最寄り駅であるJR東中野駅の東口を北側に降りると「昭和の街ムーンロード」という呑み屋街がある。
正式名称は「東中野駅前飲食店会」であるが、小路が三日月のように曲がっていることから「ムーンロード」と呼ばれている。
狭い一角に35軒の小さな呑み屋が軒を連ねていた。
この通りに異変が始まったのは5年ほど前だろうか。
いくつかの店が閉店し、取り壊されて更地となった。
どうやら再開発の名のもとに地上げが進んでいるらしい。
ワタシは新宿ゴールデン街や思い出横丁といった呑み屋街があまり好きではないので、
このムーンロードにも一度だけしか行ったことはない。狭い店で店主や常連客に囲まれて呑むのが苦手なのである。
ただこういう場末の匂いのする路地は好きなので、ときどき通ったりはしていた。
地上げが進むにしたがって白い塀で囲まれた更地がどんどん増えていく。
他人事ではあるが、なんだかつまらんあとため息のひとつもでようというものだ。
更地になったあとには、おきまりのマンションか、
あるいは小洒落たカフェとかショップであろう。ああ、つまらん。
ところが、である。
ムーンロードの入り口右側の更地に立ててあったマンション建築予定の看板がいつの間にかなくなっている。
おや、またなにか動きがあるらしい。
調べてみると、どうやらこの再開発を阻止するための店主や常連客の訴訟が起こり、
再開発に公共性はないとの司法の判断が下されたらしい。そこでとりあえず地上げ屋は撤退。
次の手段を講じる準備にはいったという。
とはいえ、地上げされ取り壊された古い店が復元されるわけではない。
殺風景なこの白い塀で囲まれた更地はこのまま残るわけだ。
ずいぶん前に東中野駅の西口は整備されて駅ビルにアトレができた。
都内のJRの駅という駅にはアトレができ、みんな同じ顔になってしまった。
しかしそれを歓迎する層も少なからずいる。
小洒落たカフェやショップが好きな若い世代。
こういった再開発を嘆いているのはワタシたち高齢者なのだろう。
