孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ロヒンギャ問題で国軍の“民族浄化”も スー・チー氏はASEAN外相会議開催

2016-12-13 21:57:59 | ミャンマー

(ラカイン州で生活するロヒンギャ族の人々=2012年【12月13日 CNN】)

ミャンマー・周辺国から厄介者扱いされ行き場のないロヒンギャ
かねてより懸念されているミャンマー西部ラカイン州に暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャめぐる状況が厳しさを増しています。

彼らを不法入国者とするミャンマー政府は“ミャンマー国民”とも“少数民族”とも認めておらず、10月に起きたロヒンギャとされる武装集団の軍への襲撃を契機に、ロヒンギャ掃討作戦を進めています。

こうした軍の対応に、ロヒンギャをミャンマーから追い出すための“民族浄化”ではないかとの批判が国際的に高まっています。

****ロヒンギャ2万1000人、ミャンマーからバングラデシュへ脱出****
国際移住機関(IOM)は6日、イスラム系少数民族ロヒンギャおよそ2万1000人が、ミャンマーでの暴力から逃れるためにここ数週間で隣国バングラデシュへ脱出したと発表した。

10月初旬以降、ミャンマー軍による弾圧が続く同国西部ラカイン州から逃れるロヒンギャたちが押し寄せているバングラデシュでは、国境付近での警備が強化されている。
 
ラカイン州と国境を接するバングラデシュ南東の都市コックスバザールにあるIOMコックスバザール事務所のサンジュッタ・サハニー所長によると、バングラデシュに逃れたロヒンギャの大半は、仮設の集落や公式の難民キャンプなどに避難しているという。

2万1000人という数字は、複数の国連組織と国際NGOが集計した10月9日から12月2日までにバングラデシュに到着した人数だとしている。
 
ミャンマー政府はロヒンギャに対する弾圧や虐待を否定しているが、同時にロヒンギャの居住地区への外国人ジャーナリストや独立調査組織の立ち入りも禁止している。【12月6日 AFP】
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(ロヒンギャ族の人々は西部ラカイン州に多く住む【12月13日 CNN】)

上記記事によれば、バングラデシュ側に“仮設の集落や公式の難民キャンプ”があるようですが、別にバングラデシュ政府が逃げてくるロヒンギャを自国民として温かく迎え入れている訳ではありません。

ロヒンギャはバングラデシュ政府にとっても厄介者です。その点ではミャンマー政府と同じ対応であり、ロヒンギャは行き場がない状態です。海に逃れても、タイやインドネシアの対応も“追い返す”といったものです。

****バングラデシュでも門前払****
バングラデシュ政府は国境警備を強化しているほか、沿岸警備艇を配置して、ロヒンギャ族の避難民で満載の船を追い返している。ミャンマー軍がラカイン州に住むロヒンギャ族に対して弾圧を始めて以来、バングラデシュ側が追い返した船の数は数百隻にも上っている。(中略)

バングラデシュの首都ダッカでは12月6日、ロヒンギャ族迫害に抗議するイスラム教徒たちが、ミャンマー大使館前を目指す数千人規模のデモ行進を行ったが、バングラデシュ警察はこれを阻止した。

ダッカ警察のシブリー・ノマン副本部長はAFPの取材に対し、参加者は1万人ほどだったが、「平和的な姿勢」だったと話している。【12月7日 Newsweek】
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****ロヒンギャ問題には周辺国も及び腰だ*****
(東南アジアの難民支援活動家)ファンさんの拠点はインドネシア北部アチェ州のNGO「グタニヨ基金」だが、アチェには昨年5月、ロヒンギャの人々が乗った船が次々漂着した。

同月、人身売買の犠牲者とみられるロヒンギャらの集団墓地が国境を挟んだタイとマレーシアの山中で相次ぎ見つかり、両国でミャンマーから逃れてくる船の取り締まりが強化された。

接岸できない船がインドネシアへ向かった。
インドネシア海軍も接岸を拒否したが、アチェの漁民が漂流船を救った。

ファンさんによると「海上で命を危うくする生き物は全て助けろ」と説く古来のおきてに漁民が従った。救助された人々は最終的に米国に行くことが決まった。【12月3日 時事】
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沈黙するスー・チー国家顧問
これまでも再三取り上げてきたように、仏教徒を中心とするミャンマー世論は圧倒的にロヒンギャを嫌悪しており、ロヒンギャに対する国軍の強硬な対応を支持しています。

そうした国民世論があるなかで、人権を重視するスー・チー国家顧問も国民世論を刺激するようなことは現実政治家としてはとりにくく、身動きがとれない状況とも思えます。

しかし、国軍の弾圧に沈黙するスー・チー氏への批判が人権団体などから高まっています。

****スー・チーにも見捨てられた?ミャンマーのロヒンギャ族****
<少数民族ロヒンギャ族に対するミャンマーの民族浄化は止まず、10月以降2万1000人がバングラデシュに逃れた。ミャンマー国家顧問でノーベル平和賞受賞者のアウン・サン・スー・チーも救援に動く気配はない>

・・・・ロヒンギャ族は、ミャンマーのイスラム教少数民族であり、その総数は100万人を超える。ミャンマーでは一般的にバングラデシュからやってきた不法移住者だとみなされており、事実上無国籍だ。選挙権はなく、子どもが生まれても出生証明書は発行されない。バングラデシュと国境を接するミャンマー南東部ラカイン州にまとまって暮らしている。

ミャンマーの事実上の最高指導者であり、ノーベル平和賞受賞者でもあるアウン・サン・スー・チーに対し、同国内で迫害を受けているロヒンギャ族を窮状から救うようアメリカ政府は呼びかけてきたが、スー・チーはこの問題に関する態度を留保したままだ。(中略)

この弾圧は今年10月、ロヒンギャとされる武装集団による攻撃を鎮圧する目的で始まったものだ(この攻撃では、国境を警備する警察官9名が殺害された)。

国連高官はBBCに対し、ミャンマーはロヒンギャ族の民族浄化を進めていると述べた。人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが衛星画像を分析したところ、ラカイン州北部では1250を超える建造物が破壊されていることが明らかになった。原因はほとんどが放火だ。

ミャンマー政府は、ロヒンギャ族を迫害しているという疑惑を否定している。(後略)【12月7日 Newsweek】
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国軍による“放火・焼き討ち”】
スー・チー氏が沈黙する間にも、国軍はロヒンギャの暮らす集落を“放火・焼き討ち”しているとの批判が出ています。ミャンマー政府は国軍による“放火・焼き討ち”を否定しています。

****ロヒンギャ族の村、軍が焼き討ちか ミャンマー****
ミャンマー西部のラカイン州で武装勢力の掃討作戦を展開している治安部隊が最近、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャ族の村を次々に焼き払っているとして、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」が懸念を示した。

治安部隊の作戦は、10月に同州で国境警備隊員9人が殺害された事件をきかっけに始まった。治安部隊は襲撃犯の掃討を理由にロヒンギャ族の村を捜索。これまでに100人以上を殺害、約600人を逮捕したとされる。

HRWのフィル・ロバートソン氏によると、焼き払われた建物は東から西へ移っていることが、衛星画像から確認できる。同氏は「タイミングと場所の傾向から、住民が自ら火を付けたのではなく軍の作戦だということが分かる」「常識で考えれば軍の仕業だ」と主張した。HRWはこれまでに、複数の村が焼ける前後を比較した衛星画像を公開している。

CNNがミャンマー大統領府に取材したところ、「政府からは後日コメントする」との返答があった。政府はこれまでに国営メディアを通し、村の火災は軍でなく、襲撃犯による仕業との立場を示している。

しかしロバートソン氏は、軍は過去にも焦土作戦の手口を使い、同じように否定してきたと指摘。そのうえで「軍はこの作戦によって、襲撃犯を捜索するというより敵を増やしている」との見方を示した。

ロヒンギャ族に対する暴力をめぐっては、ミャンマー政権を主導するアウンサンスーチー氏の対応が不十分だと批判する声も上がっている。

スーチー氏の任命でこの問題に関する特別諮問委員会のトップを務めるコフィ・アナン前国連事務総長は、先週までに現地を訪問し、軍指導者らに民間人の保護を訴えた。【12月13日 CNN】
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軍が武力で掃討すれば、当然それへの抵抗も起きます。
「従来は差別の問題だったが、今や軍事的な問題になり、新局面に入った」との指摘も。

****紛争寸前の危機=ミャンマー少数派ロヒンギャ問題―難民支援活動家に聞く*****
ミャンマー西部ラカイン州で過去2カ月、少数派ロヒンギャへの軍の迫害が強まっている。東南アジアの難民支援活動家リリアン・ファンさん(38)は「紛争になりかけている」と警告する。人権団体アムネスティ・インターナショナル日本の招きで来日し、危機的状況を訴えた。
 
ファンさんは既に20年近く、東南アジア各地で、ロヒンギャ難民の声を聞き、国連機関やNGOに情報を届け、対策を話し合ってきた。ロヒンギャを取り巻く事情に詳しい。「従来は差別の問題だったが、今や軍事的な問題になり、新局面に入った」と指摘する。
 
発端は10月にバングラデシュ国境沿いで起きた警察施設襲撃で、ロヒンギャを名乗る実態不明の集団「アラカン信仰運動(FMA)」が声明を出し犯行を認めた。

イスラム過激派をまねたような動画をネット上に公開し、ミャンマー当局は過激派組織「イスラム国」(IS)との関係を疑う。軍は激しい掃討作戦を開始した。
 
これに対し、ファンさんは「声明が求めているのは人権だ。過激派の言葉遣いではない」と主張する。「武装勢力」と言っても「パチンコ」で鉄球を撃っていたことは、ミャンマー当局も認める。このまま軍事作戦が進めば本当に過激化が進み、いよいよ「政治的解決は難しくなる」とファンさんは懸念する。【12月3日 時事】
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「パチンコ」で鉄球を撃つ“武装勢力”掃討のため、100人以上を殺害、約600人を逮捕、集落を“放火・焼き討ち”・・・というのでは“民族浄化”の批判は避けられないでしょう。

批判を強める国連 ASEAN内部からも批判が
国連もスー・チー氏に対し、事態鎮静化のための現地訪問などの行動を求めています。

****国連、ロヒンギャ問題でスーチー氏に要請「現地訪問を*****
国連でミャンマーの問題を担当するナンビアール事務総長特別顧問は8日、同国西部ラカイン州でイスラム教徒のロヒンギャ住民への人権侵害報告が相次いでいることをめぐって声明を出し、アウンサンスーチー国家顧問が現地を訪問し、住民に安全を確約するよう求めた。
 
同州北部では10月に武装集団と治安部隊の間で戦闘が起きて以降、治安部隊による住居の焼き打ちやレイプなどの疑惑が寄せられている。

AFP通信によると、国際機関は約2万1千人が国境を越えてバングラデシュに逃れたと推計。国際社会ではミャンマー批判が高まっている。
 
ナンビアール氏が行動を訴えた背景には、ノーベル平和賞受賞者のスーチー氏が、この問題で存在感を示していないことへの不満があるとみられる。

声明は「これまでも彼女が様々な機会に行ってきたように、彼女自身の心の声に耳を傾け、民族や宗教といった違いを超えて、人間の尊厳と人々の調和を前に進めようと国民に直接語りかけてほしい」とも訴えた。【12月9日 朝日】
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また、国連のジェノサイド防止担当特別顧問は、現地での独立調査も求めています。

****ロヒンギャ迫害で独立調査を=ミャンマー政府に国連顧問****
ミャンマー治安部隊によるイスラム系少数民族ロヒンギャに対する人権侵害疑惑で、国連のディエン特別顧問(ジェノサイド=集団殺害=防止担当)は29日、ミャンマー政府と国軍に対し、疑惑を検証するため現地での独立調査を直ちに認めるよう求める声明を発表した。
 
ミャンマー西部ラカイン州では、10月に武装集団が警察施設を襲撃する事件が起きて以降、国軍など治安部隊が軍事活動を展開。ロヒンギャに対し、法によらない処刑や拷問、性的暴行などを加えたとの疑惑が取り沙汰されている。【11月30日 時事】 
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この問題に関し、イスラム教徒が多数派で、イスラム教を国教とするマレーシアのナジブ首相がミャンマー政府の対応を批判する姿勢を強めています。

****ロヒンギャ迫害で抗議集会=ナジブ首相も参加―マレーシア****
ミャンマー治安部隊によるイスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害に抗議する集会が4日、イスラム教を国教とするマレーシアのクアラルンプールで開かれた。マレー系住民やマレーシアで暮らすロヒンギャら約2万人が集まり、ナジブ首相や閣僚、野党幹部も参加した。
 
首相は「イスラム教徒、また、一国の首相として看過できない」と迫害行為を非難。
首相の集会参加は内政干渉と見なすとミャンマー政府が声明を出したことについて「内政干渉の意図はなく、人道と普遍的価値を守るためだ」と訴えた。【12月4日 時事】 
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ナジブ首相がこの問題で声を上げたのは、“人道と普遍的価値を守るため”というよりは、汚職疑惑でマハティール元首相や野党勢力から糾弾されている政治状況にあって、“イスラム教徒を守れ!”という形で、国民の目を外に向けたいためでしょう。

ナジブ首相は“ジェノサイド”(集団殺害)という言葉も使ったようで、ミャンマー政府は反撥しています。

****マレーシア首相発言に抗議=ロヒンギャ迫害問題―ミャンマー****
ミャンマー外務省は7日、イスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題をめぐりミャンマー政府を批判したマレーシアのナジブ首相の発言に対し、抗議したと明らかにした。
 
ナジブ首相は4日、クアラルンプールで開かれたロヒンギャ迫害に抗議する集会に参加し、「世界はジェノサイド(集団殺害)が起きているのを座視できない」などと、ミャンマー政府を糾弾した。
 
ミャンマー外務省の声明によると、同省高官は6日、マレーシアの大使を呼び、ナジブ首相の発言は「根拠のない申し立て」に基づくものだと不快感を表明。ロヒンギャに対する「民族浄化」や「ジェノサイド」を全面否定した。 【12月7日 時事】
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ASEAN外相会議で“疑惑”払拭へ
いずれにしても、国連・人権団体だけでなく、ASEAN内からも批判が出る状況に、ミャンマー政府、スー・チー氏はASEAN非公式外相会議を開いて、ミャンマーの立場を説明するようです。

****19日にASEAN外相会議=ロヒンギャ問題を討議―ミャンマー*****
ミャンマー外務省報道官は13日、最大都市ヤンゴンで19日に東南アジア諸国連合(ASEAN)の非公式外相会議が開催されることを確認した。ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題について討議する。
 
外交筋によると、会議開催はミャンマー政府が提案した。治安部隊による民間人殺害や性的暴行などロヒンギャに対する人権侵害疑惑が指摘される中、ミャンマー政府は、ASEAN各国に疑惑を改めて否定し、イスラム教徒の多いマレーシアやインドネシアを中心に広がっているミャンマー政府への批判や懸念を抑えたい意向とみられる。
 
国連によると、ラカイン州から国境を越えて隣国バングラデシュのコックスバザールに逃れたロヒンギャ難民は過去2カ月で推計2万7000人に達している。【12月13日 時事】 
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スー・チー氏が訴えるべき相手はASEANではなく、国軍であり、国民世論であると思われますが、現実政治家としては動けないというのは先述のとおりです。

なお、ミャンマーでは北東部シャン州北部の少数民族問題も悪化しています。
スー・チー氏が狙った少数民族との和解は遠のく形にもなっていますが、こうした状況では国軍の発言権が更に強まることも想像されます。

****戦闘で新たに11人死亡=武装勢力が警察襲撃―ミャンマー北東部****
ャンマー北東部シャン州北部で2日、少数民族武装勢力が警察署を襲撃する事件があり、警官9人を含む11人が死亡した。国営メディアが8日伝えた。
 
中国との国境に近いシャン州北部では、カチン独立軍(KIA)やタアン民族解放軍(TNLA)など少数民族武装勢力の合同部隊が、11月20日に治安部隊の施設などを攻撃し8人が死亡して以来、断続的に衝突が発生。国営メディアによれば、これまでに30人以上の死者が出た。
 
国連によると、11月20日以降の戦闘で約6500人の住民が家を追われ、うち3000人が国境を越えて中国雲南省へ避難した。【12月8日 時事】 
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