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文芸 エッセイ 論文  アイデンティティ

新自由主義と企業の組織能力

2022-01-25 12:24:29 | エッセイ

 新自由主義のもと、市場原理主義がわが国経済を停滞させている。規制緩和による競争強化がコスト低下圧力となり、賃金や経済成長率の停滞を招いてきたためである。その意味で岸田内閣が所得増加を企業に要請することは意義があるが、企業が自らの組織に対する意識を根本的に変えない限り、今後も経済の成長・発展は望めないであろう。

市場原理主義は、人間や企業が自由に利益を追求して競争することにより、市場が均衡すると考える。しかし資本主義は市場均衡による効率化よりも、企業が新技術や新製品を開発する創造性によって、市場経済を発展させる原動力になってきた。それは、企業が必ずしも株主利益を追求する資本主義の原理に従ってこなかったからである。

産業革命後、経済は商業資本主義から産業資本主義に移行し、会社制度が普及することとなった。会社が存続するためには、株主利益の追求だけではなく、会社に関わる様々なステークホルダーや社会の要請に対応する必要が生じた。その意味で、企業の社会貢献意識や所有と経営の分離は必然的な方向であった。経営学はそれらを踏まえ、企業経営の効率性だけでなく、社会に適合する組織能力の向上をめざして体系化されてきた。

しかし近年、新自由主義に迎合するかのように、労働者を一定の職務に専念させることが個人の尊重であるかのような誤った人間観のもと、機械的な組織モデルを期待する傾向がある。それは一時的な組織の効率化になるかもしれないが、組織能力を弱めて経済の成長・発展にマイナスとなるであろう。

現に日経連が1995年に雇用柔軟型労働者を提言したことにより派遣労働者が増加し、低賃金労働の普及だけでなく労働組合組織率の低下が、正規労働者の賃金低下や過剰労働をもたらしてきた。さらに正規労働者と非正規労働者の分断は、組織内のコミュニケーションを低下させ、組織能力や競争力低下の一因となっている。

近年、経団連等が進めているジョブ型雇用は、これらの分断を正社員間に広げて、さらなる組織能力の低下をもたらすであろう。まして、労働者が決まった仕事だけを請け負う個人事業主的組織が期待されるに至っては、もはや組織は無機的な市場と化し、企業組織は崩壊するに至るであろう。

新自由主義の規制緩和により競争を強化するのではなく、組織の有機性を高めることによって組織能力を向上させることが、今後のわが国経済を成長・発展させる原動力になるといえる。

 

 


ジョブ型雇用に期待すること

2021-12-07 20:59:59 | エッセイ

 経団連は日本的雇用を改善するため、ジョブ型雇用を促進している。ジョブ型雇用は詳細な職務分析により従業員の能力と給与の関係を明確にし、企業の効率化を促進するものである。それがコスト削減による効率化ではなく、経済や企業を成長に導くことを期待したい。

 80年代に低迷していたアメリカ経済が復活したのは、GAFAなど代表される独創的な起業家の成功がある。その背景に新自由主義による規制緩和がITC関連産業や金融経済化、グローバル化を促進したことが注目されている。より重要なことは、それがアメリカの個人主義や自由主義の文化を活かしたことであろう。

わが国は、文化や歴史が証明するように創造性に富んだ国民であり、高度成長期には質とコストの両面で優れた多数の製品群を開発した。その背景に技術者のみならずQC活動等、一般従業員の創意工夫があり、その背景に関係性を重視するわが国文化があったという背景を無視できない。

しかしバブル崩壊後、デジタル技術の高度化等によりわが国企業の優位性が低下した。わが国政府はアメリカ的な市場原理主義の導入を促進したが、専門的労働者を派遣労働として低コスト化と流動化の対象にしたため、非正規労働者の増加が史上最大の企業利益をもたらした反面、従業員の創意工夫による創造的組織力を低下させることになった。それは賃金の停滞による購買力の低下と低成長という悪循環をもたらしている。

 わが国を豊かな成熟社会にするには、ITやロボットなどの先端技術を生活に普及させる中間的技術が求められ、そこにジョブ型雇用者が創造性を発揮することが期待される。しかし職務給、あるいは目標管理による成果主義は時代遅れである。技術進歩が著しい時代において、職務は変化し続けざるを得ないため、従業員が主体的に企業の課題を発見し、従業員同士の協働により目標予想以上の成果を発揮することが求められるからである。その上で、成果を関係者に配分する評価や報酬制度が求められる。そこにわが国の関係重視の文化を活かすことが可能である。

また、高度な技術は企業特殊能力において具体化されることが多いので、ジョブ型雇用者においても企業内能力開発、特に仕事を通じたキャリア形成による専門能力の育成が望ましいと言える。

つまり、ジョブ型雇用者が仕事人として流動化するのではなく、組織人として企業に帰属するとき、わが国文化に基づいた日本的雇用を活かすことが可能である。

 


『新しい資本主義実現の課題』

2021-12-07 20:53:57 | エッセイ

 岸田政権は新しい資本主義を唱え、「分配と成長の好循環を作り出す」ことをアピールしている。看護師や介護士、保育士等の所得向上や、賃金を引き上げた企業に対する税制上の優遇措置などが検討されているが、木を竹で接ぐような感じがするのは、基本的にこれまでの政策を踏襲しているからであろう。

 先進国で大幅に上昇している労働者の賃金は、わが国では三十年間ほとんど横ばいである。一方、企業の利益は史上最大化している。そんな事実だけをみても、わが国の経済には根本的な問題が潜んでいると考えられる。

 非正規労働者の増加や金融の規制緩和による所得格差、あるいはグローバル化や情報化への対応、日本的雇用慣行など、問題の所在と影響を明らかにすることは喫緊の課題である。

 新しい資本主義実現会議がスタートしているが、いま必要なことはビジョンを描くだけでなく、橋本、小泉政権からアベノミクスに至る新自由主義的政策の検証ではないだろうか。

 


新しい資本主義に求めたいこと

2021-10-26 14:38:15 | エッセイ

 わが国の会社員の給与水準は、1990年代中頃をピークに減少している。その背景に派遣労働者などの増加があることは否めない。思えば95年、当時の日経連はコスト削減のために非正規労働者の増加を提言した。自民党政権は、新自由主義のもとに労働者派遣法を改正し、さらに関係学界は派遣労働者などを組織から自由な仕事人として支持した。これらによる派遣労働者などの増加は、今や低所得と雇用不安、労働組合組織率の低下などにより、給与水準を下げ、それが購買力の低下となり、わが国にゼロ成長をもたらしている。

最近、経団連は「ジョブ型雇用」を推進しているが、正規労働者をも仕事人にして、賃金の増加を抑制する恐れがある。

 岸田政権は新しい資本主義を唱え、成長なくして分配なしと言うが、分配がなければ成長はない。企業は仕事の集まりでなく、人の集まりであり、能力の発揮が成長には不可欠である。人的投資と正当な分配を企業に促して欲しい。

 


ジョブ型雇用制度導入の課題

2021-10-01 19:40:25 | エッセイ

経団連は「ジョブ型雇用」の企業への導入を促進している。ジョブ型雇用は職務分析によって賃金と生産性の関係を密接にするが、経済や企業、労働へのデメリットが大きい。

かつて日経連は、雇用柔軟型労働者として派遣労働者などの非正規労働の増加を提言した。それを学界が「仕事人」と呼んで持てはやし、政府が新自由主義政策の一環として推進した。その結果、企業の内部留保が増大する一方、所得格差を拡大し低成長の一因となっている。ジョブ型雇用はこれを正規労働者に広げる恐れがある。

経済学的には、限界生産性(追加労働の生産性)と賃金を一致させれば利益が最大化する。原理的には昇級が不要になり、賃金が抑えられる。しかし職種別の生産性を明らかにすることは困難である。例えばシステムエンジニアとプログラマーのいる職場での生産性は、重要度でランク付けできる程度であろう。むしろ職種別の需給により市場賃金が形成される可能性が高い。市場賃金は企業内の生産性と一致しないため、生産性が低い企業では、採用困難や人件費増嵩により労働倒産する恐れがある。大企業等では、市場賃金を上回る生産性が利益を増加させるかもしれないが、相対的賃金の低下は労働者のモチベーションを低下させる懸念がある。

ジョブ型雇用の効果としてよくあげられるのは、労働者が企業を自由に移動できることである。それは自由の意味や労働の意義をはき違えている。労働の自由とは本来、目的をもって社会に貢献するという労働の意義を発揮できる主体性である。

ジョブ型雇用を制度化する場合、長期雇用の効果を踏まえ、賃金に反映させる必要がある。どの企業でも即戦力として役立つ高度な専門職は別として、企業に必要な専門性は企業特殊能力であり、長期的に育成される。すなわち、長期雇用により労働者が企業のアイデンティティである理念や文化を共有し、企業が労働者の能力開発に努めることが有効である。それは人を重視するわが国文化に適合するとともに、労働者の創意工夫が技術革新等への環境適応能力を高め、経済成長と所得格差の縮小に寄与するであろう。

少なくともジョブ型雇用が利潤増加の手段となり、人件費の低下や所得格差を拡大するものであってはならない。ILOのフィラデルフィア宣言には、「労働は商品ではない」という原則がある。ジョブ型雇用が社会的目的を失った労働として商品化され、企業をさまよう存在にならないように願いたい。