黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

弁護士業界の課題と展望

2013-01-02 21:20:30 | 弁護士業務
 あけましておめでとうございます。
 『黒猫のつぶやき』は,たしか平成17年頃から始めていますので,今年で9年目ということになるのでしょうか。更新がかなりまばらだった時期もありますが,ともかくも長期間ブログを続けて来られたのは,ひとえに貴重な時間を割いて拙い黒猫の記事を読んでくれる皆様のおかげです。
 コメントでは時に痛い批判を受けることもありますが,誰からも批判されることもなく無視されるだけであれば,記事を書く気も起こりませんし,最近は「批判されるのは読まれている証拠」と割り切ることにしています。

 新年最初の記事ということで,弁護士業界における前年度の総括や今後の課題や展望といったことについて,黒猫なりの視点でまとめてみようと思います。

1 弁護士自治と弁護士会制度
 昨年の日弁連会長選挙では,異例の再投票,再選挙を含む都合3回の投票を経た結果,無派閥の立場から会長再選を目指した宇都宮候補が敗れ,旧主流派に属する山岸候補が新会長となりました。山岸執行部は,宇都宮前会長時代に盛り上がりを見せた給費制維持(復活)運動を徹底したサボタージュにより事実上消滅させ,さらに再投票・再選挙の原因となった日弁連会則(会長選挙に関する61条2項)の改正を目論んでいます。
 会則の改正というのは,具体的には日弁連会長選挙で当選者となるには,単に会員の得票数が最多であるだけではダメで,全体の3分の1を越える弁護士会においてそれぞれ最多票を得ていなければならないものとされているところ,特に地方の単位会で支持率の低い旧主流派はこの「3分の1要件」を満たすことが極めて困難であることから,会則にある「3分の1要件」自体を撤廃し,単純に会員の得票数が最多であれば会長に当選できるようにしようというものです。
 現在の日弁連執行部(旧主流派)は,もはや日弁連が会員の支持によって成り立っている「弁護士自治」の団体であるという理念を捨て,弁護士法による強制加入団体であることを存続の根拠にしているとしか思えないのですが,日弁連や各地の弁護士会(単位会)の活動は多くの会員による無償行為で成り立っている面が強く,特に国選弁護や司法修習は地方にいる会員の自己犠牲なしには制度自体が崩壊してしまいます。
 国が弁護士会を強制加入団体としている限り,大多数の会員の意向を無視して何をやっても安心だ,人数の少ない地方単位会の意見など無視して構わないという発想は,非常に短絡的かつ危険なものです。また,旧主流派が拠り所としている派閥の影響力も年々低下している現状において,旧主流派が今後も安定して会長ポストを維持できる可能性は低いでしょう。
 日弁連・弁護士会の求心力低下はとどまるところを知らず,最近は若手のみならず中堅どころの弁護士に至るまで,弁護士会は任意加入制にした方がよいのではないかという意見がみられるようになりました。弁護士の収入状況が全体的に悪化し,弁護士会の会費や会務負担の重さは一向に改善されないばかりか,時限措置であった特別会費(ひまわり基金用)の徴収を継続するなど,むしろそれをさらに悪化させようという動きまでみられます。
 旧主流派のみならず,旧主流派の方針に反対し「古き良き弁護士会を取り戻そう」と考える人々にとっても,若手会員に対し弁護士会の存在意義を納得させるような活動を行うことは急務であり,おそらく今年から来年あたりが,将来にわたって日弁連と弁護士会が存続するかどうかの分かれ目になるのではないかと思います。

2 法科大学院制度
 法科大学院制度については,入り口である適性試験の受験者が6千人を下回り,既に制度自体が破綻しているにもかかわらず,政府はなおも法科大学院制度の維持・存続を図る方針を改めておらず,日弁連も同方針を支持する方針を改めていません。このような制度を早急に廃止し,少なくとも法科大学院修了を司法試験の受験資格から外す方策を採らなければ,法曹界の人材枯渇と業界の縮小を招くばかりでなく,最悪の場合司法書士か米国弁護士に取って代わられる可能性すらあるということはこのブログでも再三指摘してきたところですが,未だ相当数の弁護士がそのような問題意識を有していないことは残念というしかありません。
 旧主流派は,法科大学院制度の存続を支持しつつ,法科大学院における実務家教員の数を3割以上に増やせ,実務家教員を法科大学院の経営に参画させろなどという政治的主張を行っていますが,大多数の法科大学院が改善の見込みもない赤字経営を強いられていることなど顧慮もせず,法科大学院からはまだ搾り取れるなどと考えているのでしょうか。法科大学院では特に研究者教員の能力不足や気力不足が問題視されていますが,彼らはそれすらも「実務家教員を増やせ」という主張の論拠に使っているようです。
 一方,法科大学院の急激な人気低下等を受けて,法科大学院制度を批判する声もかなり高まり,昨年は『司法改革の失敗』と題する本も発刊されましたが,司法改革批判の先頭に立っている弁護士の中には,法科大学院制度に批判的な研究者教員との大同団結でも考えているのか,研究者教員批判については消極的な傾向が目立ちます。例えば『司法改革の失敗』では,研究者教員の問題点についてはろくに触れられていない一方,同274頁では「弁護士の実務家教員の多くは,実務ではなく受験勉強の指導を行っている」といった批判がなされており,これでは「研究者教員は良い指導を行っている」などと誤解されかねません。
 要するに,弁護士業界の中では法科大学院存続派が法科大学院の研究者教員を批判する一方,法科大学院反対派が研究者教員を擁護するという奇妙な「逆転現象」が見られるのですが,法科大学院制度を批判するにしても,具体的な主張が政治的意図に左右されるようでは,一般市民に対し説得力のある主張が出来るはずもありません。存続派も反対派も,今後は現状を直視した議論が必要になるでしょう。

3 司法修習制度
 司法修習については,前期修習の復活と給費制の復活が大きな課題とされていますが,前者については復活の必要性について積極的な異論はみられないものの,司法研修所の収容人数との関係から司法試験合格者を年間1500人以下に減らさなければ前期修習の復活は不可能であることから,最高裁も現状では復活に否定的な見解を示しており,議論の進展がみられません。
 後者については,たしかに給費制の復活は修習生の過酷な経済的事情を改善するには有効な措置であり,日弁連も建前上は給費制復活を訴えているものの,実際に修習生を苦しめているのは法科大学院時代の借金が8割,司法修習の貸与制が2割といったところであり,法科大学院制度の抜本的見直しを行うことなく給費制のみを復活させようという主張が一般国民の理解を得ることは難しいでしょう。
 司法修習制度については,法曹養成に関する国の政策として修習をどう位置づけるのかという根本的な議論がなされないまま,なし崩し的に存続しつつ空洞化が進むという状況になっており,指導担当弁護士の負担も深刻な問題になっていますが,司法修習制度の問題は他の問題とも密接に関連しており,司法修習制度のあり方だけを独立の問題として取り上げて結論を出すことは不可能です。

4 法曹人口と弁護士業務の改革
 司法改革に伴い弁護士登録者数は増えましたが,司法改革の企図した「市場競争原理により質の悪い弁護士が淘汰され,法的サービスの質が向上する」という結果には結びついておらず,むしろ「質の悪い弁護士が多くなっている」ことが社会的にも認知されたばかりか,弁護士による預り金横領などの不祥事も相次ぎ,弁護士制度そのものに対する市民の信頼が揺らぐ事態に発展しています。また,弁護士の経済的窮乏も我慢の限界に達したのか,最近は弁護士業界の恥部ともいうべき裏事情を公然と語る人も増えてきているように思います。
 司法試験合格者の適正人数を見直すことも急務ですが,それだけでは問題を解決できないほど弁護士業界の変質は進んでしまっており,もはや「弁護士」という肩書きだけでは市民の信頼を得られないことを率直に認めた上でその上位資格である専門弁護士制度(専門認定制度)を創設する,預かり金に関する業務規制を強化するといった,従来では考えられないような改革案も検討しなければならない状況に陥っています。
 また,弁護士過疎地域については,既に地域需要の飽和が指摘されており,法テラスの官製事務所が民業を圧迫しているほか,日弁連の創設したひまわり基金法律事務所も経営難に陥っている一方で,日弁連では人口3万人以上の全ての市町村に法律事務所を置くといった非現実的な目標が立てられるなど,現実を無視した「暴走」が目立つようになっています。

5 まとめ
 その他細かい問題まで含めると,弁護士業界を取り巻く課題や問題点は多すぎて語りきれないくらいですが,その原因の多くは現実を無視した司法改革の悪影響であり,もはや制度の設計図を早急に一から引き直さなければ,弁護士という資格・職業の存続そのものが危うくなる事態に直面していることは確かです。
 今年は,法曹養成制度検討会議がこれらの問題について一定の結論を示し,それを踏まえて今年の8月頃には,法曹養成制度関係閣僚会議が一定の方向性を示すものと思われますが,検討の途中で民主党政権から自民党政権に代わったこともあり,現時点では改革の方向性は不透明です。それでも,閣僚会議の決定が弁護士業界の運命を相当程度左右することは間違いなく,今年は弁護士業界にとって運命の岐路が待ち受けているように思います。
 黒猫は,もとより弁護士業界における影響力など皆無ですから,出来ることは現状を率直に語ることだけです。最近は「辛口の後ろ向き」とか言われているようですが,弁護士業界全体が後ろ向きな発想しかしていない現状では,黒猫だけ「前向き」に改革案など語っても意味はありませんので,当分は「法科大学院商法」の被害者を少しでも減らすことに専念したいと思います。
 今年も『黒猫のつぶやき』をよろしくお願いします。

13 コメント

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Unknown (通りすがり)
2013-01-03 09:48:58
預り金不祥事起こしてるの、黒猫さんの言う
新司ではない「旧司」を合格された「優秀な」先生
ばかりじゃないですか。
我々の収入減らさないためにも、これから弁護士になる
人数を減少させろっていうご主張ですよね。
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Unknown (Unknown)
2013-01-03 12:02:56
オウムか?
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Unknown (YAMADA)
2013-01-03 19:50:24
今なら,国会議員の歳費を限りなくゼロにする,という政党や候補者がいれば圧倒的に支持されるでしょうね。

国民の皆様は質よりも安い方をお望みですから,政治家の能力が低くてもかまいません。
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Unknown (Unknown)
2013-01-03 20:01:52
「廻り回って」って発想がないんだよね。
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Unknown (Unknown)
2013-01-03 21:32:55
「新試」の弁護士って横領するほどの預り金は持ってないってw
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情けない (ヒヨコ鑑定士)
2013-01-03 22:07:19
明けましておめでとうございます。
旧司法試験制度に戻せばいいんだよ。
法科大学院では護身術を教えれば良いです(笑)
法曹はこれからもっと人から恨まれる仕事ばかりになるからね~
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結局 (Unknown)
2013-01-06 12:12:48
誰でも受けられて、2000人くらいでよかったのでは?
まぁ、今の日本は若手を殺して、回しているようなもんだけどね・・・。
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Unknown (Unknown)
2013-01-06 14:09:50
年寄りだって、自分の生活レベル落としたくないからね。
若者とか日本の将来なんて、それに比べたらどーでもいいんだよ。
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Unknown (5×期)
2013-01-06 15:51:31
黒猫先生のblogいつも読ませていただいています。
私は地方の弁護士会に所属していますが,最近,近隣の弁護士会を含め,地方では面白い現象が起きています。
それは,旧来の古い弁護士事務所の経営がどんどん追い詰められ,「絶対に無理だ」と言われていた即独弁護士事務所の経営がなんとかなっているということです。
旧来型は一頭地に事務員をたくさん抱え見栄も張りまくるというスタイルですが,それでは月に数百万円の売り上げがあってもトントンになりかねません。
他方,即独はボロ事務所に事務員1人で質素ですが,月の経費が20万以下(弁護士会含む)というところもあり,国選+私選1件で経営が成り立つという状態なのです。
そこで,我が弁護士会は,即独系や公設事務所,アディーレの“評判”を流し,国選を新人数年間は受任できないようにし,さらに,弁護士会費の値上げをして参入障壁にしようとしているのです。
東京などではとてもこんなことはできないでしょうが,地方は,なんとも不思議な力学で,「自由と正義」なんて関係なく,弁護士自治が行われているのです。
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Unknown (Unknown)
2013-01-06 17:54:20
5X期さんのいうとおりですね。
旧来型の弁護士は、過払事務所や広告をバンバン打つ事務所を揶揄してバカにする。彼らの悪口を言うのは筋違いでしょうね。あと1~2年もすれば立場が逆転し、いままでバカにしていた旧来型の弁護士も、彼らにおべっかを使うようになるんじゃないでしょうか。

弁護士会費を下げないのは、まさに、新規参入が本音にあるからと思われますね。無駄な会務の廃止などいくらでもできます。無償でやってる会務の大半が無駄といっていいでしょう。
付添人だって、刑事被疑者援助だって、弁護士はタダ&手弁当でやりすぎです。それが将来飯の種になるんならともかく、ならないのに、やってもしょうがない。経営学的観点からはありえない作業です。
タダでやって当たり前、という発想は、サービス業なのですから、おかしな話です。
こういう会務をどんどんなくし、会費を減免する。
弁護士会と日弁連という重層構造をやめるだけでも、会費は下げられるような気がします。
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