2014年11月1日(土) 小雨
酉谷避難小屋→酉谷山→小黒→大血川分岐→檜岳→シラカケ岩→蝉笹→宗屋敷尾根→芦川→武州日野駅
眠れたのか眠れなかったのか昨夜は相当長い間意識があったように思う。慣れぬ環境でのことだからしょうがないとしても、寝不足という感じではなかった。テントならこのようなことはないのだが、やはり他人様を横にすると無意識に気を使ってしまうのだろう。頭がもうろうとするぐらい飲めば良かったのかもしれないが、日本酒一合ではまだ足りないということなのか、これが適量なのか、気分はそう悪くない。天気はどうだろうかと小屋の窓を開ければ雨は止みそうな気配だが、昨日と変わらないタワ尾根の風景が見える。夜更かしをすることもなく、暗くなって寝て、明るくなって起きたのだからだいたい10時間前後は横になっていたかたちだ。今朝のメニューはまずみそ汁を立て続けに2杯飲んだ。喉が渇いていたのだろう。次はカレーライスで朝飯にした。生憎の空模様だが、予定通り酉谷山から熊倉山への尾根を歩き、宗屋敷尾根で下山する。一時はそそくさとタワ尾根を下って帰宅しようかと悩んだが、天気が回復することを願って計画した尾根を歩くことに決めた。小屋は避難小屋の常連さん達が大丈夫だからということで、掃除もせずに出立したしだいである。昨晩は大変ご馳走にもなった上に後片付けまでお願いしてしまうという後ろ髪を引かれる思いだった。
<今朝のタワ尾根>
<酉谷避難小屋>
一杯水からやって来たという単独の方とほぼ同時に避難小屋を後にした。その方は雲取を経由して二泊目は鷹ノ巣小屋を予定しているというから、酉谷山の巻き道から雲取方向へ向かった。
<酉谷山>
酉谷山の山頂へ到着して数分立ち止まる。そして、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。さて、これからいよいよ今回の核心部へ突入だ。空模様が思わしくないが、視界はそれほど悪くない。遠望はできないものの、数m先の踏み跡は判別可能な視界だ。イメージとして、まずは小黒の山頂の標識を確認し、次に熊倉山方向への矢印を確認する。それを確認したら直進せずに西の方向へ急斜面を降るという感覚だ。
<山頂直下にて>
<薄っすらと熊倉山への尾根>
酉谷山の山頂を下りはじめて間もなく踏み跡が不明瞭になる。というか、踏み跡を見失ったような感じだった。大量の落葉も一因しているが、道筋のような疑わしい跡が四方八方に見られた。山感を働かせて下ったが本来進むべき方向とはだいぶ外れた西側を下っていることに気付き、直ぐに軌道修正をする。出だしからこれでは先が思いやられると感じたが、鞍部へ降り立てば明瞭な踏み跡が残されていたので安堵した。これで、第一関門は突破したと直感する。
<小黒>
低い石楠花の小枝が覆いかぶさるような急斜面をかがみ込みながら登り上げると、小高いピークに到達した。そして、辺りを見回せばそこが小黒であった。山名板は小ぶりの板に今にも消えそうな頼りない極細の文字で小黒と書かれていた。その数m先には熊倉山の表示板に左矢印が黒く記入され、西側へ降りろという案内が記されている。この二つを確認すれば一応下山方向は確認できたことになった。
<遭難多発の吸い込まれるように迷い込んでしまう魔の尾根>
最近の埼玉県警山岳救助隊ニュースによれば、7月14 日 酉谷山 単独 32 歳男性 日帰り縦走登山中、酉谷山から熊倉山の間で道迷いとなってる。その山岳救助隊のニュースの中で酉谷山に関する気になる記事が掲載されていた。それによれば、『埼玉、東京の都県境にある酉谷山(標高1718m)では、平成25年中は1件、平成26年中は9月30日現在で3件の山岳遭難が発生していて、過去には死亡事故も発生している山域です。発生件数を見ただけでは、それほど多くの事故が発生している場所ではないように感じられますが、酉谷山での遭難には特徴があり、酉谷山で遭難する場所は“いつも決まって同じ場所”ということ、また、すぐに道迷いに気が付き、元に戻れるほどのちょっとした道迷いではなく“完全に行動不能となる道迷い”ばかりで、言わば重大な事故に繋がる道迷い遭難の発生が多いという特徴があります。では何故、酉谷山では同様の道迷い遭難が発生するのか、それは酉谷山の北方にある『小黒』というピークに原因があると考えられます。熊倉山から酉谷山方向へと向かう場合、道は稜線歩きであり、大血川渓谷との分岐、小黒を通過して酉谷山の山頂に到着します。問題は下山時にあります。酉谷山から熊倉山方向へと下山を始め、再び小黒を通過しますが、小黒のピークから尾根は北と西に向かって派生しているのです。登ってくるときには、北へ伸びる尾根には気が付きにくいのですが、下山時にはその尾根幅が広いため、そちらが正規の登山道だと勘違いしてしまい尾根を谷に向かって下ってしまうのが遭難の原因のようです。小黒のピークから西に向かって伸びる尾根が正規の登山道ですが、これを見逃してしまうと、蟻地獄のように北へ伸びる尾根へと吸い込まれてしまいます。小黒から北へ伸びる尾根は、最初は快調に下ることができるかもしれませんが、最終的には川浦渓谷にあるワサビ沢の上流部へと出て、崖や岩場など急斜面の連続となり行動不能に陥ります。唯一の救いは、ワサビ沢の上流部は不安定ながらも携帯電話の電波が届く電話会社もありますが、山で携帯電話を過信してはなりません。下ってきた斜面を上へ戻ることもできず、救助要請する手段もなければ一貫の終わりです。事前に地図とコンパスを確認することで、「道迷いしているかもしれない…」という異変に気付くこともあります。「迷ったら戻る」が山で行動するときの基本です。基本に忠実に、慎重に行動しましょう。』という大変参考になる内容を目にした。今回もこの内容を読んで気にしていた小黒だったが、冷静に判断すれば大事には至らないという感じがした。しかし、方向を確認する為のコンパスと地図は最低限必須だ。それに、視界不良での縦走は危険極まりない行動だと言えるだろう。
<こちらが正解の大血川、熊倉山方向へ下る左の急斜面>
<ここにも夜話会が(高わらび尾根の城山にも夜話会という名前が入った山名板を目にしたことがあるが)>
<小黒を過ぎれば緩やかになり>
<大血川への分岐>
ネット情報で良く確認するこの標識は大血川と熊倉山の分岐だ。右の矢印の方向へ行けば熊倉山であり、左へ降りれば大血川となる。あとは熊倉山へ向かって歩くだけなので少々気が楽になる。多少のアップダウンはあるもののそう高低差のある場所はないだろうと高をくくっていた。ところがどっこい、檜岳への登り返しでは疲れもあった為か、四苦八苦してしまうほどスピードが上がらなかった。思っているほど足が上がらず、考えているほど先に進まない。
<宗屋敷尾根が見え始める>
<武甲山>
<シラカケ岩から酉谷山、小黒、檜岳>
<同展望>
<同展望の両神山方向>
<同展望>
<蝉笹>
シラカケ岩でゆっくり休憩する予定でいたが、更に雲行きが怪しくなり、冷たい風を避ける為、蝉笹でひと休みする。そして、ここから宗屋敷尾根を下ることになるが、その前に小腹を満たし、用足しもした。勿論、穴は掘って、紙は持ち帰りだ。済んだ後は何もなかったように大量の落葉で埋め尽くす。そうすれば自然に帰るのも早い。いままで我慢していたが、これでスッキリして尾根を下ることができそうだ。空は黒い雲が西から近づいていた。これから植林帯へ入るので多少は雨宿りが出来るというものだが、早目に下ることに越したことはない。そして、大岩までは転げ落ちるように下った。
<大岩>
ここは右から巻いたが、途中で赤テープを見失い、右往左往してしまった。下り過ぎてもいけないと思い込み、高巻に巻いたが、身動き出来ないような場所へ出てしまう一歩手前だった。登りと下りでは景観も違うが、記憶も薄れていたようだ。巻ながら上がったり下がったり、進んだり戻ったりと緊張させられた。
<巻いてきた大岩を振り返り>
<熊倉山>
<どこまでも続く長い尾根>
<視界が悪くなる>
ある程度の標高から雲海も眺められたが、尾根を下り続けるとその雲の中へ突入した様子だった。辺りは視界も悪くなり、尾根を見通せなくなるほどガスに包まれた。どこまで下るのだろう。どこまで下れば良いのだろう。そう思いながら下り続ける。すると見覚えのある鹿除けネットが出てきた。これで、後しばらく下れば林道だと目算する。ホワイトアウトほどでもないが、周りが真っ白で薄暗い山中では自分を見失うような感覚に襲われる時がある。そんな境地に陥った場合は大声を出して、自分を取り戻すようにしている。そんなバカげたことをしながら、気を紛らわせながら、長い事下った。酉谷避難小屋から誰一人として出会うことなく林道が交差する尾根の末端まで歩く。そこから数十m戻る様にして林道へ降り立った。駅まではくねくねと曲がった車道もショートカットして蕎麦屋のところへ出て、武州日野駅へ着く一歩手前で雨が降り出す。帰りの電車の中では暖房が程よい暖かさで、気持ち的にも落ち着かせてくれた。低山ながらも秩父の秋山を十分に肌で感じた贅沢極まりない秋深き縦走。そして酉谷避難小屋で出会った方々や無事に下山出来たことに感謝した。
中途半端な山でウロウロしているのは私も同じです。この季節、この時季に、あの山、あの場所、あの風景を見たかったといつも後悔しながら思っています。でも、天候もあり、都合もあり、思う様になかなか行けないところに、飽きもせず山へ通う理由があるのかもしれませんね。山あり谷ありでしょうか、冬の便りが届く今日この頃ですが…。
誰でも知っている山、誰でも行く山の傍らに、本当の山好きにしか分からない素敵な山があることを教えられる思いです。
私もそのような山歩きに徹したい気持ちがありながら、中途半端なところでウロウロしている始末です。
HIDEJIさんが小黒経由で酉谷山へ行った記事は覚えています。確か、下山時に避難小屋に宿泊された方とお話しをされている内容だったかと思います。小黒は事前情報がなければ山岳救助隊のお話しのように吸い込まれてしまいそうな尾根ですね。酉谷山からの下りで早々と迷ってしまいましたが、やはり最初は登りで経験が必要でした。それが、鉄則ですね、この世界…。
なるほど酉谷山の避難小屋を利用すると、矢岳北尾根から小黒経由の宗屋敷尾根なんて、魅惑的な周回が可能なんですね。
写真から霧が漂う人を惑わすような幽玄さは、ここならでといった雰囲気を感じます。小黒を歩いたのは2年前ですがよく覚えてます。小黒からの帰路、意識はしつつも北の尾根に少し引っ張られそうになりました。間違えた先の状況は他の方の記事で、何となく想像できますが、"完全に行動不能となる道迷い"でしたか。時間な余裕がなかったりで冷静な判断力が低下すると、危ないですね。
それと記事を拝見してて、矢岳北尾根での道迷いや宗屋敷尾根の下りの大岩で、にっちもさっちもいかず、お助けロープで下ったことなど、いろいろ思い出しました(^_^;)
タワ尾根へ行ったんですね。あすこは自然林が多く、とても綺麗な紅葉だと伺っています。でも、それどころではなかったようですね。遺書書いちゃうなんて、よほど怖い目にお遭いになったのでしょう。遭難は道迷いが多いようですが、無事に下山出来て何よりです。運が良かったとしか思えません。この経験がこれからの登山に活かせればいいですね。ほんとうに無事下山出来て良かったです。
幻想的な素敵な山行でしたね。
山岳救助隊のお話もすごいですね…。
私は昨日、念願のタワ尾根初挑戦♪諦めていたのに急に予報が好転したので飛び出したものの、予習不足で怖い思いをしました。
一石山神社からの登り、先行者について行ってしまった所、これはバリエーションルート?登りだから何とか通れたけど下りは小川谷林道、、、は通行止め!
絶叫ルートを下るしかない、と思わず遺書書いちゃいました。
意を決して下山を開始すると、あれれ?普通の道があるじゃないですかーっ?
拍子抜けして無事下山。行きには入れなかったお賽銭を入れて山の神様に感謝致しました。
反省 (^^;