「ここから、登って行けそうだ」ソラは、ごつごつと壁から突き出た鉄骨をつかむと、「うんしょ、うんしょ」と、声を出しながら懸命に登っていった。
「お兄ちゃん、危ないよ。気をつけて」
立ち上がったウミが心配そうに見守る中、ソラはするすると、緩やかにオーバーハングしている壁を登っていった。
「……なんの音?」と、ウミが険しい顔をして耳をそばだてた。
やっとの事で壁の頂上に片手を掛けたソラが、聞き耳を立てるように動きを止めて言った。
「えっ、音?」と、目を白黒させたソラが、首をかしげた。「なんにも聞こえないよ――じゃない、でも、風の音しか聞こえないけど」
「風の音……」ウミは言葉を途切ると、じっと耳を澄ました。
「――いいや、やっぱり違う。なんかほら、ブーンブーンって、換気扇が回っているような音なんだよ」
ソラは、もう一方の手も壁の頂上に掛けると、力をこめて「ヨイッ」と体を持ち上げた。歯を食いしばりながら、懸垂をするように胸の高さまで体を引き上げると、お腹を滑らせるようにして乗り上げ、すぐに足を掛けた。
「よっと……オーイ!」
立ち上がったソラは、心配そうに見上げているウミに手を振ると、回れ右をするように後ろを向いた。
――なにを見つけたのか、ソラはじっと立ちつくしたまま、口をつぐんでしまった。
「お兄ちゃん? ねぇ、どうしたの、お兄ちゃん」と、心配したウミが、何度も声をかけた。「――ねぇ、お兄ちゃん。なにか言わないとわかんないよ」
「プロペラだ……」ソラが、ポツリとつぶやくように言った。
「えっ、なんて言ったの。聞こえないよ、お兄ちゃん――」
じっと前を見ているソラの目は、ブーン、ブルーン、ブーンン……と、低い音を立てて回るプロペラを捉えていた。
「ここ、どこなんだろう」
ソラは独り言のように言うと、フッと横を向いた。
「ううわっ――」
大声を上げたソラは、壁から落ちそうになりながらしゃがみこみ、後ろに手を伸ばしてドシンと尻餅をついた。
ソラの背丈よりも大きな男の横顔が、目の前にあった。男は、耳当てのついた革の帽子を被り、頑丈そうなゴーグルを額の位置に掛け、首には真っ白いスカーフを巻いていた。思わず大きな声を出してしまったものの、男はまだ、ソラに気がついていないようだった。下を向いた男は、ブツブツと聞き取りにくい声を出しながら、落ち着きのない目で、探るようになにかを見ていた。
「くそっ、飛ぶ前はちゃんとしてたんだ。早くみんなに追いつかなきゃ」
と、男が心持ち体を傾けた。
ソラが腰を下ろしたまま、あっけにとられていると、目まいがするように急に頭が重くなった。
「お兄ちゃん、危ないよ。気をつけて」
立ち上がったウミが心配そうに見守る中、ソラはするすると、緩やかにオーバーハングしている壁を登っていった。
「……なんの音?」と、ウミが険しい顔をして耳をそばだてた。
やっとの事で壁の頂上に片手を掛けたソラが、聞き耳を立てるように動きを止めて言った。
「えっ、音?」と、目を白黒させたソラが、首をかしげた。「なんにも聞こえないよ――じゃない、でも、風の音しか聞こえないけど」
「風の音……」ウミは言葉を途切ると、じっと耳を澄ました。
「――いいや、やっぱり違う。なんかほら、ブーンブーンって、換気扇が回っているような音なんだよ」
ソラは、もう一方の手も壁の頂上に掛けると、力をこめて「ヨイッ」と体を持ち上げた。歯を食いしばりながら、懸垂をするように胸の高さまで体を引き上げると、お腹を滑らせるようにして乗り上げ、すぐに足を掛けた。
「よっと……オーイ!」
立ち上がったソラは、心配そうに見上げているウミに手を振ると、回れ右をするように後ろを向いた。
――なにを見つけたのか、ソラはじっと立ちつくしたまま、口をつぐんでしまった。
「お兄ちゃん? ねぇ、どうしたの、お兄ちゃん」と、心配したウミが、何度も声をかけた。「――ねぇ、お兄ちゃん。なにか言わないとわかんないよ」
「プロペラだ……」ソラが、ポツリとつぶやくように言った。
「えっ、なんて言ったの。聞こえないよ、お兄ちゃん――」
じっと前を見ているソラの目は、ブーン、ブルーン、ブーンン……と、低い音を立てて回るプロペラを捉えていた。
「ここ、どこなんだろう」
ソラは独り言のように言うと、フッと横を向いた。
「ううわっ――」
大声を上げたソラは、壁から落ちそうになりながらしゃがみこみ、後ろに手を伸ばしてドシンと尻餅をついた。
ソラの背丈よりも大きな男の横顔が、目の前にあった。男は、耳当てのついた革の帽子を被り、頑丈そうなゴーグルを額の位置に掛け、首には真っ白いスカーフを巻いていた。思わず大きな声を出してしまったものの、男はまだ、ソラに気がついていないようだった。下を向いた男は、ブツブツと聞き取りにくい声を出しながら、落ち着きのない目で、探るようになにかを見ていた。
「くそっ、飛ぶ前はちゃんとしてたんだ。早くみんなに追いつかなきゃ」
と、男が心持ち体を傾けた。
ソラが腰を下ろしたまま、あっけにとられていると、目まいがするように急に頭が重くなった。