ブログ“愛里跨の部屋(ありかのへや)”

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愛里跨の恋愛スイッチ小説 (蒼ちゃん編 39)

2011-10-15 01:08:43 | Weblog
39、仮面の下の顔



(神楽坂スタジオ『アルマンド』、東のオフィス)

私は東さんのオフィスでコーヒーを飲みながら、
ドイツに行く為のスケジュールや、今後の仕事について話をしていた。

東 「辞表提出したの?」
蒼 「はい。辞表は今日仕事が終わって提出しました。
   部長から、神道社長がうちの社長に、
   連絡してきたって聞かされた時は、
   ちょっとドキッとしましたけどね(笑)」
東 「そう。生の奴、連絡したんだな」
蒼 「はい」
東 「ふぅ(溜め息)まったく。せっかちな奴だからな。
   蒼さん、明後日パスポートの申請をするから、
   話しが終わった後でパスポート用の写真を撮ろうね(笑)」
蒼 「はい(笑)」
東 「蒼さんは運転免許証はもってる?」
蒼 「はい、あります。
   私はペーパードライバーで、免許を取ってから、
   ほとんど車を運転したことないんですよね(笑)」
東 「そう(笑)パスポート作るのに、本人確認の書類が必要なんだよ。
   免許証があればいいよ。申請したら一週間で出来上がるから」
蒼 「はい」
東 「それからドイツに着いてからの撮影スケジュールだけど…」

東さんは撮影の説明をしていたけど、途中で急に黙ってしまい、
ぼーっとテーブルの上に開いたスケジュール帳を眺めていた。
蒼 「東さん?」
東 「……」



(東の回想シーン)

神道「光世、変わったのは俺じゃない。お前だよ。
   お前こそいい加減目を覚まして、
   いつもの東光世に戻ってくれよ」
東 「……」
神道「それに蒼さんが輝けないんじゃない。
   お前が彼女と向き合うことを恐れてるんじゃないのか」
東 「えっ…」
神道「一色奏士を意識し過ぎて、本来の自分を見失ってるぞ」
東 「……」
神道「おい、光世。今回の仕事、お前に任せて本当に大丈夫か?
   お前がしっかりしないと、この仕事全てポシャるぞ。
   分かってるのか」
東 「ああ。分かってる…大丈夫だよ(神道に書類を渡す)」
神道「しかし。見事な家族構成だよな。(書類を東から貰う)
   芸能界じゃ珍しくないことだが、
   たまたま普通の一学生を調べて、こんな事が判明するなんて…
  (書類をもう一度見て)
   父親が一色昌道(しょうどう)美術評論家、
   母親が一色初音、バイオリニストだろ。
   兄貴が一色幸雅(こうが)、アートディレクター、
   姉貴が一色琴音、ピアニスト。
   祖父さんが一色奏太朗って、確か横浜の臨海パークと、
   あれは何処だったかなー、
   幾つかモニュメント建ててる有名な彫刻家だよな。
   しかも母親の家系は全員音楽家だぞ。
   生粋の芸術一家だ。一色奏士は芸術界のサラブレッドってとこか。
   彼の『奏士』ってのは、
   祖父さんの名前から取ったんだな、きっと」
東 「生、もういい…。
   お前。その素性を知って、蒼さんが一色くんと上手く付き合えば、
   彼女の格が上がると思ったのか」
神道「まぁ、それも考えなかった訳じゃないが少し違うな。
   彼の両親は今現在パリに住んでる。
   しかも家族全員が海外を飛び回るような生活だ。
   例えば将来、蒼さんと一色くんに結婚話しが出たらどうだ。
   その時、うちのモデルとしてずっと働いている経歴と、
   ドイツで今回の写真エッセイ集を出していれば、
   名前も知られてるだろうし、しかも東光世監修だぞ。
   彼女にとっては立派なキャリアだ。
   それなら相手の親から文句は出ないだろ?
   息子の彼女が一会社のOLで『はい、そうですか』って、
   一色ファミリーが納得して結婚を承諾すると思うか?
   俺が親なら簡単には認めないだろうな」
東 「じゃあ、生は二人の将来を考えた上で今回の契約を?」
神道「時間がないっていうのが一番の理由だが、
   まぁ、それも一理あったな」
東 「ふぅ…(溜め息)何でそれならそうと僕に言わないんだ」
神道「俺も一色奏士の素性については、昨日この書類で知ったんだ。
   光世、俺はお前や蒼さんの敵じゃないんだぞ。
   それにお前の一番の親友だからな。
   個人的には、お前と蒼さんが付き合って、
   上手くいってくれればと思ってるし望んでるよ。
   あの魂の抜けた蒼さんを見た時も、
   正直お前が相手ならこんなことになってないって思ったさ。
   でもな、彼女がボロボロになっても一色奏士を選ぶなら、
   こればかりは仕方ないことだからな」
東 「ああ。分かってるよ」
神道「ただ、この事実を知った後、間違いなく彼女は大変になる。
   付き合えば付き合うほど苦しくなる」
東 「苦しくなる…か」
神道「ああ、お前もこの書類を見た瞬間分かったはずだ。
   彼女はこの世界で、
   自分を高めていくしか策がないってことを知る。
   これはどうしても避けれないことだ。
   だから俺達が必要なんだよ」
東 「ああ。…そうだな…」
神道「お前、夕方上野で蒼さんと待ち合わせだろ?
   ついでにKATARAIに寄ってこい。
   まぁ、見てくればきっと、お前の中で見方が変わる」
東 「ああ…そうかもしれないな」



蒼 「あの、東さん!?」
東 「えっ。あぁ、ごめん。何?」
蒼 「東さん、大丈夫ですか?お疲れなのでは…」
東 「いや、大丈夫だよ。えっと、ごめん。
   何処まで話したかな(笑)」
蒼 「ドイツの撮影の話です(笑)」
東 「ああ、そうだったね。
   それからハイデルベルグに着いてからの撮影や仕事は、
   マンハイムに僕の知人のカメラマンと、
   現地に日本人の友人が数名いるんで、
   撮影はみんながサポートしてくれることになってるんだ。
   日本人女性もいるから言葉が喋れなくても大丈夫だよ」
蒼 「はい…(東を心配そうに見ている)」
東 「……」
蒼 「東さん、今日はゆっくり休まれた方がいいです。
   話し合いはまた時間を作って」
東 「蒼さん」
蒼 「はい」
東 「ごめん。僕がもう少ししっかりしていたら、
   君は平凡でも楽しく過ごせてただろう」
蒼 「えっ…何を急に言いだすですか?(笑)
   仕事のことは全て私の言動にありますし、
   私自身が決めたことです。
   お返事も契約も辞表を出したのも全て。
   それに私は穂乃佳さんとの約束があります。
   周りに話せば、それはただの夢だと言われるでしょう。
   きっと奏士からも理解なんてしてもらえない…
   でも、夢でも穂乃佳さんの感触が伝わるんです。
   彼女から言われたことは東さんしか知らない事だった。
   だから、ただの夢で片付けられない。
   私は、彼女との約束だけは守らないといけないと思ってます」
東 「蒼さん…。君って…」

東さんは悲しげで、それでいて、
優しく包み込むような温かな眼差しで私を見ていた。

東 「駄目だ…。君をこうやって見つめて話してると…
   (傍にいると感情を抑えられなくなる…君を抱きたくなる…)」
蒼 「東さん?」
東 「あぁ、今日は僕が駄目だな(笑)
   話しが纏まらなくて、これ以上は話せない。
   今から下で写真を撮ろうね。終わったらうちまで送るよ」
蒼 「は、はい…」

東さんはそう言うとスケジュール帳をたたみ、
鍵を持つと立ち上がって私を見た。
私はバッグをもって東さんと一緒に玄関を出てエレベーターに乗った。



(アルマンド、2階撮影スタジオ)

東 「蒼さん、そこの椅子に腰掛けて」
蒼 「はい」
東 「楽にしてね。証明写真だから笑わないように(笑)」
蒼 「はい(笑)」
東 「(ファインダーを覗いて)動かないで……じゃあ、撮るよ…」

カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ(シッター音)

東 「……」
でも、彼はカメラのファインダーを覗いたまま黙っている。
蒼 「あの…東さん?」
東さんはカメラからゆっくり顔を離し、
私を見つめながら近づいてきた。

蒼 「東さん…あの、やっぱり今日の東さん変ですよ。
   ゆっくり休んだ方が…」
私は東さんを不安気に見つめて立ち上がった。
すると、東さんはいきなり私の右手を取り、
引き寄せて強く抱き締めた。
蒼 「あ、あの、私…」
東 「何故…何故君は、自ら苦しみに飛び込むんだ…」
蒼 「え…」
東 「一色くんに何度も辛い思いを与えられても、何故…
   僕ならこんな、…こんな大きな苦しみは、
   君に与えたりはしないのに…」
蒼 「東さ…ん?」
東さんは私を抱き締め、右手で髪を撫でると、
無防備だった私に激しくキスをした。
私は東さんの体から離れようと、彼の両腕を掴んだのだけど、
東さんの身体の小さな震えに気がついて、
無碍に突き放すことが出来なくなった。
私は力無く両手をぶらんと下げて、彼に身を任せてた。

東さんは私の唇からゆっくり離れると、寂しそうな瞳で私を見た。
東 「ごめん…」
蒼 「いえ…」
東 「ふっ(小さな溜め息)あー、情けないな。
   こんなんじゃ駄目だな。生の言う通りだ(笑)
   君のせいじゃない…こんな僕じゃ、いい仕事は出来ない…
   ドイツに行くまでに、(胸を軽くたたいて)
   ここに気合いを入れなおすから(笑)
   蒼さん、ごめんね。僕がこんなんじゃ君が不安になるな」
蒼 「東さん…」
東 「今から家まで送るよ」
蒼 「東さん。あの、上野駅まで連れて行って貰えますか?」
東 「上野駅?」
蒼 「はい。今日はKATARAIに行かないといけないんです。
   あ、あの、上野にあるKATARAIの店長で頼さんに呼ばれてて」
東 「そう(笑)いいよ」
蒼 「わがまま言ってすみません」

東さんは何もそれ以上は何も聞かず、そして何も語らず、
ただ私の手を握り、上野まで車を走らせた。
そして、次の打ち合わせ日の約束をすると、東さんは帰っていった。


(絵画ダイニング、KATARAI)
私がKATARAIの店内に入ると、いつもと違う険しい顔の頼さんがいた。


蒼 「頼さん、こんばんは」
頼 「やぁ。蒼さん、いらっしゃい」
蒼 「あの、頼さん。何だか元気無いですね(テーブルにつく)」
頼 「ああ。大失敗をしてしまってね。奏士を怒らせてしまってね」
蒼 「え?奏士と何かあったんですか?大失敗って…」
頼 「今日、東光世が店に来てたんだよ」
蒼 「え!?東さんがここに」
頼 「ああ。奏士の絵を全て見ていたよ。
   来た時は東光世とは気づかなくてね、サングラスかけていたし。
   それで絵の事を聞かれて、
   つい奏士の親の話や生い立ちを話してしまった。
   あいつからあれだけ口止めされていたのに…」
蒼 「奏士の親の話…」
頼 「ああ。それが奏士の親父さんの名前を言ったもんで、
   つい知っているんだと思って話した。
   彼が帰ってすぐ奏士が来たね。店の前で会ったらしくて…」


(回想シーン)


奏士「頼先輩!どこですか!」
頼 「(厨房から出てくる)おお、どうした」
奏士「さっき東光世がきたでしょ。何しに来たんですか?」
頼 「ん?…東光世?」
奏士「ええ。サングラスかけて、
   白のドレスシャツにテーラードジャケット着た男が来たでしょ」
頼 「え?あの人、東光世だったのか!」
奏士「ええ。何しに来てたんですか」
頼 「最初は中庭見ながらコーヒー飲んでたんだが、
   お前の絵画を全部じっと見てたんだよ」
奏士「僕の絵を…」
頼 「あの海の絵を欲しそうにしてたんだけど、
   売れたって話したら、お前の親父さんの名前を言って、
   フランスで美術関連の仕事してたから知ってるって」
奏士「アイツ、そんなことを…」
頼 「ああ。だから奏士は一色昌道の息子だって話したんだ」
奏士「先輩!なんでアイツにそのこと話したんですか!
   アイツは僕の事を探って、多分蒼と僕を引き離す気なんだ」
頼 「え!?す、すまん…まさかあの男が東光世とは知らなかったんだ。
   でもお前の素性は知ってるような口振りだったぞ。
   『蛙の子は蛙』だって言ってたから」
奏士「……」


頼 「その後、奏士は何も言わずに店を出てしまって。
   多分バイトに行ったんだろうけどな」
蒼 「あの、一色昌道さんって…」
頼 「奏士の親父さんで、今パリに住んでるんだよ。
   日本でも指折りの美術評論家だからね。
   お袋さんも有名なバリオリニストだし。
   奏士は芸術家の家系に生まれたから。
   蒼さんも奏士から聞いているだろ?」
蒼 「え…あ、はい。お名前は聞いてなかったんですけど、
   ご両親が外国に住んでるって、この間話しましたから(笑)」
頼 「そう(笑)あいつはずっと家族を避けてるからな。
   日頃は家族の話は一切しないんだが、
   やっぱり心許してる蒼さんには話したんだな(笑)」
蒼 「は、はい(笑)…」

奏士は有名な両親の元に生まれた…
何故私に話してくれなかったの?
私と身分が違い過ぎるから?
東さんは何故知ってて言わなかったの…
これを知ってたからあの時『苦労を与えられる』って、
だから東さんは私にあんなこと言ったの?

私は頭の中に無数のクエスチョンがたくさん浮かんで、
仮面の下にある奏士の本当の顔を見たように思えた。


頼 「蒼さん、コーヒーでいいかい?
   注文は奏士が来てからでいいな」
蒼 「あ、はい。ありがとうございます…」
頼 「OK」

その時、お店の扉が開いてバイトを終えた奏士が入ってきた。
蒼 「奏士。バイトお疲れ様」
奏士「蒼…」
奏士は入り口からゆっくり私に近づいて言った。
奏士「蒼。やっぱり…東光世とドイツにいくのか」
蒼 「えっ…」
持っていたグラスは私の手から離れ床に砕け散った。
(続く)


この物語はフィクションです。



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