八柏龍紀の「歴史と哲学」茶論~歴史は思考する!  

歴史や哲学、世の中のささやかな風景をすくい上げ、暖かい眼差しで眺める。そんなトポス(場)の「茶論」でありたい。

歴史は思考する!

2020-02-01 13:45:13 | 思うこと、考えること!
 コロナウィルスの恐怖というか、感染のニュースで何となく気が滅入ってしまう日々になりました。
 この流行病を思うにつけ、14世紀半ば以降、数度起こったヨーロッパでの激発的なペストの流行の歴史を思い起こしています。
 ペストでパニックとなった人びとは、その理性をすべてをひっくり返し、「外」からくる脅威に逆毛を立てて逃れようとしました。余所者への過剰極まる疑心、嫌悪、排除・・・。それらは危機意識の異常な興奮とドロドロに溶け合い、罹患者への過激な差別と嫌悪ばかりでなく、東欧からペスト菌がやって来たというデマが飛ぶと、東側の人間をすべて排除する事態を生むまでになりました。
 それはちょうど数年前の戦禍から逃れてきたシリア難民を〝テロリスト〟だと決めつけ、恐怖から排除しようとした東ヨーロッパの国々の姿にも重なり合うのですが、その際のゼノフォビア(xenophobia)の反知性的ありようも、疑心、嫌悪、排除という「内」なる脅威によってもたらされたものでした。

 黒人解放運動で知られるキング牧師(Martin Luther King,Jr)は、人びとが抱く恐怖について、心理学者フロイド(Sigmund Freud )の説を引いて、「アフリカのジャングルの真ん中で蛇を怖れる」人間と「街中の自分のアパートの絨毯の下に蛇がいるのではないかと怖れる」人間の違いを、前者を正常な恐怖、後者を異常な恐怖と分けて、「正常な恐怖はわれわれを保護してくれるが、異常な恐怖はわれわれを麻痺させてしまう」と述べています(『汝の敵を愛せよ』新教出版社)。
 正常な恐怖は、わたしたちにその対策を考える知恵を与えるけど、異常な恐怖は、わたしたちの「内面」を毒し歪めるものとなるということです。その毒し歪めるものこそが、根拠のない疑心、嫌悪、排除といったものになって現れてくる。

 今回のコロナウィルスの流行は、まずもって中国武漢市の当局者が、十分な対応を怠り、それに加えて中国政府も後手に回り、併せて春節の時期であり、日本政府の対応も腰が引けたようになったことが瑕疵となりました。
 だからといってパニックになってもしかたないでしょう。厄介なのは、中国への差別や嫌中といった「内」なる脅威です。キング牧師の言葉を借りれば、「異常な恐怖」といかに距離を置くかということなのだと思います。

 中世ヨーロッパで起こったペストは、ヨーロッパの全人口の30%~60%が死亡したとまでいわれていますが、結局解決策は、その原因を突き止め、いかに対処すべきかを合理的に導き出したことで、それ以降の流行を押さえつけるかによりました。一番問題なのは、根拠のない恐怖に陥らないことだろうと思います。

 そんなことを考えながら、2月になってしまいました。さてと、ここでわたしもそろそろ冬眠から覚めていかなければなりません。今年は暖冬ですから、少し早めの目覚めにしようかな、そんなふうに思っています。
 そこで2020年度の夏学季の講座ですが、こちらの方は、
現代史である「時代に杭を打つ!PartⅢ」と日本の美意識探訪の「哀しみの系譜PartⅠ」の日程と会場がほぼ決まりました。
 会場はいつもの「池ビズ」(JR池袋駅南口3分)となります。初講日は「時代に杭を打つ!」は4月19日(日午前10時~)、「哀しみの系譜」は4月26日(日午前10時~)です。内容は、このつぎにアップします。

 ところで、つい最近、
朝日新聞出版から出ている会報誌『一冊の本』にわずかながらエッセイを書きました。この本はふつうの書店でカウンター近くに置いている冊子です。一冊消費税込みで110円です。もしよろしければご覧頂ければ、幸いです。
 下に表紙と目次を張っておきます。ご高覧いただければと思います。

 
 
 
 

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