八柏龍紀の「歴史と哲学」茶論~歴史は思考する!  

歴史や哲学、世の中のささやかな風景をすくい上げ、暖かい眼差しで眺める。そんなトポス(場)の「茶論」でありたい。

☆2022年〝新年の手紙〟~「わたし」は何者なのかの問い~・・・2022年度の講座開設について☆

2022-01-02 10:16:24 | 〝哲学〟茶論
 1月16日を初講とする「日本〝近代・現代〟のプロフィール」【第2部】は、関東大震災の際起こった朝鮮人や中国人、それに日本人に加えられた虐殺をテーマにしています。

<関東大震災:自警団による不法虐殺:1923年>
 
 〝虐殺〟といっても、その実態がよく理解できない方もいらっしゃるかと思いますが、当時の日本には少なくとも1万人以上の朝鮮人が、いまで言う「3K」仕事などのため、あるいは朝鮮飴などを売って、零細な生活をしていました。
 かれらの多くは、日本により植民地化されたことで、小作として働いていた土地を奪われたり、あるいは生活苦に追われ、一種の出稼ぎ難民として日本にやってきた人びとでありました。
 もちろん中には留学生も若干いましたが、ほとんどがおとなしい下層労働者であり、かれらはまともに言葉も通じない日本で、互いに身を寄せ合うようにして生活していました。
 そんな彼らが、井戸に毒を撒いたとか、暴動を起こし横浜から東京に攻めてくるなんてことは、常識から考えてありえないことでしたし、生方敏郎の著した篤実な記録である『明治大正見聞史』(中公文庫)などには、当時日本にいる朝鮮人へのごく当たり前の見方が示され、また貧しかったけど慎ましやかな朝鮮人のくらしについても、多くの証言が残されています。そんな資料を読むと、どうも朝鮮人が暴動を起こしたというデマについては、はじめ多くの人びとは、半信半疑だったようです。
 しかし、その情報は戒厳令下で軍隊によって広まり、警察によって確実なものと喧伝され、各処で自警団なる暴力集団が形成されていくなかで力を増していきます。
 一方、日本にいた中国人も、留学生など日本の文物を学ぶべきとして来日してきた人たちで、日本社会を破壊するなどの企てをするなどは、まったく考えられないことでした。しかし、王希天事件のように理不尽な殺人が大手を振って行われます。
 そして地震の被害が明らかになるとともに、パニックの穴ぼこに吸い込まれた人びとは、軍部や警察の指嗾に手もなく同調し、軍部の殺戮を真似、自警団などは朝鮮人だけでなく、〝異端〟としたものへ日本人を守るとして、激しい暴力を加え、いともたやすく殺人を繰り返していきます。
 ふだんは地味でおとなしい床屋の亭主が、木刀を振りかざして、殺せ!殺せ!と喚き散らしてみたり、町内の世話好きな女房が、包丁振りかざして、リンチされ息も絶え絶えの朝鮮人の身体に切りつけたり、そうした話しは枚挙に暇がありません。
 でも、一場の狂騒が過ぎると、大騒ぎした床屋の亭主や世話好きだった女房は、みんなでやった、オレが悪いんじゃねぇ、わたしだけが手をかけたんじゃない。朝鮮人や中国人の命が絶たれたことを、気の毒だと他人事のように言い散らして、あとはほおかぶりして自己を省みることはありませんでした。
 詩人の金子光晴は、ここに「日本人」の地金が出てきた、周囲の流れに迎合し、傲慢で横柄で、口笛を吹いてうそぶくような、「日本人」の地金が出てきたと述べています。(『絶望の精神史』講談社文芸文庫)

 それから100年近くたって、いまの「日本人」のありようはどうか。コロナ禍の現在の様子から見て、どうもあまり変わっていないように思えたりします。もしかして、もっと深刻なのかもしれません。
 数年前、高校の教師をしたとき、いまどきの若い男子に、どんな人物に憧れるかと聞いたことがありますが、そのとき出てきたのは、ホリエモンとかマエサワといった巨万の富を得た、いわばIT系か通販の経営者であったり、ひきこもりのメタモルフォーゼ的な「ユーチューバー」といった答えが多かったように思います。
 「なぜ?」と聞くと、流行っているしカッコいいし、実行力がスゴい。お金がスゴい。つまるところ、〝流行(はやり)〟と〝富裕〟ということ。その先はなにもない。彼らは宇宙旅行もできるんだし、バズってスゴいというわけです。
 そんな憧れをあつめる彼ら、そして憧れる彼らに、いつも疑問なのは、自己実現を遂げることしか頭にないことへのためらいのなさです。底抜けな愚かさに疑問がない。
 ユーチューバーなる存在はまずおくとして、彼ら成功者は達者な口で、人びとに夢を与えるなど、後づけめいた理屈を吐きますが、しかし、彼らには、雲のように膨らむ他者への決定的な無関心と侮蔑がどうしても透けて見えてくる。それは自己愛の醜悪なコンプレックスのようでもあります。
 そもそも、宇宙旅行などは大気圏を破り、オゾン層をさらに破壊し、地球環境にとって害毒しかないもの。巨万の富を得た金持ちが、旅行気分でどんどん宇宙などに飛び立つと、地球はいまの火星のように砂漠とゴロタ石しか残らない、砂嵐の吹き荒れる星になる。
 ただし、そんなことは知らないし、根拠を示せと得意の口で攻撃し、怪しげなデータを出してきて、世界中を飛んでいるジェット機より、環境破壊はしていないとうそぶく。
*宇宙旅行の問題については、フランスの宇宙物理学者のロラン・ルゥクの緻密な分析やコロラド大学の大気学者ダリン・トゥーイーが警鐘をならしている。

 いずれにせよ、まずは「個人」が問われている。そのことが大切だと思います。これまで、戦争についてもテロについても、すべてが「国家」なり「為政者」「政府」といった組織やシステムへ、人びとはその理由を求めてきました。それはたしかに一つの真実ではあったでしょう。
 しかし、よく考えると、そうした「外化」されたものを人びとは批判し、思想の組み立ての基点としていましたが、それによって人びとは、むしろ自らの逃げ道を秘かに用意して、自身を問うことから逃げ回っていたのではないか。そこに他者への無関心や差別、「思想転向」が頻繁に繰り返されるブラックホールがあったのではないか。
 「国家」も「政府」も「社会」も「為政者」も、暴政なり差別なり、格差なりを作りだしているのは、それぞれに属している〝個人〟ではないのか。
 いまをリカバーするために必要なのは、「わたし」とは何者なのかの問いではないか。そうしたものに哲学の光をあてていく。

 今回の【第2部】は、関東大震災におけるひとびとの〝罪責〟を見据えて、そのうえで侵略戦争にほかならなかった日中戦争で日本兵士および日本人が何をしたのか。なぜ、対英米戦末期に〝特攻〟なる思想を生んだのか。そこまでを五回にわけてお話しします。
 〝国民〟といい、〝市民〟といい、〝庶民〟といった、ひとりひとりの「わたし」について問いながら、時代の状況のなかで、人びとは何をしたのか、どうあるべきだったのかを論考していきたいと思います。

 ところで、1月16日午前11時に第一講のお話しをはじめます。
そこでお願いなのですが、レジュメ等の送付やzoomなどの手配もあり、お申し込みは、1月12日までに、以下の新人会のアドレスまで、お願いします。

     記
*NPO新人会・宏究学舎*
 2022年「近代・現代史」講座
 ◆現代日本を問う!◆
 
日本〝近代・現代〟のプロフィール!
 〝戦争とテロ、そして国民〟(第2部)
  War/Terrorism 
           and The Ordinary People
◇期間:<第2部・全5講>
  2022年1月16日~3月6日
◇日時:毎回日曜日<午前11時~12時>
*全講zoom(質疑応答可)orGIGAファイル便(アーカイブ受講)で受講可能です。
◇受講料:全講受講6000円<5回分>
*学生3000円、1講毎受講は1講1500円
◇附記:各講毎、事前にPDFでレジュメを送付。それに沿って講座は展開されます。

【日程とテーマ】
・第1講(1月16日)
 「関東大震災」と民衆のテロリズム
  ~吉野作造は何を見たのか?
・第2講(1月23日)
 『柳条湖事件』と「満洲事変」
  ~〝軍刀と謀略〟の現場を歩く!
・第3講(2月6日)
 「5・15事件」「2・26事件」の暗黒
  ~〝鬱屈した情念〟の奔流!
・第4講(2月20日)
 「日中戦争」と〝南京虐殺〟
  ~〝殺す〟論理と〝殺される〟心理
・第5講(3月6日)
 「対米戦争」と〝玉砕〟の構図
  ~いま、〝死の意味〟とは何か?

*お問い合わせ・お申し込み
 E-mail:npo.shinjinkai1989@gmail.comまで*
 お申し込みは、1月12日までにメールいただければ、
 講座受講の手順と講座料の振込等について、
 講座担当者から、すぐに連絡させていただきます。



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