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右か、左か―心に残る物語 日本文学秀作選 (文春文庫) |
| クリエーター情報なし | |
| 文藝春秋 |
何気なく借りて、何気なく読み始めた短編集で、適当に集めた短編集だと舐めていたのだが、大きくカウンター・パンチを食らうこととなった。作家、沢木幸太郎氏が、13名の作家たちの作品から選りすぐったユニークな短編集。
女性が主人公の短編は少ない。どれもくせのある男たちが主人公だ。
人はその人なりの人生しか歩めない。あたりまえのことだ。しかし、少し立ち止まって考えると、人は何を目的として、生きているのだろうか？などと高校生がプチ哲学を弄ぶような話になりそうだが、実際、その答えを出せる人はいるのだろうか。
私が小学生の頃から、この宇宙など最初からなければよかったのでは？と真剣に考えていた。星もなければ、生物も、もちろん人間など最初から存在せず、神さえ存在しない、ただ無の宇宙だけ。
最初からそうであればよかったのに、と真剣に友だちにも主張していた。
「それはあまりにも寂しい考え方だね。」
と窘める友人もいたけれども、
「最初から何もなければ、寂しさもないんだよ。」と即答し、明らかにに不快な顔をされたものだ。
しかし、私たちは生きている。
太古の昔、いや天文学的な数字の過去から、
命はずっとつながって生きている。
その気の遠くなる命の連続の中で、
この短編集のように、私が主人公だとしたら、
毎朝、満員電車に揺られ、人差し指だけで成立する仕事に従事し、（カメラマンのことを別に悪く言っているわけではありませんので、念のため）
家ではガミガミ、お金の話だけで、
または、
いつまで青春しとるのじゃ、早よ、卒業せよと恫喝され、
ふと見た自分の写る老けた写真に、ショックを受け、
それでは、お酒が慰みになるかと思えば、酒の席で多々、失敗し、挙句の果てに、耳の故障で、お酒もご法度。
そうだよ、私も八方塞りなのだ。
持ち前のバカさで、誰も気づかないかもしれないけれど、思えばずっと八方塞がり。気持ちは発砲したがり。
つまりは、右か左か？
なのは、ずっと小学生時代からだ。
ずっと右か左、さあ、どうなさる？
などとどこからともなく、責めるような、急かせるような声が聞こえている。
でも、
私がそんなにせっぱつまっているようには見えないんでしょうね。いや、見えますか？
ま、どちらにしろ、人（本当は男はと言いたいのだが、ジェンダーな問題に飛び火するのが嫌だから、人にしておきます。）はその人なりの孤独と運命を抱え、ささやかな幸運というか幸福を垣間見ながら、微熱っぽく生きているはずだ。
とにかく、この短編集を書いた作家たちのまなざしがとても慈愛に満ちているというか、優しいのに驚きました。人の愚かさや弱さを責めない、その懐の深さにも驚きました。
何の因果か、この短編集を貸してくれたカメラマン仲間にも驚きました。
