黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

法科大学院は,たぶん「大学病院」にはなれません。

2012-12-23 15:17:35 | 弁護士業務
 ボ2ネタで,こんな記事が載っていました。
<参 照>
スコープ2012:法律の技術、身につけて 岡山大法科大学院が弁護士事務所を設立、就職難の新人サポート /岡山
毎日新聞 12月21日(金)16時11分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121221-00000253-mailo-l33

 この記事によると,岡山大学法科大学院が弁護士研修センターを設置し,その中核として設立されたのが「のぞみ法律事務所」で,毎年2~3人の新人弁護士を最長2年間受け入れるそうです。このブログでも何度も書いているとおり,最近は司法試験に合格して司法修習を終えても弁護士として就職できない人が多いのですが,岡山ローは就職先として企業や病院に勤める「組織内弁護士」に注目し,組織内で働ける弁護士を養成するため大学内部に法律事務所を作ったということらしいです。
 最近の法科大学院関係者は,何かと言うと法曹養成課程と医師養成課程を比べたがる傾向にありますが,彼らの考えるところによれば,

第1段階:医学部課程(6年間)に相当するのが法科大学院課程(原則3年間)
第2段階:医師国家試験に相当するのが司法試験
第3段階:研修医課程(2年間)に相当するのが司法修習(1年間)
第4段階:専門医養成課程(3~4年間)に相当するのが弁護士としてのOJT

ということになるらしいです。
 その意図するところは,要するに医師国家試験の合格率が90%を超えていることから,これに倣ってとにかく司法試験の合格率を上げようということなのですが,医師養成課程で言えば第4段階,つまり大学病院等で行われている専門医養成課程に相当するものが弁護士にはないので,法科大学院の職域拡大も兼ねて,法科大学院が弁護士になった後のOJT教育に乗りだそうという考え方があり,岡山ローの法律事務所設立はそのような考え方を背景にしたものと思われます。
 つまり,岡山ローは「弁護士養成課程における大学病院」を目指しているものと考えられ,別に大学病院を目指すのは勝手にすればいいのですが,新たに設立された岡山ローの法律事務所と大学病院とでは,決定的に違う点が1つあります。上掲の記事では次のように書かれています。

「吉沢所長と新人弁護士が共同で法律事務所を開設する形をとり、通常の法律事務所に勤める「イソ弁」(居候弁護士)とは違い、給料は出ない。自分が引き受けた仕事の報酬が頼りだ。吉沢所長は「助言はするが、弁護士は自分で育つのが基本。まずは法律相談から交通事故の損害賠償や消費者金融、離婚などの依頼を探し、法律の技術を身につけさせたい」と話す。」

 念のため言っておきますが,専門医になるために大学病院で研修をする医師たちは,きちんと大学病院から給料が出ます。また,有名大学の病院であれば高度な医療を求める患者が自然と集まってくるので,大学病院に勤務する医師が自分で仕事(患者)を探したりする必要はありません。
 これに対し,岡山ロー付属の法律事務所は,そこに所属しても給料は出ない,仕事は自分で探せというのです。組織内で活躍できる弁護士を養成するというのであれば,おそらく通常の弁護士業務では身に付かない専門的な知識や技術を習得させようと考えるのが普通だと思いますが,仕事は自分で探せというのであれば,知識や技術の習得よりまずは仕事(依頼)を取るための営業活動に専念せざるを得ないでしょう。いくら営業活動をしても仕事が見つからなければ,生活のために弁護士業とは縁の無いアルバイトに従事することを余儀なくされるかも知れません。新人弁護士をこんな状態で囲っておきながら,法科大学院として彼らに一体何を修得させようとしているのでしょうか。
 なお,そのような「法律事務所」になんで新人弁護士が所属しようと考えるのか,と疑問に感じる向きもあるかも知れませんが,この事務所に参加した新人弁護士達は,司法修習中に20~30カ所に履歴書を送ったり,東京や岡山,四国と面接に駆け回り,それでも就職先が見つからなかった人のようです。散々困った挙げ句,自宅を事務所登録して「即独」したり,あるいは弁護士登録すらも諦めて他の仕事を探すよりは,このような「岡山ロー附属の法律事務所」に所属する形で弁護士登録をする方がまだましだと考えたのでしょう。

 そもそも,日本の大学法学部や法科大学院には,大学病院のような実務的基盤がありません。すなわち,大学病院は主に高度医療を取り扱う診療機関という社会的評価が確立しており,実際の診療を行いつつ専門医を育成することが十分可能な環境にありますが,大学の法学部に附属法律事務所を置いているようなところはありません。
 法科大学院設立時に附属法律事務所のようなものを設置した大学はありますが,実際にはあまり機能していないらしく,京都大学法科大学院内に設けられていた法律事務所はいつの間にか閉鎖されてしまったようです。大学病院と違って,法科大学院附属の法律事務所へ相談に行ったところで,上質の法的サービスを受けられると一般的に考えられているわけではなく,むしろ法科大学院生や即独に等しい新人弁護士の実験台にされるのは分かりきっている,しかも法テラスや日弁連・弁護士会の公設事務所など,もっとまともな公的相談先は既にいくらでもあるという状況の下では,このような法科大学院附属の法律事務所が成功する可能性はほぼゼロです。
 しかも,岡山ローにはもともと別の法律事務所(岡山パブリック法律事務所の支部)が存在しているとのことであり,組織内弁護士を養成するために新たな法律事務所を作るというのは,いかにも破れかぶれな発想だと評するほかありません。おそらく,この「のぞみ法律事務所」とやらも,数年後にはいつの間にか消えている可能性が高いでしょう。

 ところで,前回の記事に対しては,一括登録日以降に弁護士登録をする人もいるので,「未登録者」=「弁護士になれなかった人」というわけではないと主張する人もいるようです。別にそのような指摘自体が間違っているわけではありませんが,白浜弁護士が独自に調査しているところによると,一括登録日に404名の未登録者を出した64期については,その後の経緯を見ても今年の8月末時点でなお未登録者が80人くらい残っており,かつそのあたりで登録人数に頭打ちの傾向が見られる(http://www.shirahama-lo.jp/blog/2012/09/)とのことであり,修了者全員が登録できているとはとても言えないのが現実です。
 また,一応弁護士登録はしていても,自宅を事務所としているなどの明らかな「即独」であったり,岡山ローの「のぞみ法律事務所」にも見られるとおり,一応所属事務所はあってもそこに雇用されているわけではなく,給料はもらえず仕事は自分で取って来いという事務所も結構あるようですから,弁護士登録をしている人全員が弁護士としてまともなスタートを切れているとは全く言えないのも現実です。
 最近は,新人弁護士に給料を出さないどころか,事務所の経費負担を押しつけようとする事務所も増えていると聞いていますが,せめて岡山ローが新人弁護士に経費負担を押しつけたり,研修費用などの名目で新人弁護士から金をせびり取ったりしない「良心的な」事務所であることを祈るばかりです。
 さらに,東京国税局が平成22年度に行った調査では,弁護士として事業所得を申告した者16,527名のうち,約33%にあたる5,468名が所得70万円以下だったということです(http://www.nta.go.jp/tokyo/kohyo/tokei/h22/pdf/2-3.pdf)。この資料を見ると,弁護士の所得分布は税理士・公認会計士はおろか,本来「格下」であるはずの司法書士・行政書士よりも明らかにひどくなっており,他業種と比較しても貧困層が圧倒的に多い業種になってしまっていることが分かります。
 法科大学院制度で弁護士の数が増えたといって単純に喜んでいる人は,法科大学院では実働法曹ではなく生活保護受給者ないしその予備軍を育てているだけだということをいい加減自覚してもらいたいと思いますし,来年度の法科大学院入学を考えている人(黒猫の推計では,来年度の法科大学院入学者は2,600人前後と見込んでいます)は,うっかり入学して人生の無間地獄に取りこまれてしまう前に,是非もう一度考え直して欲しいと思います。 

8 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-12-23 19:36:09
そういえば、先月のNBLだったか忘れたけど、大学教授と弁護士の座談会だか対談だかで、どっかのたぶん偉い弁護士が、法曹の需要がまだまだあるって、内容見たら、
震災があって無料相談受けたい人がたくさんいるんだけど対応しきれてない。まだまだ需要はあるってこと言ってるんっだよね。
これから、ローに行こうって人は、こういう需要が求められてるって、自覚した方が良いよ。
つまりさあ。弁護士業はただで需要にこたえて、あとは霞を食うか、生活費は他のお仕事で稼いでねってことなんだよね。
まあ、そういうことらしいんで。がんばってね。

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Unknown (びっくり)
2012-12-25 00:16:23
未登録者について,以下のような意見があるようです。

 昔のように,働きながら勉強した(苦学生)という時代ではなく,一年で約200 万円という法科大学院の学費を負担できる経済的に余裕のある家庭の人たちが司法試験を受けていて,登録を急いで稼ぐ必要が無い余裕世代特有の現象という見方ができるかもしれません。
 しかし,最近は,弁護士登録をするとその月から弁護士会費を払わなければならないので,収入を確保してから入会するという未登録現象が生じているのが実状です。
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Unknown ()
2012-12-25 15:47:02
改革推進派はなぜ間違いを認められないんでしょうか?今さらながらロースクール研究廃刊号読んであまりの往生際の悪さに辟易しました。
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Unknown (Unknown)
2012-12-26 00:22:48
負けを認めなければ、失敗じゃない。失敗じゃなければ責任は問われないんですよ。
宗教が、どんな状況に陥っても「それは、信仰心が足りないせいだ」と言っていれば、信仰自体の責任が問われないのと同じなんですよ。
結局、失敗したら責任を採ればいいなんてのは、誰がどのような状態になったら失敗と認定されるのがあいまいである限り、全く無意味ということが欠落してるんですよ。
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Unknown (Unknown)
2012-12-26 11:57:00
法科大学院なんてまるで宗教ですからね。
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Unknown (芳賀)
2012-12-26 12:48:49
学生は、さしずめ殉教者なわけですね。
官僚制って責任負わないのが前提ですから
責任とれという発想は難があるでせう。
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Unknown (Unknown)
2013-01-04 13:52:32
岡大はまだマシな方かもしれません。
国立下位ローの中には学生集めに必死な余り、とうとうここまでするローもあるようです…。

http://www.ls.kumamoto-u.ac.jp/cgi_img/79-4.pdf

羊な学生諸君が騙されないことを祈るばかりです。
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Unknown (Unknown)
2013-01-06 14:13:53
バカな羊は、スペアリブにされて、老害オオカミにおいしく食べられるのが、今の常なんですよ。
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