浪速夢見頃>小話9柿の木2000年7月吉日
私の実家に兄が中学生の時に柿の種を
庭に飛ばした一粒が芽を出した樹齢
45年の「柿の木」が有った この木は
私達8人家族の生活を見守り続けて
何んでも知っていた その後に私ら子供達が
一人づつ巣立って出て行き父親も5年前に
亡くなり一人住まいしていた母親も
この春には体調を壊して兄の所へ
引き取られて出て行った
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空き家になった長屋の小さな庭に取り
残された「柿の木」は、今まで毎年に
私や兄が近所に迷惑に成らないように
枝や幹を切られて本来ならば樹高
10mが6mに枝張りも6mが4mに
縮められながらもスズメ達の憩いの場を
提供していた
この7月に裏隣の長屋が取り壊されて
4階建てのアパートの工事が始まり
「柿の木」の地下茎が隣家まで越境して
いるのが発見された
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空き屋でも有る事で、とうとう伐採
される事になり私がその役目を負うこと
に成った
当日は枝を切り落とし幹の上部も手鋸を
使い中部は大工さんに電気丸鋸で切り
根本近くは同じく大工さんに手鋸で切って
もらったが生木ゆえ、なかなか切れず
手こずらされた
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根っこ部分はまた私の仕事となり
30~40cm掘り起こすと大きな
ミミズがぞろぞろと出て来たので、作業を
中断して薬局でクレゾール液を買って
来てバケツ一杯分を流し込んだ
左右に張った地下茎を4本切断した
ところで7月中旬とはいえ30度を超える
真夏日で余りの暑さに最後にさらに
クレゾール液をバケツ一杯分を流し込んで
作業を中断した
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家族と共に生きてきた「柿の木」
を切る時は、切り口から血液が流れる
様な気持ちになり 地下茎を切断する
時は息の根を止める様に感じて、
兄弟を殺人してしまった様な錯覚に
落ち入った
「柿の木」様どうぞ静かに永眠して
下さい 合掌!
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