ひもの先

2013年05月20日 04時47分51秒 | マーロックの日記

                                                  ボォォォォォ

                                    クォ ーー

               ザザァァ       ン

霧の中に、光りが2つ・・・

それがゆらゆら動いてる。

この船をけん引している2隻の小船のもので、霧のせいで船体は見えないから、灯りだけ浮いて見える。

太陽は出ている時間だけど、霧で薄暗い。

もうすぐ、島の港の様。

屋上の通路の、一番前にいる。

船首にあるヘリコプターは、霞んでいるけど見える。

鳥の声は聞こえるけど、姿は見えない・・・

                          ザァァァ      ン

                                                 クォ ーー

アデノシン三リン酸…ATPは、あらゆる生化学反応の直接のエネルギー源である。

DNAがタンパク質を作るときや、脳が何かを考える時、食物を代謝するときなど、その原動力を直接与えているのがATP――地球の生命はATPと共にあり、このことはリンが非常に重要であることを意味しており、世界人口を支えている重要な化学肥料のひとつである。

1molのATPから得られるエネルギーは7.3kcalで、細胞内では反応物質の濃度が標準状態から外れているためこれに4kcalほどが加わる――mol…モルは、その分子約6.022×1023個分を意味する単位で、この数はアボガドロ数という。

これは、4.7トンのものを1m持ち上げられる力。

筋肉はATPをゆっくり燃やすことで、最大60%を力学的なエネルギーとして利用できる――ガソリンエンジンの場合、理想的な条件で燃やしても25~30%くらい。

ATPは端っこに、3つのリン酸基が連なった構造をしている――手前からα、β、γと呼ばれていて、最初のリン酸基はエステル結合で、残りはリン酸無水物結合。

酵素の働きで末端のγリン酸が切り離され、そのエネルギーで化学反応を進める――電気的な反発力でリン酸が飛びだして、それが周囲のものにあたって熱エネルギーに変わる。

エネルギーを放出したATPは、アデノシン二リン酸…ADPになる――ADPはグルコースを代謝したエネルギーでATPに戻る。

グルコース1分子を、酸素を使って好気的に代謝した場合、ATPを33個以上再構成できる。

この再構成の速度をATPの消費量が越えなければ、私たちは動き続けることができる――そうでなければ動けなくなる。

なのでATPが多い方がいい。

けど実際には、運動に直接使われるATPはそれ程なくて、一定に保たれている。

筋細胞内のATPには運動以外にも役割があって、それが運動状況に左右されていては、細胞内でトラブルが起きるからである。

そのかわり、私たちはATP以外にエネルギーを蓄える仕組みを進化させている。

筋肉には大量のクレアチンという化合物があって、ATPはクレアチンとの間でリン酸基を受け渡しできる。

リン酸基を受け取ったクレアチンはクレアチンリン酸となり、リン酸基を渡したATPはADPになる。

この反応によって、大量のエネルギーをクレアチンリン酸に蓄えておくことが可能である。

筋肉が全力で動くと、ATPはすぐに使い切ってしまう。

すると、すぐにクレアチンリン酸はリン酸基をADPに供給する――この両方向の反応を、ローマン反応という。

クレアチンによるエネルギーの備蓄の事を、クレアチンリン酸プールと呼ぶ。

人の場合、訓練をつんだ短距離走者が、最もクレアチンリン酸プールが発達している。

またローマン反応とは別に、緊急でATPの再構成を行う手段として、無酸素でグルコースを代謝する解糖という反応があり、この場合グルコース1分子あたり2個しか再構成できない。

この嫌気的な代謝で出来たピルビン酸は乳酸になって、血中の乳酸濃度を上げる。

すると、酸素の供給量を上げようとして自律神経が呼吸を早めているにも関わらず、肺で血中に取り込める酸素の量が減る。

それで、呼吸が激しくなる。

                                      ザァァァ         ン

筋肉疲労は、筋肉が一定の力を出せなくなった状態。

人が全力で運動できるのは8秒ほどで、20秒ほどで筋肉疲労を起こす。

この疲労は、グリコーゲンが消耗するためではない。

解糖で生じるプロトン…H+によって、筋肉内のpHが7.0から6.4ほどに酸性化するためである。

―――疲労は乳酸の蓄積が原因ではない。

乳酸の濃度が高くてもpHを7.0に保てば、筋肉は大きな力を出す―――

ただ、酸性化による筋肉疲労の機構は分かっていない。

そのほかにも、疲労の原因は考えられる。

ATPの分解でリン酸イオン…Piの濃度が上がって、不溶性のリン酸カルシウムが沈殿してカルシウムイオン…Ca2+の濃度が下がる――Ca2+が放出されて、筋収縮が起きる。

筋収縮でカリウムイオン…K+が放出されるけど、それで筋肉の脱分極が進んで収縮できなくなる――神経刺激は一時的な脱分極…活動電位によって伝わる。

いずれの原因でも、疲労は筋細胞がATPを消耗し尽くすのを防ぐためのものだと考えられる――ATPを生産するための経路はATPがないと進めることができないので、使い切ると回復できなくなる。

                                          クォ ーー

                  ザァァァ      ン

私たちの体は体重が60kgの人で、おおよそ30兆個の細胞でできている。

その細胞は細胞外マトリックスと言うブロックのようなものに入り込んでいて、私たちの形を支えている。

マトリックスは主にタンパク質でできている。

タンパク質は酵素や抗体としての働きもあり、私たちが生きていくのに重要な分子である。

これらの分子を構成するのは、アミノ基…-NH2とカルボキシル基…-COOHを持つアミノ酸という小さな分子。

最も単純なアミノ酸はグリシン…C2H5O2Nで、ひとつの炭素にアミノ基とカルボキシル基が結合したもの――グリシンは酢酸…C2H4O2の炭素から水素をとって、アミノ基がついたもの。

このような、カルボキシル基の隣の炭素にアミノ基がついたアミノ酸をα-アミノ酸と呼ぶ――カルボキシル基から一つずつ離れた炭素にアミノ基がついたものは、β-、γ-、・・・と言う風に呼ばれる。

グリシンの炭素に別の分子が結合するとことで、別のα-アミノ酸ができる。

その中で最も単純なのは、α炭素の水素一つが-CH3基に置換したアラニン…C3H7O2N――アラニンは、乳酸…C3H6O3の-OH基をアミノ基で置き換えたもの。

このようにして得られる置換体は、天然には20種しか見つかってない――グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン。

ほとんどのタンパク質は、この20種類のアミノ酸の組み合わせで作られる。

―――12種類は人の体内で合成でき、8種は摂取する必要がある――ヒスチジンは体内で合成できるけど、不足しがちなので摂取する必要があるとされている。

動物の肉を食べると、必要なアミノ酸をバランスよく摂る事が出来る。

植物は動物とは異なる進化をしているから、ひとつの植物源からでは必要なアミノ酸をすべて得ることは出来ない――穀類だとリシンが欠けてる。

それで肉をあまり食べない食文化の地域でも、大豆と米、豆とトウモロコシ等、複数の植物を食べることで必須アミノ酸を得ている―――

グリシン以外のアミノ酸は、鏡に映したように、回転させても同じ形にならない2種の立体異性体がある――鏡像異性体とか光学異性体と呼ばれ、このような性質をキラリティーと呼び、そのような構造をキラルと呼ぶ。

L配置…左手型とD配置…右手型があり、グリシン以外の19種のアミノ酸はすべて、α炭素をキラル中心としたL-アミノ酸である――α-アミノ酸以外のアミノ酸やD-アミノ酸も生体に存在し、機能も多様だけど、量は少ない。

アミノ酸はアミノ基とカルボキシル基を持っているので、ナイロンのようにアミド結合を作って次々と連なっていくことができる。

アミノ酸同士がアミド結合する場合ペプチド結合と呼ばれ、これが重合した高分子をポリペプチドと呼ぶ。

ポリアミドが結合の間に炭素が6個くらいあるのに対して、ポリペプチドの場合は炭素が1つしかない――α-アミノ酸が連なるので。

アミノ酸が鎖の様に連なったポリペプチドは、一次構造という。

タンパク質はポリペプチドなわけだけど、この段階では普通ポリペプチドという――この長い鎖が立体的に折り畳まれたものを、タンパク質と呼ぶ。

特定のアミノ酸の間には分子間力という引力が強めに働くため、勝手に分子のある部分とある部分が引き合って、αへリックスという右巻きのらせん構造や、βシートという平面構造などをとる――これを二次構造という。

タンパク質は、ある部分はαへリックス、別の部分はβシートなどの構造をとりながら、全体として折りたたまれていく――他の分子の助けがある場合もある。

このかたまりを、三次構造とか高次構造という――三次構造をサブユニットとして、いくつかのサブユニットが集まったタンパク質もあり、これは四次構造という。

タンパク質の、この三次元構造が、私たちの体の中で重要な化学的な性質をもたらす。

こうした構造を解明するには膨大な計算が必要で、グリッドコンピューティングによる解析も行われている――家庭にあるパソコンやゲーム機を、使っていない時間を利用して解析に参加させる方法で、難病の治療法の研究に強い力となる。

タンパク質は20種のアミノ酸からできるけど、タンパク質となったあとに化学修飾…他の分子の付加を受ける場合があるので、タンパク質を加水分解すると、それ以外の分子が見られる――の鎖が結合すると糖タンパクと呼ぶ。

                   ザァァァァ      ン

                                         ザザァァァ     ン

アミノ酸は遺伝子の4つの文字を使って、その構造を指定される――アデニン…A、グアニン…G、シトシン…C、チミン…Tの4つ。

3文字で、ひとつのアミノ酸を指定して鎖を作る。

DNAの情報はメッセンジャーRNAに転写され、それが細胞核の外にあるリボソームと言う、タンパク質とRNAの複合体まで移動して新しいタンパク質が作られる――RNAでは、チミンの代わりにウラシル…Uが使われる。

けれど、その鎖による三次構造は絶対的ではなく、異なる型に折りたたまれるアミノ酸配列がいくつか知られている。

プリオンという分子は、2種類の安定した構造を持っている――この2つには中間の型はなく、どちらか一方が選ばれる。

狂牛病は、脳の細胞膜を構成するタンパク質が、偶然ちがった形に折りたたまれることで生じる。

この変異型は、ふつうは決して見られないものだけど、もしひとつでもそれが起きると、その分子が引き金となって、次々隣接する分子を変異型にしてしまう――牛なら狂牛病、人間だとクロイツフェルト=ヤコブ病、ヒツジだとスクレイピー病を起こす。

私たちのにあるロドプシンというタンパク質の複合体は、光を感じる働きをする。

ロドプシンの構成要素のひとつに、これはタンパク質ではないけど、レチナールという分子がある。

このレチナールは光が当たると、安定した形状から、もうひとつの形にかわる。

すぐに元に戻るけど、この変化が、脳に光の感知として伝えられる。

                                    ザァァァ        ン

お肉は大部分がタンパク質で、そのほとんどは筋肉組織である。

筋肉を動かすタンパク質はミオシンとアクチンで、それを含む筋原繊維が集まってできた筋繊維は、主にコラーゲンで出来た結合組織に包まれている。

コラーゲンはスポンジ…海綿動物を構成している主成分のタンパク質で、これを、強く軟骨質のものにしている。

魚の身にはあまりコラーゲンがなく、やわらかいのはそのため――ゼラチンは、コラーゲンを沸騰水などで熱したもの。

筋肉には、ATPが豊富にある。

死後の筋肉は、ADPがATPに戻ることはなくなって死後硬直が起きる――このため、死の直前にもがいたり争ったり、不安な状態にあった場合、死後硬直が早まる。

そしてATPの再構成が止まるとADPに分解された分子はそこで止まらず、さらにもうひとつリン酸基を失ってアデノシン一リン酸…AMPになる――アデニル酸とも呼ばれる。

AMPになった後の分子は窒素原子をひとつ失って、代わりに酸素原子がくっついてイノシン一リン酸…IMPという分子になる。

肉が古くなってタンパク質が分解されてくると、グルタミン酸一ナトリウム…MSGができてくる。

IMPとMSGは、それぞれ、わずかに肉の味がする。

どちらもそれほど強い肉の味ではないけど、2つが合わさると強い肉の味になる。

主にこの2つの化合物が、お肉を食べたときの味覚のもとになっている。

味の違うお肉は、IMPとMSGの組成が異なる。

牛肉は、豚肉よりMSGが2倍くらい含まれている――IMPはほぼ同じ。

キノコはグルタミン酸に富むタンパク質が多いので、少し肉の味がする。

                                     ザザァァ        ン

筋肉が動くと、ATPを消費したり、筋肉に機械的なストレスがかかったり、筋細胞の表面に付着しているサテライト細胞というのにミクロな傷が出来たりする。

これらは筋肉活動のシグナルとなり、それが引き金となって筋細胞が連鎖反応を始める。

生体内には、いくつもの反応が次々と玉突きのように起きる連鎖反応が数多くあり、それらをカスケード反応という。

筋肉のカスケード反応の目的は、筋肉の活動に応じて次々と新しい部品を作って、筋肉に供給することである――この反応は、筋肉の活動が激しいほどさかんになって、部品も多く作られる。

反応が強ければ、もともとの筋肉の補充に必要な量を超えて、その部品…アクチンフィラメントとミオシンフィラメントが作られる。

アクチンフィラメントとミオシンフィラメントが滑りあうことで筋肉は動くので、この本数が多いほうが力が強く出る。

つまり、余分に作られた分だけ筋肉が発達する――運動すれば力が強くなるのは、このためである。

ミオシンはミオシンフィラメントにくっ付いていて、それがアクチンフィラメントと結合して動くことで、筋肉は動く。

このミオシンは、骨格筋の場合10種類ぐらいある事がわかっている。

種類によってアミノ酸の組成が少しずつ異なっていて、全部をまとめてミオシンアイソフォームという――アイソフォームというのは、構造が僅かに違うタンパク質のグループの事。

ミオシンの種類による違いは主にATPポケットで、これは燃料であるATPとの結合部分である。

そこの僅かな違いで、ミオシンの機能が変化する。

主な機能の違いは、動くのが速かったり燃費がよかったり、馬力が強かったり、である。

ミオシンの種類は、筋肉の活動によってその比率が変わる。

だからトレーニングの種類によって、それに適した筋肉が発達するようになる。

ミオシンがいくつもあることがわかる前から、大きく2種類の筋肉が知られていた。

速筋あるいは白筋と呼ばれる白っぽい筋肉と、遅筋あるいは赤筋といわれる赤みを帯びた筋肉である。

白筋は収縮速度が速く、すばやい動きを起こすけど、繰り返し使うとすぐ疲れる。

赤筋は収縮速度は遅いけど、長時間使っても平気で、重力に逆らって姿勢を保たせている抗重力筋は赤筋である。

白筋中のミオシンは速いミオシンといい、アクチンと滑りあう速度やATPの分解速度が大きい。

赤筋中のミオシンは遅いミオシンと呼ばれ、アクチンとすべる速度やATPの分解速度も遅い。

なので、長いあいだ力を出す場合、赤筋の方が単位時間当たりのATP消費量が少ないから、燃費がよい。

速いミオシンと遅いミオシンは、それぞれ複数のミオシンアイソフォームからなっており、その組成は運動神経から分泌される栄養物質によって決まる。

動物実験で、白筋と赤筋の運動神経をそれぞれ入れ替えると、機能が逆転することがわかっている。

だから、運動神経から出る分泌物がミオシンアイソフォームを選んでいることはわかっているけど、詳しい仕組みはまだわかってない。

ちなみにカスケードとは階段滝のことで、滝がいくつか連なったようなものである。

滝と滝の間には、水を溜められる池部分がある。

カスケード反応も、連鎖する反応の間に池に相当する部分があり、そこに様々な経路で筋肉活動のシグナルが来る。

運動の種類によってこれらのシグナルは異なるから、それを引き金とするカスケード反応もその経緯が変わる。

カスケード反応の種類によって、最終的に選ばれるミオシンアイソフォーム組成が決定されているのだと思われる――同一の筋細胞でも、場所によってアイソフォームの組成が違うことがわかっている。

                                                      クォ ーー

                        ザァァァ      ン

・・・船の中に戻ろう。

まだ朝ごはんを食べていない。

                ト             ト

風は穏やか。

寒くも暑くもない。

港についたら、黒猫と散歩でもしようか・・・・

                  ザァァァ       ン

                                                ボォォォォォ ・・・・


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