新自由主義のもと、市場原理主義がわが国経済を停滞させている。規制緩和による競争強化がコスト低下圧力となり、賃金や経済成長率の停滞を招いてきたためである。その意味で岸田内閣が所得増加を企業に要請することは意義があるが、企業が自らの組織に対する意識を根本的に変えない限り、今後も経済の成長・発展は望めないであろう。
市場原理主義は、人間や企業が自由に利益を追求して競争することにより、市場が均衡すると考える。しかし資本主義は市場均衡による効率化よりも、企業が新技術や新製品を開発する創造性によって、市場経済を発展させる原動力になってきた。それは、企業が必ずしも株主利益を追求する資本主義の原理に従ってこなかったからである。
産業革命後、経済は商業資本主義から産業資本主義に移行し、会社制度が普及することとなった。会社が存続するためには、株主利益の追求だけではなく、会社に関わる様々なステークホルダーや社会の要請に対応する必要が生じた。その意味で、企業の社会貢献意識や所有と経営の分離は必然的な方向であった。経営学はそれらを踏まえ、企業経営の効率性だけでなく、社会に適合する組織能力の向上をめざして体系化されてきた。
しかし近年、新自由主義に迎合するかのように、労働者を一定の職務に専念させることが個人の尊重であるかのような誤った人間観のもと、機械的な組織モデルを期待する傾向がある。それは一時的な組織の効率化になるかもしれないが、組織能力を弱めて経済の成長・発展にマイナスとなるであろう。
現に日経連が1995年に雇用柔軟型労働者を提言したことにより派遣労働者が増加し、低賃金労働の普及だけでなく労働組合組織率の低下が、正規労働者の賃金低下や過剰労働をもたらしてきた。さらに正規労働者と非正規労働者の分断は、組織内のコミュニケーションを低下させ、組織能力や競争力低下の一因となっている。
近年、経団連等が進めているジョブ型雇用は、これらの分断を正社員間に広げて、さらなる組織能力の低下をもたらすであろう。まして、労働者が決まった仕事だけを請け負う個人事業主的組織が期待されるに至っては、もはや組織は無機的な市場と化し、企業組織は崩壊するに至るであろう。
新自由主義の規制緩和により競争を強化するのではなく、組織の有機性を高めることによって組織能力を向上させることが、今後のわが国経済を成長・発展させる原動力になるといえる。