山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気191回 ~日本海からの水蒸気の流れと逆転層~

2023-02-14 10:46:37 | 観天望気

今回は、2月上旬に八ヶ岳連峰の硫黄岳から見られた雲についてです。

ヤマテンの気象予報士のコメントで、「冬型が弱まっていくため、標高の高い場所や風下側から天気が回復していく。」と書かれることがありますが、皆さんは「標高の高い場所の方が天気の回復が遅れるのでは?」と不思議に思ったことはないでしょうか?

冬型が弱まっていくときには2つのパターンがあります。ひとつは、上空3,000m以上の高い所では寒気が抜けていくのに、2,000m以下の低い所では寒気が残る場合、もうひとつは、低い所の寒気から抜けていき、高い所の寒気が残る場合です。前者の場合には、標高の高い山から天気が回復しますが、後者の場合には、標高の低い山から天気が回復します。今回、見られた雲は前者になります。早速、写真を見ていきましょう。

写真1

遠くに見える白い山並みが北アルプスです。その手前に右から左に流れている雲が見えます。この雲はうね雲(層積雲)と呼び、地上付近と上空2,000m付近とで温度差が大きいとき、また海からの湿った空気が入るときにできる雲です。この日は冬型の気圧配置が弱まっていき、西から高気圧が近づいていましたが、高気圧の前面では北西~北風が吹いているので、日本海で発生した雲が新潟県側から長野県方面に入ってきます。この雲は、上空の寒気が強いと“やる気”を出して成長し、発達した雪雲になっていきますが、冬型が弱まった状態では上空の寒気が弱く、“やる気”を出せません。そのため、うね雲は高度が低く、雲頂の高さが2,000m位です。標高の高い北アルプスではうね雲の上になるので晴れています。雲の高さが2,000m付近なのは、その高度に逆転層ができているからです。通常は、高い所に行くほど気温が下がっていくのが普通ですが、下の方が冷たい空気、上の方が温かい空気というように普通とは逆になっている空気の層のことを逆転層と言います。逆転層は空気の中の敷居のようなもので(図1)、雲は敷居に頭を押さえられてそれより上には成長できません(図2)。そのため、雲頂の高さが綺麗に揃った平らな雲ができます。

図1 逆転層ができる様子

図2 冷たい空気の中で上昇気流が発生してできる雲

写真2 写真1に説明を加えたもの

うね雲は、北アルプスの手前側にある白馬から松本盆地にかけて覆っています。ここは、山に挟まれて標高の低い谷間になっています。うね雲は高度が低く、北アルプスや美ヶ原を越えられませんので、手前側の白馬-松本の谷間や長野盆地から上田盆地へと千曲川に沿って流れていきます。この谷間を流れている雲が写真で見られている雲です。雲は谷に沿って南に動いていきますが、塩尻峠などの峠を越えると下降して温められるため、蒸発していきます。また、雲は高度が2,000m位のため、美ヶ原や鉢伏山など2,000m級の山を越えられず、車山~高ボッチなどは晴れています。山の上からは、こうした水蒸気や雲の流れが良く分かります。雲が教えてくれる空気の営みが分かってくると、空を見ることがどんどん楽しくなっていきます!

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山の天気を学ぶオンライン講座(第2回)のご案内

2023-02-12 17:26:47 | おしらせ

3月12日(日)開催の第2回オンライン気象講座につきまして、申込みが開始となりましたので、ご案内申し上げます。

テーマ:「春山の気象」
日程:3月12日(日) 

●初級編「高気圧・低気圧と前線」 10:00~11:30
参考資料:山岳気象大全(猪熊隆之著・山と溪谷社)P64~75

●中級編「春山と低気圧の発達」 13:00~15:00
参考資料:山岳気象大全(猪熊隆之著・山と溪谷社)P130~153

講師:渡部均
※講師は変更となる場合があります。
定員:各回とも70名
開催方法:オンラインZoomウェビナー

オンラインでの講座となりますので、全国の皆様にご参加いただくことができます。
また、通常の机上講座同様、質疑応答も可能となります。(後日、録画分の配信を3週間予定しております)。

参加費につきましては、一般の方とヤマテンフリー会員の方は3,500円ですが、ヤマテンプレミアム会員の方は2,500円となります(初級編、中級編両方をお申込みの方は一般の方とヤマテンフリー会員の方は6,500円、ヤマテンプレミアム会員の方は4,500円と、別々にお申し込み頂くより500円割引になります)。なお、3月10日(金)以降、キャンセル料がかかりますのでご注意ください。

お申し込みやキャンセル料などの詳細は下記URLをご覧ください。
※定員を越えた場合、詳細ページにアクセスできなくなります。お早めにお申し込みください。
お申込時のメールアドレスにつきましては、ヤマテンにご登録いただいているメールアドレス(ログイン時のメールアドレス)をご記入ください。

初級編 
https://shop.yama-school.com/store/products/2023-03-12-spring-weather-basic

中級編 
https://shop.yama-school.com/store/products/2023-03-12-spring-weather-mid

初級編・中級編セット 
https://shop.yama-school.com/store/products/2023-03-12-spring-weather-set

講義を受ける際の操作方法につきましては、下記のやまスクのブログにて詳細な解説が記載されております。サポート体制も整えており、不明な点があっても安心です。
https://www.yama-school.com/blog/how-to-attend-zoom-webinar

この機会にぜひ受講いただき、登山をより安全に楽しむための一助としていただければ幸いです。
皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

株式会社ヤマテン
気象講習係

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲のワンポイント講座 第11回 ~二枚笠(にまいがさ)~

2023-02-10 14:02:34 | 観天望気

笠雲(かさぐも)という雲があるのをご存じですか?富士山や利尻山など、独立峰に笠のような雲がかかることがあります。それを昔の人が雨や雪、日射などが当たらないように被った「笠」に似ていることから、笠雲と呼びます。八ヶ岳の場合、独立した山である蓼科山で見られることが多いですが、山脈が連なる他の場所で見られることはほとんどありません。今日は、そんな笠雲が南八ヶ岳の横岳にかかっていました。

 

写真1

 

しかも、笠が二重になっています!このような雲を二重笠と呼びます。富士山では「「ひとつ笠は雨、二重笠は風雨」とことわざがありますが、富士山に限らず、笠が二重、三重になると山では大荒れ、麓でも大風が吹くことが多くなります。今回のように二重の笠が見られるときは、山では大荒れの天気に注意が必要です。なお、二重からひとつ笠に変わるときは、次第に風が弱まり、山の雲も取れていくことが多くなります。笠の変化に注目しましょう!

 

文責:猪熊隆之

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする