孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ トランプ次期大統領の不法移民対策強化や攻撃的言動で醸成される“重苦しい空気”

2016-12-07 22:20:59 | アメリカ

(トランプ氏当選の翌日、ニューヨーク州内のソフトボール場に書かれていた落書き。「白いアメリカをまた偉大に」という言葉に、ナチス・ドイツの鍵十字。 【11月30日 BBC】)

トランプ氏の不法移民対策強化で、元カレへの復讐や民間移民収容施設活況なども
“トランプ氏は選挙戦で不法移民に強硬な姿勢を打ち出し、来月20日の大統領就任後、犯罪歴のある200万人以上を強制送還することを公約。大半が中南米出身者で全米に推定1100万いるとされる不法移民の間に懸念が広がっている。”【12月7日 AFP】ということで、アメリカの不法移民関連のニュースが2件。

ひとつは別れた恋人が不法移民であることをツイートして公開して“復讐”するという恐ろしい話。

アメリカのドラマなどを観ていると、一般生活者にとって不法移民問題は、“違法ではあるが一定に黙認されている、ただし、何か事あれば違法として処罰される”という極めて身近で微妙な問題であることがわかりますが、こんな話も十分ありえるように思えます。

****昔の恋人は不法移民・・・・トランプ氏にかこつけた復讐ツイート流行 米****
米国人たちは別れた恋人に復讐する冗談半分ながら残酷な方法を見つけたようだ。

簡易ブログのツイッター(Twitter)で、不法移民の強制送還を公約に掲げるドナルド・トランプ次期大統領に「私の昔の恋人を送り返さないでほしい」などと懇願。そうすることで相手が不法滞在の身であることをほのめかし、さらにその住所までばらす投稿が相次いでいる。

「不法滞在しているドミニカ人の昔の恋人、ドナルド・トランプに強制送還されなければいいのだけれど」。あるツイッターユーザーはこうつぶやいた上で、元恋人が住んでいるとみられるケンタッキー州のアパートの住所を書き込んでいる。さらにその部屋は「最上階」にあるとまで具体的に記している。(中略)

これらのツイートは、フロリダやニューヨーク、カリフォルニア各州を含む全米から投稿されている。いずれもトランプ氏がツイッターの熱心なユーザーと知った上で、別れた恋人やパートナーをあてこするメッセージだ。(後略)【同上】
**********************

もうひとつは、拘束した不法移民を強制送還までどこに収容するのか?という、非常に現実的な問題に絡む話。

****民間の移民収容施設、トランプ氏勝利でビジネス活況の兆し****
米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利はビジネス界に驚きをもたらしたが、これまでほとんど知られてこなかった米国のある業界に息を吹き込んだ──民間企業が運営する刑務所や移民収容施設だ。

業界大手のコアシビックとGEOグループの株価は、大統領選の結果を受けてそれぞれ43%と21%の上昇を示した。
 
連邦レベルで運営されている民間の矯正施設は十数か所程度だが、今年8月に米司法省が民間刑務所の利用を段階的に打ち切る方針を発表して以降、両社の株価は不振に陥っていた。(中略)
 
現在、民間刑務所に収容されている受刑者の数は、全米の受刑者総数220万人の約0.5%と、わずかな割合でしかない。しかし、トランプ氏が大統領選に勝利したことで業界の見通しは覆り、投資家心理は一変した。
 
トランプ氏は治安維持に関して強硬な方針を掲げ、ホワイトハウス入りを決定付けた。これまでに、在留資格を持たない移民1100万人を全員強制送還するとも約束しており、これが現実となれば収容される移民の数は膨れ上がるだろう。

■大手2社が独占する移民収容施設
米国の移民収容施設は、移民関税執行局(ICE)の監督の下、民間企業、特に前述の2社が運営しているものが圧倒的に多い。それ故、来年1月の大統領就任直後に在留資格のない移民200万~300万人を強制送還または収容するというトランプ氏の公約が、この業界に好機をもたらす可能性も考えらえる。(中略)

さまざまな推計によると、米国では現在、毎年約40万人の移民がこのような施設に収容されている。その費用には税金が使われているが、利益は民間企業に流れている。公的統計によると、収容施設での成人用ベッド1床分のコストは1日当たり123ドル(約1万4000円)、家族用スペースで342ドル(約3万9000円)かかっているという。(中略)

一方、人権団体の米国自由人権協会(ACLU)は最近、移民収容施設の状況に対する政府の監督欠如を指摘しつつ、「民間セクターへの依存」をやめるようICEに要請した。
 
しかしトランプ氏には、こうした見解を共有する気配はまったくない。同氏は3月、「刑務所は大々的に民営化し、民間刑務所にすればいいと思う。その方がずっとうまくいきそうだ」と述べていたからだ。【12月7日 AFP】
*******************

11月15日には、トランプ政権移行チームの主要メンバーとみられるカンザス州のクリス・コバチ州務長官が、イスラム教徒の多い国からの移民を登録制にすることを再検討していると明らかにしています。

この移民登録について、トランプ氏を支持する政治活動委員会Great America PACの広報担当であるカール・ヒグビー氏はTV番組で、日系人強制収容所を先例とするような発言を行っています。

****日系人強制収容所を先例に」 トランプ氏の支持者がイスラム教徒の移民登録に賛成****
・・・ヒグビー氏は、アメリカは「過去にも人種、宗教や地域に基づいた登録をしてきた」と説明する。
「第二次世界大戦でも、日本人でやっていたように…」

これに、(キャスターの)ケリー氏が割り込んで反論。「ちょっと。日系人強制収容所を先例として、言っているのではないですよね」

ヒグビー氏はこう続ける。「同意しているというわけではない。ただ、先例としては挙げられる」

「次の大統領が何をするとしても、日系人強制収容所を先例として述べることはできません」。そうケリー氏が強く批判している間も笑顔を見せていたヒグビー氏。「大統領はアメリカを第一に守らなければいけない」と返答した。

「本当の脅威がどこから来ているのか特定できるまでは、憲法上の保護が受けられない人がいたとしても、移民登録を支持する」【11月17日 BussFeed】
********************

不法移民問題やテロ対策が重要な問題であることはわかりますが、なんだか重苦しい社会になりそうな気配も。

反トランプ的な都市・州では対抗する動きも
こうした流れに、トランプ氏への批判が強いニューヨークやカリフォルニア州からは市・州レベルで反対の動きも出ています。

****NYは移民を守る」 市長がトランプ氏と会談、市民の不安も伝達****
米ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は16日、市内でドナルド・トランプ次期大統領と会談した。
会談後の記者会見で、トランプ氏に対して、同氏が表明している不法移民の大規模な強制送還を阻止するためにあらゆる手を尽くすとけん制したことや、多くの市民が次期政権に「恐れを抱いている」と伝えたことを明らかにした。(中略)

デブラシオ市長は「この街(ニューヨーク市)、そして全米各地の多くの街は、住民を守るために、家族が引き裂かれてしまわないようにするために、できることは何でもやると彼(トランプ氏)に念押しした」と語った。
 
デブラジオ市長はニューヨーク市を移民の「保護区」にすると宣言しており、不法移民を強制送還させないことや、滞在資格の有無にかかわらず市民に公共サービスを提供していくことを確約している。

同様の考えはロサンゼルスやサンフランシスコ、シカゴ、ボストン、フィラデルフィア、首都ワシントンといった都市の首長も明らかにしている。(後略)【11月17日 AFP】
********************

****米カリフォルニア州、移民保護法案提出 トランプ氏に対抗****
米カリフォルニア州議会で多数派を占める民主党が5日、不法移民の強制送還などを掲げるトランプ次期米政権の取り組みから州内の移民を守る法案を提出した。来年1月20日のトランプ新大統領就任を前に、同氏の政策に対抗する姿勢を早くも打ち出した。

法案は、強制送還に直面する移民の弁護士費用を賄う基金を設置するとともに、刑事訴訟を専門とする弁護士に移民法の教育を提供する内容となっている。

カリフォルニア州には人口の約7%に当たる270万人以上の不法移民が居住する。

11月8日の大統領選では民主党のヒラリー・クリントン候補の得票率がトランプ氏を28%ポイント上回り、民主党支持が際立った。州議会も民主党が上下両院で3分の2の議席を占めている。【12月6日 ロイター】
********************

【「そうしたことを耳にして悲しんでいる」では済まないヘイトクライムの増加
不法移民対策の強化と同じ流れで社会を重苦しくするのが、黒人、移民、LGBT、イスラム教徒、ユダヤ人、女性など少数者へのヘイトクライムの増加です。

大統領を目指す者が、そして大統領に選ばれた者が、公然とこうした者への攻撃的な発言を繰り返すことで、従来は“差別的発言”を口にすることをためらっていたような人々の間で、そうした発言・行動が許されるのだという空気が広がっているように見えます。

****トランプ氏勝利以後、ヘイトクライムが増加と米公民権団体****
米国の主要公民権団体「南部貧困法律センター(SPLC)」は29日、ドナルド・トランプ氏が次期米大統領に当選して以降、マイノリティ(少数者)差別などを動機とした嫌がらせや脅しの事案が900件近く発生していると、調査報告を発表した。

SPLCはトランプ氏に対して、「嫌がらせ撲滅のため、強力に行動」し、「自分が傷付けたコミュニティーに手を差し伸べる」よう呼びかけている。

SPLCは教職員団体や他の人権団体と合同で、トランプ氏の言動が米国社会に与えた影響について指摘。ソーシャルメディアや報道記事のほか、憎悪や差別による被害報告を呼びかけるオンライン通報ページで情報を集めたところ、マイノリティが暴力を振るわれたり威圧されたりした事件が多発していることが確認できたという。

SPLCの調査報告書「10日後」は、こうした事案の中には、11月8日のトランプ氏の勝利に直接関係するものも含まれるという。

SPLCのマーク・ポトク上級研究員はBBCに対して、「壁の落書きに内容や、誰かが怒鳴った言葉の内容が、トランプ氏に直接関連するものだという意味で、犯行の多くはトランプ陣営に直接結び付くものだ」と話した。

SPLCによると、黒人の乗客がバスの後ろの席に移動しろと言われた事例が複数報告されている。
黒人がバスの後方にしか座れなかったのは、米国南部で1960年代まで続いた人種隔離政策の象徴的な施策のひとつだった。

アラバマ州では1955年に黒人女性ローザ・パークスさんが席の移動を拒否したことから、バス・ボイコット運動に展開し、1956年に最高裁がバスに関する隔離条例の撤廃を命令。公民権運動が高まるきっかけとなった。

SPLCの報告書によると、このほか移民の信者の多い教会の壁に「Whites Only(白人限定)」や「Trump Nation (トランプの国)」などと落書きされた事例があった。

また、同性愛の男性が車から引きずり出され、「お前らみんな殺していいって大統領が言ってる」と罵られ、暴行を加えられた事件もあったという。(中略)

SLPCはこれまでも、トランプ氏が新政権の首席戦略官に極端な右派系記事を掲載するオンラインメディア「ブライトバート・ニュース」の最高経営責任者だったスティーブン・バノン氏を選んだことを、強く非難してきた。

SLPCはバノン氏について、「白人民族ナショナリスト・プロパガンダの広告塔に、『ブライトバート』を仕立て上げた張本人」だと糾弾している。【11月30日 BBC】
*******************

SLPC報告書が挙げる憎悪事案の動機別件数で見ると、反移民が最も多く、次いで反黒人となっています。

バスでの黒人乗客への発言など、アメリカがこれまで成し遂げてきた大きな成果が脅威にさらされている思い、時代の歯車が逆回転しそうな恐怖を感じます。

首席戦略官・上級顧問に選ばれたバノン氏は保守派ニュースサイトを立ち上げた経歴があり、バノン氏が先陣を切って「白人至上主義」、「反ユダヤ主義」、「緩い新ナチズム主義的なグループ」へと導いたといった批判が挙がっています。【11月15日 ロイターより】

上記BBC記事と同趣旨の内容はこれまで報じられています。

****米国でデモの華人に卵投げつけ「白人至上主義が再び台頭か」―中国紙****
2016年11月14日、中国僑網は、米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が当選したことを受け、「米国の華人女性に卵が投げつけられた。白人至上主義が再び台頭か」と題する記事を掲載した。

米紙・世界日報によると、米大統領選の終了後、米国各地でデモや抗議行動が続いている。ニューヨークではデモに参加していた華人女性が卵を投げつけられ、涙ながらにネットに「白人至上主義が再び台頭するのではないか」と懸念を表明。トランプ氏の当選によりチャイナタウンで大きな話題になっているとした。(後略) 【11月15日 レコードチャイナ】
****************

****トランプ氏当選後にヘイト急増、学校で「米国を白人の国に」ナチスかぎ十字も****
米国ではドナルド・トランプ氏が次期大統領に選出されて以来、差別的な事件の報告が全土で相次いでおり、マイノリティー(少数派)や人権団体はヘイトクライム(憎悪犯罪)を行う団体が勢いづいているとして懸念を強めている。
 
フィラデルフィアではナチス・ドイツのかぎ十字やスローガンが店頭に落書きされ、ニューヨークの高校では外国人排斥を唱えるコールが上がり、脅迫メールが届き、大学のキャンパスでは差別的な行為が横行している。こうした事例が各地で急増しているのは、今月8日の大統領選以降だ。
 
米国内のヘイトグループ(人種や宗教に基づく差別・憎悪を扇動する集団)を調査している人権団体「南部貧困法律センター(SPLC)」はマイノリティーに対して増加している攻撃事例を追跡調査しているが、中でも攻撃にさらされているのは、トランプ氏が選挙期間中に最も扇情的な表現を用いて移民排斥の標的にしていたヒスパニック系の人々だ。
 
トランプ氏は13日に放送された米CBSテレビの番組インタビューで、イスラム教徒やヒスパニック系の人々に対する嫌がらせが急増していることについて質問されると「そうしたことを耳にして悲しんでいる」と述べる一方、そのような行為は「ごくわずかだった」と主張した。そして「もしもこれが役立つなら、まっすぐカメラに向かって言う。止めなさい」と述べた。

■「移民は荷物をまとめて出て行け」教室で上がる声
ワシントン州のある教師はSPLCに対し、大統領選の翌日に「学校のカフェテリアで昼食時間に『壁を造れ』とコールが繰り返されるのが聞こえた。

私が担任するクラスでも『この国で生まれたのでなければ荷物をまとめて出て行け』と叫ぶ生徒がいた。ホールでは『スピック(ヒスパニック系を指す差別的な表現)は出て行け』という声が上がっていた」と報告している。
 
SPLCの元には、大統領選が行われた11月8日から11日までの間に黒人、女性、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)を狙った事件に関する報告が200件以上寄せられたという。
 
米連邦捜査局(FBI)が14日に発表した報告書によると、イスラム教徒に対する攻撃は昨年67%増加した。
 
全米各地の教育機関では、リベラルな校風で知られる学校も含め、ここ数日で憂慮すべき事件が立て続けに起こり、学校側は対処を約束するメールを保護者らに送る事態に迫られている。

中には、トイレの壁にトランプ氏陣営のキャッチフレーズ「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」をもじって「米国を再び白人の国に(Make America White Again)」というスローガンが落書きされていたケースもあった。

■危惧される暴力の激化
言葉の暴力だけでは終わらなかった例もある。
 
カリフォルニア州サンノゼ州立大学では、イスラム教徒の女子学生が背後からいきなり白人男性にヘッドスカーフを引っ張られ、首が絞まりそうになる事件が発生。ミシガン大学でも、ヘッドスカーフを外さなければライターで火をつけるぞとイスラム教徒の女子学生が男性に脅される事件があった。
 
モンタナ州ミズーラでは、ユダヤ人がメディアを牛耳っていると非難するアメリカ・ナチ党のパンフレットが地域で配布され、地元のシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)が警察に警備を強化するよう要請した。(後略)。【11月15日 AFP】
*******************

「そうしたことを耳にして悲しんでいる」とのトランプ氏ですが、先述のように自身の言動が社会の空気を変えてしまったことに対する重大な責任があります。

うわべだけのポリティカル・コレクトネスが過度に注意される偽善的な社会をよしとするものではありませんが、少数者への攻撃的言動が許されるような雰囲気の社会はやはり怖いです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする