黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

弁護士の「マーケティング」事情

2010-01-12 11:08:53 | 弁護士業務
 新年最初の投稿ですが、黒猫は病気の影響か、ほとんど新年という感じはしませんでした。何もかもどうでもいいというような倦怠感に支配されていました。
 そんなわけで、ブログも何を書いてよいか迷いましたが、とりあえず黒猫が以前から考えていた問題のうち、表題の件について黒猫の思うところをまとめてみようかと思います。

 他の専門職種の業務については、既にマーケティングは当然のように行われているのですが、弁護士については未だに「武士は食わねど高楊枝」といった風潮が漂っているのか、弁護士の「マーケティング」と聴くと違和感を覚える方が多いかと思われます。
 しかし、この弁護士激増時代を生き抜いて行くには、弁護士業務についてもマーケティング戦略は必要不可欠であり、この問題について無関心を貫き通すわけにはいきません。
 ただ、弁護士の「マーケティング」については、他業種のそれとは異なる特殊性があります。すなわち、他の業種であれば事務所のホームページを工夫するとか、事務所の広告を出すなどといった方法が一般的に採られるのでしょうが、弁護士業務については、広告で一般市民からの仕事をある程度集めることはできても、企業からの仕事はなかなか集まりません。
 他の専門職種、例えば税理士や社労士、公認会計士などの仕事については、企業側も価格面などで有利であれば、あるいは新興の事務所に乗り換えてもよいと考えるかもしれませんが、企業が弁護士に頼む仕事は、それが訴訟であるか予防法務の類であるかを問わず、場合によっては企業の存続をも左右する重大な仕事です。
 そのため、企業も弁護士の仕事については「安ければ任せてもよい」などと考えるわけには行かず、ある程度信頼の置ける有能な弁護士を選ぶ必要があります。
 しかし、長年企業法務に携わってきた大企業の社員といった例外はさておくとしても、一般的に弁護士でない人が、弁護士を一度会った程度で有能かどうかを判断することは容易ではありません。
 そして特に企業の場合、訴訟で万一自社に不利な結果が出たときでも、有能な弁護士に事件を任せたのだから、自分の善管注意義務は果たしており自分に責任はないという意味で、株主等に対する自己弁護の余地を残しておく必要があります。
 その結果、弁護士の行う企業法務については、「有能」であることをわかりやすく体現している弁護士、すなわち「腕の良い弁護士」として名前の売れている弁護士のところに仕事が集中する傾向があります。
 最近、法律事務所「MIRAIO」とか、ミネルヴァ法律特かか許事務所と浜田何とかといった債務整理の事務所が、テレビなどで頻繁に広告を出すようになりましたが、あのような広告を見て債務整理の仕事を依頼しに来る顧客はいても、企業の仕事を依頼しに来る顧客はまずいないでしょう。
 そもそも、あのようなテレビCMを活用した大規模な広告は、以前なら弁護士業務については「割に合わない」という考え方が大勢を占めていました。それが、何故か昨年あたりから急激に法律事務所のCMが目立つようになったのは、テレビCMなど費用のかかる宣伝媒体を使っても費用対効果が見込めるという考え方に変わったのか、それとも単に過払いバブル崩壊を控えて依頼者の取り合いが激烈化した結果に過ぎないのかは、黒猫の知るところではありませんが、もし後者が真実であれば、数年後には現在大々的に広告を出している法律事務所の大半が経営破綻することになるでしょう。

 ところで、弁護士業務の問題については、時々法科大学院生などから「現役の弁護士はあんなに忙しく仕事をしているのだから、ワークシェアリングをすればいいんじゃないか」といった類の意見を聴くことがありますが、このような議論は全く現実的ではありません。
 仕事を依頼する側としては、有能な(少なくとも利害関係人に対する責任を果たせる)弁護士に仕事を頼んだのであり、依頼者の運命を左右する重大な仕事を勝手にワークシェアリングされてはたまったものではありませんし、事件を受任する弁護士の側としても、ろくな法的知識や素養を備えていない新人弁護士を安易に採用して、自らの事務所のブランド価値を落とすわけには行きません。そのようなことをすれば、結局は自らの首を絞めることになります。
 したがって、このまま司法試験合格者の質を落として弁護士を粗製濫造する政策を採り続けたとしても、結局は「名が売れていて仕事がたくさん来る弁護士」と「仕事の来ない弁護士」との格差がますます開いていくだけで、実質的な法曹人口の拡充にはつながりません。
 このような事態を打開する方法としては、いわゆる弁護士の公的な「専門認定制度」を設ける方法があり、このような制度があれば、特殊な事件についてはその専門認定を受けた弁護士に依頼すればよいということになって、著名な弁護士に事件が集中する事態もある程度は緩和されるでしょう。弁護士の専門認定制度は、既に欧米諸国では広く導入され活用されています。
 黒猫は、以前から日本でも弁護士の専門認定制度を導入すべきであると主張してきましたが、なぜか日弁連の執行部は未だに動こうとしていません。

 話がちょっと逸れましたが、弁護士の仕事が依頼者の運命を左右する重大なものであり、そのため著名にならないと仕事が集まらないからといって、ホームページでの広告や宣伝活動の類が全く無意味というわけではありません。ただ、他の業種と違うのは、効果が現れるまでかなり時間がかかるということです。
 すなわち、弁護士としての名が売れて企業法務などの重要な事件まで任せられるようになるには、単に広告を出すだけではなく、実際に受任する事件について依頼者に対し誠実に対応し、どんなつまらない事件でも頑張って仕事をするという下積みの積み重ねが不可欠です。
 自力で独立開業し、弁護士として名が売れるようになるまでには、基本的には十数年ないしそれ以上の年月が必要であり、その結果が出るに至るプロセスには、実力や才能だけではなく運にも左右されます。
 以前、黒猫の知っている弁護士から、請求額が数千万円にものぼる事件について「こんな事件どうでもいい」と話しているのを聞いたことがありますが、こういう弁護士はおそらく大物にはなれないでしょう。

 そんなわけで、黒猫の弁護士業務への復帰については、まあ気長に考えるつもりです。薬のせいか、絶えず頭がぼんやりとしているので、具体的にいつのことになるかは分かりませんが。

37 コメント

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Unknown (si-k)
2010-01-12 19:15:17
年間2000人程度に合格者がなったとしても、弁護士数はどんどん増加していきますし、これからは弁護士も自己の法律事務所のマーケティング戦略を考えていかねばならないということに激しく同意します。
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Unknown (zebra)
2010-01-12 22:26:13
民主党政権も早くも行き詰まりの様相を呈してきましたし、なかなか上手くいかないものですね。いったいどこに向かって日本は行くのでしょう?

ところで、最近の若手弁護士は法律事務所の営業に積極的ですよ?この間話題になった弁護士バーなどもいい例ですよね。もっともこれに関しては、弁護士会から「待った」がかけられたようですが(笑)

これから弁護士になろうとする人は、私たちの世代より、よりアクティブになる必要がありますね(というかならなきゃ食ってけない?)。弁護士バーが良いかどうかは別として、こうした活動が起きてくる、それ自体は歓迎したいと思います。
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Unknown (Unknown)
2010-01-13 00:47:27
民主党を応援したのはいいが、なんか凄まじい疲労感だけが残った気がする・・・
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Unknown (Unknown)
2010-01-13 01:31:13
それ言えてる。なんだかね・・
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Unknown (Unknown)
2010-01-13 02:40:18
政治サイドで一定規模の企業は弁護士資格を持つものを採用しろという法律さえ作ればいいのにね。給料は社員と変わらなくても行くやつは多いだろう・・・。
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Unknown (Unknown)
2010-01-13 02:44:39
弁護士の多くが法律事務所にしかいかないのが
まずかったんだろうね。
3000人でも民間に行くやつ、公務員になるやつ、そして法律事務所などに勤務して、将来独立開業を目指すやつにわかれるような制度にすればよかったんだと思う。
あと黒猫さんの専門認定には賛成だな。
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Unknown (Unknown)
2010-01-13 17:43:11
現在でも民間や公務員として働く弁護士の需要はあるが、法律事務所で働いたことのない名ばかりの弁護士の需要は少ない(というか、ほとんどない)。
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Unknown (Unknown)
2010-01-13 21:14:51
なんか、いろいろあったが、俺たちが期待した民主党は黒かった。どうも国民の皆さんのために、というフレーズが、私たち民主党のために、と最近聞こえてならん。
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Unknown (Unknown)
2010-01-13 23:33:58
ヤクザがらみじゃないか、とか、北朝鮮がらみじゃないか、とかみんないろいろ言ってるけどな。
どれが真実なのやら。
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Unknown (Unknown)
2010-01-14 01:01:00
一応(表向きは)ゼネコンらしいが・・・ヤクザという噂もあるな。
前回もいろいろあったが、今回は本当に黒いらしい。
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