四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

冬から春が旬である貝がそろそろ終盤、初鰹・鰈・鱸・鯵など夏の魚が出てきました。

のがみの火を入れる貝の話

2016-09-12 23:35:00 | のがみの〇〇の話

のがみの火を入れる貝の話たいら貝(タイラギ)は生でもおいしいのですが、塩をふって少し炙ると甘みが出ます。20120111nogami_002_2今、築地Nogami0906_001_2マテ貝は刷毛で醤油を塗りながら焼きブツ切りに。香ばしさと旨味がひろがります。今、築地サザエはお刺身だとコリコリしていますが、006壺焼きにすると身が軟らかくなります。今、築地アワビもお刺身だと歯応えがありますが、酒蒸しの場合しっとり軟らかくなります。002_2今、築地反対にトコブシはお刺身では身が軟らかく、煮ると硬くなります。今、築地いろいろ書きましたが、貝は火を入れると「甘みが増す」「貝独特のクセが和らぐ」という効果があります。019ホッキ貝もまさにそうです。005_2これからシーズンのトリ貝も。いずれの貝にも言えることはすべて貝は生きているものに火を入れるということです。そしてそれぞれの貝ごとに、あるいはヒモなどの部位によって焼き加減、茹で加減、蒸し加減すべて使い分けています。あくまでも美味しく個性を際立たせるための技法として火を入れているので、細心の注意を払っています。その例としてホッキ貝のにぎりがあります。

020_2ホッキ貝は火を入れることで貝独特のクセが和らぎ、甘味が感じられるようになります。



すしダネにする際、捌いた身を湯引きにすることが多いです。湯に投じたら数秒も経たないうちにホッキの身は紫がかった灰色からから桜色に変わっていきます。鍋の中でグラグラと火を入れ過ぎてもダメ、入れなさ過ぎてもダメ、貝本来の個性を活かしつつ旨味をひき出すタイミングとしては、ふちがほんのり紅くなりかけたその一瞬だけです。主人はこの瞬間を見逃さずに引きあげ、握ります。



ほお張ると、口の中にホッキの香りと甘さがひろがります。



今、築地最後にあと一つだけ紹介させてください。煮蛤です。“煮る”という字がついていますが、さっと湯掻くだけです。Img_2514煮蛤を作る工程には“茹でる”というのがあります。ぐつぐつ煮ると身が硬くなってしまうので、名前は煮蛤ですが実際には煮ません。さっと火を通すだけです。



仕入れてきた蛤はまず殻から外し、砂などを流水で洗い、冒頭に書いたように身を軽く茹でます。火が入ったらすぐザルの上に引き揚げます。余熱がどんどん入っていかないように団扇で急速に冷まします。



身を開きワタを取りバットに並べます。酒・砂糖・醤油で調味した浸け汁を煮立て、鍋ごと冷水に当てて蛤と同じ温度まで冷まします。

蛤と浸け汁を同じ温度にしてから併せるのには理由があります。傷みにくくすることと蛤のエキスが汁に溶け出すのを防ぐためです。

仕込みが終わった煮蛤はお客様に召し上がっていただくまで浸され、出番を待ちます。

仕入れるところは桑名、鹿島、九十九里などが多いです。

珍しいところでは、千葉・飯岡産の殻が真っ黒な蛤で“黒丸(くろまる)”という品種を入れることがあります。

「旨みが他の蛤と同じようにありながらシャープな味わいだね」と評されることが多いです。「エッジが効いている」とも。

にぎり・つまみ共にハマヅメと呼ばれる蛤の煮汁を煮詰めたタレと一緒にどうぞ…。