くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

肉片(ミンチ)な彼女(79)

2016-12-11 18:59:54 | 「肉片(ミンチ)な彼...
 ミーナが不安げに金魚鉢の中に収まると、又三郎が叶方に言った。
「これはみかわしのマントです。あなたに預けますから、危ないことがあれば京卦殿を守ってください。大抵の攻撃なら、このマントがかわしてくれるはずです」と、又三郎は透きとおるほど薄い銀色のマントを差し出した。
「こんなの、もらえないよ」と、叶方が手渡されたマントを返そうとした。「これをもらったら、そっちの武器がなにも無くなるじゃないか」
「私なら心配いりません」と、又三郎が自分の胸を叩きながら言った。「いつも見えないところに武器を隠していますから、安心して受け取ってください」
 叶方は、しぶしぶマントを受け取った。
「相手は魔法使いよ。青騎士に変身できないあなたじゃ、まるで歯が立たないわ」と、京卦が短い杖を手にしながら言った。「危なくなったら、そのマントを身につけて隠れていてね」
「そんなわけにいかないよ。オレだって戦えるさ」と、叶方がむきになって言った。
「その気持ちを忘れないで」と、京卦が叶方の目を見ながら言った。「私だって、攻撃魔法のクラスじゃ相手に負けたことがないんだから。あなたには秘密にしていたけれど、本当は私、強いのよ」
 叶方は、あきらめたようにうなずいた。

「――あれ、なんか揺れてないか」
 
 悔しそうにうつむいていた叶方が、はっと顔を上げて言った。
「……」と、じっとしていた又三郎と京卦が、互いの顔を見合わせた。
「来たみたいね」京卦が言うと、飛び上がった又三郎が、窓の外をうかがった。
「――おかしい」
 窓の外を見ていた又三郎が、耳をそばだてながら言った。
「わずかですが、シャリンシャリンと鈴のような音がします」
「でも時矢君は、私達が守っているはずでしょ」と、京卦が叶方の袖を引っ張った。
 水槽の中に隠れているミーナが、もごもごと聞き取れない声でなにかを言った。
「いえ、それはないはずです」と、又三郎が首を振った。
「――なんて言ったの」と、叶方が聞いた。
「時矢殿が、もう一人いるんじゃないかと……」と、叶方を見る又三郎の目が、細く射るような形になった。
「それじゃカリンカは、分身させた時矢君を使って、もう一体、別の青騎士を出現させたっていうの」
 又三郎と並んで、外の様子をうかがっていた京卦が言った。
 ミーナがモゴモゴと、泡を吹き出すような音を立てた。
「不可能ではないけれど――」と、京卦が考えるように言った。
「ええ」と、又三郎が京卦を見て言った。「こんな短時間で、そんな大きな魔法が使えるほど、魔力を回復させられるはずがありません」
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肉片(ミンチ)な彼女(78)

2016-12-11 18:48:34 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「京卦達の国はどうなったの」と、叶方が言った。「みんなが助かれば、国に帰るんだろ」
 京卦の顔色が曇った。
「心配しなくてもいいですよ」と、又三郎が言った。「そちらにも一人使者が行っていますから。京卦殿がゾオンに戻る頃には、なにかしらの成果を上げているでしょう」
「私の知っている人――そんなわけないわよね」と、京卦が驚いたように言った。
「残念ながら、おとぎ話にはなっていないでしょうね」と、又三郎が言った。「手品の得意な魔法使いで、人を驚かせるのがなにより好きな人です」
 京卦が疑わしそうな顔をすると、叶方が窓を指さした。
「あれ――」
 顔を上げると、窓ガラスに女の人の顔が映っていた。驚いて声も出せずにいる叶方にかまわず、京卦があわてて窓を開けた。
「ミーナさん、無事だったの」と、人の形をしたモヤモヤとした物が、部屋の中にドロリと滑り降りてきた。
「瓶が割れて、急いで外に出たつもりだったんだけれど、縛られていた魔法がなかなか解けなくて、自由に動けなかったの」と、ミーナが京卦に抱き起こされながら言った。「みんなはどうなったかわからないけれど、私一人だけでもと思って、急いでここに来たのよ」
 ゼリーのように半透明になったミーナが、ちらりと叶方を見た。どきりとした叶方が、あわてて顔を伏せた。
「ありがとう。約束を守ってくれて」と、ミーナが言った。
「――ごめんなさい。京卦を守ろうと思って、知らなかったんです」と、頭を下げた叶方に、ミーナが言った。
「いいのよ。私達もやり過ぎたんだから。まさかお話の中の青騎士が実際に出てくるなんて、考えもしなかったんだもの」
「ありがとう」と、京卦がミーナの手を握った。
「私がマンションを抜け出したときには、まだカリンカはあの部屋の中にいたわ」と、ミーナが言った。「瓶の中にはまだ大半の液体が残っていたから、割れた穴を塞ぐのに必死で、部屋の外に出た私には気がつかなかったみたい。でも遅かれ早かれ、ここに来るに違いないわ」
「わかってる」と、京卦が言った。「青騎士に変身させられていた彼がここにいるから、きっともう青騎士は使えないはず。今度姿を現したら、瓶ごとつかまえてやるわ」
 と、二人は笑い合った。
「用心してください。切り札を失った今となれば、なにをしてくるかわかりませんから」
 又三郎が言うと、はじめて見た言葉を話す猫の姿に、ミーナは息を飲んだ。
「……これって、京卦の新しい魔法なの」と、ミーナが眉をひそめた。
「とりあえず、あなたはこの中に隠れていてください」と、又三郎が大きめの瓶を取りだした。
「――ちょっと、それって」と、叶方が信じられないように言った。「金魚鉢じゃないか」
「大丈夫よ」と、京卦が言った。「この中にいれば、思いのまま飛ぶこともできるし、蓋がないから、簡単に逃げ出すこともできるわ」と、ミーナが疑わしげにうなずいた。
「では、お願いします」又三郎が手を離すと、金魚鉢がフワフワと宙に浮かんだ。
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肉片(ミンチ)な彼女(77)

2016-12-11 18:47:28 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「扉には命があって、しっかりとした意志もあります。自分達の考えで、国をつなぐ道を開きもすれば、閉じもします。軋むような音にも聞こえますが、自分達の言葉も持っているのです。よほど緊急なことか、やむを得ない事情がなければ、本来の道だけを開いていたはずです」
 又三郎が言うと、京卦が思い出すように言った。
「私も必死で、いろいろ扉にお願いをしたの。目が覚めていないんだとばかり思っていたから、起きてもらおうとして、とにかく夢中になって話をしたの。なにを言ったかなんて、もうすっかりわからないけれど、扉を混乱させるようなことまで、一方的にまくし立てていたんだと思う」
「……」と、又三郎がなにか言いかけたが、思い直したように言った。「それが良かったのかもしれません。ゾオンの国のことについて、私達も知ることができたんですから」
「早く戻りたいけれど、仲間のみんなを置いてはいけない」と、京卦が悲しそうな顔をした。
 と、不意に立ち上がった叶方が、不思議そうに言った。「ここって、どこ? ポロスとかって人がいた、工場みたいだけど」
「そうよ」と、京卦が言った。「ゾオンから逃げてきた仲間達で、なにかあればこの場所に集まろうって、決めていたから。みんなも無事なら、必ずここに集まってくるはず」
 叶方がうなずくと、言った。
「京卦の仲間達って、この手で命を取ってしまったとばかり思っていたけど、まだみんな無事なんだろ……謝らなきゃ」
「だから、後悔なんかしなくていいって、言ってるの」と、心配そうな顔をしている叶方を見て、京卦が言った。「みんな、カリンカが持っていた瓶に閉じこめられたのよ。この世界では、ほとんど魔法が通じないから、それぞれが持っている魔力を集めて、ようやく強い魔法が使えるの」
「じゃあ、あの変な色をした液体が、京卦の仲間達だったんだね」叶方が言うと、京卦が大きくうなずいた。
「私を助けるなんて言っていたけれど、もう一方では魔力を集めて、甦らせた私の体を奪うつもりだったのよ」
「逃げてくるときに、カリンカが持っていた瓶が割れたんだ」と、叶方が言った。「あれでも、みんなは無事なんだろうか――」
「わからないわ」と、京卦が不安そうに首を振った。「何人かは魔法が解けて体を取り戻せたかもしれないけど、私を蘇らせようとしたせいで、カリンカ自身の魔力はとっくに底をついているはず。だから仲間達全員をみすみす逃がすなんて、ありえない。まだ私を狙っているんなら、罠にかけるための魔力が必要なはずだもの」
「――まさか、また変身して、京卦を襲うんじゃないだろうな」と、叶方が立ち上がった。「オレなんか助けないで、早く逃げればよかったのに」
「私達が一緒にいれば、時矢殿は青騎士に変身しません」と、又三郎が自信ありげに言った。「時矢殿を守るために、青騎士は現れたのです。青騎士自身がそう勘違いをするように、仕組まれたのです。ですから私達が時矢殿を守っていさえすれば、決して青騎士は出てきませんし、この世界が自分の守らなければならない世界じゃないとわかれば、二度と出てくることはないでしょう。いずれにしても、時間さえ稼げれば、青騎士は姿を現さなくなります」
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肉片(ミンチ)な彼女(76)

2016-12-11 18:46:26 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「本来の魔法に、善悪は無いと思いませんか。使い方が間違っているか、正しいか、その違いがあるだけではないでしょうか」又三郎が言うと、京卦はばつが悪そうに目を伏せた。
「どうして、オレ達のことがわかったの」と、叶方が聞いた。
「壊れた扉が、どこからともなく城に落ちてきたのです」と、又三郎が言った。「なにぶん古い扉で、はじめは誰もわからず、危険な物ではないか、とおびえて近づくこともできませんでした。ただ一人、代々の王様に仕えてきた大臣だけが、友好の証として送った扉のひとつではないかと、気がついたのです」
「京卦が扉を持ってるんじゃないかって、誰かが言っていたけれど、カリンカは京卦を元どおりに蘇らせて、扉の場所を聞き出そうとしてたんじゃなかったかい」
 叶方が言うと、京卦がうなずいた。
「カリンカは、私が落ち着いて生活し始めた頃を見計らって、行動を起こしたの」と、京卦が怒ったように言った。「体をゾオンに置いてきてしまったカリンカは、魂だけを私のマスコットの中に閉じこめて、私の体を奪い取る機会をじっとうかがっていたのよ。体が奪えれば、行方不明になった扉のありかも探れるし、ゾオンから一緒に来た仲間達も、扉をたてに言うことを聞かせられると思っていたみたい」
「もしかして、それで……」と、叶方が驚くように言った。
「そう」と、京卦がうなずいた。「私は自分の体が奪われる前に、破裂の呪文を唱えたの」
「……」京卦の話を聞いた二人は、そろえたように口ごもった。
「しかたがなかったのよ。あともう少しタイミングが遅ければ、私はカリンカに体を乗っ取られていたんだから」と、京卦が思い出しながら言った。「でもそれが、結果としてカリンカと仲間達を戦わせることになってしまったんだけど……」
「助けに来たはずの私も、修理された扉から京卦殿の情報を聞いてはいましたが、まさか体がバラバラになっているとは思いもしませんでした。それに加えて、京卦殿が張られた結界に目をくらまされ、すみやかにマンションにたどり着くことができず、こんなにも遅くなってしまったのです」
 又三郎が申し訳なさそうに言うと、京卦は大きく首を振った。
「助けが来るなんて思いもしなかったから、どんなお礼をすればいいのか、考えもつかないわ」と、京卦が言った。「私が扉の行方を知らないとわかれば、魔力を奪い合うだけじゃ済まなかったはずよ。最悪な結果になる前に来てくれて、本当によかった」
 又三郎は、黙って険しい表情を浮かべた。
「――ねえ、猫さん。もしかしてあの扉は、まだいくつもあるの」と、京卦が考えるように言った。
 顔を上げた又三郎が、こくりとうなずいた。
「ただ、ゾオンにあるとは限りません。遠く離れた国と国とが行き来するため、移動手段として送らせてもらった物なのでしょう。ですから本来なら、扉を開けた先には“ねむり王様”の国があるはずなんです」
「この国でも、ゾオンでもない国が、ほかにもまだあるなんて、信じられないよ」叶方が言うと、京卦もうなずいた。
「ええ、星の数ほどもあるでしょうね」と、又三郎が天井を見上げた。
「でも京卦達は、ここに来たんだ――」と、叶方が言った。
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肉片(ミンチ)な彼女(75)

2016-12-11 18:45:20 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「どこから聞けばいいのか、たくさんあって、わからないけれど」と、叶方が困ったように言った。「――じゃあ京卦達は、本当に自分達の国から逃げ出して、ここに来たきたのかい」
 ソファーに戻って腰を下ろした京卦が、力なくうなずいた。
「大きな争いがあって、私達は逃げ出してきた。それが正しいことだったかなんて、胸を張って言える自信はないけれど」
「京卦と一緒に逃げてきた人達って、やっぱり京卦の体を持ってた、魔法使いだったんだろ……」
「気にしないで」と、京卦が慰めるように言った。「お互い敵同士だと勘違いして、戦っていたんだから。時矢君が一方的にみんなを傷つけていたんじゃない」
「――確かカリンカは、生きている扉、とか言っていたけど」と、顔を伏せている叶方が言った。
「私が、間違って開けちゃった扉の事よ」と、京卦が悲しそうに言った。「あの扉を開けなければ、関係ない人達を巻きこむことなんて、なかったのに……」
「悔やんでも仕方がありません」と、四つ足になった猫が、京卦の隣のソファーに飛び乗った。「あれはゾオンの物ではないんですから。本来の使い方なんて、わかるはずがありません」
「おまえ、何者なんだよ」と、叶方が座ったまま身を乗り出した。「もしかして、京卦を狙っているんじゃないだろうな」
「――座って」と、京卦が叶方に手を伸ばして言った。「私達を助けに来てくれたのよ」
 人のようにソファーに腰を下ろした猫が、うなずいて言った。
「私は又三郎。あなたから見れば、猫でしょうね」と、叶方が疑わしげな顔をした。「モリル…いや、京卦殿が開けた扉は、もともとは“ねむり王様”の持ち物だったのです」
「誰だって?」
 叶方が言うと、京卦も身を乗り出した。
「ゾオンと同じ世界にある別の国です。その国を治めているのが、広く称されている“ねむり王様”です」と、又三郎が言った。
「ゾオンのおとぎ話では知っているけれど、本当のことだったなんて、きっと誰も信じちゃいないわ」と、京卦が言った。
「どんな経緯かは知りませんが、長い歴史の中、どこかの時点で国同士の交流があったのでしょう。その時のなごりが、おそらくは『生きている扉』です」と、又三郎が言った。「ねむり王様はその名のとおり、いつも夢うつつの中にいらっしゃいます。ただ、なにかの拍子で、別の誰かの夢に迷いこまれることがあるのです」
「人と人とが、夢でつながるって事……」と、叶方が険しい顔をして首を傾げた。
「こちらの世界に生きている時矢殿には、実感がもてないかもしれません。魔法が日常になっている京卦殿なら、わかってもらえると思いますが」
「……」と、京卦がうなずいた。「私は、まだそこまで高度な魔法は使えないけれど、人の夢の中に入りこんだり、そしてその人を操ったりする悪い魔法のことは、学校でも教えてもらったわ」
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肉片(ミンチ)な彼女(74)

2016-12-11 18:44:36 | 「肉片(ミンチ)な彼...
 叶方は京卦の背中を見ながら、考えていた。
「バラバラになってた京卦は、ずっとマンションにいたはずだろ。一緒にいられるはず、ないじゃないか」
「――あいつのこと、どう思ってる」と、窓の外をうかがっていた京卦が、振り返って言った。
「カリンカ?」
 叶方が言うと、京卦がうなずいた。
「口うるさかったけど、あの妖精がいなけりゃ、京卦を元に戻せなかったよ」
「あれは妖精なんかじゃない」と、京卦は顔色を曇らせた。「カリンカこそ、わたし達をゾオンから追ってきた敵なの」
「うそだよ。そんなの、おかしいじゃないか」と、叶方は言った。「京卦を助けるために、一緒に戦ってきたのに」
「知ってる――」と、京卦が言った。
「――知ってるって、なにをさ」
「カリンカが自分の体の替わりにしていたマスコットは、もともと私のマスコットだもの」
 京卦が言うと、叶方は不満そうに顔をしかめ、「はっ?」と大げさに聞き耳を立てた。
「あなたに説明するために、マスコットと言っているだけ」と、京卦がため息をついた。「あの人形は、魂を写す魔法を勉強するための道具なの。ゾオンから逃げ出す時は荷物をまとめる余裕もなかったから、直前まで受けていた授業で使っていた人形を、ちょうど身につけていたのよ」
「魂って――」と、叶方が考えるように言った。「たとえ体が無くなっても、魂さえ別の場所に逃げていれば、また新しい体を得て蘇ったりする、みたいなこと」
 首を傾げた京卦が、困った様子でうなずいた。
「カリンカに邪魔されて、話すことも動くこともできなかったけれど、あのマスコットの中に、私もいたのよ」
「信じられないよ。だってあのマスコットの中には、体を失ったカリンカが入っていただろ。もう一人、別の人間が入っていられるはずが――」ない、と言いかけて、叶方は口をつぐんだ。
「――それって、本当かよ」
 叶方が信じられないように言うと、京卦がこくりとうなずいた。
「私だって、そんなことができるなんて知らなかった」と、京卦が言った。「体はバラバラになっていたけれど、実体を持たない私自身は、あのマスコットの中に捕らえられていたの。だから、時矢君が私のために戦ってくれていたこと、全部知ってるんだ」
「全部って……京卦のマンションに行って、京卦を見つけて、そして――」
 叶方は、頭を押さえていたはずの手を、いつのまにか額にあてていた。誰が見ても、顔が真っ赤になっていた。
「京卦の言うことが本当だったとして、カリンカが言ってたことは、全部でたらめだったのか」
「騙されていたからって、自分を責めちゃだめ」と、京卦が言った。「自分に都合がいいように言い替えていた部分もあるけれど、だいたいは本当のことなんだから」
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肉片(ミンチ)な彼女(73)

2016-12-11 18:39:07 | 「肉片(ミンチ)な彼...
         6 真実
「……」
 叶方が目を覚ますと、やわらかなソファーの上に寝かされ、暖かな毛布が掛けられていた。自分がどこにいるのか、ぼんやりとした頭では、すぐには考えることもできなかった。どこかはわからなかったが、確かに見覚えのある部屋に違いなかった。
「イタタタタ……」
 体を起こした叶方は、ずきんと痛みの走った頭に手をあてた。

「目が覚めたようね」

 顔を上げると、ソファーの後ろに立った京卦が、ほっとしたように叶方の様子をうかがっていた。いつのまに着替えたのか、柄のない地味な色のシャツを身につけていた。サイズが合わないのか、余った袖を、両腕とも肩の高さまでたくし上げていた。
「京、卦」と、叶方は信じられないように言った。「――大丈夫だったのか」
「ええ、おかげさまでね」と、京卦がため息混じりに言った。叶方が知っている京卦とは、どこか印象が違っていた。
「本当に、京卦だよね」頭に手をあてた叶方が、確かめるように言った。
「――無理しないで」京卦はつまらなさそうに言うと、テーブルを挟んで向かい側のソファーのひとつに腰を下ろした。「ごめんね、迷惑かけちゃったね」
 叶方はうなずきながら、再び体を横たえた。

「気がつきましたか」

「えっ」驚いた叶方が顔を上げると、灰色がかった虎じま模様の猫が、肘掛けの横に立っていた。
「――驚くのも無理はありません。ご覧のとおり、私は猫ですから」
 がばりと起き上がった叶方は、ソファーの隅に逃げるように腰を下ろした。頭に打ち下ろされた重い鉄棒の記憶が、まじまじと蘇っていた。おびえたように息を詰めた叶方は、何度か街で見かけた猫の姿を、すぐに思い出した。
「おまえ、あの時の」と、叶方が指をさしながら言った。「なんで、しゃべって……」
「そこ?」ソファーの隅で逃げ腰になっている叶方の姿を見て、京卦が言った。「いままで魔法使いと戦ってきたくせに、今さら言葉を話す猫なんかで驚くの」
 あきれたように言う京卦を見て、叶方が言った。「しかたがないじゃないか、言葉を話す猫なんて、見たことなかったんだから――」
 と、叶方が気がついて言った。
「どうして、魔法使いと戦ったこと、知ってるんだよ」
 はっとして口をつぐんだ京卦は、黙って一人掛けのソファーから立ち上がると、背中を向けて窓のそばに歩いて行った。
「私も一緒にいたのよ、ずっとね」
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