山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座103

2017-12-10 22:24:05 | 観天望気

~上越国境の分水嶺、谷川岳で見られた雲partⅡ~

前回に続き、そんな谷川岳に登頂する空見ハイキング中に見られた雲についてご紹介します。今回は空気中におきる波と雲との関係です。

 写真1 谷川岳上空のうろこ雲(巻積雲・けんせきうん)

 

秋の雲の代表格と言えるうろこ雲。青空に魚の鱗のような雲が広がっているのを見ると、秋が来たなぁと感じるものです。さて、この雲がどうして秋の空に多く出現するかと言うと、秋になると日本上空にジェット気流が南下してくるからです。ジェット気流とは上空を吹いている強い風のことで、秋の時期には上空11~13km位の高度にあります。ジェット気流は季節の境目を吹いている風です。秋のはじめ頃は、夏の熱い空気と秋の涼しい空気が日本列島の上空で勢力争いをしています。つまり、日本列島の上空では南北で温度差が大きくなります。風は温度差によって生まれ、温度差が大きいほど強く吹くので、日本列島の上空で風が強まります。それがジェット気流です。

図1 ジェット気流の動きと季節変化

温度差が大きいところでは上昇気流が起こりやすく、そのときに雲を発生させるほどの水蒸気があると、ジェット気流が吹いている高度の高い場所で雲が発生します。それがうろこ雲の発生要因です。それではなぜ、魚の鱗状の雲になるのでしょうか?

うろこ雲が何かに似ていると思ったことはありませんか?

そう、味噌汁の表面の模様です。温めたお味噌汁を冷ますと、下の図のような模様ができます。これはお味噌汁の表面が冷たい空気に触れることで急速に冷やされていき、底の方は温かいままなので、上下で温度差が大きくなることによってできる模様です(写真2)。

写真2 お味噌汁にできる模様

水は冷たいほど重くなり、温かいほど軽くなるので本来なら、下の方に冷たいお湯(冷めたお湯)が、上の方に温かいお湯がある状態が理想的です。しかしながら、上記のお味噌汁は逆の状態になっているため、水にとってはストレスの溜まる状態になっています。さらにお味噌汁が冷えていき、上下で温度差が大きくなると、この状態に耐えられなくなり、上の冷めたお湯は下に沈もうとし、下の温かいお湯は上にあがろうとします。しかし、どちらも一斉に行動しようとすると(図2)、お互い目的を果たせませんので、お湯は譲り合います。つまり、温かいお湯が上昇する場所では冷めたお湯は下降せず、冷めたお湯が下降するところでは温かいお湯は上昇しないようにして、交互に上昇、下降をするのです(図3)。

図2 冷めたお湯と温かいお湯が譲り合わない場合

図3 冷めたお湯と温かいお湯が譲り合う場合

 

温かいお湯が上昇するところでお味噌汁の味噌が浮きあがり、冷たいお湯が過去するところではかすは沈んで、写真のようなまだら模様になるのです。

うろこ雲もこれと同じ原理で発生します。ジェット気流の付近では上下で温度差が大きくなる場合があり、狭い範囲で温度差が大きくなると、冷たい空気が下降し、温かい空気が上昇します。そして、温かい空気が上昇するところでは雲ができ、その隣の冷たい空気が下降するところでは雲が消えるため、魚の鱗のような雲ができるのです。

次回は、同じ日に見られた、波状雲(はじょううん)についてご紹介します。

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

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猪熊隆之の観天望気講座102

2017-12-07 22:02:20 | 観天望気

~上越国境の分水嶺、谷川岳で見られた雲partⅠ~

谷川岳は新潟県と群馬県の県境に位置し、日本海と太平洋の分水嶺となっている山です。

そのため、天候の変化が激しく、稜線を境界に新潟県側と群馬県側で天気が全く異なることがあり、地形による気象の違いを学ぶのに最適な山のひとつと言えるでしょう。

さて、そんな谷川岳に登頂する空見ハイキングを2017年10月に実施しました。二つの天候の変化を一日に体験できるという、観天望気日和となりましたので、ぜひ皆様も一緒に雲から分かる天気変化について学んでいただければと思います。

図1 谷川連峰周辺の地図

自分が登る山の天気を理解するには、まず、その山の地理的な位置と特徴を押さえておく必要があります。広い地図を見ると、谷川連峰は太平洋より日本海に距離的に近く、北西~北側は越後平野と面しており、南東~南側は関東平野に面しているため、それらの方角から海からの湿った空気が入りやすいことが分かります。つまり、北西~北や南~南東方向から風が吹くときに湿った空気が谷川連峰に沿って上昇し、雲が発生するのです。

さて、当日(18日)の天気図を見てみましょう。日本海北部に高気圧があり、谷川連峰はその南東側で等圧線がやや込み合っています。風は気圧が高い方を右手にみて、ほぼ等圧線に平行に吹きますから谷川連峰では北風が吹いていることになります(詳細は山岳気象大全第2章p29、山の天気リスクマネジメント)。つまり、日本海からの湿った空気が入りやすい形です。

図2 10月18日9時の地上天気図

 

また、図2は高度約1,500m付近の気温を表した予想図ですが、18日6時の時点では、北日本に中心を持つ寒気が日本海から入ってきており、谷川連峰でも3℃以下の寒気に覆われています。温かい日本海の上にこの冷たい空気が入ることで、温かい海上の空気が上昇し、雲ができます。その雲が北風に乗って谷川連峰に入ってくることが予想されます。

図2 850hPa(高度約1,500m)付近の気温予想図(18日6時)

※図1は気象庁提供、図2は「山の天気予報」 https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より

写真1 日本海からの湿った空気によって谷川連峰の新潟県側で発生する雲

上の写真は肩の小屋付近から西の方角を見たものです。左側の山は万太郎山で奥に手前から奥に連なる尾根が国境稜線です。山の右側が新潟県側になります。右手の新潟県側には日本海からの湿った空気が流れ込み、低い雲に覆われています。私たちが稜線に立った時間はお昼頃だったので、寒気は徐々に抜けつつあり、安定層(安定層については観天望気講座6

http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/813855bf4e3a098181a5fe5d673f577eをご参照ください)が谷川連峰よりも低い所にあったため、稜線は雲の上に出ています。一方、群馬県側では安定層が山の高さより少し低いため、雲が山を越えられず、晴れています。

写真2 国境稜線を越える滝雲

一方、国境稜線の中でも標高の低い所ではご覧のように雲が稜線を越えて群馬県側に流れ込んできておりますが、雲は山を越えて下降していくため、次第に蒸発して消えています。

図3 10月18日15時の地上天気図

午後になると状況が変わってきます。高気圧が東に移動していき、谷川連峰は等圧線の間隔が広い所と狭い所の境界に入っています。高気圧の勢力圏は等圧線の間隔が広い所までなので、谷川連峰は高気圧の勢力圏から圏外に入りつつあるところです。また、風向きは北風から東寄りの風に変わってきています。

一方、図4を見ると、1,500m上空の寒気は北日本へと抜けつつあります。このため、新潟県側の雲は弱まる傾向にありますが、逆に太平洋からの湿った空気が東風に乗って日光や皇海山、足尾山地の方に流れ込んできました。

図4 850hPa(高度約1,500m)付近の気温予想図(18日6時)

 

※図3は気象庁提供、図4は「山の天気予報」 https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より

写真3 谷川岳山頂からの尾瀬、日光、武尊山方面

午後は、高い雲に覆われていきましたが、これについてはpartⅡで解説します。それとは別に、上の写真の画面奥にある緑の囲みの部分に低い雲が現れています。この写真は奥の方が東から南東方向です。東寄りの風が吹くことで太平洋からの湿った空気が画面奥の奥日光~皇海山方面の山で上昇し、雲ができたものです。ただし、これらの山を越えると雲は弱まり、谷川連峰周辺ではまだ低い雲はありません。 

図5 10月18日18時の地上予想図

 

※「山の天気予報」 https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より

さらに夕方になると、谷川岳は等圧線の込んでいる部分に完全に入り、等圧線の向きから南東の風に変わっていく様子が分かります。こうなると、日光や皇海山などに邪魔されることなく、太平洋からの湿った空気が谷川連峰にも入りやすくなります。

写真4 南東側から押し寄せる暗雲

実際、武尊山など南側からガスに覆われていき、積雲などの背の低い雲が広がってきました(写真4)。

写真5 雨が降る前兆の雲

さらに上空には乳房雲に似た雲が現れてきました。雲底がデコボコしている感じで気流が乱れていることを示しています。こうなると雨は間近です。幸い、この時点で天神平は目前で雨に降られることはありませんでした。

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

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