ソョョ
ザァァァ ――――
ト
雨・・・
予報通り降ってきた。
―― ♪ ♪
孤児院にある宿舎から、にぎやかな声。
2日かかったけど、掃除もある程度終わって町の人たちが引っ越した。
近くの街から届く電線は、鉄塔が倒れて切れてしまっている。
直すのは大変そうで、街も大雨の被害を受けていて停電はしばらく続きそう。
前に似たようなことがあった時も、ずいぶんかかったそう。
それで、しばらくここで避難生活することになった。
新型のウイルスの影響で、各地で非常事態が宣言されはじめた様。
避難のために迎えに来たバス以外、大雨以降この町には誰も来てない。
私たちが持ってきた衛星電話があるので、定期的に連絡は取れる。
漁師達の船に行けば、船の電話も使えるよう。
まだ危険そうなので近づいていないけど。
ザァァァァ ・・・・・
コケ ♪
まだそれほどでもないけど、予報通りなら強い雨になる。
また川が氾濫するかもしれない。
パチ ・・・・・
ピョ
傘に雨があたる音が、だんだん速くなる。
クラゲ傘は女性用で小さいので、普通に大きな傘を差している。
透明だけど、高価なものでとても頑丈らしい。
これも、エレガントさんが持って来ていたもの。
「ニャ~」
黒猫たちがいる。
宿舎のすぐ近くの木。
タ
木の根の近くに生えた植物の葉が、大きく開いて傘になっている。
その下で、黒猫とニワトリが雨宿りしている。
渡り廊下に行けば屋根があるので、そこの方がよさそう。
ただ、後ろに木があるので風よけになっているのかもしれない。
季節外れの暖かさなので、寒くはないだろうけど。
パチ パチ ♪
「・・・・」
葉っぱにあたる音が聞こえる。
・・・それをすぐ近くで聞いているのかもしれない。
黒猫はよく、雨のあたる草をジッと見ていることがある。
自分は濡れていても、気にしない。
私が近づいても、気づかないくらいそっちに集中している。
「♪」
ニワトリも、同じらしい。
クゥ ♪
チワワとレトリバーもいる。
レトリバーは大きすぎて葉っぱ傘に入れないから、木の根っこの近くで横になってる。
チワワはそのお腹の下に潜り込んでいて、レトリバーを傘にしてる。
レトリバーはシッポをチワワの頭にのせてあげていて、シッポも傘になっている様。
グィ
♪
チワワを掴んで引っ張り出す。
通路で待てばいいのに、黒猫の近くがいいらしい。
「ニャ~」
「戻ろう」
ト ト
私が歩くと、他も付いてくる。
ニワトリも黒猫も、雨の中を歩いてる。
「ピョ♪」
ニワトリの背中に、小鳥が乗ってる。
宿舎は北と南に分かれていて、ずっと使われていなかった北側はいろいろ不具合がある。
ただ、寝るだけなら大丈夫そう。
暖房は使えないけど、倉庫の地下にあったのを直せば使える。
衛星電話の中継器もあるので、ガードさんがチーフさんと話しながら修理してる。
たぶん、マザーボードを交換しないと無理だと言う。
古いもので、型番は伝えている様なので、そのうちチーフさんたちがこっちに来れれば持って来てくれるかも。
牧師さんたちの話では、うまくいくときは使えるらしいので、ガスボンベは運んである。
町の家には、いくつもそれが置いてあるので燃料には困らなさそう。
孤児院の子供たちも、5部屋に集まって生活してくれることになって、一応みんな宿舎で寝ることができる様になった。
北側もトイレやシャワーは使える。
発電機はあるので。
町の下水は、孤児院のある丘の、ここから少し離れた場所にある浄水場でろ過される。
無人で、街から遠隔で管理されている。
通信が切れてしまっているようだけど、問題なく動いている様。
町長が電話で聞いてくれていて、通信が切れただけでは運転には問題は出ないらしい。
蓄電池と発電機を備えている様。
浄水場に侵入者がいた場合の警備は、機械が行っている。
私たちが近づくとアラームが鳴るかもしれないので、近づいてない。
私たちが持ってきた衛星電話は、インターネットにつなぐこともできる。
5台接続できるけど、実際に通信できるのは1台だけ。
浄水場の管理室の詳細を送ってもらえることになっているので、それがわかったら行ってみる。
燃料は施設内に備蓄してあるらしいので、発電機を動かすだけでいい。
街から誰か来てくれればいいんだけど、向こうも大変らしい。
それに、新型のウイルスを運んでしまう可能性があるのも理由みたい。
孤児院に避難している人は高齢の人が多く、この感染症も高齢者は重症化のリスクが高い様。
バチチ ・・・
孤児院が見える。
その東側には、港から持ってきた大型の発電機。
あれがあれば、大丈夫。
上にはタープで屋根を作ってる。
孤児院の部屋は空いたので、食事をする場所になった。
机やイスは多くある。
ニワトリも孤児院の中で寝れるようにすることになった。
港ネコたちもいるから、入りたいのは中に入れる。
今夜は寒くないから、外でも平気そうだけど。
「コケ」
ニワトリは私たちに付いてくるので、トレーラーまで一緒に行こう。
傘に雨が当たる音は、よく聞こえる。
葉っぱ傘にあたる音を聞いていたのなら、こっちの方がいいのかもしれない。
ト
それで付いてくるのかも。
孤児院は地下水をくみ上げて使っているので、浄水場からの水は届いていない。
くみ上げた水を直接ろ過して使っている。
「――」
私が掴んでいるチワワが、あくびした。
目は細くなっていて、シッポも垂れてる。
眠いらしい。
「・・・」
私が見ると、レトリバーもこっち見た。
黒猫たちの少し後ろを、ゆっくり付いてくる。
長いその毛には、だいぶ水が含まれていそう。
ぶるぶるすれば、かなり広範囲に水が飛ぶだろう。
「クゥン」
ブルブルしない。
チワワと傘を持っているので、頭を撫でてやれない。
ジャリ
空は暗い。
太陽はもう沈んでいて、雨雲で星も見えない。
ニャ~
おや。
孤児院とトレーラーの間に、シャープさんがいる。
シャープネコも一緒の様。
目が光ってる。
また、トレーニングでもしていたのかな。
ボーダさんとも連絡は取った。
彼の大学が主催する今回のネコレースは、過去最大の規模になるはずだった。
大学のある街は、新型ウイルスの感染者の確認数は少ない。
だけどすでに非常事態が宣言されており、近く外出規制が行われると言う。
ネコレースの開催は無理そう。
ただ、中止にするか延期にするかで話し合っているそうで、ボーダさんは延期になるように頑張っているらしい。
シャープさんは、今度こそ黒猫に勝って優勝しようと思っていた様なので、がっかりしているのかも。
「ニャ~」
シャープネコが鳴いた。
「ニャ~」
黒猫も鳴いた。
「・・・・」
シャープさんがこっち見たけど、何も言わない。
「一緒に行こう」
私は、シャープネコに言う。
ニャ~
ト
すると、シャープネコも歩き出した。
コケ
黒猫とシャープネコは似ており、ニワトリが見比べてる。
ジャリ
傘を差したシャープさんは、動かない。
シャープネコが後ろを気にしたけど、歩くのは止めない。
お腹空いてるのかな。
トレーラーの窓が光ってる。
その周りは暗い。
孤児院の周りは森で、トレーラーのある方は外灯もない。
そこから少し右、そして奥の上を見ると、離れた場所に灯台の光。
ちゃんと光ってる。
傘の柄に付けた腕ライトが前方を、首から提げたライトが足元を照らしている。
だから私たちの近くは明るい。
歩くのには困らない・・・・
ト
ザァァァァァ ・・・・・・
ピョ ♪
ニャ~