山の天気予報

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観天望気講座 番外編partⅡ

2020-11-04 18:51:52 | 観天望気

~那須連峰空見ハイキングpartⅡ~

partⅡでは、翌11日、2日目に見られた雲と当日の気象状況についてお伝えします。

ツアー出発前の判断(予想天気図などから)では、11日は台風や前線の影響は弱まるものの、東面から上部にかかる雲は取れにくく、弱い雨が降る時間もあるかも、と予想していました。

このように予想した根拠は、2つあります。

図1 11日9時の地上予想図(気象庁ホームページより・9日予想時のもの)

天気図:気象庁出典、一部渡部加工

地上天気図を見ると、那須連峰は台風の北西側にあたるため、東〜東北東の風が吹きそうです。

さて、「山では海側から風が吹くとき、その風上側で天気が崩れやすい」という原則があります(こちらの観天望気講座もご参照ください)。

今回の場合、風上側には阿武隈高地などもありますが、いずれも那須連峰より標高はかなり低く、太平洋側からの湿った空気が那須連峰に入り込んできそうです。さらに、前日ほどではないにせよ、等圧線の間隔はやや狭いため、東側に開けたところでは風がやや強まる恐れがあります。

図2 11日9時の850hPa(上空約1,500m)気温・風予想図(9日予想時のもの)

出典:山の天気予報、一部渡部加工

さらに、850hPa気温・風予想図(図2)を見ると、東北〜関東にかけて、等温線がぐっと南に曲がっている=寒気が入り込んでいることがわかります。温かい太平洋の上に冷たい空気が入ることで、海上でうね雲が発生します。その雲が北東風に乗って那須連峰にぶつかり、斜面を上昇して濃密な雲を発生させるのです。

一方、前夜の宿泊地である三斗小屋温泉はちょうど那須連峰の西面=風下側に当たりますので、下降気流場となり雲が蒸発、山麓では青空が広がる時間もあると見ていました(図3)。

図3 山の風上側、風下側で天気が異なるとき

さて、この予想は当たったのでしょうか?

写真1 三斗小屋上空の空

朝起きると、上空に青空が見えます。

青空がのぞいたのは一時的で、日中は雲が広がったり霧雨のような雨が降ったりと変わりやすい天気でした。

また、東側(那須連峰の稜線がある方角)を見ると、暗い感じの雲に覆われています。この雲が下降しながら弱まっていき、晴れ間が出たり、湿った空気が強いときは雲がかかったりと繰り返しているようでした。

さて、熊見曽根へ向かう尾根道を登っていくと、だんだん雲の中へ。そして、上部では風が吹く音も聴こえ始めます。一旦装備を整えて、稜線へたどり着くと真っ白な世界が広がっています。

写真2 稜線上は霧に覆われる

弱い雨も降ったり止んだり。風は東寄りで6〜7m/sぐらいと、行動に大きな支障はなさそう。また、時折太陽がぼんやりと雲の向こうに見えます。

写真3 霧の中から太陽がおぼろげに現れる

さて、ガスに覆われているときも良いガス、悪いガスとがあります(こちらの観天望気講座もご参照ください)。

・良いガス・・・上を見上げると、明るさがある。太陽が透けて見えることも。

・悪いガス・・・上を見ても明るさがない

今回は良いガスの特徴が見られますね。ただし、太陽が透けて見えるのは時折程度で、なかなかガスは取れそうにありません。時折小雨も降ります。事前に予想した通り、海側から風が吹き付け、山の斜面(那須連峰の東面)を上昇、雲が発生・発達しているものと思われます。となると、風向きが変わるか、風が弱まればこのガスは取れそうなのですが、残念ながら今日はまだまだ風向きは変わりそうにない、という予想。

いずれにしても、大きなリスクはなさそうですので、そのまま稜線歩きを続けます。

そしてお昼頃には、那須連峰の最高峰・三本槍岳へ到着!

ここでちょっと面白い光景が見られました。

画像が小さく恐縮ですが、山頂で撮影したパノラマ写真を御覧ください。

写真4 三本槍岳の山頂からのパノラマ写真

写真の左側(東側)の方はガスガス、一方、右側(西側)は青空が見えていますね。

写真の左側=海側から湿った空気が吹き付ける風上側、右側=下降流場になり、雲が蒸発して消えていく場となっているため、このような光景となっていたようです。

その後は中の大倉尾根を下り、紅葉を楽しみつつの下山となりました。

バスで少し下ると、山間部にかかっていた雲の正体がわかりました。

写真5 下山後に見た雲

これはうね雲(層積雲)と呼ばれる雲で、予想時に想定した通りの雲が出ていたことになります。

2日間、あまり天気は良くありませんでしたが、進退判断を学んだり、地上天気図などから山の天気の原則を学ぶにはもってこいの天気でした。一緒に歩いた皆様も素敵な方ばかりで、私自身、とても楽しい山歩きになりました。

文、写真:渡部均(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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観天望気講座 番外編partⅠ

2020-11-04 18:50:59 | 観天望気

~那須連峰空見ハイキングpartⅠ~

普段は猪熊が担当している観天望気講座ですが、今回は番外編ということで渡部が担当します。

今回は、10月10日〜11日にかけて那須連峰での空見ハイキングで見られた雲や天候判断について解説します。

題して「渡部均の観天望気講座」!!(そのまんまです!!)

まず、10日は現地へ向かうバスの中から雨、あめ、アメでした。そして現地に到着してもやはり、本降りの雨。お客様の顔も心なしか浮かないような...。この雨をもたらしているのは、日本の南海上にある台風や秋雨前線(図1)です。

図1 10月10日9時の地上天気図(気象庁ホームページより)

天気図:気象庁出典

この日はロープウェーを使わず、峰の茶屋駐車場から稜線上にある峰の茶屋跡まで登り、そこから茶臼岳へ往復。その後は三斗小屋温泉へ向かう行程でした。予想では、峰の茶屋付近から風がやや強まる(山頂付近では強まる可能性もあるかも?)と見ていました。

風が強まるかもしれないと予想した理由は、地上天気図の等圧線の間隔が狭いことによります。図1をご覧いただきますと、那須連峰周辺の等圧線の間隔が狭くなっていますよね?

さて、強風(平均風速10~15m/s以上)の目安となるのは「東京-名古屋間よりも等圧線の間隔が狭いとき」です。

今回の場合はどうでしょう。

図2 図1を拡大した図

天気図:気象庁出典のものを一部、渡部加工

東京-名古屋間と同じくらいで、強風となる可能性が考えられます。

また、台風の周辺では等圧線にほぼ平行に、反時計回りに風が吹きます。このことから、風向は東〜南東風と予想しました。

さて、地形図などで確認すると、茶臼岳は北東から南西に尾根が延びているため、この方向に直行する北西風と南東風がもっとも風が強まります。これは摩擦の影響がもっとも小さくなるためです。また、北西側や南東側に高い山がないことも原因です。特に、稜線上の凹んだ部分は風が集まってくるため、強風になりやすく、峰の茶屋跡や牛ヶ首、清水平などは強風帯として知られています。一方、峰の茶屋から三斗小屋温泉方面へ下ってしまえば、尾根の風下側となることや、樹林帯に入ることもあり、風の影響は小さくなります。そこで、「峰の茶屋跡での風の強さによっては茶臼岳への往復は断念する」ということを登山ガイドさんと確認しました。

さて、いよいよ登山スタート。登山口では周囲の状況を確認。雨は降っているものの、風の音は特に聞こえず、周辺の木々もザワザワしている様子はありません。ちょっと歩くとすぐに森林限界を越えますが、特に風が強そうな感じはしません。予想通り、東の方から風が吹いてきています。峰の茶屋跡まで登ると7~8m/sの風が吹いており、上部ではさらに強まることが予想されました。

予想した通りであれば山頂付近では10m/s以上の風が吹き、雨もまだまだ続く状況。このような状況下で長時間歩くことは、体温の低下(=低体温症のリスクにつながる)にも十分注意しなければなりません。ひとまず避難小屋に入り、ここで周辺の状況やお客様の様子などを見て、風は先ほどより強まっていないことから、ギリギリ登頂可能な範囲と予想して茶臼岳に登ることとしました。

念のために、避難小屋で雨具の下にフリースなどを各自着込み、お客様の服装チェックをして出発。茶臼岳の山頂付近はやはり風がやや強く、風速計では10~11m/sを記録しました。

皆さん、雨風の中、大変おつかれさまでした!

(※なお、当日の天気図を見てみると、予想時よりは等圧線の間隔がやや広くなっていました。このため強風とまではならなかったようです)

さて今回、茶臼岳へ登頂できそうと判断した理由は、下記の点にありました。

・峰の茶屋跡で強風にあおられるような風(12~13m/s以上)であれば厳しいが、そこまでではなかった

・お客様は全員、ここまでの足取りはしっかりしていて、特に体力を消耗している様子や、寒さで震えているといった様子がなかった

・低体温症を防ぐためにはエネルギー補給も重要(体温を上げる効果がある)で、行動食を元気に食べるだけの力も残っている

・峰の茶屋跡から山頂まで往復で1時間未満と、比較的短い行程であること。

・アタック前に避難小屋で雨風を避けて休憩を取れて、しっかり準備を整えられる余裕があったこと。

このように、気象遭難を防ぐためには事前の予想だけでなく、現場での判断も重要です。実際にどの程度風が強いのか、雨や雪の様子はどうか、自分だけでなく同行者も含め体調は…等を慎重に見極め、最終的に進退の判断をする必要があるのです。

今回、生憎の天気ではありましたが、どういう場所で、どのように進退判断を考えるべきか、という意味では絶好の機会でもありました。参加者にとっても、そして私自身にとっても非常に良い勉強となる1日だったと思います。

すっかりヌレネズミとなった我々ですが、三斗小屋温泉で体の芯まで温まることができました。極楽極楽!

天気は生憎でしたが、紅葉はきれいでしたよ!

文、写真:渡部均(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

 

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