山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座99

2017-08-28 15:34:18 | 観天望気

7月5日~6日にかけて、車山高原~霧ヶ峰で行われた静岡県自然ガイド協会の気象講習会が行われましたが、7月5日に車山高原でやや珍しい光学現象が現れたのでご紹介します。

まずは、比較的良く現れる現象、日暈(ひがさ、にちうん、英名ハロ)です。

写真1 車山高原スキー場で見られた日暈(ハロ)

空に浮かんでいる薄い雲は氷の粒でできています。この氷の粒に太陽光が屈折する(折れ曲がる)ことによってできます。光は色によって折れ曲がる角度が違うことにより、色が七色に分かれて見えるのです。

詳細は、観天望気講座93をご参照ください。http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/3f8e6696c91739f680fe1f447cf2236a

続きまして、こちらは比較的珍しい現象、環水平アークです。

写真2 車山高原スキー場で見られたハロ(上)と環水平アーク(下)

先ほどのハロの下に、薄い虹色の大きな弧が見られます。これが環水平アークです。

空にある薄い雲は氷の粒(氷晶)でできていますが、環水平アークができるのは、

1.この氷晶が薄くて水平に浮かんでいる

2.太陽光が薄い氷晶の天面(上の面)から横面(横の面)に抜けて2回屈折する

上記の条件がそろったときにできます。ハロと同じように太陽光が氷晶に屈折し、プリズムの原理で色が分かれることによって虹色に見えます。ハロと違うのは氷晶が水平にそろっていないといけないことや、薄い氷晶でないとできない点です。その分、現れる頻度は現象します。

光学現象が見られたらまた、皆様にお知らせしますのでお楽しみに!

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

 

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猪熊隆之の観天望気講座98

2017-08-23 19:51:02 | 観天望気

今回は、7月5日~6日にかけておこなった静岡県自然ガイド協会での山岳気象講習で見られた雲についてです。

夏山で遭遇したくないもののひとつ、落雷や局地豪雨をもたらす雲は、積乱雲(せきらんうん)と呼ばれる、発達した入道雲です。雲の中には「やる気のない雲」と「やる気のある雲」の2種類あることはこれまでにも説明してきました。入道雲は後者になります。

しかしながら、雲がやる気を出すためには、まず雲そのものができなければなりません。雲を発生させる要因は

1. 水蒸気が十分にあること

2. 上昇気流

ということになります。

1.の水蒸気が十分にあるかどうかは、体で感じることができます。じめっとした感じがするときは水蒸気が空気中に沢山あるときです。日本の夏は蒸し暑いですので、夏場においてはカラっとした日を除いては常に水蒸気が十分にあると思ってください。特に、海上の空気は水蒸気が多いので、海側から風が吹いてくるときは、水蒸気をたっぷり含んだ空気が入ってきています。 

2.の上昇気流が起きるところは

a)低気圧、台風の中心付近とその周辺

b)前線とその周辺

c)山の斜面

d)日射で温められた所

e)風と風がぶつかり合うところ

で発生します。a)からc)は天気図上で上昇気流が発生する場所を予想できますが、d)日射で温められた所 と e)風と風がぶつかり合うところ は地形的な要因で発生することが多く、地図などから発生しやすい場所をある程度、特定することができます。雷多発地帯、と呼ばれる場所は大抵、このd)とe)が起こりやすい場所です。

さて、今回の講習中、e)によって発生した積乱雲を見ることができました。そこで、e)によってどうして上昇気流が発生するのかを見ていきましょう。

Ⅰ.風と風がぶつかり合って発生する上昇気流

図1.風と風がぶつかり合って上昇気流が発生する仕組み(山岳気象大全より)

上の図は、地上付近で二つの異なる方向から風が吹いている様子を表しています。両側から風が吹いてくると、空気は衝突を避けて上昇していきます。ここで上昇気流が生まれるのです。

Ⅱ.風と風がぶつかり合う場所

それでは、どのような場所で風と風がぶつかり合うのでしょうか?実は、ぶつかり合いやすい場所というのは決まっています。

図2.山谷風の仕組み(山岳気象大全「山と渓谷社」より)

夏季においては谷風(たにかぜ)同士がぶつかり合うことで上昇気流が起きることが多くなります。谷風とは、山間部で日中吹く、山麓から山頂へ向かう風のことです。この風は地面と同じ高さの空気との温まりやすさの違いにより生じます。日中は地面が太陽の熱を吸収し、それに接している空気を温めます。そのため、地面のすぐ近くにある空気は、地面から離れた場所にある、同じ高さの空気より温度が上昇します。空気は温まると軽くなるため上昇していくため、地面付近の空気が上昇していき、山麓から山頂に向かって風が吹きます。これを谷風と呼び、特に風の通り道となる沢や谷では強まります。谷風は地面が温められる日中、次第に吹き始め、午後になると強まっていきます。この谷風同士がぶつかり合う所で上昇気流が起き、雲が発生するのです。

それでは谷風と谷風がぶつかり合う場所はどのような場所でしょうか?

もっともぶつかり合いやすい場所は、2つの川の分水嶺です。特にそれぞれの川がほぼ直線で結ばれるような形のとき、風はぶつかり合いやすくなります。これは地図を見ることである程度想定することができます。

図5 諏訪盆地付近の谷風の吹き方

図は長野県諏訪湖周辺の地図ですが、松本盆地などで温まった空気が谷風によって山の方へ吹き寄せられていきます。一方、諏訪湖は湖なので周囲より空気は冷やされます。そこから吹き出す空気と、谷風によって北西から吹きあがる空気がぶつかる塩嶺峠付近は雲が発達しやすく、雷多発地帯となっています。

 また、茅野市付近も諏訪方面からの風と小淵沢方面からの風がぶつかり合う場所です。下の写真は、車山から見た塩嶺峠で発生した積乱雲です。諏訪湖方面と松本盆地からの風がぶつかり合って雲が発生している様子が分かります。

 写真2 塩嶺峠で発生した積乱雲

このように、地形から谷風同士がぶつかり合う場所では、午後からの積乱雲の発達に注意が必要です。

また、積乱雲は上空の風によって流されていくので、上空の風が西風の場合、雲は東に流されていきます。東側のエリアにある山で落雷や局地豪雨に注意が必要になります。上空の風はヤマテンの専門・高層天気図の500hPaや700hPaの気温予想図にある矢羽を参照して予測すると良いでしょう。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

 

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