6つ

2020年10月26日 10時37分22秒 | マーロックの日記

         ソョョ

                       ザァァァ  ――――

    

雨・・・

予報通り降ってきた。

                      ――   

孤児院にある宿舎から、にぎやかな声。

2日かかったけど、掃除もある程度終わって町の人たちが引っ越した。

近くの街から届く電線は、鉄塔が倒れて切れてしまっている。

直すのは大変そうで、街も大雨の被害を受けていて停電はしばらく続きそう。

前に似たようなことがあった時も、ずいぶんかかったそう。

それで、しばらくここで避難生活することになった。

新型のウイルスの影響で、各地で非常事態が宣言されはじめた様。

避難のために迎えに来たバス以外、大雨以降この町には誰も来てない。

私たちが持ってきた衛星電話があるので、定期的に連絡は取れる。

漁師達の船に行けば、船の電話も使えるよう。

まだ危険そうなので近づいていないけど。

                             ザァァァァ  ・・・・・

          コケ ♪

まだそれほどでもないけど、予報通りなら強い雨になる。

また川が氾濫するかもしれない。

                  パチ  ・・・・・

      ピョ

傘に雨があたる音が、だんだん速くなる。

クラゲ傘は女性用で小さいので、普通に大きな傘を差している。

透明だけど、高価なものでとても頑丈らしい。

これも、エレガントさんが持って来ていたもの。

「ニャ~」

黒猫たちがいる。

宿舎のすぐ近くの木。

      

木の根の近くに生えた植物の葉が、大きく開いて傘になっている。

その下で、黒猫とニワトリが雨宿りしている。

渡り廊下に行けば屋根があるので、そこの方がよさそう。

ただ、後ろに木があるので風よけになっているのかもしれない。

季節外れの暖かさなので、寒くはないだろうけど。

                パチ パチ ♪

「・・・・」

葉っぱにあたる音が聞こえる。

・・・それをすぐ近くで聞いているのかもしれない。

黒猫はよく、雨のあたる草をジッと見ていることがある。

自分は濡れていても、気にしない。

私が近づいても、気づかないくらいそっちに集中している。

「♪」

ニワトリも、同じらしい。

       クゥ ♪

チワワとレトリバーもいる。

レトリバーは大きすぎて葉っぱ傘に入れないから、木の根っこの近くで横になってる。

チワワはそのお腹の下に潜り込んでいて、レトリバーを傘にしてる。

レトリバーはシッポをチワワの頭にのせてあげていて、シッポも傘になっている様。

      グィ

               

チワワを掴んで引っ張り出す。

通路で待てばいいのに、黒猫の近くがいいらしい。

「ニャ~」

「戻ろう」

              ト  ト

私が歩くと、他も付いてくる。

ニワトリも黒猫も、雨の中を歩いてる。

「ピョ♪」

ニワトリの背中に、小鳥が乗ってる。

宿舎は北と南に分かれていて、ずっと使われていなかった北側はいろいろ不具合がある。

ただ、寝るだけなら大丈夫そう。

暖房は使えないけど、倉庫の地下にあったのを直せば使える。

衛星電話の中継器もあるので、ガードさんがチーフさんと話しながら修理してる。

たぶん、マザーボードを交換しないと無理だと言う。

古いもので、型番は伝えている様なので、そのうちチーフさんたちがこっちに来れれば持って来てくれるかも。

牧師さんたちの話では、うまくいくときは使えるらしいので、ガスボンベは運んである。

町の家には、いくつもそれが置いてあるので燃料には困らなさそう。

孤児院の子供たちも、5部屋に集まって生活してくれることになって、一応みんな宿舎で寝ることができる様になった。

北側もトイレやシャワーは使える。

発電機はあるので。

町の下水は、孤児院のある丘の、ここから少し離れた場所にある浄水場でろ過される。

無人で、街から遠隔で管理されている。

通信が切れてしまっているようだけど、問題なく動いている様。

町長が電話で聞いてくれていて、通信が切れただけでは運転には問題は出ないらしい。

蓄電池と発電機を備えている様。

浄水場に侵入者がいた場合の警備は、機械が行っている。

私たちが近づくとアラームが鳴るかもしれないので、近づいてない。

私たちが持ってきた衛星電話は、インターネットにつなぐこともできる。

5台接続できるけど、実際に通信できるのは1台だけ。

浄水場の管理室の詳細を送ってもらえることになっているので、それがわかったら行ってみる。

燃料は施設内に備蓄してあるらしいので、発電機を動かすだけでいい。

街から誰か来てくれればいいんだけど、向こうも大変らしい。

それに、新型のウイルスを運んでしまう可能性があるのも理由みたい。

孤児院に避難している人は高齢の人が多く、この感染症も高齢者は重症化のリスクが高い様。

                    バチチ  ・・・

孤児院が見える。

その東側には、港から持ってきた大型の発電機。

あれがあれば、大丈夫。

上にはタープで屋根を作ってる。

孤児院の部屋は空いたので、食事をする場所になった。

机やイスは多くある。

ニワトリも孤児院の中で寝れるようにすることになった。

港ネコたちもいるから、入りたいのは中に入れる。

今夜は寒くないから、外でも平気そうだけど。

「コケ」

ニワトリは私たちに付いてくるので、トレーラーまで一緒に行こう。

傘に雨が当たる音は、よく聞こえる。

葉っぱ傘にあたる音を聞いていたのなら、こっちの方がいいのかもしれない。

    

それで付いてくるのかも。

孤児院は地下水をくみ上げて使っているので、浄水場からの水は届いていない。

くみ上げた水を直接ろ過して使っている。

「――」

私が掴んでいるチワワが、あくびした。

目は細くなっていて、シッポも垂れてる。

眠いらしい。

「・・・」

私が見ると、レトリバーもこっち見た。

黒猫たちの少し後ろを、ゆっくり付いてくる。

長いその毛には、だいぶ水が含まれていそう。

ぶるぶるすれば、かなり広範囲に水が飛ぶだろう。

「クゥン」

ブルブルしない。

チワワと傘を持っているので、頭を撫でてやれない。

     ジャリ

空は暗い。

太陽はもう沈んでいて、雨雲で星も見えない。

            ニャ~

おや。

孤児院とトレーラーの間に、シャープさんがいる。

シャープネコも一緒の様。

目が光ってる。

また、トレーニングでもしていたのかな。

ボーダさんとも連絡は取った。

彼の大学が主催する今回のネコレースは、過去最大の規模になるはずだった。

大学のある街は、新型ウイルスの感染者の確認数は少ない。

だけどすでに非常事態が宣言されており、近く外出規制が行われると言う。

ネコレースの開催は無理そう。

ただ、中止にするか延期にするかで話し合っているそうで、ボーダさんは延期になるように頑張っているらしい。

シャープさんは、今度こそ黒猫に勝って優勝しようと思っていた様なので、がっかりしているのかも。

「ニャ~」

シャープネコが鳴いた。

「ニャ~」

黒猫も鳴いた。

「・・・・」

シャープさんがこっち見たけど、何も言わない。

「一緒に行こう」

私は、シャープネコに言う。

          ニャ~

  

すると、シャープネコも歩き出した。

       コケ

黒猫とシャープネコは似ており、ニワトリが見比べてる。

         ジャリ

傘を差したシャープさんは、動かない。

シャープネコが後ろを気にしたけど、歩くのは止めない。

お腹空いてるのかな。

トレーラーの窓が光ってる。

その周りは暗い。

孤児院の周りは森で、トレーラーのある方は外灯もない。

そこから少し右、そして奥の上を見ると、離れた場所に灯台の光。

ちゃんと光ってる。

傘の柄に付けた腕ライトが前方を、首から提げたライトが足元を照らしている。

だから私たちの近くは明るい。

歩くのには困らない・・・・

           

                         ザァァァァァ  ・・・・・・

        ピョ ♪

  ニャ~


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