四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

2月~3月は貝が多く出回る季節です。12月から始まり4月上旬頃でかなり少なくなります。

のがみの玉子焼きの話 1

2016-09-30 23:35:00 | のがみの〇〇の話
のがみの玉子焼きの話①今、築地築地の玉子屋さんで卵を買っています。新潟・新発田のものです。009_2008_2002_2玉子焼きがきれいに焼けるよう定期的に空焼きをします。



おもにコゲなど気になる部分はほどよく鋭利な道具(主人の場合は貝むき)で落とし、仕上げに油を馴染ませます。



普段の手入れはこのような感じですが、新品をおろす時や焼きながら卵液がくっついて剥がれないなど調子がよくない時には別のことを行います。



◎普段の空焼きより強火で長時間熱する ⇒ ◎火を止めて煙がおさまるのを待つ ⇒ ◎油を注ぎ大根の切れ端を入れて熱する ⇒ ◎油が馴染んだら大根と油を別のところにあけ、玉子焼き器(フライパン)の余分な油をペーパーで拭き取り整える です。



玉子焼き器を使うたびに洗うお店、洗わないお店、さまざまです。



油を熱する時に大根を入れるというのも、主人が中学生の頃に父親から



“油に引火しにくくなるからこうするんだ”と教わったのだそうです。 042



玉子焼きを上手に焼くコツを主人に尋ねたところ、



◎強火で一気に躊躇せず



◎油はけっこう多め



◎黄身と白身を混ぜ過ぎない



とのことでした。



完璧に混ぜ合わせるよりも、黄身と白身が分離しているくらいの方が玉子焼きにコシが出るのだそうです。014玉子焼、卵八個使っています。


『憧れの店』『サヨリの福玉』『海苔の背を叩く』『おから』

2016-09-29 00:00:00 | いろいろ おかみノート


おかみノート
主人の実家はお寿司屋さん。私はなんにも知らないドシロウト。今まで見たり聞いたり体験した
寿司屋のいろんなことを書いておきたいと思います。



『 憧れの店 』
「憧れの仲買いさんがあるんだよ」と聞かされたのはずいぶん昔の話で、自ら寿司屋を興すなどとはまだ考えていなかった時期のことだったと思う。
その店は“アオシロの最高峰のものばかり”を扱うところだと主人は力説していた。
アオシロというのは白身の魚でも皮の部分が青光りしているようなもの、たとえばブリ・カンパチ・ヒラマサ、シマアジもこの部類に入るという。
アオシロに対してシロシロはタイやスズキ、ヒラメ、カレイなど。
有名な寿司屋はアオシロをそこから仕入れるのだと、ぜひ一度行ってみたいと熱く語っていた。

店を始めてもうすぐ一年という頃のことだった。
私が店に到着するなり主人が言った。
「今日のカツオ、どこのか分かる?」
半身におろされたカツオを持ち上げている主人を見ながら
「○○さんじゃないの」
と、いつもお世話になっている
仲買いさんの名を挙げた。
「ちがいます」
「じゃあ分かんないよ」
「絶対分かるって!ぜったい!」
「・・・私の知ってるとこ?」
「多分知ってると思う」
「カツオでしょ・・」
「そう」
「えー、あとどこ?」
「ほら、あそこだよ」
「あそこってどこよ」
「あそこだよ、あそこ!!」
「あーそーこーぉ・・?そう言われてもなー・・」
「今まで入ったことは無かったけどね」
「・・・入ったことが無い?」
「店始まって落ち着いてからは毎日その店の前を通ってずーっと念を送ってたというか敷居が高いから毎日 店の前を見るだけで何も出来なかったんだけど、今日そこの親父さんに“何かお探しですか”って声掛けてもらって」
「まさか!」
「そう!」
「あの?あの憧れの・・?」
「ついに、やりました――っ!!」
「マジで――?あの仲買いさんのとこ行ったの?やったじゃん!よかったね!・・でもさ、カツオって“アオシロ”?」
「いや、赤身だね。そこはメジとかカツオもいいのを置いてるのよ。しかもさー、そんなスゴイ店なのに半身とか、大きいものなんか四分一とか八分の一とかで売ってくれるんだぜ。うちみたいな小さい店には本当に有難いよ」
「仲買いさんのところって基本的には紹介なの?」
「・・そんなこともないけどね。飛び込みで入ってみたりもするよ。ただ、やっぱり紹介してもらった方が話は早いよね」
「紹介無しで頑張ったんだー」
「まぁ、そうね」
「やったね!」
「おぅ」
「モノもやっぱりいいんだ」
「・・・・そうね、いいね」
お客様にお出しするのが楽しみだ、と言いながらカツオをしみじみと眺め冷蔵庫に仕舞った。

『 サヨリの福玉 』
ある日の午前中、仕込みをやりながら主人が話しかけてきた。
「水産会社の社長が言うんだよ。“サヨリの頭捨てちまうのか!エラの中に虫みてぇのがいるだろ。あれ焼いて食うとうめぇんだぞ”って」
「なにそれ、前に勤めてた店の話?」
掃除の手を止めて私は訊いた。
「そうそう。サヨリのエラを覗くと、五尾中三尾くらいにその虫が入ってるんだよ。泳いでいるとエラにいろんなものが付くでしょ、でも魚は手が無いから何も出来ない。で、虫が寄生しながらあれこれ動いてあげて、その代わりに虫はエラの中で外敵から守られているんだ。でもさ、うまいって言うけどその社長が実際に食べてるところはみたことないよ」
「水産会社の社長さんが言ってたってことは、本当においしいんじゃないの」
「かなー…」
「だよ、絶対そうだよ!やってみようよ」
「あ、そう。オレは食わないけど」
「私は食べる」
すると主人はサヨリの頭を落とし、エラを覗きながら数匹の虫を取り出した。
半透明の白っぽいふっくらとしたモスラの卵みたいなヤツが出てきた。
「うわっ、エラのスペースより虫の方が大きくない?よくこの中に収まってたね」
「人間で言ったらほっぺたパンパンに膨らました状態だよな」
笑いながら金串に刺して主人は言った。
「塩まぶして焼く?」
「そ、そうだね。塩味があったほうが食べやすいかな~、なんて」
好奇心でここまで事を運んでもらっていたが、いざ食べる瞬間が近づいてくると決心が揺らいだ。お腹の中に入れたらこのモスラの卵がまた卵を隠していて、どんどん増殖していったらどうしよう… 死ぬかもしれない…でも食べてみたい。
考えていたら顔に血が昇ってきて、心臓も乱れ打ちをしていた。
「はい、どうぞ。よく焼けたよ」
香ばしい感じに焼けたモスラを前に一瞬たじろいだ。
でもここまでしてもらって要らないとは言えない。思い切って前歯でちぎってみると、薄い殻とパサパサした中身で、噛んでいると少しシャコのような味がした。
「う~ん、おいしいような、あんまり味がないような」
食べて食べられないことはない、そんな感じだった。
「これ、名前なんていうの?」
「さぁ、なんだろうなぁ。あ、でもこれに近い形は絵でみたことがあるよ。たしかこの本…」
江戸時代に描かれた、鯛の骨の部位を図説している絵にモスラはあった。
【鯛の鯛】や【鳴門骨】と並んでそれは【鯛之福玉】と書いてあった。
「たいのふくだまぁ~?」
二人で同時に叫んだ。インターネットで調べたらシマアジなんかにもいるらしく、画像を見るとやっぱりあいつだった。
「あ、今日、真鯛も仕入れているから見てみるか」
「おっと、それを早く言ってくださいよ」
興味津々で鯛のエラを覗き込むと、三倍くらい大きいのが入っていた。
「ギャー!でかっ、寒っ」
「生きてるよ、オレの指をギュ~って足で掴んでるもん、ほら離れないよ」
人差し指をブンブン振り回している。
「ひぇ~・・」
「塩ふって焼く?」
「もう、けっこうです」
即答した。

『 海苔の背を叩く 』
白い帯で封をされた海苔は、100枚で束になっている。
帯をちぎり、30~40枚くらいまとめて持つと、厚さは5cmくらいある。
細巻用の大きさにするには半分にしなければならない。
分厚い海苔の束は、そろーっと端と端を合わせようとするとU字の磁石を少し押しつぶしたような状態になる。そこで主人の動作は止まった。
「このままバリッと上から押すと、真半分にならないんだ。長いのと短いのができちゃうんだよね。だからこうするの」
五木ひろしのモノマネかと思えるような仕草で右手を拳にし、折れ曲がりそうになった背の部分を斜め45度の角度で慎重にトン、トン、トン、トンと叩き出した。
「えー、そんなんで切れるの?」
「そりゃ、一枚ずつ包丁で切ったらきれいに切れるよ。でもそんなことしてたら仕事が終わらないでしょ。素早くいっぺんにまとめて切ろうとしたらこうするのが一番早い」
「ひぇー、すごい。こんなの誰に教わったの?」
「兄貴かなぁ」
やっぱり清二さんはすごい。

『 おから 』
主人もやはり、おからで寿司の握り方を覚えたそうだ。
「靖国通りの手前の二七通りに豆腐屋があるでしょ。店に入りたての頃、“おから買って来い”ってオヤジさんに言われて、休憩時間に走ってさ。二袋くらい買ってきたかな。量りのお皿の上にラップを敷いて一個握っては指示どおりの重さかどうか量って。それを何回も何回もやるんだよ」
引き出しの中からゴソゴソと何かを探している。
「たしか、一個何グラムか書いたノートがあったんだけど・・まぁ手が覚えているから、シャリを握ってみればそのグラム数だけど」
次々と引き出しを開けてはかき回して捜している。
「おからはね、そのあと冷蔵庫で保存するんだけど、手で握って崩して握って崩してを何回も繰り返してるでしょ。いくら手をキレイに洗ってからやっても、さすがに三日くらい経つと臭くなるんだよね。そしたらまた新しいのに買い替えてさ、繰り返し繰り返しやるの」
「その修行はどのくらい続くの?」
私は訊いた。
「うーん、二ヶ月くらいかなぁ。おからで形が出来るようになったら今度は本当のシャリでやるから」
「ほんとの酢飯で?」
「そう。定休日の前の日のまかないは、ちらし寿司なんだよ。それを食べないで取っておいて、寮に帰ってからそれで何回も練習する」
「えっ、最終的にそれを食べるの?」
「いや、それは食べない。だってもう手でこねくり回しちゃってすごいことになってるから」
「何食べるの?」
「まぁ、適当に。お弁当とか買ってきてさ」
引き出しからやっと出てきた資料には、にぎり一つ当たりのグラム数は書いていなかったようだ。それでもフチが茶色くなりかけたレシピのメモや小さいノートを懐かしそうに眺めていた。



鰶 さんま

2016-09-28 23:35:00 | わたしの魚(ウォ)キペディア 第1回~第

わたしの魚(ウォ)キペディア 第8回017 さんま

コノシロと読みますが(魚へんに冬もコノシロです)、先日受験した『第一回さかな検定』のパンフレットにはこの字の説明があり、“…江戸時代、サンマが穫れる時期になるとお祭り騒ぎのようだったことから一文字で表す時には魚へんに祭を用いた”とありましたので、本日はサンマでいかせていただきます。

私が初めてお刺身でサンマを食べたのは、九十年代後半のことです。居酒屋さんにありました。季節は‥覚えていません。習志野市で生まれ、千葉市で育った私にとってサンマは秋になると塩焼きでしょっちゅう食べるものでした。それがお刺身で出てきたので驚きました。どんな気持ちだったかというと牛肉のカルパッチョを食べた時と馬刺を食べた時、鶏刺しが一番近い感情だったかもしれません。最近では茹でていないトウモロコシ、生トウモロコシというものがあると知った時でしょうか。いずれも「へぇ~、生でもいけるんだ!」です。

それから時が経ち、毎年七月の上旬。
北海道のサンマ漁解禁のニュースが流れ、入荷初日の築地市場は“初荷”と書かれた幟(のぼり)があちこちにたち初物のサンマを迎えるのだそうです。
冷ケース内にサンマを見つけると「今年も始まったんだな」と思います。お刺身ではおよそ二ヶ月間のおたのしみです。主人は八月の後半になると仕入れるのをやめます。秋、身が太り脂が乗って塩焼きでおいしい頃にはもう置かないからです。

何かサンマについて思うところは?と主人に訊ねると
「青海波と幟」
と返ってきました。
「表面が江戸文様の“青海波(せいがいは)”そっくりだよなー。ぜったいこの柄パクってるよ!!昔の人はサンマの皮をじーっと見て描いたんじゃないかな」
あと幟です。
「場内に幟がたつのが年二回、お正月の初荷とサンマの初荷の時だけ。へぇーって思ったね」
初荷の日に魚を仕込む主人はどことなく紅潮しています。
市場の空気も運んで来るのでしょうか。

秋はサンマの季節です。

 

わたしの魚(ウォ)キペディア 第8回017 さんま

魚へんに祭でコノシロと読みますが(魚へんに冬もコノシロです)、先日受験した『第一回さかな検定』のパンフレットにはこの字の説明があり、“…江戸時代、サンマが穫れる時季になるとお祭り騒ぎのようだったことから一文字で表す時には魚へんに祭を用いた”とありましたので、本日はサンマでいかせていただきます。

私が初めてお刺身でサンマを食べたのは、九十年代後半のことでした。居酒屋さんのメニューにありました。季節は‥よく覚えていませんが夏から秋にかけてだったのでしょうか。習志野市で生まれ、千葉市で育った私にとってサンマは秋になると塩焼きでしょっちゅう食べるもので、それがお刺身で出てくるなんて驚きでした。どんな気持ちだったかというと牛肉のカルパッチョを食べた時と馬刺を食べた時の恐る恐る口に運んだ感じ‥いや、鶏刺しを目の前にした時が一番近い感情だったかもしれません。最近では茹でていないトウモロコシ、生トウモロコシというものがあると知った時です。いずれも「へぇ~、生でもいけるんだ!」でした。

それから時が経ち、毎年七月の上旬。北海道のサンマ漁解禁のニュースが流れ、入荷初日の築地市場は“初荷”と書かれた幟(のぼり)があちこちにたち初物のサンマを迎えるのだそうです。サンマのお刺身、当店では五十日ほどのおたのしみです。主人は八月の後半になると仕入れるのをやめます。秋、身が太り脂が乗って塩焼きでおいしい頃にはもう置かないからです。

「サンマで連想するものは?」と主人に訊ねたら「青海波(せいがいは)と幟だね」と言いました。

「サンマの皮が江戸文様の青海波そっくりだよなー。ぜったいこの柄パクってるよ!!昔の人はこの皮の表面をじーっと見て描いたんじゃないかな。あと幟。築地場内に幟がたつのが年二回、お正月の初荷とサンマの初荷の時だけ。へぇーって思ったね」

築地の活気に影響されるのでしょうか、初荷の日の主人はどことなく紅潮しています。

もうすぐサンマの季節です。


のがみのマグロの話

2016-09-27 23:35:00 | のがみの〇〇の話
のがみのマグロの話

018_2今、築地今、築地今、築地今、築地今、築地



今仕入れているマグロは7~8年前からお付き合いをしている仲買さんのところからのものです。赤身だけをもらってくることが多いです。先日仲買さんが主人にボソッと言ったそうです。「のがみさんがね、赤身だけ買うでしょ。そしたらね、赤身だけを持ってく人が増えちゃったんだよね」 と。今、本マグロ(クロマグロ)がいいときです。なので中落ちを仕入れることが多いです。青森・大間のものは1月くらいまででしょうか。2月、3月は壱岐・対馬辺りのものが出ると思います。ゴールデンウィーク前後にはインドマグロ(ミナミマグロ)、7月、8月はメバチマグロが出回ります。キハダマグロ、カジキマグロはある時に仕入れます。マグロを常備していないので1年のうち15パーセントくらいマグロが無い日がありますが、ここ1~2年はもう少し置いている日が多いかと思います。


かじき

2016-09-25 17:35:00 | わたしの魚(ウォ)キペディア 第1回~第

わたしの魚(ウォ)キペディア 第51回 かじき

007 カジキといえば給食で出た“カジキマグロの照り焼き”が思い出されます。醤油の下味をつけて焼かれた硬いカジキマグロをさきわれスプーンでほぐして食べ、食パンを食べ、そして牛乳を飲む。いま考えるとすごい組み合わせでした。

それから社会人になるまでカジキと出会うことはほぼなく過ごし・・・。

二十代後半のことです。

いつも行く居酒屋さんで煮込みを頼むと

「カメさん、今日ツキンボあるよ、ツキンボ」

と仕入れ担当の人に声を掛けられました。

黒板を見ると横書きで一番上に『◎突きん棒―めったに入りません!』と書かれていました。

「突きん‥棒?」

冷えた中生ジョッキ片手に首をかしげていると

「マカジキ、マグロや。生やで、めったに入らんよ。ちょこっと切ろか?」

と言われました。十年近く通っていておすすめをされたことなど一度もなかったのに何でこんなに積極的なのかを訊ねると

「うまいしもう二度と入らんかもしれんから」

という返事だったので即座に頼みました。

わさび醤油で食べたそれは本当に美味しかったです。

マグロの色も深く濃いきれいな赤で、身はしっとりとしていました。

帰宅し、生のカジキマグロを食べたことを主人に告げると味の感想を訊かれました。

「わりといい団体旅行の宴会のスタートで、一人に一つずつのお刺身のマグロをハイパーにグレードアップした感じ。私はこの味好き」

静かに頷く主人でした。

店を始めてからは築地市場内で仲買さんから紹介された『カジキ専門店』で、いい部分の塊からほんの少しだけ分けてもらったりしていました。仕入れに携わる人はマカジキをマカ、メカジキをメカと呼ぶというのも知りました。

カジキのファンの方がいらっしゃるというのにも驚きました。本マグロより好きだというお客様もいらっしゃいました。

年に一度か二度はマカジキ・メカジキを仕入れていましたが、通っていたカジキ専門店は数年前に無くなりました。突きん棒漁を続ける人がものすごく減っているのだそうです。