四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

新子はコハダに。新いかはまだ新いかで。いくらは塩から出汁醤油漬けに。すじこも登場。新秋刀魚、ブリと、もう秋です。

浸ける仕事

2008-11-24 22:06:00 | 04 つきじ(いけす)

Img_2514 煮蛤を作る工程には“茹でる”というのがあります。ぐつぐつ煮ると身が硬くなってしまうので、名前は煮蛤ですが実際には煮ません。さっと火を通すだけです。

仕入れてきた蛤はまず殻から外し、砂などを流水で洗い、冒頭に書いたように身を軽く茹でます。火が入ったらすぐザルの上に引き揚げます。余熱がどんどん入っていかないように団扇で急速に冷まします。

身を開きワタを取りバットに並べます。酒・砂糖・醤油で調味した浸け汁を煮立て、鍋ごと冷水に当てて蛤と同じ温度まで冷まします。

蛤と浸け汁を同じ温度にしてから併せるのには理由があります。傷みにくくすることと蛤のエキスが汁に溶け出すのを防ぐためです。

仕込みが終わった煮蛤はお客様に召し上がっていただくまで浸され、出番を待ちます。

仕入れるところは桑名、鹿島、九十九里などが多いです。

珍しいところでは、千葉・飯岡産の殻が真っ黒な蛤で“黒丸(くろまる)”という品種を入れることがあります。

「旨みが他の蛤と同じようにありながらシャープな味わいだね」と評されることが多いです。「エッジが効いている」とも。

にぎり・つまみ共にハマヅメと呼ばれる蛤の煮汁を煮詰めたタレと一緒にどうぞ…。


海苔の背を叩く

2008-11-17 22:03:00 | 07 みせのこと

006これは海苔を何十枚かまとめて半分に切る時に便利な技で、主人に特別に実演してもらいました。

拳を当てているのが真上ではないのがミソです。

もし真上から折った部分に力を加えますと、乾燥した海苔はバリバリッと二つには分かれます。

ただし、大まかに分かれるというだけで等分にはなりません。

例えとしては、十枚くらいの同じ大きさの紙を等分になるように二つに折ってハサミを入れても微妙にずれている…みたいな感じになるのです。(うまく伝わらなかったらすいません)

こうするとほぼ均等に切れていくのです。ゆるく折った部分の上斜め四十五度あたりを向こうから手前に振動させるようにトン・トン・トン・トン・・・と叩いていきます。静かに海苔が割れていくという感じです。 おかみノート『海苔の背を叩く』にも、このことが書いてあります。


おぼろの輪郭

2008-11-10 22:01:00 | 04 つきじ(いけす)

008 出来あがった芝海老のおぼろです。

仕込みの段階では以前、背ワタを取り除くところをご紹介しました。

それを茹で、ミキサー等で潰し、味醂・砂糖・塩を入れ、火にかけます。焦げ付かないよう素早くかき混ぜながら水分をどれだけ飛ばしどれだけ残すかを見極めていきます。

この“しっとり感を残す”のが中盤の決めポイントだとしたら、最後の決めは“印象をくっきりさせる”ことです。おぼろだけで味見をしてちょうどいい具合だったらそれは“印象が弱い”ということになります。巻き物にして口に入れた時、シャリと海苔の存在感の中で埋没してしまわない輪郭がほしいのです。それには“甘味”が必要だと主人は言います。おぼろだけで食べると「ちょっと甘味が勝っているかな…」と感じるくらいが巻き物の具としてピタッと決まるところだそうです。仕上げ直前、さらに少しだけ砂糖を加えることもあります。バランスをみて、塩で本来の甘味を際立たせることもあります。


いなせの語源

2008-11-03 21:56:00 | 06 ぼら・からすみ

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「いなせだね」という時の“いなせ”は、江戸時代、日本橋魚河岸の若い衆が勇み肌だともてはやされ、その髪型が鯔(いな)の背のようにぺたんと平らに結った髷だったことから使われるようになったといわれています。この髪型を鯔背髷(いなせまげ)あるいは鯔背銀杏(いなせいちょう)と呼ぶそうです。

鯔(いな)はボラの小さいものの呼称です。ボラの背は平たくなっています。ボラの背のようなチョンマゲっていうのを一度ぜひ見てみたいと思い、調べていたら、『江馬務著作集第四巻<装身と化粧>』という本に“いなせ風”という髪型がありました。⑫番です。上から三段目、右から二列目です。…ボラの背っぽいかどうかはビミョーですし、期待したほどではなかったのはたしかです(泣)。でも鯔背髷の具体的な想像をふくらますための材料、たたき台としてはアリかと思いました。