山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座125

2018-12-31 18:58:35 | 観天望気

~冬型のときの八ヶ岳の雲partⅡ~

前回は、冬型が強いときと弱いときの八ヶ岳にかかる雲の違いについて見てきました。今回は風向きによる違いについて見ていきます。

写真1 北風系の冬型のときに八ヶ岳にかかる雲

冬型の気圧配置でも等圧線が北北東から南南西方向に走っているとき(図1参照)は、地上付近で北風が吹く形です。このようなとき、風は北八ヶ岳(写真1の左側)方向から南八ヶ岳(写真1の右側)の方向に吹いていきます。雲は八ヶ岳を越えていく間に次第に弱まり、特にもっとも高い横岳~赤岳付近を越えると下降気流になるため蒸発していきます。上の写真1では、その境界がはっきりと分かりますね。このようなときは、八ヶ岳でも南側に行くほど天気が良くなります。編笠山や権現岳に行くことをおすすめします。また、北寄りの風のときは山脈に沿って風が吹くため、摩擦の影響で風が弱められます(稜線では風が地形の影響で回り込むため西よりの風になります)ので、風もそれほど強まらないことが多いです。

図1 北風系の冬型のときの天気図(気象庁提供)

写真2 北西風系の冬型のときの雲

冬型の気圧配置でもっとも良く現れるのは、北西系の形です。天気図では等圧線が北から南へ綺麗に縦縞模様になっている形です(図2参照)。この場合は前回学んだように、冬型が強いか弱いかによって雲の形が異なってきます(観天望気講座124参照)。上の写真は並の冬型のときで、山全体に雲がかかっているのが分かります。北西系のときは、北八ヶ岳よりも南八ヶ岳の方で雲が厚みを増すことが多くなります。

図2 北西系の冬型のときの天気図(気象庁提供)

写真3 西風系の冬型のときの雲

西風系のときは、山だけではなく、里にも雲が広がっていることが多く、山全体が雲に覆われて見えないことが多くなります。風も摩擦の影響がもっとも少ない風向なので、強まりやすく、西風系の冬型のときがもっとも稜線上で荒れた天気となることが多いです。雲が厚いときには山では吹雪になっていることを想定しましょう。

また、このようなとき、八ヶ岳だけでなく、甲斐駒や鳳凰三山など南アルプス方面も雲に覆われていることが多くなります。甲斐駒方面の雲の出方も参考にすると良いでしょう。

写真4 西風系のときの甲斐駒方面の雲

図3 西系の冬型のときの天気図(気象庁提供)

西風系の冬型は天気図で見ると、等圧線が北西から南東方向へ走っているのが分かります。このようなとき、八ヶ岳や南アルプスでも天気が悪くなることが多く、特に北アルプスや中央アルプスでは大荒れの天気になります。事前に予想天気図で等圧線の向きを確認しておくと良いでしょう。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之の観天望気講座124

2018-12-31 17:57:49 | 観天望気

~冬型のときの八ヶ岳の雲partⅠ~

前回までは、冬型のときの北アルプスの雲について見ていきましたが、今回は八ヶ岳について見ていきます。八ヶ岳は内陸にあるため、日本海からの湿った空気が入りやすい北アルプスに比べれば天気が良いのですが、山麓は晴れていても山の上には雲が張り付いていくことが多く、稜線では強風と低温で意外と厳しい気象条件になります。

登山前に天気図を見ることで稜線の強風や悪天を予想することができますが、山麓から見上げたときに、山にかかっている雲によって、どの位天気が荒れているかを想定することができます。その見方について説明していきます。

写真1 平均的な冬型のときに見られる雲

冬型の気圧配置のとき、長野県の天気予報は、長野市など県の北部で表示されることが多く、雪マークになることが多くなりますが、八ヶ岳山麓では太平洋側の天気に近く、晴れることが多いです。しかしながら、八ヶ岳には写真1のように、ベッタリと雲が張り付くことが多くなります。このようなとき、山の上では霧に覆われて視界が悪くなります。また、弱い降雪が見られることもあり、稜線では強風が吹いています。森林限界より上部では慎重な行動が求められます。

写真2 冬型が強いときの雲

冬型が強くなると、山麓でも雲が多くなり、雲底(雲の底)の高度と雲頂(雲の上端)の高度の差(写真1、2の白い矢印の幅)が大きくなります。つまり、雲が厚くなるということです。そうなると、太陽の光が通らなくなり、雲の底は暗い色に変わってきます。雲が厚みを増すと山全体を覆い、雲の下に降雪が見られるようになります(緑色のカコミ部分)。このような雲の特徴が見られるとき、山の上は吹雪となっています。見通しが悪く、低体温症のリスクもありますので、森林限界より上部の行動は控えた方が良いでしょう。

写真3 上層に強い寒気が入っているときの雲

上層に寒気が入ってくると、大気が不安定になり、雲がやる気を出して上の写真のように、もくもくと上方へ発達していきます。夏の入道雲と同じですね。このような雲に山が覆われているときは、雪が強まり、突風や落雷の恐れもあります。冬型が強まっているときに、このような雲が見られるときは、山の上では暴風雪の大荒れの天気になります。もっとも注意が必要な雲です。

写真4 甲斐駒、鳳凰三山付近の雲

東京方面から「特急あずさ」に乗車して茅野、松本方面に向かうと、韮崎を過ぎる頃から車窓の左手に鳳凰三山~甲斐駒の山並みが見えてきます。上の写真のように山が雲に覆われているようなときは、南アルプスの稜線でも吹雪いています。冬型のときには普通、八ヶ岳より南アルプスの方が天気は良くなりますから、このようなときは八ヶ岳では暴風雪の大荒れの天気になっていると思った方が良いです。そのため、北八ヶ岳の樹林帯のコースや、入笠山など山頂は開けていてもすぐに樹林帯に下りられるような、風の影響を受けにくいコースに変更した方が良いでしょう。

写真5 冬型が弱いときの雲

冬型が弱まってくると、標高の低い茶臼山から高見石付近から雲が取れてきて、上の写真のように雲は天狗岳~権現岳上空に広がるのみになってきます。やがて天狗岳や権現岳も雲が取れて阿弥陀岳が見えてくると、最後まで残っていた横岳~赤岳の雲が取れるのももう一息です。冬型が弱まってくれば、天気が回復していき、稜線の風も弱まっていきます。午前中に写真5のようになれば午後は全域で好天が期待できますし、午後に写真5のようになっていれば翌朝は好天が期待できます。

このように雲を見ることで、山の上の天候の荒れ具合を想定することや、冬型の強さを推測することができます。空からのサインを読み取って、安全な登山を心がけてください。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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猪熊隆之の観天望気講座123

2018-12-20 21:59:08 | 観天望気

~並の冬型のときの北アルプス~

前回は弱い冬型のときの北アルプスの天気と雲の様子について解説しましたが、今回は冬型がもう少し強まって「並の冬型」(平均的な冬型)になったときの状況について解説させていただきます。

写真1 塩尻市付近からの常念山脈と後立山連峰

上の写真は平均的な冬型のときに見られる、北アルプス付近の雲の様子です。安曇野盆地や松本盆地は青空が広がっているのは弱い冬型のときと同じですが、蝶ヶ岳は雲の中からかろうじて見える程度、常念岳や燕岳、後立山連峰は雪雲の中で全く見えません。見えるのは有明山など前衛の山だけです。写真2の冬型が弱いときと比べるとその違いが良く分かると思います。

写真2 冬型が弱いときの北アルプス南部の雲

それでは天気図でこれらの違いについて見ていきましょう。

図1 並の冬型のときの天気図(気象庁提供)

上図は写真1を撮った時間帯の天気図です。北アルプス付近(図中▲印)は等圧線が広い所から狭い所へと移りつつある場所です。一般に等圧線の間隔が広いときが弱い冬型で、間隔が狭いときが強い冬型ですから、弱い所から強い所に移るタイミングでの「並の冬型」ということになります。

一方、下図は写真2を撮った時間帯の天気図です。こちらは等圧線の間隔が広く、弱い冬型の気圧配置ということが良く分かりますね。

図2 弱い冬型のとき(写真2を撮影した時間帯)の天気図(気象庁提供)

天気図から山における雲の出方が読めるようになれば、一人前の登山予報士ですね。逆に、雲の感じを見て天気図をイメージできれば本物です。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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年末年始の週間予報発表のご案内

2018-12-20 21:21:03 | おしらせ

平素より、「山の天気予報」をご利用いただき、誠にありがとうございます。

12月25日(火)に、年末年始を想定した7日先までの週間予報(第1回目)を発表します。
この日発表の天気予報では、通常の翌日、翌々日の予報に加えまして、12月28日(金)~1月1日(火)までの週間予報を発表いたします。
また、12月30日(日)には、週間予報(第2回目)を発表します。この日発表の天気予報でも、通常の翌日、翌々日の予報に加えまして、1月2日(水)~1月6日(日)までの週間予報を発表いたします。
各回ともに17時ごろ発表、予報対象山域は全国18山域全てとなります。

発表形式は、各山域の予報ページおよびメールでの配信となります。
各予報ページ内の、雨雲レーダーの下部にある「週間予報」よりご確認いただけます(第1回目は12月25日17時頃から翌26日16時頃まで、第2回目は30日17時ごろから翌31日16時ごろまでの、それぞれ約24時間の掲載)。
メール配信につきましては、通常の天気予報メールに加え、残りの5日間分の予報メールを別途配信いたします(12月25日と30日の17時ごろに、それぞれ1回ずつ配信)。年末年始に山行をご計画中の方で、まだ予報配信メールの設定をおこなっていない方は、「各種変更・退会」画面からメール配信設定をしていただくことをおすすめします。

また、27日(木)は「年末年始のおすすめ山域」を発表します。週間予報と併せてご利用ください。

皆様の年末年始の登山計画の設定や、気象リスク軽減のお役に立てれば幸いです。
安全登山で、良いお年をお迎えください。

株式会社ヤマテン
山の天気予報係

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猪熊隆之の観天望気講座122

2018-12-01 18:17:08 | 観天望気

~弱い冬型のときの北アルプス~

今回は冬型が弱く、上層にも強い寒気が入っていないときの雲について見ていきます。

冬型の気圧配置になると、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れという天気になります。ただし、冬型の強弱や、上層の寒気、風向きなどによって天気は大きく変わります。

今年はなかなか強い冬型になりませんので、今回は昨日(11月30日)の午前中、弱い冬型になったときの北アルプスに天気について解説します。 

図1 冬型が弱いときの天気図(気象庁提供)

図2 冬型が強いときの天気図(気象庁提供)

冬型とは、シベリアや中国大陸方面に高気圧、千島列島やオホーツク海、日本の東海上に低気圧というように、日本列島から見て東側や北側の気圧が低く、西側が高いという気圧配置です。そのため、西高東低型(せいこうとうていがた)とも呼ばれます。したがって、等圧線は縦縞模様になるのが特徴です。冬型が強いときは、等圧線の間隔が狭く(図2参照)、冬型が弱いときは、等圧線の間隔が広いときです。目安としては東京/名古屋間(図1、図2の赤い矢印)より狭いときは強い冬型、広いときは弱い冬型と覚えておくと良いでしょう。

さて、図1は、日本列島から見て西側に高気圧があり、東側や北側に低気圧があるので、冬型の気圧配置ですが、明らかに等圧線の間隔が広いですね。つまり、弱い冬型になります。さて、このようなとき、北アルプスではどんな天気になるのでしょうか。 

写真1 山麓線(塩尻-松本)からの北アルプス南部

風下側の平地、安曇野盆地は快晴です。写真1は西側を向いています。写真左側が南、右側が北の方角になります。この日は北西から北寄りの風が吹いており、北アルプスの中でも日本海からの湿った空気が入りにくい南部は晴れています。槍ヶ岳の穂先も見えますね。穂高連峰の辺りのみ、飛騨側(日本海方面)からの湿った空気の影響で雲があります。 

写真2 山麓線(塩尻-松本)からの北アルプス北部

一方、写真1の右側にあたる写真2では燕岳を除き、広い範囲で雲がかかっています。特に右側に行くほど、雲は灰色がかって厚みも増しています。

このように、冬型が弱いときは、北アルプス北部では白馬岳など北に行くほど天気が悪くなりますが、北アルプス南部では飛騨側の一部を除き、お天気は良くなります。ただし、上層に強い寒気が入ると、南部でも雲がかかります。山麓から山にかかっている雲の感じで、冬型が強いか弱いかが分かります。冬型が強いときは、森林限界より上部では猛吹雪となっているので、稜線での行動は非常に厳しいものになります。それに対して、冬型が弱いときは、行動できる山が多くなります。予想天気図と観天望気を組み合わせて、気象リスクが少ない日に行動するようにしましょう。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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