散歩と俳句。ときどき料理と映画。

『忍者武芸帳 影丸伝』

白土三平の『忍者武芸帳 影丸伝』全17巻が刊行されたのは1959年から62年にかけてである。
あつかいはそう大きくはないが大事なエピソードとして苔丸や菊、ゴマメたち戦災孤児のコミュニティがある。
影丸の師であり、ニヒリストの無風道人はこの子どもたちの共同体に未来への希望を託すのだが、
白土三平のいう「内部矛盾」によって、この共同体は崩壊することになる。

話は変わるが、1954年に出版されたウィリアム・ゴールディングの小説に「蠅の王」がある。
飛行機の事故で南太平洋の無人島に置き去りにされた少年たち24人の物語である.
描かれるのは、『忍者武芸帳 影丸伝』同様の子どもたちの共同体とその崩壊である。
邦訳は1965年であるから、白土三平はこの小説を読んではいないだろう。
「蠅の王」の主人公は懸命にルールを守り秩序正しく生きようとし、
その結果多くの少年たちが死んでしまうというのが結末である。

『蝿の王』(1975年/新潮文庫/平井正穂・訳)

1990年に制作された映画「蝿の王」(監督ハリー・フック)。1963年にもピーター・ブルックによって映画化されている。

ひるがえって『忍者武芸帳 影丸伝』はどうだろうか。
お互いに殺し合いになり、弱体化したところに大人たちの襲撃を受け、
瀕死の重傷を負った苔丸とゴマメふたりが無風道人に救われる。

この17巻におよぶ『忍者武芸帳 影丸伝』の最後の一コマは感動的である。
荒地を耕しながら苔丸はゴマメに「物をつくりだすのは、おれたちさ」と語りかける。
「蠅の王」の絶望感とは違う、子ども達に希望をたくす白土三平の力強いメッセージが最後のコマに込められている。

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