武弘・Takehiroの部屋

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文化大革命(4)

2024年05月18日 03時19分36秒 | 戯曲・『文化大革命』

第五場(4月。 北京・中南海にある劉少奇の家。劉少奇、王光美、登小平、彭真、陸定一、楊尚昆)

劉少奇 「私がアジア各国を訪問している間に、情勢は極めて緊迫してきたようだな。 羅瑞卿同志が杭州で林彪に逮捕され、総参謀長を解任されたと聞くし、北京の様子も日毎に険悪になってきた。

 『人民日報』までが『解放軍報』の二番せんじをするようになっては、事は重大だ。なんとか、打つ手はないものだろうか」

登小平 「この夏には、第十一中全会を開く予定ですので、その時までには、こちらの態勢を整えておかなければなりません。 こちらが、中央委員会の多数を制しておれば、十一中全会で、毛沢東と林彪を党から追放しないまでも、彼等の権限や地位を、はく奪してやる手立てはいくらでもあります」

陸定一 「しかし、夏までじっとしているわけにはいかない。 私などは、党中央宣伝部長の地位を、すでに事実上、上海の張春橋に奪われてしまった」

彭真 「私も『文化革命五人小組』の中に、呉含の歴史劇批判論争を、学術問題として封じ込めようとしたのに、林彪は『解放軍報』の中でこれを取り上げ、さらに、社会主義文化大革命を推進しようなどと呼びかけている。

 呉含批判論争はもう、私の手の届かない政治問題にまで発展してしまった。私なども、いつ北京市長をクビになるかもしれないような、事態になってしまった。 聞くところによると、林彪がすでに、大部隊を北京の方へ動かしたとのことだが・・・」

楊尚昆 「どうも、そうらしい。 われわれも、こちらの息のかかった解放軍を、北京に移動させなくてはならんのではないか」

劉少奇 「いや、そんなことをしたら、混乱をかえって大きくするようなものだ。 もっと合法的な手段で、局面を打開することはできないものだろうか」

楊尚昆 「もう、合法的手段なんて言ってられませんよ。そんなことを言っている段階ではないんです。 やつらは、社会主義文化大革命とか言って、本気で革命を考えているのです。 しかも、党内での権力闘争ばかりでなく、もっと人民大衆を巻き込んだ暴力革命を考えているようです。

 連中は、党内では少数派であることを知っているから、人民大衆や学生、解放軍の圧力を使って、外からわれわれを締め上げようとしています。 そうした動きが、北京大学や清華大学で、すでに現われてきているようです」

陸定一 「楊尚昆同志が言われるとおり、そうした不穏な動きが出てきていますね。 だから、こちらもそれに対抗して、何か手を打たなくてはなりません。 たとえば、新たな工作組を、全国の工場や学校、その他の組織に送り込むといったような・・・」

王光美 「それは良い考えですわ。 皆さんのお話しを聞いていたら、本当に恐ろしくなってきました。真綿でじわじわと首を絞められてくるようで、もうじっとしていられません。 北京の幾つかの学校で、毛一派のグループ、組織が秘密のうちに作られているようなら、こちらも新たに工作組を作り、学校に送り込みましょう。

 早ければ早いほどいいですわ。大衆闘争の面でも、毛一派に負けない態勢を早く打ち立てるべきです。 まず真っ先に、私が工作組を作って清華大学に乗り込み、青年学生を再組織してみせましょう」

彭真 「それはいい。王光美同志には、そうしてもらおう。 楊尚昆同志と私は、毛沢東の過去の罪悪や過ちを、もう一度徹底的に洗い出し、西南地方や西北地方の中央委員のオルグに、全力を尽くすことにしよう。

 また、やつらがわれわれのことを、修正主義だと非難するようなら、こちらもやつらのことを、教条主義だと批判するキャンペーンを強めていきましょう」

劉少奇 「うむ。いよいよ、毛一派と全面対決する時が来たようだ。 登総書記が言うとおり、こちらが中央委員会の多数を制しておれば、いつでも勝つことができる。現実には、われわれの方が、必ず多数を制することができるという自信はある。

 しかし、相手は今後、死に物狂いで何をしてくるか分からない。 しかも、毛沢東の権威は党内で落ちてきたとはいえ、八億人民の中では、依然として根強いものがある。油断はできない」

楊尚昆 「油断できないどころか、先程も私が言ったように、向うは本気で戦争を仕掛けてこようとしているんですよ。これは、生きるか死ぬかの戦いだ。 もし、こちらが負けるようなことがあれば、われわれは党から抹殺されるかもしれない。勝利か、しからずんば死かという覚悟で戦わなければ駄目です!」

劉少奇 「うむ、分かった。今までのわれわれの対応に、甘さがあったかもしれない。 これからは、工作組の派遣を始めとして徹底的に戦っていこう。毛沢東がわれわれを抹殺しようというなら、こちらだって、最後は毛一派を根こそぎ粉砕し、壊滅させてやるだけだ!」

楊尚昆 「その決意を聞いて、安心しました。頼もしい限りです」

彭真 「よしっ、やろうじゃないか。あの“もうろく爺い”に負けてたまるか!」

陸定一 「われわれが結束して当たれば、必ず勝つぞ!」

王光美 「今度こそ、あの江青なんかにいい顔はしませんよ」

 

第六場(5月上旬。上海市党委員会の一室。 毛沢東と江青)

毛沢東 「全ては順調に動き出してきた。頓馬な羅瑞卿は、林彪が逮捕して総参謀長をクビにしてやったし、『解放軍報』は文化大革命を声高らかに呼びかけ、『人民日報』もそれに倣うようになってきた。 陸定一らが立てこもっていた中央宣伝部の“閻魔殿”も、張春橋らの力を借りてぶち壊してやった。

 次の目標は、彭真の豚野郎を北京市長から解任してやることだが、これも近い内に片をつけてやれるだろう。 それに、江青。わしは、腐り切った党中央や北京を粛清してやるために、地方から“赤い孫悟空”を動員しようとおもっている」

江青 「赤い孫悟空ですって?」

毛沢東 「そうだ。如意棒を振り回して、修正主義の妖怪変化どもを叩きのめしてやる赤い孫悟空だ。 毛沢東思想によって百パーセント武装された、若くて元気の良い孫悟空だ」

江青 「すると、青年や学生を動員するのですか」

毛沢東 「そのとおり。 純粋で汚れを知らない、革命精神によって貫かれた青年達を地方から集め、北京を攻撃するのだ。 いや、すでに北京の中にも、赤い孫悟空が生まれる手は打ってある。そして、時期を見て、彼らを腐り切った修正主義の化け物どもにけしかけるのだ」

江青 「まあ、素晴らしい。それはまったく、あなたらしい革命的なやり方ですわね」

毛沢東 「わしは、彼ら赤い孫悟空達を、“紅衛兵”と名付けようと思っている」

江青 「“紅衛兵”ですって? 文化大革命をやり抜くためには、これ以上に頼もしい同志はいないように思いますわ」

毛沢東 「しかも、わしは、彭真が組長をしている文化革命小組を近い内に解散してやり、代りに、文化大革命を推進する中央文化革命小組を作ろうと思っている。 この中央文革小組が紅衛兵達を指導し、修正主義者どもに鉄槌を下してやるのだ」

江青 「なるほど、そうなれば、彭真や陸定一もおのずから失脚し、まったく新しい組織に衣(ころも)替えするわけですね」

毛沢東 「そして、中央文革小組の組長には陳伯逹を当て、康生をその顧問に据えるのだ。あの二人は腹心中の腹心だから、きっと上手くやってくれるだろう。 それに、江青。お前も、中央文革小組の第一副組長をやるのだ」

江青 「えっ、この私もですか」

毛沢東 「そうだ。 お前は人民解放軍の中でも、林彪によく協力して熱心に文芸工作をやっている。お前の日頃の努力、活動にはわしも感服している。 林彪も、お前のことを高く評価しているぞ。 お前だったら、陳伯逹をよく助けて、中央文革小組の仕事を立派に推し進めていくことができるはずだ」

江青 「まあ、嬉しいです。光栄です。 私はいま初めて、あなたから信頼を受けたような気持がします。延安の洞窟であなたの妻になれてから、もう四半世紀がたちましたが、その間、私はいつも、あなたの陰に隠れるようにして毎日を送ってきました。

『江青は、賀子珍夫人に嫌気がさした毛主席を、媚態の限りを尽くしてたらし込んだ』などと、あらぬ陰口をたたかれながら、私は長い間、じっと耐えてきました。 私はいつも、日陰者としての悲哀を味わってきました。

 あなたが国家主席であった時も、今の王光美のように、私は表舞台に立つこともできず、ただ毛主席の夫人ということで、あなたの身の回りを見るだけでした。 私は別に、それに苦情を言ったりはしませんでしたが、なにか皆から、毛主席の夫人であるとは、本当に認知されていないような寂しい気持を味わってきたのです。

 でも数年前から、あなたが私に、演劇や文芸方面の仕事を言い付けてくれるようになってから、私はようやく、一人前の主席夫人になれたような感じがしました。 そして今、あなたから中央文革小組の仕事を言い付けられ、私は晴れて、公けの場に誇りを持って登場することができるようになったのです。

 もう私は、元女優の江青でもなく、また日陰者の主席夫人でもなく、れっきとした中央文革小組の第一副組長として、中国共産党の輝かしい仕事を担当する女として、表舞台に登場することができるのです」(江青、ハンカチを取り出して嬉し涙を拭う)

毛沢東 「そうだ。 お前はわしの妻というだけでなく、文化大革命という偉大な事業を推進する、党の重要な人物の一人になったのだ」

江青 「嬉しいのです、私は。 あなたのために、公けの場で思い切り活動できるなんて、こんなに嬉しいことはありません」(江青、毛沢東ににじり寄ってその手を握る)

毛沢東 「いいか、江青。 文化大革命というのは勿論、わしのためにやるものではない。この中国に、真の社会主義社会を建設するために、革命精神を失って堕落した劉少奇一派を打倒し、彼らから権力を奪い取る戦いなのだ。わしは、これを“奪権闘争”と呼ぶぞ。

 わしがいつも言っているように、ゴミは掃かなければ無くならないし、階級の敵は戦わなければ倒れないのだ。 江青、お前は毛沢東の妻というだけでなく、真の革命左派の一員として、この偉大な文化大革命の先頭に立って戦ってくれよ、いいか」

江青 「勿論ですとも。 私は文化大革命のために、また毛沢東思想のために、そして、あなたのために戦っていきます」

毛沢東 「ああ、わしには、若くて力にあふれた紅衛兵の姿が目に浮かぶようだ。 彼らこそ、来るべき文化大革命の担い手であり、明日の中国を背負って立つ人民の英雄なのだ。 紅衛兵に勝利と祝福がもたらされるよう、江青、共に祈ろうではないか」

 

第七場(5月25日、北京大学の構内。 哲学科助手の聶元梓(じょうげんし)女史と、六人の文革派学生が集会を開いている。 周囲に一般の学生が十数人)

聶元梓 「北京大学の皆さん! 私はいま、驚くべき事実を皆さんに報告しなければなりません。 それは、私達の心の支えであり、中国革命の生みの親であるわが中国共産党の中に、資本主義の道を歩む反党、修正主義の分子が巣くっているということです! 皆さんは信じないかもしれませんが、それはまったくの事実なのです。

 しかも、その修正主義、反動分子の者達は、長い間、中国革命推進の光栄ある砦となってきた、わが北京大学の中にも、ドブネズミのように潜んでいるのです。 皆さん、驚いてはいけません。私は率直に言います。 資本主義の道を歩むそうした修正主義・反動分子は、北京大学に、なんと陸平学長以下、何百人、何千人もいるのです!」

一般学生A 「おい、馬鹿なことを言うな!」

文革派学生A 「お前らこそ、黙ってよく聞け! 聶同志が言われることは本当なんだぞ」

聶元梓 「私達はこの際、そうした反党、修正主義分子を徹底的に摘発しなければなりません。 そして、学力第一、知識偏重という、まったくブルジョア的な教育方針に偏っている、今の北京大学の現状を打ち破り、真に革命的な教育方針を樹立しなければならないのです。

 ところが、陸平学長らはこれまで、毛沢東思想にのっとった私達の正当な要求を、ことごとく斥けてきたばかりでなく、私達を追い詰め、弾圧し、北京大学から追放しようと圧力をかけてきたのです。 特に、卑劣な修正主義者・呉含の書いた『海瑞、官をやめる』を、大衆的な討論の場に持ち出すべきだという私達の要求に対して、陸平学長らはこれをまったく無視して、押さえ付けてきました。

 こうした反革命的な、卑怯な態度は絶対に許すことができません! 私達は重ねて、『海瑞、官をやめる』の公開討論を要求すると共に、反党、修正主義の道を歩もうとしている陸平学長らの責任を、この際、徹底的に糾弾していこうではありませんか!」

文革派学生B 「そうだ! 陸平らの責任を追及せよ!」

文革派学生C 「毛沢東主席に逆らう者は、北京大学から出ていけ!」

文革派学生D 「反動分子は処罰しろ! 毛沢東主席、万歳!」

文革派学生E 「反革命の犬どもを追放しろ! われわれは、聶同志と共に闘うぞ!」

一般学生B 「何をたわけたことを言うんだ! お前達こそ出ていけ!」

一般学生C 「北京大学の方針は正しいぞ。 間違っているのは、お前達の方だ!」

一般学生D 「もっと現実をよく見ろ! 教条主義で中国が良くなるのか!」

聶元梓 「それでは、皆さん。 陸平学長ら資本主義の道を歩む反党・修正主義分子、腐り切った反動のウジ虫どもを糾弾し、彼らに自己批判を求めるこの大字報を大学構内に貼り出して、闘いを開始しようではありませんか!」(聶元梓ら七人、大字報を持って進もうとする所へ、陸平、大学教授達、さらに数人の一般学生らが近寄ってくる)

陸平 「君達は何をしているんだ! この北京大学を汚し、秩序を破壊しようという反革命分子は放ってはおかんぞ。 そんな大字報は破り棄て、さっさと解散しなさい!」

教授A 「さっきから聞いていると、私達の多くが資本主義の道を歩もうとしているなどと、出たら目なことばかり言っているではないか。聞き捨てならん」

教授B 「お前達こそ、中国革命の前衛となっているこの北京大学を、破壊しようとしているじゃないか!」

教授C 「すぐに解散しなさい! いつまでも、そういう風にたむろしていると、学内の秩序を乱した罪で、君達を厳しく処分するぞ!」 

聶元梓 「あなた達こそ、そこをのきなさい。 私達は、毛沢東思想にのっとって行動しているのです。私達の邪魔をする者は、反革命分子です」

文革派学生達 「そうだ! そこをのけ! 革命の鉄槌を受けたくないなら、お前らこそ解散しろ!」

陸平 「なにを言うか! われわれこそ、これまで毛主席の指示に従って行動してきたのだ。 お前達こそ、左翼小児病の極左盲動分子だ。大人しく解散しないと、後で痛い目にあうぞ!」

一般学生達 「そうだ! 陸平学長の指示に従え! とっとと解散して消えてしまえ!」

教授A 「そのまま無法な行動を続けるなら、われわれは正当な力を行使して、君達を排除するぞ!」

文革派学生達 「黙れ! お前らこそ早く自己批判しろ! われわれの要求どおりにしないと、後でひどい目にあうぞ!」

聶元梓 「さあ、皆さん。この大字報を貼りに行こうではありませんか。 どちらが革命派で、どちらが反革命派かということは、後ではっきりと分かることです。さあ、行きましょう」 (聶元梓ら七人が進もうとするのを、陸平、教授達、一般学生達が阻止する。 双方が小競り合いをして罵倒し合うが、少数の聶らは押し返され、大字報を陸平らに取り上げられる)

聶元梓 「何をするんです! 私達を弾圧するのは、毛主席に背くことですよ!」

文革派学生達 「弾圧を止めろ! 今に見ていろ! お前らはわれわれを弾圧し圧迫したことで、みずから反革命分子であることを証明したんだ! 後で必ず断罪され、中国人民の前にさらし者にされるぞ!」

陸平 「ええい、黙れ、黙れ! お前達こそ北京大学から追放だ。革命の前衛である北京大学に反逆した罪は重いぞ!」

教授達 「そうだ! お前達こそ反革命分子だ! すぐに党中央に申し立て、お前達七人を学外追放処分にしてやるぞ!」

文革派学生達 「覚えていろ! お前らを倒し葬ってやるまでは、われわれは絶対にこの闘争を止めないぞ! 毛主席の指示で、その大字報を貼り出そうとしたのだ。それを取り上げ、われわれを弾圧したのは、毛主席に反逆した証拠だ! 

 見ていろ! 後で必ず、革命的な制裁を加えてやるからな! 陸平を倒せ! 反党・修正主義、反動分子を葬れ! 毛主席万歳! 毛主席万歳!」

陸平(教授連や一般学生達に対して)「さあ、皆さん。この反逆分子どもを退散させましょう」

教授達・一般学生ら 「そうだ! 反逆分子どもは出て行け! お前達は北京大学から出て行け!」(聶元梓ら七人は、教授連や一般学生らに小突かれ、押されながら退場。 双方の罵声、喚声、悲鳴などが続く)


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