風韻坊ブログ

アントロポゾフィーから子ども時代の原点へ。

筑紫哲也氏の追悼番組を見て

2008-11-12 00:33:51 | 雑感
きょうは、幼稚園で役員会と
ライアーコンサートがあり、その後、移動して
夜、鹿児島に帰ってきた。
つくばから来てくれた人たちのライアーの音色が、
久々に幼稚園のホールに響いたことで、
何となく温かい、うれしい気持ちにはなったのだが、
今日はそれとはべつに、なぜかひどく虚しい気持ちがつきまとっている。

このところ、毎日向き合うようにしている
「アントロポゾフィー指導原理」も、
新幹線のなかや、空港のラウンジで訳そうとしてみても、
なぜか心に伝わってこない。
というか、晩年のシュタイナーの寂しさや孤独感のようなものだけが
感じられてしまって、
ボク自身がそこから力づけを得ることはなかった。

最近、ボクは
アントロポゾフィーは、
それによって救われるものではないと思っている。
ボク自身が、アントロポゾフィーに力を注ぎ込み、
それを生きたものにしていかなければならない。
そんなふうに思うのだ。

そして、鹿児島の家に戻って、この番組を見た。
11月7日に亡くなった筑紫さん。
彼の生前の優れた仕事ぶりや、
戦後への思い、人間的な素晴らしさも改めて感じたけれど、
「またひとり、逝ってしまった」と思う。
なんでこの世界が必要としている人たちが
次々にあちら側に行ってしまうのだろうか。

筑紫さんは最後の多事争論で、
「この国はガンにかかっている」と言った。
地上に取り残されたボクたちは、
どうやってこの病んだ社会に向き合っていけばいいのだろうか。

アントロポゾフィー医学では、
ガンは「冷たい病気」だという。
感覚的にいえば、
「社会のガン」に対して戦うには、
一人ひとりの「熱」が重要なのではないかと思う。
ボクの無気力も虚しさも、
心の冷えにつながっていく。

筑紫さんは「負けちゃいけないんだ」と言っていたという。
勝ち負けじゃないということもできるが、
やはり「勝ち負け」はあると思う。
ボクたちは誰に対して、何に対して戦っているのか。
たぶん、それは均質化とか、個性を無化するような作用、
ボクは以前「個の不在」といったこともあるが、
そういう作用に対してだと思う。
一人ひとりの心の熱を冷やし、
人間の力を果てしなく無力に感じさせて、
生きる意味を見失わせるような作用。
それが今、世界中を覆いつつある。

心が冷えきったとき、
個に根ざしていない集団の感情、
集団の熱情が憑依したりする。
でもそれもまた一種の「熱」だから、
臆した心や、無気力な心は
次々にのみ込まれていく。
そうやって戦争のような極端な状態が引き起こされる。
「個の不在」の行き着く先は戦争なのだ、
とボクは思っている。
そして、シュタイナーは虚しくも
「個の不在」に対して戦いつづけたのだと。

「アントロポゾフィー指導原理」は、
本当に、シュタイナーが最後の一年間につづった
遺言なのだと思う。
シュタイナーは、
ボクたち一人ひとりの「個の参加」を呼びかけた。
アントロポゾフィーは、
ボクたちがそこに熱を注ぎ込んだとき、
シュタイナーとの、そして人類との共同作業として、
具体的な力を帯びてくる。

でも自分のなかに何の熱も感じられなくなったとき、
どこから力を汲みだせばよいのか?
アントロポゾフィーは救いにはならない。
アントロポゾフィーはただ、
力の源泉は自分のなかにしかないことを告げるだけだ。
自分のなかにわずかにでも残っている感情や感覚、
悔しさとか切なさとか、見果てぬ夢とか、
そういったものを何とか探し出して、
そこからわずかにでも「熱」を取り出してくるしかない。
でも、そんなふうにもがきながら、
アントロポゾフィーに向き合うと、
自分自身が語り始める。
思いもかけないことが見えてきたりする。

要は、自分を信じるしかないのだ。

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9 コメント

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Unknown (shouko)
2008-11-12 01:05:47
香木は、「木の癌よ」と、
お香の先生が教えてくれたのを思い出しました。
「熱」を香木に与えると、
煙となって私達を別世界に誘う光となってくれる。

筑紫さんが言ってる社会の癌ってなんだろう?
人間の癌ってなんだろう?

そんな問いの中、湧いてきたモノは、
「愛」でした。

木は愛されていることを知っている。
人間はそのことを知らない。

そんなことを考えた私は、
愛された感覚を実感できた地点へと、
自分の記憶の中に探しに行く旅をしようと思いました。
先生から頂いた香木を炊きながら。

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バイオグラフィー (miko)
2008-11-12 19:43:01
バイオグラフィー・ワークをご一緒にやりませんか?自分自身を信じるためには、自分自身を十分に知らなくてはなりません。知っているつもりでも、まだまだわかっていなかったことがあった!ということを私はバイオグラフィーワークから学びつつあります。個と社会をしっかりと結びつけるためにも、今後多くの人々にバイオグラフィー・ワークに参加してほしいと私は思っています。
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Unknown (kenshin)
2008-11-12 21:12:25
人智学は秘儀参入への学びだと思っています。これはこの時代を支配する悪魔に魂を売った者達との戦いのために必要な学びなのです。
悪魔に魂を売った彼ら、社会を暗く殺伐としたものにし、たくさんの人たちを精神病にし、戦争をつくり人々を虐殺する人たちです。
風さんは私達にシュタイナーを、秘儀参入を導く為の人なのです。
大いなる存在の意志がシュタイナー、高橋巌、そして風さんと続いているのです。
あなたはいなくてはならない人なのでsy。
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Unknown (usuda)
2008-11-12 21:31:44
どんなものも、功罪両面の力があると知ることは大事です。誰かが「善い」と感じることも、別の誰かにとっては「悪い」と思える場合もあるでしょう。薬は処方を間違えると毒にもなり、毒も使い方によっては薬になります。
リューマチのように朝起きた時に手のこわばりを感じていた私は、知り合いの中医薬の専門家に、体を冷やす食べ物は良くないと注意され、以来緑茶を飲まなくなりました。健康に良いと思って毎朝飲んでいた野菜ジュースも、実は身体を冷やしていたのだとか。今は湯煎した野菜ジュースを飲み、煮出したはと麦茶やほうじ茶を魔法瓶に詰めて持ち歩いています。身体が温まると心の持ち様も変わるような気がしています。
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Unknown (kenshin)
2008-11-25 19:40:17
風さん、お元気ですか?
楽しみにしています。
元気になったらまた書いてくださいね。
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Unknown (iku)
2008-11-26 19:49:28
人はなぜ徒党を組みたがるのでしょうか?

個性を発揮するためには、まず心が強くなきゃですね。

私も日々決戦です。
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Unknown (juju)
2008-12-29 01:32:33
はじめて書き込ませていただきます。
ほんと、今の社会では大事なもの(心?)が見失われがちだと感じます。悲しいことです。
今、県外に住んでいますが、実家は鹿児島です。子供がシュタイナー幼稚園に通っていることもあって、風さんが鹿児島にもお住まいと聞いておりました。鹿児島にもいい風を吹かせていただけるのでは~と、なんだかワクワクしておりました。
いま鹿児島でも、収入や学歴で人を判断する風潮がある感じがします。人の中身を見るのでなく‥。とても悲しいことです。
少しずつでも、何とかならないものでしょうか。
筑紫哲也さん、わたしも真のある、素敵な方だと思っておりました。
今の社会に抜け落ちてしまっている、大事なものに気付く人達がだんだん増えてゆくといいなぁと思っております。
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筑紫哲也さんのこと (コーリー)
2009-10-30 19:26:28
風さん、お元気ですか?大変ご無沙汰してます。1年近くも前の記事への書き込み失礼します。

もう筑紫さんが他界されてから1年が経ちます
ね…。僕はそのニュースを昨年ドイツのボンで
知りました。IFOAM(国際有機農業運動連盟)と
いう有機農業やオーガニック食品に関する国際
NGOの理事会の席で、休憩時間にネットの記事で
読みました。ショックでした。

筑紫さんの解説は、物事を知識レベルを超えて深く考えることを教えてくれました。もう、
筑紫さんがいない今は、自分たちで深く優しく
世界の出来事を考えていかないといけませんね。

僕は相変わらず、あまり人智学を深く理解する
ことはできていませんが、人智学が有機農業などが
現実の世界に、社会に与えているよい影響を、広く学んで伝えていきたいと思っています。

なかなか郷里の鹿児島に帰る機会がないのですが、帰る機会があるときにお会いできたら
うれしいです。
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最後のニュース (十羅)
2015-02-22 23:33:29
初めましてなのに、7年も前の記事にコメントさせていただくご無礼をお許し下さい。

井上陽水さんの「最後のニュース」は、筑紫哲也さんに頼まれて、創った唄だったんですね。筑紫哲也さんそのもののような唄ですね。
ことばに節がつくと、こんなにやさしいメッセージになるのですね。

筑紫哲也さん、ありがとう。
R.シュタイナー、ありがとう。
入間カイさん、ありがとう。
陽水さん、アリガトウ。

https://www.youtube.com/watch?v=ybemnl5dDho
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