散歩と俳句。ときどき料理と映画。

原泉と中野重治

今日は女優の原泉の命日(1989年5月21日 享年84)。
プロレタリア演劇研究所から東京左翼劇場に合流。
40年8月19日の新劇弾圧では治安維持法違反で村山知義や滝沢修らとともに逮捕された。
私が知っているのはもうずいぶん年齢を重ねた頃で、老け役の原泉である。
なんとも意地の悪そうな顔つきで怖かった記憶が強い。

 

原泉の夫はプロレタリア作家の中野重治。
30年にふたりは結婚し、翌年2月に上落合48番地に新居を構えるのだが、
ここはワタシのいつもの散歩コースで、落合水再生センターの敷地内に当たる。

中野重治の評価をめぐってはいろんな見方があるだろうが、
私は中野の「雨の降る品川駅」は好きである。

 辛よ さようなら
 金よ さようなら
 君らは雨の降る品川駅から乗車する

 李よ さようなら
 もう一人の李よ さようなら
 君らは君らの父母の国にかえる

 君らの国の川はさむい冬に凍る
 君らの叛逆する心はわかれの一瞬に凍る
 海は夕ぐれのなかに海鳴りの声をたかめる
 鳩は雨にぬれて車庫の屋根からまいおりる

 君らは雨にぬれて君らを追う日本天皇を思い出す
 君らは雨にぬれて 髭 眼鏡 猫背の彼を思い出す

 ふりしぶく雨のなかに緑のシグナルはあがる
 ふりしぶく雨のなかに君らの瞳はとがる

 雨は敷石にそそぎ暗い海面におちかかる
 雨は君らの熱い頬にきえる

 君らのくろい影は改札口をよぎる
 君らの白いモスソは歩廊の闇にひるがえる

 シグナルは色をかえる
 君らは乗りこむ

 君らは出発する
 君らは去る

 さようなら 辛
 さようなら 金
 さようなら 李
 さようなら 女の李 

 行ってあのかたい 厚い なめらかな氷をたたきわれ
 ながく堰かれていた水をしてほとばらしめよ
 日本プロレタリアートのうしろ盾まえ盾
 さようなら
 報復の歓喜に泣きわらう日まで

 

これが現在流通している「雨の降る品川駅」全文である。
発表されたのは29年の『改造』2月号である。
表題には「■■■記念に 李北満 金浩永におくる」とあり、
「■■■」は、前年の11月10日に京都で挙行された「御大典」(昭和天皇の即位式)である。
天皇に関する部分は全て伏せ字である。
初出から何度か手を加えられ、『中野重治詩集』に収録された際には、語句も調子もかなり変わっている。
ワタシの手元にある中野重治詩集で確認しようと思ったのだが、どこにいったのかさんざん探しても見つからない。

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