山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座120

2018-11-28 18:44:05 | 観天望気

~竜ヶ岳 空見ハイキングで見られた雲~

いよいよ120回めに突入!今回は11月17日(土)に行われた東京都山岳連盟主催の竜ヶ岳観天望気講座の際に見られた雲についてです。この日は富士山麓でも快晴の天気。そんな中で神の助けとばかりに、現れた雲があります。

写真1をご覧いただくと、富士山の右側(南側)、低い所にもこっとした雲がありますね。これを積雲(せきうん)、または綿雲(わたぐも)と言います。綿のような形をした雲なので、そのように呼ばれますが、写真1の雲は綿よりは広がった感じですね。この雲、他の場所では見られません。どうして、ここで発生したのでしょうか?

写真1 富士山の南斜面に発生した積雲(せきうん)

富士山の南側には駿河湾があります(写真1の右側)。駿河湾から蒸発した水蒸気が溜まっているので駿河湾の上にある空気は湿っています。お天気が良くて風の弱い日は、陽が高くなると海から陸に向かって風が吹きます。これを海風(うみかぜ)と言います。この風によって駿河湾からの湿った空気が富士山麓に運ばれてきます。さらに、太陽からの日射で南斜面では地面が温められ、地面のすぐ上にある空気も温まっていきます。温まった空気は軽くなるので上昇していきます。すると、空気中の水蒸気が冷やされて雲粒になっていくのです。 

ところが、午後になってくると雲が発生する場所が変わってきました。

写真2 富士山の南西側に移った積雲

 

上の写真(写真2)を見ていただくと、写真1では富士山の右側(南側)で発生していた雲が右手前側(南西側)に位置を変えていることが分かります。駿河湾からの海風は引き続き入ってきていますが、下層の風は麓の観測値を見てもあまり変化がありません。ということは、考えられる原因はひとつ。太陽の位置が南西側に移ったことで、日射により温められた場所が変わったことにより、上昇気流が発生する場所が変わったことが原因と推測されます。太陽が気象に果たす役割が大きいと改めて感じさせられました。 

この日は、上空高い所に浮かんでいる雲を除いては、ほとんど雲が現れませんでした。それは高気圧に覆われていたためですが、富士山の南側の雲以外には、北アルプス方面に雲が多く現れていました。それではなぜ、北アルプス方面に雲が多かったのでしょう。

写真3 北アルプスの手前(安曇野盆地)に発生した雲

 

図1 ハイキング当日(17日6時)の天気図

 

この日は、寒冷前線が朝、北日本を通過し、日中は大陸からの高気圧に覆われていきました。ただし、前線通過後、北日本を中心に等圧線は縦じま模様となり、冬型のような気圧配置で、本州付近は北寄りの風が吹いていました。このため、日本海からの湿った空気が新潟県から千曲川、犀川の谷に沿って流れ込み、安曇野盆地に侵入して写真3のような雲(緑線で囲んだ部分)ができたのでしょう。この雲は高度が低いものだったため、北アルプスの稜線では良く晴れました。それは、上層に寒気が入らず、雲がやる気を出せなかったため、雲は上方に成長できなかったためです。雲は少ないながらも空気の気持ちを良く教えてくれた日でした。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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「ヤマテン主催講座 in 名古屋(12月8日開催)」講師変更のお知らせ

2018-11-16 17:41:03 | おしらせ

山の天気予報会員各位

平素より「山の天気予報」をご利用いただき、まことにありがとうございます。

12月8日(土)に名古屋で開催予定の「ヤマテン主催講座」の講師につきまして、猪熊隆之が担当する予定でしたが、都合により渡部均(ヤマテン所属気象予報士)へ変更とさせていただきます(講座の内容に変更はございません)。

・ヤマテン主催「山のお天気講座」(名古屋会場)
日程:12月8日(土)
初級編「クイズで学ぶ山の天気入門」(10:00~11:30)
中級編「冬山の気象リスクを予想するための天気図の活用」(13:00~15:00)
講師:渡部均
会場:日本陶磁器センター(大会議室)
参加費は、一般の方は3,000円ですが、ヤマテン会員の方は2,000円となります(基礎編、中級編両方をお申込みの方は一般の方5,500円、ヤマテン会員の方は3,500円と、500円割引になります)。
お申込み方法や詳細は下記のページをご覧ください。

https://www.meteojapan.com/information/training/4661/ 

株式会社ヤマテン
気象講習係

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猪熊隆之の観天望気講座119

2018-11-01 17:48:35 | 観天望気

~尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲partⅡ~

前回に続き、今回は10月13日(土)~14日(日)に行われた毎日新聞旅行、尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲についての解説です。 

写真1 雲間から燧ケ岳が姿を現す

partⅠでは尾瀬ヶ原では比較的空気が湿っていないため、雲が蒸発していくことを説明しました。しかしながら、一か所だけ尾瀬ヶ原にも雲が発生している場所がありました。それが上の写真1です。

竜宮小屋の少し南側から燧ケ岳方面を撮影したものですが、燧ケ岳の手前側に一面に雲が出ています。この雲はなぜ発生したのでしょうか?

答えは天気図と地図に隠されています。

図1 4日6時の地上天気図(山の天気予報 専門・高層天気図より

この日の天気図を見ると、朝鮮半島と北海道の東海上に高気圧があり(「高」と書かれている場所)、近畿地方から東北地方の日本海側にかけて弱い気圧の谷があります。気圧の谷は、気圧が低い方から高い方に向かって線が張り出している部分で、地図で谷を見つける方法と同じやり方で探せます。図中では、等圧線が大きく折れ曲がっている部分(図中赤い破線)になります。また、その東側には、北海道の東海上の高気圧から延びる尾根(気圧が高い方から低い方へ張り出した部分)があります。風は基本的には、摩擦がなければ、地球の自転の影響で気圧が高い方を右手に見て等圧線に平行に吹きますが、尾根や谷がある場合には、尾根から谷の方へ風が吹きます。したがって、今回は橙色の矢印のように、尾瀬付近から東北地方では南東風が吹くことが予想できます。

図2 尾瀬ヶ原周辺の地図と雲が発生した場所

一方、尾瀬の南東側には奥日光の高い山が聳えているので、南東風が吹くと、湿った空気はこれらの高い山に遮られて尾瀬に入りにくい形です。また、尾瀬の中でも尾瀬ヶ原は南東側に高い山があるので、やはり湿った空気は入りにくく、このような気圧配置のとき、尾瀬は天気予報より良くなることが多くなります。このときも、山麓の予報は曇りでしたが、尾瀬は日中、青空が広がっていきました。

しかしながら、尾瀬付近の地図(図2)をよく見ると、燧ケ岳と皿伏山の間が低くなっており、その東側には尾瀬沼があります。尾瀬沼でも朝霧が良く発生するように、沼の上の空気は沼の水分が蒸発しているため、周囲より水蒸気が多くなっています。この湿った空気が燧ケ岳と皿伏山の間の低い場所を通り抜けて尾瀬ヶ原に入ってきたのです。

PartⅠの場合と同じようにこちらも尾瀬ヶ原へと下降していますが、partⅠの湿った空気①、②は尾瀬ヶ原に入ると雲が消えたのに対して、こちらの湿った空気③は雲量が多かったために、蒸発しきれないで尾瀬ヶ原に入ってきたものと思われます。雲量が多かった理由は尾瀬沼の存在だけでなく、南東側から湿った空気が入ってくる気圧配置だったため、周囲が山に囲まれた、盆地状の湿った空気①、②の場所より尾瀬沼周辺の湿った空気③の方が南東からの湿った空気が入りやすく、水蒸気量が多かったためでしょう。

写真2 新潟県側の空

それに対して、新潟県側では青空が広がっていました。新潟県側は燧ケ岳や尾瀬周囲の高い山の風下側に入り、湿った空気が入りにくいためです。

このように、高い山が連なる場所では、風が吹くとき、風下側の山に行くと、お天気が良くなることがあります。天気図から風向きや風の強さを読み取る方法はヤマテン主催の机上講座でも詳しく説明しますので、興味のある方はぜひ、ご参加ください。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之の観天望気講座118

2018-11-01 17:09:53 | 観天望気

~尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲partⅠ~

大変遅くなりましたが、今回は10月13日(土)~14日(日)に行われた毎日新聞旅行、尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲についての解説です。

2日目(14日)の早朝、尾根と尾根の間から霧が流れ込んできて幻想的な光景になりました。

写真1 山と山の間から雲が湧いてくる。

上の写真は竜宮小屋から至仏山を見たものです。至仏山の手前に雲が湧き出ているのが分かります。それが右方向に移動しながら消えていきました。

写真2 滝雲になり損ねた雲

写真2は、八海山と至仏山の間の谷間に雲があります。それが尾瀬ヶ原の方に入ってくるとやはり消えています。風が弱かったため、雲が勢いよく流れ下る滝雲(たきぐも)にはなり切れていませんが、なかなか面白い現象です。

写真1も写真2も尾根と尾根の間の谷間にできた雲が尾瀬ヶ原の方に流れて消えていることが分かります。どうしてでしょうか?その謎を解くために、一つずつ疑問を解決していきましょう。

1. どうして谷間で雲ができているのか?

ひとつ目の疑問、どうして谷間で雲ができているのかについてです。その答えは地形にあります。地図を見てみましょう。

地図1 尾瀬ヶ原周辺の地図と雲が発生した場所

上の地図を見ると、写真1の雲があるのは「湿った空気①」と書かれた所、写真2の雲があるのは「湿った空気②」と書かれている所です。いずれも三方を尾根に囲まれた盆地のような地形になっていることが分かります。

このような地形では、夜間、地面付近の熱が逃げていき、上空より気温が下がることで山風(やまかぜ)という風が山の斜面や谷の上流側から吹き降ろしていきます(図1参照)。

図1 山谷風の原理(山岳気象大全より)

山の斜面や沢から蒸発した水蒸気がこの山風によって下流側に運ばれ、盆地状の地形では谷の出口が狭くなっているために、そこに水蒸気が溜まり、湿った空気を形成したものと思われます。

2. どうして尾瀬ヶ原に入ると雲が消えていくのか?

次の疑問は、「どうして盆地状の所で発生した雲が尾瀬ヶ原に入ると消えていくのか。」についてです。答えは2つあります。

1つ目は湿った空気がある場所の方が尾瀬ヶ原より高い場所にあり、盆地内に溜まった空気が限界に達すると、出口から下流側へ吹き降ろしていきます。つまり、空気や雲が下降していく訳です。空気は下降すると温まるという性質があり、雲粒は蒸発して消えていきます。また、写真2の方は、上空に安定した層がある(地面付近に冷たい空気、上空に温かい空気がある状態)ため、雲が安定した層に閉じ込められて、雲の上端が平べったい形になっています(写真4)。

写真3 写真1に解説を入れた図(谷間にある湿った空気が尾瀬ヶ原に入って消えていることが分かる)

写真4 写真2の解説図(画面奥の盆地状の地形に溜まっていた雲が尾瀬ヶ原に下り、消えている様子が分かる)

2つ目は尾瀬ヶ原自体に水蒸気量がそれほど多くなく、湿っているとは言えない状態であったことです。秋の朝、尾瀬ヶ原は霧が発生することが多くなります。これは尾瀬ヶ原自体が大きな盆地のような地形になっていて、冷たい空気が溜まりやすく、夜間に蒸発した水蒸気が冷やされて水滴、つまり霧の粒になっていくためです。ただし、この日の朝は、夜間に南風がやや吹いたことや、上空が雲に覆われてそれほど気温が下がらなかったこともあり、霧(雲)ができにくい気象条件でした。このように、尾瀬ヶ原上空の空気があまり湿っていなかったため、尾瀬ヶ原上空に入ってきた雲は蒸発してしまったと思われます。

3.番外編

写真5 写真2(写真4)右側の山にかかる雲

さて、写真2(写真4)で湿った空気②によってできた雲が尾瀬ヶ原に下っているときに雲粒が蒸発し、水蒸気に戻っていく話をしました。その水蒸気が再び山の斜面に沿って昇っていき、雲になっているのが上の写真5の橙色の矢印部分です。

また、写真2(写真4)の湿った空気②によってできた雲が山を越えて滝雲のように流れ下っている様子が分かります(写真5の緑色の矢印)。こちらでは安定した層が山の高さの少し上にあったため、山と安定した層の間を空気が勢いよく通り抜けた結果、吹き降りる風が強まったのでしょう。

このように、ひとつひとつの何気ない雲の存在が、空気の気持ちを語ってくれています。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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