ 貧者の投票権を制限する新政策****
首相府の占拠にまで発展したタイの反政府抗議運動は、民主主義の概念に反するようだ。
中産階級、都市住民、有産階級、王国支持者、公務員等に支持される右派「市民民主連合」(PAD)は、その名にかかわらず、タイ選挙の鍵を握る地方貧困層の選挙権を制限しようとしている。

PADの貧困層および平等参政権に対する嫌悪は、選挙におけるタクシン前首相の度重なる勝利に起因する。これらの勝利は、地方貧困層の支持によるものだからだ。5月後半に開始された選挙運動において、PADは12月の総選挙で勝利したタクシン主導の「人民の力党」(PPP)を標的にしている。

貧困層の選挙権を取り上げ、彼らの政府選択権を制限しようとする試みは、民主主義に独自の解釈を加えてきた地域の独裁、権威主義的国家に追随するものである。

政府庁舎での集会で演説を行ったPADリーダーを始めとする人々は、北東農業地帯の貧しい有権者に対する軽蔑を抑えることができず、票を金で売るような無知、無教育な人間だと非難した。しかし、農民を批判する都市部の富裕層は、彼らが如何に封建主義に近いかを露呈した。長い歴史を有する同国では、豊かで教育レベルも高いエリート、貴族階級が1932年に立憲君主国となったタイには民主主義はまだなじまないと主張してきたからだ。

国家人権委員会の元メンバーでPAD批判の先頭に立つジャラン・ディタピチャイ氏は、「タイ国民の大半は封建的考えを持っており、彼らは貧しい人々をこのように扱うことを何とも思っていない。PADおよびその支持者は、民主社会における主権者は人であるという原則を信じていない」と語る。

この姿勢が、PADおよび反政府派のタイ貧困層対策の欠如に表れている。タクシンは2001年、2005年の選挙で、農家補助や皆民健康保険といった政策を訴え議席の過半数を獲得した。世界銀行は、2001年には千3百万人であった貧困者が2005年には708万人に半減したとして、タクシンの貧困対策を称賛した。東北部の農業収入も、タクシン就任から最初の4年間で40パーセント増加した。

ある著明評論家は、「PADの言うように奥地の人々が投票の仕方を知らなかったのではない。彼らは票の有効活用を学んだのだ」と皮肉っている。右派「市民民主連合」の農民批判について報告する。 【08年9月15日 IPS】
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こうした民主主義の概念に反する貧困層蔑視の立場に立つかぎり、選挙結果を踏まえて国民和解へ・・・という道は、なかなか開けそうにありません。

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1 コメント

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民衆政治ポピュリズム (テシベ トケシャン)
2011-07-04 00:14:12
日本の民主党(本当に民主的?)の前原さんが、管首相の政治手法を揶揄、「ポピュリズムで政治をしてはいけない」と講演。やれやれ、タイでの貧困層参政権規制を市民民主連合が主張しているけれど、どちらら様も「民主」とは名ばかりか。前原さん、政経塾で学んだのがこれかい?まあ、人類もやっと子供時代を卒業するかレベルなのでしょうから、マイペンライ!
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