山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座134

2019-06-27 16:47:01 | 観天望気

~発達した低気圧が接近するときの雲変化~

今回は、気象遭難をもたらすことが多い、低気圧が発達しながら接近するときの雲の変化について解説していきます。高気圧に覆われているときは、ほとんど雲が現れませんが、高気圧の中心が東に抜けていくと巻雲(けんうん、別名すじ雲)が現れ、西の空から巻層雲(けんそううん、別名うす雲)が広がっていきます。

写真1 筋のように延びた半透明の雲が巻雲

写真2 巻層雲(うす雲)が広がっていく

通常は薄雲が全天を覆うようになると、西や南西の方角の空から灰色の高層雲(こうそううん、別名おぼろ雲)に変わっていきます。そうなると、山では数時間後に雨になります。

写真3 全天を覆う高層雲(おぼろ雲)

ところが、今回はおぼろ雲に変わる前に別の雲が現れました。高積雲(こうせきうん、別名ひつじ雲)です。

写真4 全天を覆うひつじ雲

写真4のように、うす雲が広がっているときに、全天の広い範囲にひつじ雲が現れるときは要注意です。この雲は、うろこ雲と同様に、「お味噌汁の原理」で発生する雲です。お味噌汁の原理は、観天望気講座103回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/bde8b7d9880a9c60757451375a388ef3 に解説してありますのでご参照ください。ひつじ雲は、うろこ雲より高度が低い所にあるため、雲の塊はうろこ雲より大きく見え、雲の底は灰色がかっています。

うろこ雲もひつじ雲も上空に前線帯ができたりして、狭い範囲で上下の密度差や温度差が大きくなるときに発生します。低気圧が急速に発達しながら接近してきたり、強い低気圧や台風などが遠くにあるときに、それらの低気圧や台風が引き起こす空気の波(乱れ)が伝わってきてできる雲とも言えます。うす雲から直接、おぼろ雲に変化せず、うろこ雲やひつじ雲が空の広い範囲に現れるときは、低気圧が発達しながら近づいてくることが多く、それは気象遭難が多発する気圧配置ですので、必ず最新の天気図や予想天気図で発達した低気圧や台風が近づいてこないかどうか確認してみましょう。

図1 雲が現れた翌日の予想天気図(気象庁HPより)

図2 図1の翌日の予想天気図(気象庁HPより)

実際、このときは翌日から翌々日にかけて、発達しながら低気圧が日本列島を通過していきました。北アルプスの標高の高い稜線では低気圧が抜けた16日に猛吹雪となり、低体温症に陥りやすい気象条件となりました。

写真4のひつじ雲が現れたあと、写真3のおぼろ雲に変わっていき、やがて写真5のように、八ヶ岳の南側で低い雲、層雲(そううん、別名きり雲)が現れてきます。地面付近にも湿った空気が入ってきている証拠で、おぼろ雲+きり雲になると、間もなく雨が降り出します。

写真5 八ヶ岳の南側に発生した層雲(きり雲)

一般的な低気圧の接近に伴う天気変化については、jROの自救力アップ講座「雲から山の天気を学ぼう」第7回 https://www.sangakujro.com/%e9%9b%b2%e3%81%8b%e3%82%89%e5%b1%b1%e3%81%ae%e5%a4%a9%e6%b0%97%e3%82%92%e5%ad%a6%e3%81%bc%e3%81%86%ef%bc%88%e7%ac%ac%ef%bc%97%e5%9b%9e%ef%bc%89/ あるいは観天望気講座126回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/921b5fc449efcd9887cc3ca4514e1f2a を併せてご覧いただくと、理解しやすいと思います。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之の観天望気講座133

2019-06-23 21:50:11 | 観天望気

天気図、雲から雷雨、局地豪雨を予想しよう後編

前編に続き、穂高連峰の岳沢(だけさわ)で行われたガイド協会更新研修時の天候判断についてです。後編では雲などを見て落雷や強雨などのリスクを察知し、早めの避難行動につなげていく方法についてお話しします。

朝、起きると青空が広がり、上高地の清々しい空気が優しく包んでくれました。梓川沿いに河童橋へと進んでいくと、明神側には霧が立ち込め、明神~前穂の稜線を越えて岳沢側に流れ込んでいきます。雲が生き物のように動いていく様は、幻想的でした。

写真1 早朝の上高地からの穂高連峰

その様子を見ていると、職業柄、「どうしてあの雲はあそこに浮かんでいるのだろう?」「どうしてあんな形をしているんだろう?」と考えてしまいます。

折角ですので、皆様も雲の世界にお付き合いください。

写真2 写真1の解説

はじめに、写真1の②付近の雲について解説します。

この写真の右方向が梓川の上流、明神方面で、左側が下流の大正池方面になります。写真には入っていませんが、右側の明神方面には濃密な層雲(そううん、別名きり雲)がありました。この雲は、前日の雨が蒸発して空気中に水蒸気が溜まったものが朝方の冷え込みで冷やされてできたものです。地図を見ると、上高地平は盆地状で水蒸気が溜まると、外に逃げていきにくい形状をしており、その中でも明神は、徳本峠側を越えて湿った空気が入りやすくなります(この日は東風が吹いていたので)。つまり、明神~徳沢辺りには他より濃密な雲ができやすい条件でした。そこで発生した雲が明神岳~前穂高岳を越えて吹き降ろしたものが岳沢の方に流れ込んできたのが、②の正体です。

次に、①の雲です。これは岳沢付近の上空に浮かんでいる雲です。岳沢はお椀のような形をしていて、冷気が溜まりやすい地形です(冷たい空気は重いので、お椀の底のような地形の岳沢に溜まりやすい)。前日の雨で水蒸気が溜まっていた空気で、既にお腹パンパン状態の空気が、夜間に山から冷たい空気が吹き降りて岳沢付近に溜まり、空気の胃袋が小さくなっていきます(空気は冷たくなると、胃袋が小さくなります)。そこで、水蒸気を含みきれなくて吐き出したものが雲に変わっていきます(汚い話ですいません)。また、前穂~明神の稜線を越えてきた②の帯状の雲は、この付近で空気がお腹パンパン状態であることを示しています。このお腹いっぱいの空気が岳沢から西穂の斜面で上昇すると、冷やされて胃袋が小さくなり、含み切れなくなった水蒸気が雲粒に変わっていきました。それで、雲が②と同じように帯状になっているものと思われます。

こうやって色々考えていくと、雲の気持ちが分かって楽しいですね。

楽しくなってきた所で後ろを振り返ると、梓川の下流方面にも層雲が見られました。

次は、この雲について解説していきます。

写真3 梓川の下流方面にできた層雲

写真4 写真3の解説

この雲は、大正池方面から流れてきたものです。大正池は明神~徳沢同様、盆地状の地形をしていて水蒸気が溜まりやすい地形です。前日の雨で既に、お腹いっぱいに近い状態にあった空気が、大正池から蒸発した水蒸気の補給を受けてこれ以上含み切れなくなり、雲になります。こうして、大正池では雨上がりの早朝に霧が発生します。その霧は、太陽が昇ると、温められて空気の胃袋が大きくなるので蒸発していきます。蒸発すると、また空気中の水蒸気が増えます。風が吹くと、その水蒸気をたっぷり含んでお腹パンパンになった空気が斜面を上昇し、冷やされた結果できたのが写真3、4の雲です。そして、その雲がさらに上昇していくと、上方の乾いた空気に触れて蒸発して消えていっています。

朝の雲鑑賞はこの辺りにしましょう。これまでの写真から分かるように、この日は朝から良い天気で、絶好の登山日和に見えますね。

しかしながら、歩き始めてすぐに気になる雲が現れます。写真5の雄大積雲(ゆうだいせきうん)、別名入道雲です。この時点で午前9時前。これが午前10時、11時の時間帯でしたら普通の状態ですが、8時、9時台までに現れたときは要注意です。

写真5 常念山脈方面に現れた雄大積雲(別名入道雲)

日中、陽射しによって地面付近が温められていくと、地面付近と上空との気温差が大きくなり、雲がやる気を出し始めます(雲のやる気については前編を参照)。そうすると、写真5のような入道雲が発生するのですが、まだ地面付近が十分に温まっていない朝のうちから、入道雲が発生するようなときは、上空に強い寒気が入っている証拠です。昼頃になって地面付近が温められると、さらに雲はやる気を出して成長していきます。そうなると、怖い怖い落雷や強雨をもたらす積乱雲(せきらんうん)になっていくのです。

このように危ない兆候が見られる日は、絶えず、雲のやる気をチェックしていきましょう。雲を見るポイントは以下の通りです。

1.風上側の雲を見る(風が吹いてきている方向の雲を見る。雲が流れてきている方向の雲を見る)

2.風下側でも、その雲が10km以内にあり、その雲との間に高い山がなかったり、新た

に入道雲が発生してきているようなときは要注意

3.1と2に該当する雲の底が暗くなってきたら、避難開始(下記写真6参照)

4.1と2に該当する雲の上部が頭巾のような形をしていたら、即避難開始

写真6 頭巾のような形をした頭巾雲(荒木健太郎氏撮影)

5.1と2に該当する雲の上部が透けて見える白い雲の場合は、即避難開

写真7 雲の上部が透けている雲(巻雲、写真の緑色の破線部分)と目に見える降水(赤い破線部分)

6.雲の底から白いカーテンのような筋が見えたら、そこは雨が降っている証拠。その雨が近づいてきているようなら即、避難開始(写真7及び、写真11)

写真8 六百山の奥(東側)で雲底が暗くなった雲が出現

上高地から明神への遊歩道から分かれて岳沢の登山道に入ると、樹林帯になります。空を見渡すことができなくなりますので、登山口の所でチェックしましょう。振り返ると、六百山の東側に入道雲が見られます。雲の底がかなり暗くなってきて、雲を見るポイントの3に該当しますね。ただし、この時は、この雲と逆方向から風が吹いており、さらに雲と私たちの間には高い山があることから、すぐにこの雲が近づくことはないと判断して登山を続行しました。実際、この雲が山を乗り越えて、こちら側に来ることはありませんでした。

写真9 岳沢から南西側の空を見る

樹林帯を抜けると岳沢の本流の河原に出ます。ここで再び雲をチェック。特に、今日は天気図から南西風が吹くことが予想されていたので、南西側の空を確認します。幸い、岳沢では南西側の空が開けているので、雲をチェックするのに好都合です。この時点では南西側には特に発達した雲がありません。

もう少し雲を詳しく観察してみると、焼岳と、手前側の西穂高から上高地側に延びる尾根との間で雲がまとまっています。ここは新中尾峠という標高の低い場所で、飛騨(岐阜県)側からの水蒸気を多く含んだ空気が入りやすい場所です。

写真10 写真9の解説

一方で、逆の信州(長野県)側からは谷風が吹きあがっていきます。こちらは南東斜面で午前中、日射を強く受けますので、温まった空気が軽くなって上昇していくのです。この信州側からの風と飛騨側からの風がぶつかり合って上昇気流を強め、雲がやる気を出していきます。ここでできた雲が南西風に流されると岳沢に直撃します。ですから、今回は特に、この付近で雲がやる気を出さないかどうか、確認をしていきます。

さて、南西側で雲が発達することなく、岳沢に到着。また、雲を観察しているうち、上空では南西風ではなく、西風が卓越していました。飛騨側から湿った空気が入るたびに、西穂高岳付近の稜線で雲が成長し、稜線や飛騨側でにわか雨を降らしていましたが、穂高連峰を越えた雲は岳沢で下降し、雲が弱まっていきます。そのため、岳沢では雨が時折パラつく程度で、岳沢上空では最後まで青空が残っていました。

休憩を取った後に下山開始。すると、空の様子が一変してきます。

写真11 南西側で見られた黒い雲と降水

写真9、10と同じ方向の写真ですが、雲の底が暗くなった部分(赤いカコミ部分)が現れ、また、雲からカーテンのような、もやっとした部分(青い破線のカコミ)が見られます。これは雨が降っていることを示しています。これが見られるとき、進行方向の上高地では間もなく激しい雨が降る可能性が高いです。岳沢では進行方向からズレているので雨がパラつくだけで済むかもしれませんが、この雲が発達すれば土砂降りになり、落雷のリスクも高まります。ということで、このような特徴が見られるときは即、避難開始です。どこに避難したらいいのかは、次号でお伝えします。

今回の講座で、地形が雲に与える影響が非常に強いことが分かりました。特に、谷は水蒸気の通り道になり、山風と谷風(詳細は98回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/65ff7031ab34f28cac97b35fe03dff08 をご参照ください)がその水蒸気を運んでいきます。谷風同士がぶつかり合うとそこで上昇気流が発生し、大気が不安定な状態のとき、雲がやる気を出していきます。それが上空の風に流されていくのです。さらに、積乱雲が発達して激しい雨が降ると、その雨によって冷やされた空気と谷風がぶつかり合って新たな子雲が生まれることがあります。ご参考までに穂高連峰周辺で当日吹いた風を記した図を掲載しておきます。上空の風は気圧配置によって変わりますが、晴れた日の山風と谷風は通常、この図のように吹くことが多いので、雲ができやすい場所も分かります。

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猪熊隆之の観天望気講座132

2019-06-21 22:48:17 | 観天望気

天気図、雲から雷雨、局地豪雨を予想しよう 前編

今回は、先日、穂高連峰の岳沢(だけさわ)で行われたガイド協会更新研修時の天候判断についてです。

この日は、上空に強い寒気が入り、大気が不安定な状況でした。朝は清々しい青空が広がり、日中天候が崩れていくというまさに、登山ガイドが天候判断を求められる、研修会向きの天気でした。

登山中の気象リスクを減らすためには、登山前日に当日の予想天気図を確認して、どのような気象リスクがあるのかを予め考えておきます。

図1 登山前日(10日)に確認した翌11日9時の地上予想図

この天気図を見てピンと来た方は、気象に詳しい方ですね。

能登半島の北西に前線を持たない低気圧があります。閉じられた等圧線はひとつしかない、小さな低気圧です。前線を持たない小さな低気圧が海上にあるときは、寒冷低気圧の可能性が高いので要注意です。

寒冷低気圧とは、上空に強い寒気を持つ低気圧のこと。落雷や局地豪雨は、積乱雲(せきらんうん)によってもたらされます。積乱雲は、入道雲が上方に成長して(やる気を出していく)いくことで発生します。雲がやる気を出すか出さないかは、観天望気講座77回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/d8d91a3876370b0670790c4b3b078e43 に詳しく書いてありますが、雲がやる気を出す(積乱雲が発達する)条件は以下の2つです。

1.上層(上空5,000m以上など高い所)に強い寒気が入るとき

2.下層(上空2,000m以下の低い所)に温かく湿った空気が入るとき

それでは、登山当日(今回は岳沢への研修の日)がこの2つに該当するのかどうかを予想天気図で確認してみましょう。

図2 850hPa面(高度約1,500m)の気温と風予想図

図3 500hPa面(高度約5,700m)の気温予想図

雲がやる気を出す条件1の「上層に強い寒気が入っているかどうか」の目安は、500hPa面(高度約5,700m)の気温を見ることが多いです。6月上~中旬ではマイナス12℃、あるいはマイナス15℃以下が目安となります。梅雨明け後から秋雨に入るまでの夏山の時期は、マイナス6℃以下が目安になります。

あるいは、もう一つ目安があります。850hPa面(高度約1,500m)と500hPa面の気温の差を調べる方法です。

●850-500の気温27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)

●850-500の気温24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い

●850-500の気温21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)

図2、図3から500hPa面でマイナス15℃以下の寒気が接近していること(寒気が離れていく場所より、近づいてくる場所の方が雲はやる気を出す)、850-500の気温が23~24℃前後であることから、雲がやる気を出す状況だったことが分かります。

さらに、もうひとつの目安である発雷確率も見ていきましょう。

図4 発雷確率(6月11日15~18時)

上図は、発雷の確率を色で表したものです。穂高連峰付近では黄色の50%以上80%未満のエリアに入っています。これまでの天気図を総合してみた結果、穂高連峰では11日午後、大気の状態が不安定で、落雷や局地的な豪雨の危険性が高い、と言えるでしょう。

次に、登山ルート中、これらの気象リスクが高い場所について想定していきます。これは地形図や、過去の登山記録、登山アプリなどが参考になります。ここでは、国土地理院の25,000分の1の地形図からリスクを想定していきます。

図5 国土地理院の25,000分の1地形図(電子国土webより)

上高地から岳沢を経由して前穂高岳に登る計画を考えたとします。地形図中に書かれている1~7は気象や地形のリスクが想定される場所です。

1~4は、いずれも等高線が標高の低い方から高い方へ張り出しており、沢状の地形であることが分かります。このような場所では、普段は涸れた沢であっても、大雨の際には水量が多くなったり、鉄砲水が発生したり、土石流が発生する可能性があります。下降も同じルートを取る場合には、そのことを頭に入れておかねばなりません。特に岳沢の本流を横切る3と4の場所は、普段から水流がある場所で、大雨の際に通過できなくなる可能性が高い場所です。

写真1 増水した岳沢の流れ(坂本龍志氏撮影)

5と6の辺りは等高線が込み合っていることから傾斜が強いことが分かります。さらにこの辺りからは岩場のマークもあり、転滑落のリスクが高くなることも想定できます。過去の記録やエアリアマップなどを見ても、鎖場が連続することが書かれています。雨で岩が濡れれば、滑落のリスクはさらに増すことが考えられます。

また、5の辺りで植生のマークが広葉樹からハイマツ地に変わっています。この辺りが森林限界となります。もちろん、地形図が全て正しい訳ではなく、間違っている情報もありますから、現地で確認することが必要です。

森林限界より上部では、風や雷から身を守れる場所が少なく、荒天時には低体温症や落雷のリスクが高まります。したがって、ここで進退の判断をすることが重要になります。重太郎新道での森林限界は、地形図から2,500~2,600m付近と読み取れます。穂高連峰など標高3,000m級の山岳では西風が吹くことが多いです。前穂高岳の西側には、標高2,900m級の西穂高岳や間ノ岳がありますので、風はこれらの山に遮られて弱まります。標高2,900mの紀美子平(図中の7)を越えると、風はこれらの山に遮られなくなり、急に強まります。従って、紀美子平での進退判断も重要です。

さて、ここまで登山前に考えた上で、実際に歩いていきます。後編では、現場で雲を観察して、落雷や強雨をもたらす積乱雲の発達を予想する方法をお伝えします。 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之の観天望気講座131

2019-06-02 17:57:13 | 観天望気

~八ヶ岳の滝雲(南東風バージョン)~

5月になると、日本付近を通過した高気圧が日本の東海上で発達することが多くなります。

そのようなとき、八ヶ岳では特徴的な雲が見られます。 まずは、天気図から気圧配置を確認してみましょう。

図1 東海上で高気圧が発達する気圧配置

上図をご覧いただきますと、北海道の東海上に高気圧があり、九州の西の東シナ海に低気圧があります。日本付近から見て東の方に高気圧、西の方に低気圧という、「東高西低型」と呼ばれる気圧配置です。九州地方では等圧線の間隔が狭くなっており、このような場所では湿った空気が入りやすくなりますが、八ヶ岳付近は等圧線の間隔がまだそれほど狭くなく、また、高気圧の方向から等圧線が張り出している部分(図中の赤い破線)の近くにあります。これを気圧の尾根と呼び、高気圧同様、下降気流が起きて天気が良くなる場所です。

ということで、八ヶ岳山麓では快晴。お山の上でもごく一部を除いては晴れました。そのごく一部を写真1でご確認ください。

写真1 八ヶ岳で見られてた特徴的な雲

写真をよく見ると、八ヶ岳の奥側(東側)から雲が湧き出ているのが分かります。また、赤岳と阿弥陀岳の間でヒゲのような雲が垂れ下がっています(赤いカコミ部分)。

図1をもう一度見ていただくと、高気圧の周辺では時計周りに風が吹いているので、関東から西の地方は南東風が吹いています。山の天気は、「海の方から風が吹いてきたときに崩れる」という原則があります。八ヶ岳の南東側には太平洋があり、高い山があまりないので、太平洋からの湿った空気が富士川に沿って甲府盆地方面から入ってきます。それが八ヶ岳の斜面を上昇してできた雲が写真1の雲です(解説は写真2)。

写真2 写真1の解説

ところが、山を越えると下降気流になります。空気は下降すると温めれていき、雲は次第に蒸発していきますから手前側(西側)には雲がありません。

また、赤岳と阿弥陀岳の間は大きく凹んでいます。その低くなった部分を雲が通り抜けて下降しながら蒸発しているのが、ヒゲになっている(赤いカコミ)部分です。

さて、八ヶ岳にかかる雲は翌日になると増えてきました(写真3)。

写真3 赤岳~阿弥陀岳を境にして南北でくっきり天気が分かれた

赤岳~阿弥陀岳を境にして右(南)側では雲が稜線を覆っていますが、左(北)側では雲がありません。これは南東からの湿った空気が阿弥陀岳~赤岳の稜線で堰き止められていることを示しています。

図2 写真3を撮影した日の天気図

図2は写真3を撮影した日の天気図です。気圧配置は「東高西低型」で変わりませんが、図1と比べると、高気圧から張り出す尾根は不明瞭となり、八ヶ岳付近の等圧線の間隔も狭くなっています。南東風が強まり、湿った空気が入りやすくなったことで、写真3の時点では八ヶ岳にかかる雲が多くなったと言えます。このような気圧配置のときは、赤岳より北側の横岳以北の山に登ると雲に覆われる可能性が低くなります。

写真4 写真3の翌日、滝雲が現れた

次の日も同じような気圧配置が続きました。そして夜になると、滝雲が権現岳~編笠山の鞍部(あんぶ、低くなった所)から流れ出していきました。それは写真1の、赤岳~阿弥陀岳のヒゲ雲に似た光景でした。

写真5 写真4の解説

今回はヒゲ雲でなく、滝雲になった理由を考えてみましょう。ひとつは、図2の所で説明したように、写真1のときよりも湿った空気の勢いが強かったことです。さて、もうひとつの理由は何でしょうか?空気の気持ちになって考えてみましょう。

①  ジメッとしたジメジメ君(湿った空気)が八ヶ岳に南東側か入ってきました。

②  編笠山が立ちはだかったので、「チッ。登らなきゃなんねぇな。」と仕方なく斜面に沿って昇っていきます。昇っていくにつれてジメジメ君の中の水蒸気が水滴に変わっていきます。周囲に雲が出来ました。

③  ジメジメ君は嬉しくなって、少しやる気を出しました。「ヨシ!もっと高く昇ってやる。」

④  昇っていくと、上に安定した層がありました。ジメジメ君の天敵です。安定した層にぶつかると、それ以上昇っていけなくなりました。

⑤  ジメジメ君は、仕方なく、他に山を越える方法がないか探しました。

⑥  「アッター!」ジメジメ君は編笠山と権現岳の凹んだ部分を見つけました。

⑦  ジメジメ君はそこを越えていきました。

⑧  下るとジメジメ君は次第に乾いた空気に変わって「サワヤカ君」に変わりました。

⑨  ヤメテクレー!俺はジメジメでいたいんだ。

おわり。

ジメジメ君の気持ちにお付き合いいただき、ありがとうございました。ここに滝雲ができる原理が書かれてます。

 

滝雲ができる条件

①  湿った空気が強いこと

②  山の高さと同じ位か少し上の高さに安定した空気の層があること

③  風がある程度強いこと

これらの条件が揃わないと滝雲はできませんので、ややレアな現象と言えるでしょう。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。 

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