矢嶋武弘の部屋

命輝け 日一日の命
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明治17年・秩父革命(13)

2018年01月01日 04時17分19秒 | 戯曲・『明治17年・秩父革命』

第16場ーA[11月4日深夜、児玉町・金屋の農村地帯。 大野苗吉、大野又吉の率いる困民軍が戦闘隊形を取っている。]

苗吉 「敵の軍勢は我々の前に現われた。いいか、人数では我々の方が圧倒的に多い。敵を包囲して“もみ潰して”やろう!」

又吉 「鉄砲隊は出来るだけ相手に近づき、一斉射撃を行なう。その後、抜刀隊と竹槍隊が突撃する。肉弾戦になれば、人数の多いわが軍の方が有利なはずだ!」

苗吉 「それでは前進!」(困民軍が前方へ進む)

又吉 「もっと近づいて、近づいて。よし、射撃用意! (少しの間)撃てーっ!」(ダダダダーン、ババババーンという一斉射撃の音)

苗吉 「おお、敵は“竹やぶ”の中へ逃げ込んだぞ、進めーっ! 進めーっ!!」(困民軍、大きな竹やぶの方向へ進撃)

 

第16場ーB[竹やぶに潜んだ東京鎮台兵。 身を伏せながら、平田大尉、広瀬中尉の指示を待つ。]

平田 「いいか、敵は人数は多いが寄せ集めの雑兵ばかりだ! 先頭の鉄砲隊をやっつけ、側面から攻撃してやれば崩れるに決まっている」

広瀬 「火縄銃なんかに、こちらが負けてたまるか。最新式の村田銃の威力を見せつけてやろう!」

兵士1 「その通りです、撃って撃って撃ちまくりましょう」

兵士2 「きょうこそ、暴徒どもを全滅させましょう」

兵士3 「敵の先頭が近づきました!」

平田 「まず鉄砲隊を狙え、その後に総攻撃だ!」

広瀬 「敵は“散開”の隊形を取ってきたぞ。いいか、延びきった右翼が攻撃の急所だ!」

平田 「接近してきたな、よし、撃てーっ!」(鎮台兵が一斉に射撃、ダダダダーン、ババババーンという音)

広瀬 「見ろ、次々に倒れたぞ、わが軍の勝利まちがいなーしっ!」

平田 「よ~し、突撃ーっ!!」(鎮台兵が竹やぶから現われ、困民軍に向って進撃)

 

第16場ーC[困民軍側。 大野苗吉、大野又吉、日下藤吉らがおり、鎮台兵と接近戦となる。]

苗吉 「今こそ決戦の時だーっ! みんな、見ていろ、俺が先頭で突っ込む!」

又吉 「白兵戦だ、俺も突撃するぞーっ! みんな、続けーっ!」

(抜刀した苗吉、又吉を先頭に「うお~!」という喊声とともに、困民軍が突撃する。 鎮台兵側が猛烈な射撃、苗吉を始め困民軍の多くの人が倒れる。藤吉が苗吉の側に駆け寄る)

藤吉 「大野さん、大丈夫ですか!」

苗吉 「う~む・・・やられた」

藤吉 「僕の肩につかまって!」

苗吉 「・・・もういい、俺は満足だ・・・ここで死なせてくれ、君は戦え・・・」(苗吉、息を引き取る)

藤吉 「畜生・・・俺は戦うぞ!」(藤吉は苗吉の遺体から離れ、白兵戦をしている困民軍の中に駆け込んでいく)

 

第17場[11月4日深夜、長留(ながる)村・芝原部落の山道。 田代栄助、井上伝蔵、犬木寿作が“とぼとぼ”と歩いてくる。]

井上 「総理、敗れましたね。振り返ってみれば、呆気(あっけ)ないことだった」

田代 「うむ、致し方ない」

犬木 「しかし、高利貸しの家を徹底的に破壊し、証書類を燃やしてやったことは痛快だった」

井上 「それだけが成果だったか・・・しかし、悔いはありませんよ」

田代 「私も悔いはない。貧しい農民を救うためにやるだけのことはやった。後はこういう定めが待っていたのだ」

犬木 「追われる身となって、後はどうやって逃げ延びるかだけです」

井上 「ここで別れましょう、自警団や猟師達の追手が迫ってきますからね。出来るだけ一人になって身軽になることです」

田代 「そうしよう」

井上 「総理・・・」

田代 「もう、総理と呼ぶのは止めてほしい」

井上 「田代さん、我々は一人になって逃げても、自首するようなことは決してしないようにしましょう」

田代 「うむ、そのつもりだが」

犬木 「とことん逃げ延びることです」

井上 「この先どうなるか分からないが、私も逃げおおせたい。捕まれば、重罪は間違いないですからね」

田代 「そうだ、私などは間違いなく死刑になるだろう」

井上 「それでは、別々に逃げることにしますか」

田代 「うむ、ここに軍用金の残りがあるので、お二人には少しだが持っていってほしい」(田代が懐から金銭の包みを取り出し、井上と犬木に手渡す)

犬木 「胸の痛みの方はどうですか?」

田代 「ああ、何とか騙したり“すかしたり”しているよ」

井上 「それでは、お身体を大切に」

犬木 「また会える日があると良いですね。さよなら」

田代 「さよなら、お元気で」(3人がそれぞれ別の方向に落ち延びていく)

 

第18場[11月4日深夜、上吉田村にある塚越部落の河原。 菊池貫平、坂本宗作、伊奈野文次郎、新井寅吉、恩田卯一、横田周作ら困民軍のメンバーと、150人ほどの農民達が集まっている。]

菊池 「我々は秩父の戦いで敵に敗れたが、これで終ったわけではない。 もともと、何かあれば群馬から長野へ戦線を拡大しようと考えていた。こうして新井さん、恩田さんら“上州勢”も数多く加わってもらったのだから、新たな気持で戦いを進めていこうではないか」

伊奈野 「その通りだ。わしは昨日から困民軍に入ったが、このまま戦いを終らせてはならない! せっかく立ち上がったのだから、最後まで諦めずに戦い抜こう!」

新井 「我々上州勢も同感だ。困民軍に賛同して参加してくる農民は、まだ大勢いるはずだ。これからが“本番”だという気持を忘れてはならない」

坂本 「甲大隊の新井隊長が傷ついて倒れた時、何と言ったか・・・諸君に伝えよう。彼は『菊池参謀長がいる限り、困民軍は大丈夫だ。いろいろ作戦を考えているはずだから、すぐに菊池さんの所へ駆けつけてほしい』と言ったのだ。 だから、いま私はここにいる。菊地さんに新しく総理になってもらい、戦いを貫徹していこうではないか!」

恩田 「賛成だ。田代さんも加藤さんもいなくなった現在、“首領”に仰ぐべき人は菊池さん以外にない」

横田 「その通りだ! 菊地さん、このさい困民軍の総理になってもらいたい。我々は全力をあげて貴方を支えていくつもりです」

伊奈野 「皆がそれを願っている。菊池さん、総理を引き受けてもらいたい」

菊池 「皆さんの熱い期待に私も奮い立つ思いだ。不肖・菊池貫平は皆さんのものだ。最高指揮権を執らせてもらう」

坂本 「ありがとう。これで我々は戦う態勢を取ることができた」

新井 「新しい総理のもと、全力で戦おう!」

全員 「おう~!」「異議なーしっ!」「我々は戦うぞーっ!」「今度こそ勝つぞーっ!」

恩田 「新体制が整ったのだから、これから群馬、長野へと出撃しようではないか。総理、いかがですか?」

菊池 「それでは皆さんが考えているように、我々は明日以降、群馬を通って長野への進軍を開始しよう。 神流(かんな)川沿いに進んでいけば、味方の農民も数多く加わってくれるだろう」

横田 「それは間違いありません。この地域の山中谷(さんちゅうやつ)の農民は、日頃から我々の運動に協力的でした。困民軍が進んでいけば、きっと支援してくれるでしょう」

菊池 「うむ、それなら今夜はここで野営して、明日以降、わが軍は山中谷を通って出来るだけ早く長野県に入る。 政府側は我々が長野で暴れるとは、まだ思いもしていないだろう。目にもの見せてやるぞ」

伊奈野 「さすが菊池総理だ、決めることが早い。俺も大暴れするぞ」

新井 「武者震いする思いだ、これで群馬や長野の農民が立ち上がる」

菊池 「新しい大隊長には坂本さん、参謀長には伊奈野さんを指名する。全員、軍律5カ条を守って戦い抜こう!」

全員 「おう~!」「戦うぞーっ!」「困民軍バンザーイ!」「敵を蹴散らすぞーっ!」

 

第19場[11月5日未明、浦和の埼玉県庁。 県令・吉田清英の執務室に、笹田黙介書記官が電報を持って入ってくる。]

笹田 「県令、お疲れさまです。児玉郡役所から、わが軍勝利の電報が入りました!」

吉田 「君も徹夜でご苦労だね、どんな内容かな」

笹田 (電報を見ながら)「昨夜遅く暴徒500人以上が児玉町に侵入しましたが、東京鎮台兵がこれを迎え撃ち、激しい銃撃戦の結果暴徒を鎮圧したということです。 わが軍と警察の被害は負傷4名と軽微なもので、賊徒の方は分かっている限りで死者が10名程度、重傷も10名程度ですが、他にも多くの怪我人が出ているもようです」

吉田 「良かった、大勝利ではないか」

笹田 「はい、賊軍が決定的な敗北を喫したことは間違いなく、すでに大宮郷一帯も憲兵隊、警官隊が制圧していますので、これにより秩父郡の秩序は回復されつつあると判断して良いようです」

吉田 「うむ、秩父の郡役所も奪回できたのだな」

笹田 「まだ、公電は入っていませんが、名栗村などから郡の役人、警官等が大宮郷に入ったという報告は受けていますので、奪回できたと考えられます」

吉田 「そうか、これでようやく元に戻ったと言えそうだな。川越の方へ暴徒を進出させなかったのが何より良かった。 賊軍の支配は正に“三日天下”で終ったということだ、ハッハッハッハッハ」

笹田 「そうですね、敵は“秩父コミューン”などと大法螺(おおぼら)を吹いていたようですが、コミューンはわずか3日で崩壊したのです」

吉田 「まずは結構だ、早速、山県内務卿に報告しなければ」

笹田 「はい、ただちに内務卿宛てに電報を打ちます」

吉田 「ご苦労さん、よろしく」(笹田、一礼して退場)

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