中医学では、内臓一般の下垂症状を「気陥」という状態ととらえます。なぜ本来
の位置より臓器が下垂するのか、その本質を見極めて治療を行います。
「気」とは車でいえばガソリンのようなものです。人間のからだを動かしたり、
温めたり、栄養したり…と、気には様様な、そして大切な働きがあります。
この「気」の働きのなかに<固摂作用>といわれる働きがあります。
気の固摂作用とは、
○気・血・津液の過剰な排泄を抑え、留める。
○内臓の位置を保つ。
というものです。出血や汗がダラダラと出るのを抑えたり、尿、精液、帯下
などの過剰な排泄を防ぎ、内臓が下がらないように一定の位 置に保つのが、
気の固摂の働きです。
この固摂作用の中で、特に内臓の位置に保つ働きが失調することを「気陥」
と言います。
内臓下垂の症状を呈する治療では、下垂している器官が胃であっても、腸で
あっても、また子宮であっても、考え方は変わりません。「気陥」という気の
失調を改善することが、すべての下垂症状の治療となります。
☆気陥とは?☆
気陥は「中気下陥(脾気下陥)」と言われます。
「中気下陥」は脾気虚の進行した状態で、脾の「昇提作用」が失調して下垂
症状をおこすと考えられ、胃下垂もこの「中気下陥」という証であらわします。
「中気」とは、人体の真ん中にあり、おもに飲食物の消化・吸収を
つかさどる「脾」の気を指します。
「下陥」とは字の通り、下に陥ちる、下がるということです。
脾気が下がる(上がらない)=胃下垂ととらえるのです。
○脾○
では、この「脾」がどのような働きをするのか、脾の生理作用を見てみま
しょう。
<脾は運化を主る>
胃・小腸で飲食物の中から取り出された水穀の精微は脾で吸収され、さらに
上焦部の肺へ送られます。これが気・血・津液を作るもとになります。
脾は、胃や小腸、大腸を含めた飲食物の消化吸収に関わるすべてを管理している
ため、「脾は運化を主る」と言われます。
脾の運化作用が失調すると、食欲不振・腹部のもたれ・食後倦怠感や眠気・
軟便・下痢・むくみなどの症状があらわれます。
<脾は血を統す>
気の固摂作用によって、脾は血が経脈を流れる際に、脈外に漏れださないように
監督して、血の漏出を防いでいます。これを「脾は血を統す」といいます。
この働きが失調すると、鼻血・不正出血・生理がダラダラ続く・皮下出血などの
出血症状があらわれます。
<脾は昇提を主る>
脾には、臓腑・器官の固有の位置を維持する働きがあります。また、小腸から
受け取った水穀の精微を吸収し、肺に持ち上げ送る働きを有します。これを
「脾は昇提を主る」といいます。
この働きが失調すると、腹部の下垂・脱肛・めまい・ふらつきなどの症状が
あらわれます。
<脾は口に開きょうする>
飲食物が口から入り、水穀の精微に変わるまでの過程は、すべて脾の運化作用
によって管理されています。そのため、脾の運化作用の失調は、味がない・口が
粘る・唇の色が淡白など、口や唇の症状としてもあらわれます。さらに運化作用
の失調により水液や飲食物が代謝されず体内に残ると、痰飲という病理に変化
します。この場合、舌苔は厚く、汚いものが付着しているようにみえます。
このように脾は、飲食物から気・血・津液を作り出すためにとても重要な働きを
するとともに、血の漏出を防いだり、内臓の位 置を保っているのです。
では次に、この胃下垂を引き起こす中気下陥の原因や随伴症状、治療法などを
見てみましょう。
◎ 中気下陥(脾気下陥)による胃下垂
脾気の昇提作用が低下したことで、下垂症状が顕著にあらわれる証。
慢性病や長期にわたる下痢、過労や多産、また、もともと脾胃虚弱の者が暴飲
暴食をすることによって脾気を損傷することによって起こる。これらは中気下陥
を悪化させる誘引ともなる。
さらに、中気不足のために、全身に気血を行き渡らせることができない。脾気が
下がるため、清陽が頭部に達しないなど、症状は全身に渡る。
随伴症状―下腹部の下墜感・下痢・脱肛・子宮下垂・遊走腎・息切れ・めまい・
立ちくらみ・疲れやすい、食欲がない、食後に眠くなる、胃もたれ、軟便、下痢、
舌診―淡白・はん大・歯痕あり(気虚) 舌苔―白滑
脈診―沈遅弱
治則―脾気を補い、気を上に引き上げる補中益気・昇陽挙陥、益気昇提
代表配穴―中かん・気海・関元・足三里・脾ゆ・百会
○ 中かん・足三里―胃経の募穴と合穴であり(募合配穴法)。中焦の気を
補う。補法では、益気建中など脾胃の機能を改善する働きがある。
気海・関元―気海は生気の海であり、関元は原気の関。施灸により、大補元気
・昇陽固脱をはかる。
百会―督脈は手足三陽経と連絡しており、全身の陽気を統括する作用がある。
この三陽経は、督脈、足けつ陰肝経と百会穴で交会しているため、諸陽各経を
貫通 することができる。これにより、昇陽益気(全身の気を持ち上げる、下陥
した清陽を昇らせる)作用を持つ
脾ゆ・足三里―両穴に補法を施し、灸を加えることで、健脾助運と補中益気をはかる。
: 代表方剤―補中益気湯
(補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、補剤の王者として別名医王湯と呼ばれ
ます。補中とは、人体を縦に上・中・下の三つに分けた内の真ん中「中」すなわ
ち胃腸の働きを高め、体力を補い元気をつけることをいいます。下垂症状のほか
にも、虚弱体質、食欲不振、病後の衰弱、疲労倦怠、夏負けなど、多くの虚証
症状に用いられます。)
先に述べたように、脾気の低下がおこると、飲食物の消化吸収が妨げられ、
人間が活動するためのエネルギーは産生出来ません。胃下垂の症状がある場合、
その根底には、この脾気が不足し、からだを滋養できていない状態が隠れています。
特に女性は、偏ったダイエットや痩せ願望から、「胃下垂の人は太らない」と
胃下垂を病気ととらえるどころか、羨ましいと考える風潮があります。この風潮
は決して正しいとはいえません。食べたものから、自身のからだを栄養する
気・血・津液が産み出されることは、とても大切なことなのです。
もし、胃下垂や内臓下垂の症状がみられる場合は、
1. 暴飲暴食を避け、睡眠をしっかり取る。
2. お刺身や生野菜、果物、甘いものを取り過ぎない。
3. 飲み物はなるべく常温以上のものにする。
4. からだを冷やさない。
などに注意をしながら、生活を見直してみると良いでしょう。
また脾は「湿」を嫌う為、梅雨の時期は特に疲れやすくなります。生ものや
甘いものが好ましくないのも、からだの中に「湿」を溜め込む性質があるため
です。「湿」は体内でもベトベトと粘着性を持つので、清陽が上に昇るのを
邪魔して、結果 、脾気を傷つけてしまいます。
適度な食事、適度な運動、十分な休息を取り、湿気に負けないからだを作りたい
ですね。
の位置より臓器が下垂するのか、その本質を見極めて治療を行います。
「気」とは車でいえばガソリンのようなものです。人間のからだを動かしたり、
温めたり、栄養したり…と、気には様様な、そして大切な働きがあります。
この「気」の働きのなかに<固摂作用>といわれる働きがあります。
気の固摂作用とは、
○気・血・津液の過剰な排泄を抑え、留める。
○内臓の位置を保つ。
というものです。出血や汗がダラダラと出るのを抑えたり、尿、精液、帯下
などの過剰な排泄を防ぎ、内臓が下がらないように一定の位 置に保つのが、
気の固摂の働きです。
この固摂作用の中で、特に内臓の位置に保つ働きが失調することを「気陥」
と言います。
内臓下垂の症状を呈する治療では、下垂している器官が胃であっても、腸で
あっても、また子宮であっても、考え方は変わりません。「気陥」という気の
失調を改善することが、すべての下垂症状の治療となります。
☆気陥とは?☆
気陥は「中気下陥(脾気下陥)」と言われます。
「中気下陥」は脾気虚の進行した状態で、脾の「昇提作用」が失調して下垂
症状をおこすと考えられ、胃下垂もこの「中気下陥」という証であらわします。
「中気」とは、人体の真ん中にあり、おもに飲食物の消化・吸収を
つかさどる「脾」の気を指します。
「下陥」とは字の通り、下に陥ちる、下がるということです。
脾気が下がる(上がらない)=胃下垂ととらえるのです。
○脾○
では、この「脾」がどのような働きをするのか、脾の生理作用を見てみま
しょう。
<脾は運化を主る>
胃・小腸で飲食物の中から取り出された水穀の精微は脾で吸収され、さらに
上焦部の肺へ送られます。これが気・血・津液を作るもとになります。
脾は、胃や小腸、大腸を含めた飲食物の消化吸収に関わるすべてを管理している
ため、「脾は運化を主る」と言われます。
脾の運化作用が失調すると、食欲不振・腹部のもたれ・食後倦怠感や眠気・
軟便・下痢・むくみなどの症状があらわれます。
<脾は血を統す>
気の固摂作用によって、脾は血が経脈を流れる際に、脈外に漏れださないように
監督して、血の漏出を防いでいます。これを「脾は血を統す」といいます。
この働きが失調すると、鼻血・不正出血・生理がダラダラ続く・皮下出血などの
出血症状があらわれます。
<脾は昇提を主る>
脾には、臓腑・器官の固有の位置を維持する働きがあります。また、小腸から
受け取った水穀の精微を吸収し、肺に持ち上げ送る働きを有します。これを
「脾は昇提を主る」といいます。
この働きが失調すると、腹部の下垂・脱肛・めまい・ふらつきなどの症状が
あらわれます。
<脾は口に開きょうする>
飲食物が口から入り、水穀の精微に変わるまでの過程は、すべて脾の運化作用
によって管理されています。そのため、脾の運化作用の失調は、味がない・口が
粘る・唇の色が淡白など、口や唇の症状としてもあらわれます。さらに運化作用
の失調により水液や飲食物が代謝されず体内に残ると、痰飲という病理に変化
します。この場合、舌苔は厚く、汚いものが付着しているようにみえます。
このように脾は、飲食物から気・血・津液を作り出すためにとても重要な働きを
するとともに、血の漏出を防いだり、内臓の位 置を保っているのです。
では次に、この胃下垂を引き起こす中気下陥の原因や随伴症状、治療法などを
見てみましょう。
◎ 中気下陥(脾気下陥)による胃下垂
脾気の昇提作用が低下したことで、下垂症状が顕著にあらわれる証。
慢性病や長期にわたる下痢、過労や多産、また、もともと脾胃虚弱の者が暴飲
暴食をすることによって脾気を損傷することによって起こる。これらは中気下陥
を悪化させる誘引ともなる。
さらに、中気不足のために、全身に気血を行き渡らせることができない。脾気が
下がるため、清陽が頭部に達しないなど、症状は全身に渡る。
随伴症状―下腹部の下墜感・下痢・脱肛・子宮下垂・遊走腎・息切れ・めまい・
立ちくらみ・疲れやすい、食欲がない、食後に眠くなる、胃もたれ、軟便、下痢、
舌診―淡白・はん大・歯痕あり(気虚) 舌苔―白滑
脈診―沈遅弱
治則―脾気を補い、気を上に引き上げる補中益気・昇陽挙陥、益気昇提
代表配穴―中かん・気海・関元・足三里・脾ゆ・百会
○ 中かん・足三里―胃経の募穴と合穴であり(募合配穴法)。中焦の気を
補う。補法では、益気建中など脾胃の機能を改善する働きがある。
気海・関元―気海は生気の海であり、関元は原気の関。施灸により、大補元気
・昇陽固脱をはかる。
百会―督脈は手足三陽経と連絡しており、全身の陽気を統括する作用がある。
この三陽経は、督脈、足けつ陰肝経と百会穴で交会しているため、諸陽各経を
貫通 することができる。これにより、昇陽益気(全身の気を持ち上げる、下陥
した清陽を昇らせる)作用を持つ
脾ゆ・足三里―両穴に補法を施し、灸を加えることで、健脾助運と補中益気をはかる。
: 代表方剤―補中益気湯
(補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、補剤の王者として別名医王湯と呼ばれ
ます。補中とは、人体を縦に上・中・下の三つに分けた内の真ん中「中」すなわ
ち胃腸の働きを高め、体力を補い元気をつけることをいいます。下垂症状のほか
にも、虚弱体質、食欲不振、病後の衰弱、疲労倦怠、夏負けなど、多くの虚証
症状に用いられます。)
先に述べたように、脾気の低下がおこると、飲食物の消化吸収が妨げられ、
人間が活動するためのエネルギーは産生出来ません。胃下垂の症状がある場合、
その根底には、この脾気が不足し、からだを滋養できていない状態が隠れています。
特に女性は、偏ったダイエットや痩せ願望から、「胃下垂の人は太らない」と
胃下垂を病気ととらえるどころか、羨ましいと考える風潮があります。この風潮
は決して正しいとはいえません。食べたものから、自身のからだを栄養する
気・血・津液が産み出されることは、とても大切なことなのです。
もし、胃下垂や内臓下垂の症状がみられる場合は、
1. 暴飲暴食を避け、睡眠をしっかり取る。
2. お刺身や生野菜、果物、甘いものを取り過ぎない。
3. 飲み物はなるべく常温以上のものにする。
4. からだを冷やさない。
などに注意をしながら、生活を見直してみると良いでしょう。
また脾は「湿」を嫌う為、梅雨の時期は特に疲れやすくなります。生ものや
甘いものが好ましくないのも、からだの中に「湿」を溜め込む性質があるため
です。「湿」は体内でもベトベトと粘着性を持つので、清陽が上に昇るのを
邪魔して、結果 、脾気を傷つけてしまいます。
適度な食事、適度な運動、十分な休息を取り、湿気に負けないからだを作りたい
ですね。