四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

冬から春が旬である貝がそろそろ終盤、初鰹・鰈・鱸・鯵など夏の魚が出てきました。

のがみの白身の話

2016-09-05 23:35:00 | のがみの〇〇の話
のがみの白身の話  主人は鯛にしろ鮃にしろ、天然ものを置く店にしたいと思ったみたいです。それも有名ブランド地にこだわらず、毎日築地の信頼している仲買さんのところを何軒もまわってその日ベストと思える魚を仕入れる。ただひたすらに納得のいくものを追い求め、仕入れまくった十三年と六か月。これからも力の続く限り続けます。今、築地今、築地今、築地



おかみノート  『テンクエヨウクエ』そろそろおしながきを書こうとメモを片手に今朝は何を仕入れてきたのかと訊ねたら主人は仕込みの手を停めて伝票やネタケース内を見ながらひとつひとつ挙げ始めた。「佐島のアオリイカ、紀州活じめアジ、気仙沼カツオ、 あと長崎のクエと・・・」「へーめずらしい、今日クエがあるの」「あるよ」産地と魚を書きとめながら私はネタケースを覗きこんだ。先日魚の事典でクエを調べた。表面には薄茶色のまだらな模様があり、その柄が九つの絵のようだから“九絵”というのだと書いてあった。「・・ないじゃん」「下、下。しまってある」「冷蔵庫?」「そう」「やっぱり絵みたいになってるの?」「絵?」「ほら、表面の皮が九つの絵みたいになってるって。 見てみたいんだけど」「もう皮引いちゃったよ」「え―・・残ってないの?」「そんなベロンと剥けるようなものじゃないよ。鱗と表層が一緒に なった感じでヒラメの表面みたいな。だから包丁でそいでいくのよ。 皮は皆捨てちゃった」「はぁー・・」「またいつか入ると思うから」「でもめったに入らないんでしょ」「そうねぇ」「たまーにポコッと自然に獲れたものが出回るんだよね?」「まぁ…そうねぇ」「クエってまさか養殖は無いよね?」「あるよ」「うっそ」「ほんと。養殖のクエで養クエ」「ヨウクエ?」「天然は天クエ」「テンクエ、ヨウクエ…。何そのドラクエみたいな呼び方は」「天然モノと養殖モノはこうやって呼び分けるんだよ。例えばヒラメは テンビラ・ヨウビラ。タイはテンダイ・ヨウダイ。シマアジはテンシマ・ ヨウシマ」「じゃ、カワハギは?テン・・カワとか?」「ちがうちがう。テンハギ・ヨウハギ」「カワハギも養殖ってあるんだ。じゃ、ソイは?さすがにないでしょう」「あるよ。テンソイ・ヨウソイ」「うひゃーすごい」「カンパチはテンカンパ・ヨウカンパ。あとテンブリ・ヨウブリ。 ・・マグロだけはチクヨウっていうな。アジはハンチクとか」「逆に養殖してないものは?」「オレの知るかぎりではカレイは天然だけかも。あとイワシとか キスとか細かい青魚系の養殖も聞いたことない」「ふーん・・」「養殖が出回っているおかげで値が安定して、天然モノを仕入れる オレらなんかが助かっているっていうのがあるんだよ。例えば 養殖のタイがこの世にひとつも無かったら、天然のタイがいったい いくらするか…。うちなんてとてもじゃないけど仕入れられないよ」「そうかー」「マコガレイだのホシガレイだのって天然だけでしょ。だから市場に 出るのが少ない時はほんと高いから。安定供給されないものは 騰がったり下がったりがすごいんだ」天然モノのどこが好きなのか訊いてみた。「その魚が持つ本来の味がするということ。日が経つにつれ身が 熟成の方向に進むということ…かな。少々値が張ってもやっぱり、ね」板場では仕込みが再開していた。主人はアオリイカを片手に持ち、サラシを使って薄皮を剥き始めた。